対談・インタビュー

【特別インタビュー】 日本介護支援専門員協会 柴口里則会長に聞く 2026年介護保険法改正 ケアマネジャーの未来はこう変わる

2026年6月の特別国会で成立した改正介護保険法では、長年の議題であったケアマネジャー(以下、ケアマネ)資格の更新制度の廃止をはじめ、ケアマネの業務や役割に関わる大きな制度変更※が行われました。

今回の制度改正が、現場の負担軽減や人材確保といった課題の解決に、どのようにつながっていくのか。国内最大のケアマネ職能団体である(一社)日本介護支援専門員協会の柴口里則会長に、お話をうかがいました。

更新制度廃止の先にある 継続的な学びと人材確保

──今回の法改正では、長年の議題であったケアマネ資格の更新制度が廃止されることになりました。

更新制度については、時代にそぐわない面があった。今回の廃止は、現場のケアマネにとって大きな前進だと考えています。

ただ、誤解しないでいただきたいのですが、「更新制度がなくなる=研修がなくなる」ではありません。専門職である以上、学び続けることは当然です。研修の重要性はこれまでと変わりません。

課題だったのは、資格の更新と研修が一体になっていたことです。5年に一度とは言え、初回の更新研修は88時間、2回目以降も32時間が必要。拘束時間が長く、仕事を休まなければ受講できないケースもありました。「受けたくない」ではなく、「受けることが難しい」状況でした。

また、ケアマネの資格そのものは個人に帰属する一方で、実際に働く際には、居宅介護支援事業所や高齢者向け施設への所属が必要です。このため、資格を維持するための時間的・経済的負担を、個人が大きく負う構造にも違和感がありました。

今後は、研修のあり方が見直され、法定研修として義務化されることになります。当協会も、引き続き研修資料の作成に関わります。

制度設計はこれからですが、研修時間を一定の期間の中で分散させるとともに、オンラインの講義なども活用する流れになっていくでしょう。働きながら、継続的に学べる仕組みになっていくことを期待しています。

――「更新制度がなくなると、ケアマネジメントの質の確保が心配」という声もあります。

法定研修は引き続き行われますので、その点は心配ありません。むしろ、これまでの画一的な研修から、時代に合わせた柔軟で実効性のある学びに変えていく機会になると考えています。

介護保険制度は頻繁に変わります。ケアマネも、資格を取得した時の知識だけで続けられる仕事ではありません。研修を通じて、新しい制度やケアマネジメントの考え方を学び続けることは重要です。

私自身は、1998年に資格を取得しましたが、当時学んだ内容と、現在の制度やケアマネジメントは様変わりしています。最近になって資格を取得した人の方が、新しい制度について詳しいこともある。

経験年数だけで、専門性が決まるわけではありません。ベテランも若手も、研修を通じてそれぞれが最新の知識を身につけることが大切だと考えています。

――更新制度の廃止によって、課題である人材確保への効果も期待されます。

特に、一度現場を離れた方が復職しやすくなることに、大きな意味があります。

子育てやご家族の介護などで仕事を離れた方が、「もう一度ケアマネとして働きたい」と思っても、更新研修を受けていないことが、復帰の大きな足かせになっていました。

今回の見直しによって、ハードルが下がれば、経験を持った方が現場へ戻ってきやすくなると期待しています。

若い世代が目指せる専門職に ケアマネ養成の仕組みづくり

――一方で、人材不足の問題は依然として深刻です。

ケアマネの人材不足における最大の課題は、若い世代がケアマネという職業を目指しにくい構造になっていることです。

現在は、他の資格を取得し、一定の実務経験を積んでからでないとケアマネにはなれません。しかし、医師や看護師、理学療法士などは、大学や養成校の養成課程を卒業して、20代で現場に出ています。

ケアマネも、高校生や大学生が将来の仕事を選ぶ時点で、目指せる職業であるべきです。

――協会では、養成校構想についても提言されていますね。

厚生労働省の検討会でも提案していますし、議事録にも載せています。協会の中にも委員会を設置し、具体的な検討を進めているところです。

入口の制度を整えることも大切ですが、同時に「ケアマネになりたい」と思う若い人を増やしていかなければなりません。更新制度の廃止も、そのための一歩だと考えています。

「登録施設介護支援」が促す ご利用者本位のケアマネジメント

――今回の法改正では、「登録施設介護支援」が新たに創設されます。この制度をどのように評価されていますか。

意義のある制度だと考えています。  

この制度は、住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅などにおけるケアマネジメントを、従来の居宅介護支援とは別の枠組みである、新たな介護保険サービスの区分として位置づけるものです。

これまで、一部の高齢者向け施設では、いわゆる「囲い込み」の問題が指摘されてきました。施設の運営会社や関連する事業者のサービスが優先され、本来のケアマネジメントである「ご利用者の選択に基づくケアプラン」の原則が十分に機能していないケースもありました。

ご利用者の生活やご希望を顧みず、最初から利用するサービスが決まっているのであれば、ケアマネが専門職として支援する意味が薄れてしまいます。

今回の制度創設によって、ご利用者が必要なサービスを主体的に選択できる環境が整うことを期待しています。

ご利用者本位のケアマネジメントという介護保険制度の理念を守る上で、大きな意義があると考えます。

──「登録施設介護支援」では、ケアプランの作成に初めて利用者負担が導入されますが、どのようにお考えですか。

この点は、居宅介護支援と同じ枠組みで論じるべきではないと考えています。

「登録施設介護支援」では、ケアプランの作成は、生活相談や施設との連携を含む新しい介護保険サービスとして位置づけられるため、他の介護サービスと同様に、一定の利用者負担が設けられます。

また、ご利用者が主体的にサービスを選ぶことで、いわゆる囲い込み対策となることも期待されています。

一方で、居宅介護支援については、誰もが必要なときに相談できる仕組みとして、利用者負担を設けないという、制度設計の基本的な考え方が維持されています。利用控えを防ぎ、誰もが公平に適切なケアマネジメントを受けられるようにすることが、不要なサービスの利用を防ぎ、給付の総額の抑制につながります。

今回の改正では、その枠組みは維持しつつ、新たなサービスの区分について整理が行われたと理解しています。

「特定地域サービス」で進める 地域の実情に応じた仕組みづくり

――今回の法改正で創設された「特定地域サービス」では、ケアマネも対象に含まれています。

この制度は、人材不足が深刻な地域で、介護サービスの提供を続けるために、人員・運営基準を緩和するものです。

地域によって介護サービスを取り巻く状況は大きく異なります。都市部と中山間地域、あるいは離島では、人材確保の難しさがまったく異なります。

特に事業所や専門職が不足している地域では、現行の制度だけでは十分なサービスを提供できないリスクが増しており、そういった地域では、必要な仕組みになると考えます。

ただ、制度の対象となる地域や運用方法については慎重な検討が必要です。本当に必要な地域に限定して運用されることが重要であり、制度だけが独り歩きしてはいけません。

ましてや全国に波及するような基準緩和につながることは避けるべきです。地域の実情に応じた、柔軟な制度運用を期待しています

目標は“ケアマネ年収500万円” 基本報酬の引き上げは不可欠

――2026年度の介護報酬改定では、ケアマネの処遇改善も行われました。どのように受け止めていらっしゃいますか。

これまで介護従事者に限られていた「介護職員処遇改善加算」の対象が、ケアマネにも拡大したことは大きな前進です。

当協会では、全国から約25万人分の署名を集め、障がい福祉分野の相談支援専門員団体とも連携しながら、国への要望を続けてきました。現場の声が制度に反映された、大きな成果だと受け止めています。

――一方で、これで十分というわけではない。

もちろんです。処遇改善加算だけでは限界がある。専門職として社会から期待される役割に見合った処遇を実現するために、本当に必要なのは、基本報酬そのものを適正な水準へ引き上げることです。

私の持論は、“ケアマネの年収500万円”。協会として、現在もケアプラン作成費用の基本単価の増額を国と交渉しています。

また、近年は物価や人件費が毎年のように上昇しています。しかし、介護報酬は3年に一度しか見直されません。その間に、経営環境が大きく変わってしまいます。

そのため、私たちは物価高騰や他職種の賃金上昇への対応と、基本報酬の議論は分けて考えるべきだと提案しています。

毎年変化するものは、毎年見直す。そのような仕組みがなければ、事業所経営に加えて、人材確保もさらに難しくなってしまいます。

どこまでがケアマネの業務か シャドーワークの解消目指す

――近年は、いわゆる「シャドーワーク」(対価の発生しない、細かい仕事)の問題も大きなテーマになっています。

現状では、救急搬送への付き添いや行政手続きの支援など、本来のケアマネジメントの範囲を超えた業務まで、ケアマネが無給で担っているケースも少なくありません。

2000年にケアマネという職業ができたばかりの頃は、周囲からどういった仕事をするのかわからないと思われている中で、「頼まれたことは断れない」雰囲気もありました。また、「ケアマネの業務の範囲はここまで」と狭めすぎなかったからこそ、今があるのは確かです。

一方で、制度開始から25年以上が経過し、ケアマネが専門職として社会に定着したいまだからこそ、本来担うべきケアマネジメントの範囲と、地域や他職種が担うべき役割を整理する時期に来ていると思います。

2024年には、厚生労働省で「ケアマネジメントにかかる諸課題に関する検討会」が開かれ、初めてケアマネの業務について分類が行われました。中間整理では、法定外の業務については、自治体を主体とする地域の課題として、協議を行うよう呼びかけが行われました。

ただ、「これはやりません」と一律に線を引くことが目的ではない。大切なのは、ご利用者を支える視点を失わずに、介護保険制度の中でケアマネが担う役割を明確にすることです。

その上で、行政や医療機関、地域の関係者と役割分担を進め、地域全体でご利用者を支えていく仕組みをつくる必要があると考えています。

その人らしさを支える専門職 「人生に寄り添う」仕事の魅力

――これからのケアマネに求められる役割は何でしょうか。

私はよく、ケアマネは「醤油」のような存在とお話ししています。

お刺身を食べるとき、主役は刺身であって醤油ではありません。しかし、醤油があるからこそ、素材の良さが引き立ちます。

ケアマネも同じです。主役はご利用者であって、私たちではない。しかし、その方がどのような暮らしを望み、どのような人生を送りたいのかを一緒に考え、その実現を支え、輝かせる役割を担います。

制度の改廃はあっても、ご本人の意思を尊重しながら、地域の多職種と連携して、その人らしい暮らしを支えていく。それがケアマネジメントの本質だと思います。

ご利用者本位のケアマネジメントという理念は変わりません。今回の改正を契機に、ケアマネが専門職としてさらに力を発揮できる未来に進むことを期待しています。

【プロフィール】
一般社団法人 日本介護支援専門員協会 会長
柴口 里則(しばぐち・さとのり)さん

1957年生まれ、福岡市在住。宗像水光会総合病院医療相談室室長、福間町在宅介護支援センター所長、水光会地域総合ケアセンター長、福津市地域包括支援センター長などを経て、2010年から株式会社グリーンケア専務取締役を務める。一般社団法人日本介護支援専門員協会では常任理事・副会長を歴任し、2017年6月より会長に就任。

取材・文:あいらいふ編集部 / 撮影:岩下 洋介

豊かなシニアライフのための情報誌『あいらいふ』編集部
【誌名】『あいらいふvol.184(2026年7月30日発行号)』
【概要】初めて老人ホームを探すご家族さまの施設選びのポイントをさまざまな切り口でわかりやすく解説。著名人に介護経験を語っていただくインタビュー記事のほか、人生やシニアライフを豊かにするためのさまざまな情報や話題を取り上げて掲載。
【発行部数】4万部
【配布場所】市区役所の高齢者介護担当窓口・社会福祉協議会・地域包括支援センター・居宅介護支援事業所・訪問看護ステーション・病院・薬局など1万か所

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