支援連携の輪

【ソーシャルワークの現場から -支援連携の輪-】[京都]介護支援専門員(ケアマネジャー)・浅井雅久 氏

介護支援専門員(ケアマネジャー)・浅井雅久 氏
care manager / Masahisa Asai

こんな居宅が増えたら
きっともっと、面白い

京都市北区の船岡山公園近くにある年季の入った民家。引き戸を開けると「ケアマネ」と書かれた四角いタペストリーが出迎えてくれた。奥を覗くと、壁に絵やイラストが飾られた仕事場。間接照明とセンスのいい音楽が流れる空間に、ランチを食べる楽しそうな顔。隣では4台のモニターを前に、作業に没頭している職員の姿もあった。

「ここはデザイン事務所?」

■あいらいふ編集部(以下、あいらいふ):
本日はよろしくお願いいたします。
まず、「what’s up」を開設したきっかけを教えてください。

■ケアマネジャー・浅井さん(以下、CM浅井):
介護福祉士の専門学校を卒業してから、介護福祉士を経て、ケアマネジャー(以下、ケアマネ)になり、介護業界に20年近く携わってきました。その年月を通して、次第にアナログな業務の多いケアマネの仕事を合理化・効率化し、ご高齢者や障がい者ともっと向き合えるように時間を作りたい、と考えるようになりました。

介護の仕事はいわゆる3Kの代表のように思われがちですが、ケアマネの仕事の魅力的でやりがいのある部分をもっと発信したい。同じケアマネとして、同業者を応援したい。そんな想いから、2023年に立ち上げた居宅介護支援事業所が、「what’s up」です。居宅介護支援事業所とはケアマネが在籍する事業所で、現在「what’s up」には4人のケアマネが在籍しています。

■あいらいふ:
「what’s up」の特徴は何ですか?

■CM浅井:
「what’s up」という英語のフレーズは、日本語で「最近どう?」とか「元気にしてる?」の意味になります。ケアマネは毎月担当のご利用者宅へ訪問し、まず第一声として英語でいうと「what’s up」と聞いているところから、この名前にしました。

デザインにもこだわっていて、従業員と一緒に改装した町家を事業所にしています。京都市内でも観光スポットや歴史的な建築物が多い北区紫野にあり、周辺と調和した外観になっています。

一方、中に入ると、間接照明があったり、壁にはイラストやタペストリーを飾ったり、従来の居宅介護事業所とは違うお洒落なイメージに仕上げました。
もちろん、車イスの方も利用しやすいように、段差を解消する木材のスロープを設置するといった配慮も忘れていません。

事業に関する特徴としては、訪問介護や訪問看護、デイサービスセンターなどに併設されている居宅介護支援事業所は多くありますが、「what’s up」のように居宅介護支援事業所のみの、単独で営業しているところは珍しいと思います。

この京都市北区紫野の地から、ケアマネに特化したサービスや情報を発信していければと思っています。

■あいらいふ:
デザイン事務所のような雰囲気の室内ですね。BGMにはセンスのいい音楽も流れていて、楽しく働けそうな環境です。ケアマネの仕事は、具体的にどのような内容ですか?

■CM浅井:
介護施設に勤務しているケアマネもいますが、多くは自宅で生活している介護が必要な方に対して、介護保険制度を利用して、適切な介護保険サービスを受けられるようにサポートする仕事です。

主な業務は、利用するご本人やご家族の状況・要望に応じて、「ケアプラン(介護の計画書)」を作成することです。作成したケアプランに基づいて、毎月必ず1回はご利用者宅へ訪問し、体調や気持ちの変化がないかなどのようすを確認し、必要に応じて、市区町村や介護サービス事業所、病院、施設などとのサービス調整を行っています。

■あいらいふ:
浅井さんご自身は、ケアマネの仕事のどのような部分にやりがいを感じますか?

■CM浅井:
ケアマネは、日常的な悩みや不安など多岐にわたる相談を受ける機会も多いんです。また、ご利用者一人ひとりとの相性もあります。そのようなルーティンワークでない部分が、面白さでもあります。

そして、それぞれのご家庭の事情がある中で、ご利用者のケアプランを作成し、プラン通りに実践することで、自分でできる動作・行動が増え、次第に元の生活を取り戻していく。それがやりがいを感じる部分であり、ケアマネの仕事の醍醐味でもあります。

■あいらいふ:
ケアプランの作成と、関係機関との調整だけにおさまらない仕事なんですね。

■CM浅井:
本来はケアプランの作成・介護保険サービスの調整がメイン業務なのですが、時には現場に駆けつけることもあります。ヘルパーさんからの依頼で、自宅で倒れている方を救出した経験もあります。

ケアマネの仕事そのものを知らない方も多いので、業務内容を発信することで、若い世代にも、すでに介護の現場で働いている方にも、ケアマネの魅力を伝え、関心を持ってもらいたいと思っています。

■あいらいふ:
ご利用者の人生に深く関わることもある仕事なんですね。非常に忙しそうなイメージですが、冒頭でお話があった「ケアマネの仕事の合理化・効率化」の試みは実践されているのでしょうか?

■CM浅井:
従業員それぞれの生活スタイルに合った働き方ができるように、フレックスタイム制を導入しています。さらに、一人のケアマネが担当できるご利用者は、現状では実質的に45名未満(※ICTの活用などの条件を満たした場合。令和3年度の制度改定による基準)と定められており、一般的に自宅での介護を支えるケアマネは一人あたり平均31.8名(※)を担当しているそうです。けれども、「what’s up」では従業員の生活スタイルに応じて、担当するご利用者の人数の調整をしています。

例を挙げると、「夫が単身赴任で、小学生・保育園児2人の合わせて3人の子育てをしながらケアマネの仕事なんて務まるわけがない」と、働くことを諦めていた女性ケアマネが、現在、20名のご利用者を担当しながら子育てに奮闘されています。子どもの体調不良時などの在宅ワークにも柔軟に対応しており、保育園の送り迎えや学校行事への参加などもしながら、活き活きと働いてもらっています。こうした働き方は、ケアマネだからこそできるのではないかと考えています。

※厚生労働省「居宅介護支援・介護予防支援」(P36)より

■あいらいふ:
育児をしながらケアマネとして働くことは難しいのですか?

■CM浅井:
病院やご高齢者向けの施設、通所や訪問介護などでは大抵、日勤帯での勤務となり、時間と場所に拘束され、その場を離れると休み、もしくは有休扱いになると思います。その点では、ケアマネはパソコン1台と携帯電話があれば、自宅でお子さんをみながら、サービス調整や事務作業などができるので、時間や場所を選ばずに仕事ができる、その部分がケアマネの魅力でもあると思っています。

■あいらいふ:
せっかくケアマネの資格を持つ方が、働けない状況はもったいないですね。
ほかにも、仕事の合理化・効率化のために工夫されていることはありますか?

■CM浅井:
手書きの紙の書類を使用している事業所が多い中、「what’s up」は本気でペーパーレス化に取り組んでいます。ご利用者のお宅を訪問する際は、持参したタブレットを使って共有すべき情報をその場で記録し、帰社してから紙の書類に転記する必要がないようになっています。訪問先によっては直行・直帰も認めており、本気で効率的に仕事ができる環境を整備しています。

44名のご利用者を担当しつつ、空いた時間で副業をしている従業員もいるので、ゆくゆくは歩合制にして、自分自身の能力や生活スタイルに合わせた給与体系を選べるような雇用形態も検討しています。

同様に、デスクワークでの効率化も進めています。病院やご高齢者向けの施設、行政などに提出する書類には多様な書式があって、それぞれに情報を書き込まなければならないのですが、同じ内容を記載する箇所があるんです。

そこで、一度入力した基本情報のデータがすべての書式に反映される仕組みを、エクセルで構築しました。作成した多くの資料や書類は電子データとして保存し、印刷もFAX送信もデスクに座ったままクリック一つでできます。

これらの取り組みによって、書類作成にかかる時間が一枚あたり30分ほど短縮されるとしたら、ひと月でどれほどの余裕が創出できるでしょうか。生み出した時間を、目の前のご利用者とより深く向き合うために使うことができれば、今よりずっとやりがいを感じられるようになるはずです。

記憶に残るシニアとの出会い

■あいらいふ:
今までに、印象に残っているご利用者はいらっしゃいますか?

■CM浅井:
床が抜け落ち、電気も切れて、穴の空いた天井からは空が見える状態のご自宅に、布団を敷いて寝ているご高齢者がいたんです。身体が思うように動かず、室内で倒れていたのですが、それでも「ほっといてくれ」「構わないでくれ」と言う。せめて眠れる状態にしようと、ヘルパーさんと一緒に、その方と粘り強く向き合って、ご自宅での暮らしぶりを少しずつ整えていった経験がありました。

「構わないでくれ」と言う方も、心の奥底では温もりや安心を求めているんです。お互いがようすを見ながら対話を重ねて、付き合いを続けるうちに、こちらのサービスや提案に対して「それは良いね」「これ良かったわ」などと言ってもらったときには、手応えを感じられます。認知症の方も、まったく新しい情報を覚えられないわけではないんですよ。顔を覚えてくれることもあります。

ご利用者との会話で、こちらにまったく知識がないと会話を続けられません。ご利用者の心のドアがバタッと閉まらないように、僕はもう本当に広く浅く、何でも知っておきたいと思っています。何かしら相手と話すとっかかりが作れるようにね。

■あいらいふ:
会話を通じて懐に入って、信頼を築き上げていくんですね。
中にはご自宅での生活が難しい方もいらっしゃると思いますが、老人ホームへの入居については、どうお考えですか?

■CM浅井:
やはりお身体の状態やご家庭の状況によって、ご自宅での生活が難しくなったら、老人ホームへの入居は選択肢になります。独り暮らしのリスクや、介護をするご家族の疲労など、ご自宅ではどうしようもないケースもあります。安心、安全、安定の「三安」が危ない場合は、早めの入居をお勧めします。食生活も安定しますからね。

最後は人間誰しも「死」を迎える、それまでの人生に悔いが残るっていうのが一番つらいことかなと思いますので、よく物事の選択の際に「悔いのないように」選択してくださいと、ご本人・ご家族に伝えています。

■あいらいふ:
老人ホームという選択肢があることは、安心にもつながりますね。
今後の浅井さんの目標は何ですか?

■CM浅井:
さきほどお話しした印象に残っているご利用者のように、ケアマネの現場は大変なこともあります。けれども、そんな天井に穴が空いているような生活を、暮らしやすい状況に整えていく作業を、面白いと思えるかどうか。それがケアマネの仕事を続ける上で、一番大切な資質だと思います。

今後も、ケアマネの仕事を、「面白い」「やりがいがある」と感じてくれる仲間が一人でも増えるように、ケアマネの働き方を整えて、サポートしていきたいです。僕たちみたいなケアマネが増えたら、きっともっと、面白いと思います。

■あいらいふ:
本日はありがとうございました。

【プロフィール】
what’up(ワッツアップ)
代表取締役/介護支援専門員 浅井雅久

介護福祉士専門学校卒業(国家資格取得)後、介護士として施設(障害)、在宅(高齢/障害)で計10年ほど勤務し、ケアマネ資格を取得。その後、ヘルパー兼務で2年、ケアマネ事業所管理者として6年勤めた後、2022年12月に「スマートケア株式会社」を設立し、2023年3月よりケアマネ事業所「what’s up」を開設。モットーは「おもしろおかしく悔いのない人生を」。

===取材協力===
居宅介護支援事業所
what’s up
京都府京都市北区紫野下築山町61
https://smartcare.work/

介護情報誌『あいらいふ』編集部
【誌名】『あいらいふ 2024年2-3月号』
【概要】 初めて老人ホームを探すご家族さまの施設選びのポイントをさまざまな切り口でわかりやすく解説。著名人に介護経験を語っていただくインタビュー記事他、人生やシニアライフを豊かにするためのさまざまな情報や話題を取り上げて掲載。
【発行部数】4万部
【配布場所】市区役所高齢者介護担当窓口・社会福祉協議会・地域包括支援センター・居宅介護支援事業所・訪問看護ステーション・病院・薬局など1万か所

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