対談・インタビュー

【特別対談・インタビュー】“誰の痛みも無視されない街”を目指して 20代女性市議会議員のチャレンジ

東京都武蔵野市で唯一、20代の女性として市議会議員を務めるさこうもみさん。ベンチャー企業の代表取締役から大企業の社員、そして政治家へと次々と肩書きを変えながら、さまざまな社会課題の解決を目指す活動に一貫して携わっています。

株式会社あいらいふで、「なんでも相談室」をはじめ、シニア世代に向けたさまざまな新サービスの立ち上げに携わる経営企画部・平田由紀子が、シニアの生活支援サービスを提供する「まごころサポート東京武蔵野あいらいふ店」にて、さこうさんのお話をうかがいました。

緑豊かな住みやすい武蔵野
若い人を育てる議会の気風

平田 本日はお忙しい中、ありがとうございます。2022年9月に、東京都武蔵野市・吉祥寺に「まごころサポート東京武蔵野あいらいふ店」がオープンして一年。通常営業のほかにも、シニアライフに関する無料セミナーの開催や、有志の従業員による清掃活動など、地域に根差すための取り組みを続けています。

幼少期から武蔵野市で育ったさこうさんから見た、この街の魅力を教えてください。

さこう 武蔵野市は緑豊かな住宅都市で、かつ、多数の商店街や個性的な専門店、飲食店な どの商業施設がコンパクトにまとまっている利便性の高いエリアです。あらゆる世代の方にとっての居場所が見つかる心地の良さが魅力ですね。

平田 あいらいふの所属するユカリアグループではダイバーシティ(多様性)を推進しており、その一環として、2023年には社外取締役にフェンシング元女子日本代表でトランスジェンダーの杉山文野(ふみの)さんが就任しました。

武蔵野市議会は2023年、女性議員の比率が半数を占めるなど、女性の政治参画が進んでいます。ジェンダー平等を政策に掲げるさこうさんにとって、武蔵野市議会の働きやすさはいかがですか?

さこう 女性が半分という状況は、やはり働きやすさにつながっています。働きながら出産・育児休暇を取得しやすい体制が整っており、乳幼児を育てている先輩の女性議員もいます。

議会の風通しは良く、会議では「まず若い人の意見を聞こう」と最初に話す機会を設けていただけます。昔から党派を超えて、皆で若い人を育てようという気風があるそうで、良い意味で驚いています。

変化が実感できる面白さ
やりがいのある議員の仕事

平田 素晴らしい環境ですね。ほかの地域でも武蔵野市のように女性議員を増やすには、何が必要だと思われますか?

さこう 武蔵野市は新しいことにチャレンジする気概のある自治体だからこそ、チャレンジ精神のある人が集まるのだと思います。

同じように、女性や育児中の方など多様な議員がいる議会に魅力を感じるという意見が多いのであれば、それを対外的に発信していく必要があるのではないでしょうか。当然ですが、立候補する人がいないと議会は成立しないので、議員は面白い仕事だと多くの女性に知っていただきたいです。

平田 議員の仕事のどのような点に面白さを感じていますか?

さこう 市民の声やデータから読み取れる課題を行政に伝えていくことで、進行中の計画に新たな文言が加わったり、市の公式ウェブサイトに掲載する表現が変わったりと、変化が実感できる点ですね。必要に応じて状況を変えられる影響力がある、やりがいを感じられる仕事です。

平田 女性議員比率のほかにも、先進的な価値観が反映されていると感じられる取り組みはありますか?

さこう 2022年の4月に、同性同士の方も事実婚の方も、婚姻と同等の関係であると自治体が証明する「パートナーシップ制度」がスタートしています。ほかに、日本人も外国人も安心して暮らせる街にすることを目的に、「多文化共生推進プラン」を策定しています。

私自身は選挙に出馬したときに掲げた、「ジェンダー平等の実現」「気候危機の対策」「若者の声を市政に取り入れる」などの実現に努めています。例えば、市役所の管理職の女性比率が15%未満であることや、非正規雇用の女性の多さなど、まだまだ平等でない部分は多いと思っています。育児・家事・介護が負担となって仕事を辞めざるを得ない女性が多いという問題についても、市として今後の関わり方を検討中です。

仕事を辞めずに介護ができるように
多くの選択肢が必要

平田 武蔵野市は、シニア世代に対する施策も充実していますね。ご高齢者あるいは介護について、どのような印象をもっていますか?

さこう 議員としては、地域の防災という観点から、ご高齢者に過去の災害から得た教訓を次世代に語り継いでいただきたいと考えています。知恵と経験を若い世代につないでいくことは、私自身の役割でもあると思っています。

身近な人間関係でいうと、祖父はほぼ介護を経験しないまま亡くなり、祖母は二人とも、現在80代で独り暮らしをしています。家族や親戚が様子を見に行くと、「そんなに頻繁に来なくていい」と言われてしまうほど元気です。スマートフォンの使い方教室に通って撮影の仕方を覚え、毎日のように食事の写真やメッセージを送ってくれます

私自身には介護をした経験はありませんが、親の世代が祖父母の介護をしている話は、同世代間でも話題に上るようになりましたね。祖父母が遠方が住んでいる場合、すぐに駆け付けられない不安もあり、仕事をしながら定期的に遠方まで出かける労力も必要で、本当に大変だと思います。

平田 おばあさまにとってのスマホのように、気軽に周囲の方とやりとりできるツールはありがたい存在ですね。遠方に住むご家族を介護するときに活用できるようなツールはご存じですか?

さこう 例えば、Apple Watch(iPhoneと連携して利用する腕時計型デバイス)には転倒検出機能があり、もし転んだときには緊急連絡先に通知されます。

将来は、このような見守り機能のあるツールがもっと増えて、活用できる状況になってほしい。本来であれば、仕事を続けながら介護ができる状態が理想です。そのためにも、活用できるツールやサービスなど多くの選択肢が必要ですから。

民間・公共が連携して
必要なサポートにつなげられるように

平田 あいらいふでは2023年に、「なんでも相談室」という相談窓口を立ち上げたのですが、実は、遠方に住む親の介護をした私自身の経験が、そのきっかけになりました。

当時、私にはケアマネジャーの資格があり、介護に関する知識もあったのですが、それでも不安なことばかりで……。まして介護の仕組みを知らない方なら、なおさらです。どこに、誰に、何を頼めばいいのか、何の制度が使えるのか、わからない。

そんなとき、まずは制限を設けず何でも相談できる窓口があれば、そこからさまざまな制度やサポートにつなげられるのではないか、という想いで始めた窓口です。

さこう 「どこに何を頼めばいいのか、どんな制度があるのか、わからない」という点はおっしゃる通りです。武蔵野市にもご高齢者に関する充実した制度やサポートがあるのですが、存在すら知らない方も少なくありません。

ですから、行政はもちろん、民間にも、気軽に相談できる窓口が必要だと強く感じています。あいらいふさんの「なんでも相談窓口」が、そのひとつになっていただければ、大変ありがたい。民間と公共、どちらの窓口に行っても必要なサポートにつなげられるように、連携がとれると良いですね。

民間の強みは幅広い客層と
違和感を素早く発見できること

平田 本当にそうですね。「なんでも相談室」は、単にあいらいふの商品をご案内する訳ではありません。例えば、ご相談者に最寄りの地域包括支援センターの連絡先をお伝えするだけでも、解決することもあります。公共サービスとの架け橋になれるよう努力しています。ほかに、民間企業が担える役割はあるでしょうか?

さこう 公的な制度は、要介護度がいくつ以上など、一定の基準・ルールを設ける必要があります。民間の事業者であれば、介護を必要とする方だけでなく、介護する側の方、将来介護が必要になる方まで、幅広い層を対象としたサービスを柔軟に提供していける点が強みではないでしょうか。

また、地域の中で営業しているからこそ、異変や違和感に素早く気づける点も強みだと思います。例えば、新聞配達をする方が、郵便受けに新聞がたまっているお宅を見つけたら、市に連絡するといった連携がとれていると安心です。

平田 「まごころサポート東京武蔵野あいらいふ店」でいえば、電球の交換やゴミ出しなど、シニアのちょっとしたお困りごとを解決するサービス「まごころサポート」が、その役割を担えます。

さこう 必要に応じて行政につなげていただければ、大きな効果があると思います。あとは、武蔵野市が進めている「テンミリオンハウス事業」(※)のように、幅広い年代の方が関われる取り組みも良いですね。

学びが得られる取り組みなら
参加を希望する若者は現れる

平田 現在、開催の準備を進めている「認知症サポート養成講座」には、若い世代にもご参加いただきたいと考えています。どうしたら若い方に興味を持っていただけるでしょうか?

さこう 祖父母が認知症という若年世代は大勢いるし、超高齢社会ですから、学生のうちに少しでも知識をつけ、接し方を学んでおくことは役に立つはずです。

けれども、今の大学生は経済的に余裕がありません。奨学金を利用している方も、フルタイムで働いている方も大勢います。目の前の生活に精いっぱいで、ボランティア活動に参加する余裕のある方が少ないのではないでしょうか。

現実的に考えるなら、就職活動の際にアピールできるなど、メリットを伴う内容であれば、魅力を感じてくれると思います。地域社会のために何を行い、どのような学びがあり、何が得られるのか。それがしっかりと伝われば、参加を希望する大学生は増えると思います。

認知度の低い社会課題が
名づけにより認識される

平田 クラウドファンディングの立ち上げから、市議会議員の立候補まで、さこうさんのまわりには、いつも人材が集まっている印象があります。協力者を増やして目標を達成するには、どのように物事を進める必要があるのでしょうか?

さこう 私が、社会課題の解決を支援するクラウドファンディング「グッドモーニング」にいたときは、まだ社会的に知られていない課題をいくつも扱っていました。

知られていない課題には、当然、まだ名前がついていないんですね。そこに、きちんと名前をつけることで、問題を認識してもらうことが重要です。例えば、経済的な問題で、受験に必要な学習塾に通える子と通えない子がいる。その状況を「塾代の格差」と名づけることで、そこに経済格差・教育格差が隠れていることを端的に表せるようになりました。

また、数字で示す方法も有効です。子ども食堂を始める資金をサポートしたときには、どれほど世の中で必要とされているのかが数字でわかるように、全国にある子ども食堂の数を調べた経験もあります。多くの方がぼんやりと感じている課題を、わかりやすい形で伝えることが、クラウドファンディングを成功させる上で重要でした。

平田 18歳未満の子どもが、家族の介護や世話を日常的に行っている「ヤングケアラー」も、まさに名前がついたことで可視化された問題ですね。

さこう 武蔵野市で、2023年4月に制定した「子どもの権利条例」には、ヤングケアラーに関する文言も入っています。名前がついたことで、本人が自分もそうだと言い出しやすくなったり、周囲から見つけやすくなるメリットもあります。

議員の仕事は、私の意見ではなく、市民の意見を代表して伝えることだと思っています。声を上げづらい人、声を上げる余裕のない人たちの声が、数字として現れていることもある。そうした小さな声を見つけて、伝えていきたいと思っています。

忘れられている人がいないように
丁寧に見ていきたい

平田 さこうさんは、少数派の声にも耳を傾けようと常に努力されていますね。議員になってから、新たな気づきはありましたか?

さこう 現在、市では妊娠から子育てまで切れ目のない支援策に取り組んでいるのですが、当初は「産む人」と「産んだ人」しか想定されていませんでした。妊娠した人のうち、中絶をする人が10%以上いて、流産・死産の人を合わせると25%くらいになります。その人たちのことも含めて考えようと、市役所との協議を重ねています。

どのような施策にも、包括できていない部分は必ずあると思うんです。忘れられている人がいないか、取り残されてる人がいないか、丁寧に見ていくことが、私が議員として担っていきたい仕事です。

普通の生活者であることが
政治家としての強み

平田 議員になる前からさこうさんが目指している、“誰の痛みも無視されない社会”の実現に向けたお仕事ですね。議員活動を続けるにあたって、さこうさんの政治家としての強みは何だと思いますか?

さこう 政治家の家系に生まれたわけではなく、大学を出て一般企業に入社しました。会社の代表を務めていた時期もありますが、多くの方と同じように働いてきたと感じています。今も自分と家族のためにご飯を作り、掃除、洗濯をする、普通の暮らしを続けています。

誰もが知っているような食品の値段すら知らない、政治家の経済感覚が話題になることがありますが、多くの方と同じ生活をして、同じ感覚をもっている人間が、その代表であるべきではないでしょうか。その意味で、特別な人間ではないところが、私の強みだと思っています。

平田 さまざまな世代の多様な人々にとって、武蔵野市がより住みやすい街になる未来を期待しています。最後に、これからどのように年齢を重ねていきたいですか?

さこう 元気なうちはこれまでに築いてきたキャリアを活かして、働き続けたいですね。武蔵野市にずっと住み続けて、この町に住む友人たちと一緒に歳をとっていきたい。

武蔵野市が皆にとってずっと住み続けたいと思える街であり、住み続けることができる街であるよう、全力を尽くします。

※テンミリオンハウス事業:地域での共助によりシニア世代の生活を総合的に支援する、武蔵野市が取り組む高齢者向け施策のひとつ。地域の福祉団体や住民グループに助成金を出して、シニア世代を地域で見守り、つながりを保つ拠点づくりを進めている。

【プロフィール】

武蔵野市議会議員 さこうもみ(本名:酒向萌実)さん

1994年生まれ。幼少期から武蔵野市で育つ。国際基督教大学卒業後、アパレル企業勤務を経て、2017年にクラウドファンディング事業をけん引する「キャンプファイヤー」に入社。その後、社会課題を解決するためのクラウドファンディングを専門に支援するサービス「グッドモーニング」の立ち上げメンバーとなり、2019年、25歳のときに分社化されたグッドモーニングの代表取締役に就任。計3000件以上のクラウドファンディングに関わる。その後、有名企業にて企業の社会的責任を果たすためのサスティナビリティの推進に携わった後、2023年、武蔵野市議会議員選挙に立候補し、当選。現在は同市議会議員として活動中。

株式会社あいらいふ 経営企画部 平田由紀子

介護福祉士、介護支援専門員、2級ファイナンシャル・プランニング技能士などの資格を保有。2010年から訪問介護やデイサービス管理者などの介護職に従事。その経験を活かし、2016年以降、介護アドバイザーとして計測機器メーカーの「高齢者見守りシステム」の開発に参加。2019年、株式会社あいらいふに入社し、相談員として活躍しながら、2023年、シニアライフに関するさまざまなお困りごとを解決する「なんでも相談室」を立ち上げる。現在はシニアライフに関するセミナーや、認知症サポーター養成講座などを関東各地で開催中。

取材・文/あいらいふ編集部 撮影/岩下洋介

介護情報誌『あいらいふ』編集部
【誌名】『あいらいふ 2023年12-2024年1月号』
【概要】 初めて老人ホームを探すご家族さまの施設選びのポイントをさまざまな切り口でわかりやすく解説。著名人に介護経験を語っていただくインタビュー記事他、人生やシニアライフを豊かにするためのさまざまな情報や話題を取り上げて掲載。
【発行部数】4万部
【配布場所】市区役所高齢者介護担当窓口・社会福祉協議会・地域包括支援センター・居宅介護支援事業所・訪問看護ステーション・病院・薬局など1万か所

コラム一覧