対談・インタビュー

【特別対談・インタビュー】“誰もがずっと、買い物できる街”を目指して

外出もままならないデイサービスのご利用者が口にしたのは、「買い物に行きたい」という言葉だった。その実施方法を考えあぐねていたとき、買い物とリハビリを組み合わせたプログラムを実践する作業療法士と出会い――。

買い物を楽しむこと自体がご高齢者のリハビリになる「ショッピングリハビリ®」。同事業を推進する、ショッピングリハビリカンパニー株式会社の代表取締役・尾添純一さんに、弊社代表取締役・藤田が、サービスの詳細やビジネスの展望などをうかがいました。

意欲が使命感となり
生活を続ける支えになる

藤田 本日はお忙しい中、ありがとうございます。前号では、買い物を楽しむこと自体がご高齢者のリハビリになる「ショッピングリハビリ®」という、魅力的なデイサービスのプログラムをご紹介させていただきました(前号の関連記事はこちら)。

今回はこのプログラムを提供するショッピングリハビリカンパニー株式会社・代表取締役の尾添社長にお越しいただき、より詳しい効果や、経営者として感じている介護業界の課題、今後の事業展望などをお聞きしたいと思います。まずは、「ショッピングリハビリ®」の効果について教えてください。

尾添 普段、私たちは何気なく買い物をしていますが、実はその行為には、買い物カートを使って歩き、商品を取るために腕を伸ばし、自宅にあるストックを考えながら商品を選択・吟味する。そして、所持金を管理・計算して支払い、商品を袋詰めするといった、さまざまな能力が使われています。

この点に注目し、ご高齢者が商業施設で買い物をする過程自体をリハビリとして提供できるように、その内容や使用するツールを開発したプログラムが、「ショッピングリハビリ®」です。実際に、運動機能にも認知機能にも良い効果があると、島根大学人間科学部との共同調査によって確認できました。

その上で、私が一番大切だと感じている効果は、ご利用者が意欲を持てる点です。家族のごはんを作ろう、仏壇に花を供えよう、お歳暮を贈ろうといった意欲が使命感となり、これまで通りの生活を続ける支えになっています。また、全国のデイサービスでも珍しいと思うのが、多くのご利用者が身だしなみを整え、お化粧して来られること。他人の目を意識する機会になる点も「ショッピングリハビリ®」の魅力です。

藤田 ご利用者のご家族からは、どのような感想がありますか?

尾添 親が今まで通りの生活を維持できて良かった、と感謝されることが多いです。

藤田 お元気になりすぎて利用できる介護保険サービスが減ってしまい、困っているご利用者もいらっしゃるとか(笑)。

尾添 お元気になって要介護度が下がった事例はたくさんあります。すると、介護保険制度の仕組み上、ご利用者が使える介護保険の利用限度額が下がり、事業所に入る介護報酬は減ってしまうんです。これは笑い話ですが、デイサービスに週2回通っていた方が週1回しか通えなくなり、困ったわと言われることがあります(笑)。

藤田 それだけ効果があるのですね。「ショッピングリハビリ®」の最中、介護スタッフはどのようにサポートするのですか?

尾添 要介護度によって対応は異なりますが、基本的には見守りをします。商業施設内の各所に、通信機器を身に付けた介護スタッフを配置し、転倒事故などが起こらないように、ご利用者の様子から周辺状況まで絶え間なく気を配っています。認知症の方の場合は、マンツーマンに近い体制でスタッフが寄り添います。ほかには、ケアマネジャーと事前に打ち合わせをして、塩分や糖分、アルコールなどを制限されている方が商品を選ぶ手助けも行っています。

藤田 ご高齢者の健康維持に貢献すると同時に、地域経済の活性化にもつながっていますね。商業施設からの反応は?

尾添 買い物客が少ない時間帯を選び、1人当たり6000~7000円ほどの買い物をする方を、週に数十人~100人ほど連れていくので、売り上げにつながると喜んでいただいています。

実は日本各地に、地域のご高齢者に来店してほしいけれど、適切なサポートの提供が難しい多数の商業施設があります。そして、買い物に出かけたいのに免許返納やお身体の状態により、商業施設に行けないご高齢者もたくさんいるんです。ショッピングリハビリカンパニー株式会社は、その間をつなぐ役割を果たそうと努めています。

住み慣れた地域での生活を
サポートするプロ集団を目指す

藤田 買い物難民問題の解決にもなっている訳ですね。メリットばかりだと思いますが、デイサービスとしての「ショッピングリハビリ®」を認めてもらえない自治体もあり、苦労されたとうかがっています。

尾添 デイサービスは、指定を受けた事業所の中で、食事や入浴などの介護、体操などの機能訓練を行う介護保険サービスの一つです。「ショッピングリハビリ®」も、商業施設内に設置したデイサービス事業所でご利用者が体操などを行った後、商業施設で買い物をするのですが、大半の自治体では「前例がない」「同業者が反対している」などの理由で、それをデイサービスと認めてくれません。

藤田 ”10回のリハビリより1回のお買い物”とうたっているので、リハビリ業界からすると否定したいのかもしれませんね。

尾添 「デイサービスで過ごす5、6時間より、ショッピングリハビリ®を楽しむ30分の方がはるかにリハビリになる」と話していることも一因かもしれません(笑)。「リハビリではない」と言われることもあるのですが、介護保険法を隅から隅まで読んでも、「ショッピングリハビリ®」が認められない理由は書いてないんです。ですから、許認可が下りない自治体に対しては、北海道から沖縄まで16拠点(※2024年1月時点)の市町村で認められている事実を伝えるようにしています。

逆に、市町村からお誘いを受けたのに、実施可能な介護事業者あるいは商業施設が見つからず、実現できないケースもあります。自治体・介護事業者・商業施設という3条件が揃うのは難しく、1年ほどかけて許認可が得られた事業所もあるほどです。

藤田 人のためになるサービスが広がらないのは残念でなりません。介護業界での経験を通じて、どのような課題を感じていますか?

尾添 介護保険制度には改善の余地があると感じています。デイサービスを例に挙げると、今の制度では、ご利用者の健康や元気を維持・改善することが、必ずしも売り上げや利益に直結しません。すると人材難に苦しむ事業者としては、介護スタッフの手がかからないお元気な方と、労力はかかるけれど利用料が高額になる介護度の重い方に目が向くようになります。また、利益創出のために売り上げが見込めないとなれば、人件費などを含む運営コストを下げるようになります。

このため、お元気な方と寝たきりなど介護度が重い方の中間の状態にあり、適切なサポートがあれば健康寿命を延ばせる方ほど、必要とするリハビリなどの介護サービスが届きにくい状況になるのです。本来介護サービスが必要な方にサービスが届かず、介護業界の人手不足も解消されない。

この状況を打破するためにも、すべての方が住み慣れた地域で生活を続けられるようにサポートする方向に、国も介護業界も舵を切った方が良いのではないでしょうか。弊社は、そのサポートをするプロ集団を目指したいと思っています。

ご利用者の願いを叶えたい
運命的な出会いがきっかけに

藤田 そもそも「ショッピングリハビリ®」を始められたきっかけは?

尾添 以前に、ご高齢者がデイサービスを利用する場合、意欲がわかないまま体操やレクリエーションをさせられるよりも、自宅のようにくつろいで自分らしく過ごせる方がいいと思い、宿泊もできる”古民家型”デイサービスを運営していました。ご利用者からもご家族からも好評で、人気のあるデイサービスだったのですが、そこでの会話の中で、生きる喜びが見いだせないと話すご利用者が何人もいらっしゃったんです。私の想いとは裏腹に、ご利用者にとっては週に数回、数時間を過ごすだけの場であり、通うことが楽しみになるところではなかったんですね。

その後、”どのような余生を送ることが幸せなのか”を必死に考え、何十人ものご利用者から、これまでの暮らしや日々の楽しみ、目標などをあらためて傾聴しました。その中で、今やりたいことを尋ねたところ、多くの方々が「買い物に行きたい」とおっしゃったんです。「これだ!」と思い、実現に向けた方法を考えていたタイミングで、買い物カート「楽々カート®」を開発し、「ショッピングリハビリ®」の仕組みを考案した、杉村卓哉(現・ショッピングリハビリカンパニー株式会社の取締役FOUNDER)と出会ったんです。

当時の杉村は、作業療法士として病院に勤めていた経験から、患者がリハビリできる場を病院内だけでなく、日常の場へと広げる取り組みを実践していました。たまたま同郷の出身で、同じ介護業界に携わる者同士、介護のあるべき姿に対する想いが一致して、出会って1週間も経たないうちに、一緒に事業を立ち上げようと決めていました。

藤田 「楽々カート®」は、福祉用具っぽくないフォルムとカラーが素敵ですね。高さ調節ができるので、男性の私も体重をかけて無理なく歩くことができました。

尾添 ありがとうございます。妊娠中の方や障がいのある方からも使いやすいと好評です。弊社には「福祉だけど、NOT福祉」というモットーがあり、ご利用者に「福祉サービスを受けている」と感じさせないように心がけているんです。「楽々カート®」も、その想いを込めたデザインになっています。

信頼できるサービスに
国がお墨付きを与える制度が必要

藤田 「ショッピングリハビリ®」が思うように広まらないとお話しされましたが、あいらいふが提供しているサービスについて、私も同じように感じることがあります。あいらいふは、尾添さんと出会うきっかけにもなった、貴社も加盟している「まごころサポート」と提携し、シニアのちょっとしたお困りごとを解決する介護保険外サービスを低価格で提供しています。

さきほど「住み慣れた地域でいつまでも生活できるようにサポートすべき」という話が出ましたが、介護保険の制度上、趣味のための外出の付き添いや、自宅の庭の草むしりなど、シニアが頼みたくても頼めないサービスがたくさんあるんですよね。介護給付費の増加により介護保険制度を破綻させないためにも、経済的に余裕がある方は1~3割負担で介護保険サービスを利用するのではなく、自費で頼みたい介護保険外のサービスを利用していただければ、みんなが幸せだと思うんです。

ところが「まごころサポート」をご高齢者に紹介しても、子ども世代の方々から「安いサービスを利用した結果、高額な商品を売りつけられるのでは?」といった不信感を抱かれて利用してもらえないケースが多いんです。せっかく良いサービスがあるのに広がらない。社会課題をビジネスとして解決するためにも、信頼できるサービスに国がお墨付き(認定マーク)を与えるような仕組みがあると、ありがたいですね。

尾添 長く介護業界に身を置いてきた経験上、私も介護保険では叶えられないたくさんのお困りごとがあると実感しています。

ご自身の経験から生まれた標語
「ファミリー・ファースト」

藤田 介護業界に長く携わってきた尾添さんですが、その前は銀行、コンサルティング会社など他業種での経験も豊富ですよね。介護業界に身を投じた理由は何ですか?

尾添 もう亡くなってしまったのですが、私には重い障がいを持った娘がいたんです。娘の同級生の親御さんと付き合う中で、障がいのある子を育てながら親が働ける場がほとんどないという現実を目の当たりにしました。キャリアもスキルもある親御さんが働ける場を作りたいと思ったことが、デイサービスを始めたきっかけです。

このような経緯もあり、私のデイサービスでは創業時から「ファミリー・ファースト」という標語を掲げています。ご高齢者を大切にすることは当然として、24時間お世話しているご家族にも、もっと目を向けていい。ご家族が自分の仕事や子どもとの時間も大事にできる。そんなサポートが必要とされています。見方を変えれば、デイサービスは、ご家族が仕事を続けるためのサポーターとしての役割も担っていけるはずです。国も介護業界も、もっとご家族に目を向けてほしいと切に願っています。

より良い世の中を目指す
お互いの今後のビジョン

藤田 尾添さんの今後の目標は?

尾添 大きな柱が2本あります。1つ目は、要望に応じて「ショッピングリハビリ®」の拠点を全国に広げること。同じ志を持つ仲間を増やしていこうと思っています。

2つ目が、まちづくりに積極的に関わっていくこと。高齢化が進む日本各地で、国や行政、大企業が、公共の交通機関のない地域に移動手段を提供する実証実験を行っていますが、地域のご高齢者の利用につながっていない現状があるんです。その解決策として、いくつかの地域で「ショッピングリハビリ®」を導入しています。ご高齢者が外出したくなる目的を用意して、目的地に到着した後はしっかりとサポートする体制を作る。このような、ご高齢者向けサービスを開始する際のサポートも増やしていこうと考えています。

藤田 高齢化が進む日本全体で必要な事業ですね。まちづくりといえば、あいらいふは現在、民間版の地域包括支援センターを作りたいと思い、行政にも働きかけています。シニアライフに関するお困りごとを何でも相談できる窓口が必要との想いから「なんでも相談室」を作り、東京・武蔵野市や埼玉・幸手市などで、その試みを進めています。そこでは、介護保険サービスが必要なら行政へ、保険外のサービスが必要なら信頼できるサービスへつなぐ。老人ホームへの入居をご希望なら、あいらいふがご紹介する。将来的に老人ホーム紹介業は、「なんでも相談室」が紹介するサービスの一つになっていくかもしれません。

それと、2023年12月から、あいらいふ本社で、従業員が「認知症サポーター養成講座」を受講する取り組みを始めました。この講座は認知症の方とご家族の応援者となる「認知症サポーター」を養成することで、認知症になっても安心して暮らせるまちづくりを目指す、厚生労働省の事業「認知症サポーターキャラバン」の一環です。暮らしやすいまちづくりの一助になればと思い、取り組んでいます。

協働により、日本全国に
ショッピングリハビリを広めたい

藤田 尾添さんと一緒に進めたい事業もあります。それは「ショッピングリハビリ®」と「楽々カート®」の存在を、日本中に広めるお手伝いをさせていただくことです。あいらいふが代理店のような役割を果たせるのではないかと考えています。

尾添 まちづくりの取り組みも含めて、今後は介護以外の分野にも、「ショッピングリハビリ®」と「楽々カート®」を広げていければと考えています。例えば、「楽々カート®」がさまざまなシチュエーションで使えるようになり、普段は車いすを介助者に押してもらう必要のある方が、気兼ねなく自分の足で美術館や博物館を回ることができたり、孫と一緒に東京ディズニーランドに行けたりする。そんな未来を実現するため、ぜひお力を貸してください。

【プロフィール】

ショッピングリハビリカンパニー株式会社 代表取締役 尾添純一さん

都市銀行、コンサルティング会社に勤務した後、2010年に中古車流通事業会社を設立。2011年には介護事業を立ち上げ、2019年に株式会社ケアビジネスパートナーズ取締役に就任。2020年にショッピングリハビリカンパニー株式会社の代表取締役となり、日本全国に「ショッピングリハビリ®」を広めようと精力的に活動中。

株式会社あいらいふ 代表取締役 藤田敦史

外資系金融機関でリテール営業を経験後、コンサルティング会社で中小企業の支援、大手営業会社の社長直轄部署でM&Aを担当。45歳で株式会社ユカリアへ転職し、2020年に子会社化したあいらいふの代表取締役に就任。有料老人ホーム紹介業を中心に、「シニアライフのトータルサポートカンパニー」として、ビジネスによる超高齢社会の課題解決を目指す。

取材・文/あいらいふ編集部 撮影/近藤豊

介護情報誌『あいらいふ』編集部
【誌名】『あいらいふ 2024年2-3月号』
【概要】 初めて老人ホームを探すご家族さまの施設選びのポイントをさまざまな切り口でわかりやすく解説。著名人に介護経験を語っていただくインタビュー記事他、人生やシニアライフを豊かにするためのさまざまな情報や話題を取り上げて掲載。
【発行部数】4万部
【配布場所】市区役所高齢者介護担当窓口・社会福祉協議会・地域包括支援センター・居宅介護支援事業所・訪問看護ステーション・病院・薬局など1万か所

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