【知っトク「注目のトピック」vol.23】最期まで“味わう喜び”を。嚥下困難な方のための介護食『革命の泡』とは?
「好きだったあの味を、もう一度楽しみたい」――。そんな願いにこたえるために生まれたのが、重度の嚥下(えんげ)障害により食事が難しい方でも、味や香りを楽しめることを目指して開発された、泡状の介護食『革命の泡』です。今回は、高齢者向け施設の現場から生まれた、「味わう喜び」を取り戻すための新しい挑戦と、その背景にある思いをご紹介します。

飲み込まず味を楽しむ新しい「食」のかたち
病院や高齢者向け施設で大きな課題とされているのが、誤嚥(ごえん)の問題です。特に、加齢や疾患により嚥下機能が著しく低下した方の場合、安全を優先して食事は栄養補給が中心となり、「口から食べる楽しみ」をあきらめざるを得ないことがあります。
こうした課題にこたえるために開発された『革命の泡』は、重度の嚥下障害により、食事を摂ることが難しい方に向けた“泡状”の介護食です。
開発したのは、介護用品事業を展開する株式会社VIVA NYAGO(ビバ ニャーゴ/三重県伊勢市)。専用液と水をカップに入れ、エアーポンプ(同社推奨品あり、市販のものでも可)で空気を送り込むことで、食材の風味を閉じ込めた泡を作り出します。
泡は、口に入れた瞬間に溶けるように消えるため、咀嚼(そしゃく)や嚥下を必要としません。気管に流れ込むリスクが低く、嚥下障害のある方や水分量の管理が必要な方でも、食べ物の味や香りを楽しめるのが特徴です(使用にあたっては主治医への相談を推奨)。
現在は、フレッシュな甘みの「マンゴー味」と、旨味を凝縮した「すき焼き味」の2種類を開発し、一般販売に向けて改良中。口の中に広がる風味が、食の記憶や楽しみを呼び起こします。

「食べさせてあげたい」という願いが製品開発の原点
『革命の泡』の出発点は、高齢者向け施設の現場でスタッフが感じてきた葛藤でした。開発の背景について、VIVA NYAGO社代表取締役の中井清美さんにお話をうかがいました。
「当社の親会社は、重度の医療・介護ニーズを持つ方のための高齢者向け住宅を運営しています。ご入居者の中には、終末期や重度の嚥下障害で、水を飲むことすら難しい『絶飲食』の方も少なくありません。
ご家族からは『たとえ誤嚥のリスクがあっても、本人のために食べさせてあげたい』という相談をいただくこともあるのですが、施設としては安全面への配慮から、ご希望に応えられない歯がゆさがありました」
“味わう喜び”を届ける方法はないかと模索を続ける中、泡状食品のアイデアの源泉となったのは、西洋料理の技法である「エスプーマ」でした。試作を重ねる中で、当初想定した「飲み込みやすいムース状の製品」から「飲み込まなくても味を楽しめる」現在の形へ発展していったと言います。
「栄養摂取だけが、食べることではありません。味わう時間や思い出も、人生の大切な一部。食べる楽しみが得られないと、生きる喜びまでも失われてしまうのではという思いが、製品開発の後押しとなりました」
褒め言葉よりうれしかった「おいしくない」
多くの利用者の協力を得ながら改良を重ねた製品開発の過程で、中井さんが特に印象に残っているのは、3年間絶飲食を続けている方に試食していただいた時のこと。
「『あまりおいしくない』という感想をいただいたんです。でも、スタッフもご家族も『味を感じていただけている!』と感動して(笑)。涙を流すスタッフもいました」
長年、絶飲食を続けた方にも味覚が残っていること、そして、味を楽しみたいという思いが確かに存在していることを、あらためて実感した瞬間だったそうです。
“最期の一分前”まで 生きる楽しみを届けたい
当初から、採算面での難しさが指摘される中でも、「必要としている方とご家族に届けたい」という思いから、親会社から事業を分社化して、製品開発を進めてきた同社。
現在は、病院や高齢者向け施設を対象としたBtoB製品としての商品化を検討するとともに、将来の大きな目標として、エアーポンプを使わない製品の開発に取り組んでいるそうです。
「『もっと手軽につくりたい』『後片付けを楽に』など、モニターからさまざまなご要望が寄せられています。まだまだ、完成形だとは思っていません。また、少量なら食べられる方、食欲のない方のための、嚥下機能に応じた製品もつくっていきたい。もっと、良いものにしていきたいですね」(中井さん)。
“食”に求められる要素は、安全性や栄養面だけではありません。高齢者向け施設においても、食事にまつわる「おいしい」「楽しい」と感じる気持ちをどう支えるかは、ますます重要なテーマになっています。
中井さんは将来のビジョンを、「最期を迎える一分前まで、生きるための楽しみをお届けしたい」と語ります。
開発者の思いが込められた、食べることが難しくなった方にとっての新しい選択肢『革命の泡』。食の楽しみを最後まで支える取り組みとして、今後の広がりが期待されます。
取材:あいらいふ編集部 / 資料提供:株式会社VIVA NYAGO
豊かなシニアライフのための情報誌『あいらいふ』編集部
【誌名】『あいらいふvol.184(2026年7月30日発行号)』
【概要】初めて老人ホームを探すご家族さまの施設選びのポイントをさまざまな切り口でわかりやすく解説。著名人に介護経験を語っていただくインタビュー記事のほか、人生やシニアライフを豊かにするためのさまざまな情報や話題を取り上げて掲載。
【発行部数】4万部
【配布場所】市区役所の高齢者介護担当窓口・社会福祉協議会・地域包括支援センター・居宅介護支援事業所・訪問看護ステーション・病院・薬局など1万か所