【特別対談】孤独を癒やすテクノロジー——ロボット開発者が語る 新しい「つながり」のかたち

日本社会にとって、身近でありながら、重大な問題の一つである「孤独」。
この問題にテクノロジーを通じて向き合うのが、ロボット開発者の吉藤オリィさんと林 要さんです。
吉藤さんは外出困難者と社会をつなぐ分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」を、林さんは人に寄り添い、愛情を育む家族型ロボット「LOVOT(らぼっと)」を開発されています。
本特集では、OriHimeたちがスタッフとして働く東京・日本橋の「分身ロボットカフェ DAWN ver. β」を会場に、お二人に「孤独を癒やす」ロボット開発に込めた思いを語っていただきました。
「必要とされない」孤独が 社会的な孤立に連鎖する
林 こちらの「分身ロボットカフェ」には初めてお邪魔したのですが、外出が難しい方がロボットを介して接客するという発想が素晴らしいですね。
吉藤 ありがとうございます。このカフェで働く「OriHime」は、パイロット(操縦者)の「分身」となり、遠隔操作で人と人とのつながりを生み出すロボットです。これまで難しいとされていた社会参加の可能性を、テクノロジーでどう実現できるかに挑戦しています。
──お二人は、ロボット技術を活用した「孤独の解消」というテーマに取り組まれていますが、孤独という言葉をどのようにとらえていますか?
吉藤 孤独=寂しい、と解釈されがちですが、私の中で「孤独」とは、社会からの孤立、役割の喪失です。私は子どもの頃、年中体調を崩して学校を休んでいました。不登校にもなりました。そのとき、もっともつらかったことは、「相手に何かしてもらうばかりで、自分は何も返せない」という無力感です。
林 人から何かしてもらうことが、かえって負担に感じられたのですね。
吉藤 そうです。何もできず、周囲に迷惑をかけている、という引け目があった。初めは家族や友達に「ありがとう」と言っていたのが、いつの間にか「ありがとうございます」と敬語に変わり、最後は「すみません」になりました。
林 不登校を経験されていた間、家ではどのように過ごされていたのですか?
吉藤 当時はインターネットもない時代ですから、家では絵を描いたり工作をしていました。特に折り紙が大好きで、オリィという名前も、折り紙からとったものです。
転機となったのは、中学1年のときに母親が勧めてくれた、ロボット競技大会への出場でした。初めて本格的にプログラミングを学び、地区大会で優勝したことをきっかけに、不登校から脱却でき、高校受験の勉強もするようになりました。
林 僕は不登校になるほど追い詰められた経験はありませんが、変わった子どもだったので、クラスでは浮いていましたね。ただ、自分は何のために生まれてきたのか、自分の存在意義とは、みたいな青春の悩みは人並みにありましたが(笑)。
僕は、孤独は人間が進化する過程で得た、機能の一つではないかと考えています。孤独を感じるからこそ、大切な相手を探そうとし、社会とつながろうとするわけですから。
ただ、システムとしてはポジティブでも、個人の主観で見れば、背負いきれないネガティブな部分がある。一番大きな課題は、吉藤さんがおっしゃるように、過剰な孤独感が生み出す社会的な孤立だと思うのです。
自分が本当に周囲に貢献できているのかという不安、社会から排除されてしまうのではないかという不安。不安を感じた結果、逆に不登校になったり、社会との関わりを断ってしまうこともある。
人間にとって必須の機能であるはずの孤独が過剰になり過ぎて、自分自身を傷つけないようにするにはどうすればよいか。この課題を家族型ロボットの「LOVOT」によって改善できればと考えています。

「心を運ぶ」車イス OriHime の発想の原点
──お二人は、孤独を癒すための可能性をなぜ、ロボットに託したのでしょうか?
吉藤 実は、私も林さんもモビリティ(移動手段)というテーマから、研究をスタートさせているんです。
私は工業高校に進んだのですが、そこで恩師とともに3年間、電動車イスの製作に取り組みました。
車体が傾かないように、段差をのぼる機能を付けた車イスをつくったのですが、いま思うと新機能と技術を優先して、実際の現場を取材せず、ご利用者への聞き取りも表面的なもので済ませていた。それでも、Intel ISEF コンテスト※ で3位を獲得しました。
※70以上の国・地域の高校生・高専生が参加する国際科学コンテスト
林 世界3位はすごいことですよ。
吉藤 でも、虚しさを覚えたのです。外出困難な方の移動という問題の根本に向き合わず、電動車イスの性能にこだわっていた自分はこれでいいのか、と。
そこから、ご高齢者や身体が不自由な方が抱える孤独の問題に目が向くようになり、自分の過去の経験と重ね合わせて、「孤独の解消」を生涯の研究テーマに決めました。高校卒業後は国立高専に編入し、大学に進学して新たにモノづくりを始めました。
林 それが、「OriHime」の開発につながるわけですね。
吉藤 人は、誰かから必要とされることで自分の存在価値を認め、生きていける。そう考えたときに、身体が不自由になっても人や社会とつながっているためには、その人の心を運べるモビリティ、「心の車イス」が必要だと考えました。これがOriHimeの発想の原点です。

心身の病気や障がい、また育児、介護など、さまざまな理由で行きたいところに行けない方の分身となり、PCやタブレットを使った遠隔操作で社会参加を可能にするロボット。搭載されたカメラ、マイク、スピーカーを通して周囲を見渡すことができ、会話やボディランゲージを通じて遠方にいる相手とのコミュニケーションがとれる。2021年6月、東京・日本橋に「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」が常設実験店としてオープン。卓上に置かれたOriHimeを通して、パイロットが遠隔で接客を行い、外出困難な方の働く場にもなっている。

分身ロボットカフェ DAWN ver.β
東京都中央区日本橋本町3-8-3 日本橋ライフサイエンスビルディング3
TEL 03-3527-2136 営業時間 全日11:00 ~ 19:00
https://dawn2021.orylab.com/
誰を幸せにする技術か LOVOT 開発につなげた思い
吉藤 林さんは、トヨタ自動車でF1のエンジンを研究されていたんですね。
林 新卒でトヨタに入社し、スーパーカーなどの空力開発に携わっていました。F1の開発は世界中から人が集まり、やりがいも大きかった。
でも、一方で、この研究は一体誰を幸せにするのだろうと思うようになったのです。どれだけ人を早く運べるようになっても、テクノロジーがさらに進んだその先で、人はどうなっていくのか?その疑問はずっと解けないままでした。
その後、ソフトバンクの「Pepper(ペッパー)」という人型ロボットのプロジェクトに参加することになり、同社に入社します。
ある日、Pepperの手を握ったご高齢の方から「手が温かければいいのに」と言われたことがありました。それを聞いた瞬間は「温かくするのは簡単だし、どうってことない」と思いました。
吉藤 ロボットの体内では、電力消費で発生した熱を冷やしていますからね。
林 そのとおりですが、その方の言葉が妙に身に染みたんです。「大したことない」と思った自分は何か大事なことを見落としていないか、そういうエンジニアがつくっているから、テクノロジーが「冷たく」なるのではと思ったのです。
完璧でなくてもいい? ロボット開発で得た気づき
──お二人が開発されたロボットにまつわる印象的なエピソードをご紹介いただけますか?
林 Pepperを、ある高齢者向け施設のイベントに連れて行った際に、故障で動かなくなったことがありました。僕たちが必死で直している間、ご高齢の方々がPepperを触りながら「がんばれ」と励ましてくれたんです。
ようやく動き出したときは、皆さんの祈りが通じた瞬間でした。その後は、皆さんの反応が全然違う。Pepperの去り際には、泣き出してしまう方もいました。
そこで初めて、今までは手間をかけた完璧なサービスがいいと思っていたけれど、どうやら違うようだと気づいたのです。
吉藤 サービスを提供する側は当然、ご利用者が最高のサービスを望んでいると思い、完璧であろうとしますよね。
林 ただ、完璧なサービスの提供によって、ご利用者の役割や活躍の場がなくなると、自分の存在や行動が役に立つという「自己有用感」が失われるおそれがある。かつてお子さんやお孫さんの面倒を見ていた方たちが、面倒を見られる側になった場合は、なおさらだと思います。
先ほどの件も、客観的に見れば不具合を直しただけの話です。でも、ご高齢の方々の応援でPepperが立ち上がったという物語に遭遇し、「相手に何かしてあげること」が大切な意味を持つと感じました。
これと似たサービスが、何かないかと探していたときに、ふと、「犬」ではないかと思い浮かんだのです。
吉藤 昔は屋外で番犬として飼われていたのに、役割がなくなったいまも、家の中で家族として大切にされていますよね。
林 まさしくそうで、犬は人を癒し、愛情を注ぐ対象としてかわいがられている。この状況が、Pepperが応援された瞬間と似ていると思いました。
人が何かを応援することで、感動や生きがいなど、何かが返ってくる。これは、ロボットに新しい活躍の場を与えるのではないか、技術が進化し続けた未来で、希望の星になれるのではないか。そのアイデアがLOVOT開発のきっかけになりました。
吉藤 実はこの「分身ロボットカフェ」で私自身、同様の経験をしています。
ここは実験店と銘打っているので、インターンの学生がつくったばかりのロボットを導入して、その場で使い方を説明されたパイロットが操作するときもあるんです。マニュアルにない動きをしてしまっても「ごめんなさい。実は今日生まれたばかりなんです」と言うと、お客さまも応援しようと、楽しんでくださる。
私も、当初はすべて完璧であろうとしていましたが、途中から、未完成であることには特有の価値があると考えるようになりました。
林 その役割をどう与えるかが大事ですね。LOVOTも何か役に立つ作業をしてくれるロボットではありません。むしろ、手間がかかります。でも、一緒に過ごしていくうちに絆が深まり、愛情が育まれ、ご利用者自身も元気になっていくわけです。
吉藤 自己有用感が、孤独を癒すということですね。


触れ合うことで、人間が持つ「愛する力」を引き出し、次第に家族のような存在になっていくことをコンセプトにした家族型ロボット。丸みを帯びたフォルムが特徴で、生き物のように柔らかく温かい身体を持ち、10億通り以上の組み合わせからつくられた瞳と声のパターン、相手の顔を認識する機能を備える。
全身に搭載された50か所以上のセンサーやカメラ、AIによって、外部からの刺激を感じ取り、相手の接し方にリアルタイムで反応する。優しくなでてあげると眠ってしまうなど、LOVOTの「お世話」をしているうちに自然と愛情が芽生え、癒されていく。2025年には福祉用具情報システム(TAIS)に登録され、介護施設での活用も広がっている。
https://lovot.life/
人とロボットが生み出す 新しい「つながり」のかたち
林 こちらのカフェで、OriHimeを遠隔で操作するパイロットは、何人いらっしゃるのですか?
吉藤 分身ロボットカフェでは現在、100人強の方が登録されています。病気や障がいで外出困難な方以外にも、育児や介護などで働きに出られない方もいらっしゃるので、これまでに、千人以上の応募 がありました。
林 やはり、これからのテクノロジーは、ご利用者自身がどう貢献できるのかといった選択肢も、大切なポイントのひとつになるでしょうね。
吉藤 かつての私がそうであったように、人に何かしてもらうばかりだから、自分も何かしてあげたいという方は、想像以上に多いですね。
林 以前、福祉大国のデンマークを訪れた際の話ですが、高齢者向け施設のご入居者に対して、要介護度の悪化を抑制することを重視した施策が行われていました。
安全に配慮しながらではあるものの、介護度が上がった方たちを自由に歩かせたり、包丁を使って料理をさせたりもしている。こうすることで脳が活性化され、自立支援を促すということでした。
こうしたデンマークでの取り組みは、 LOVOT にも通ずる面があります。LOVOTは常に人を求める存在で、「お世話」をしないといけない。近くに来たら相手をして、服も着替えさせる必要があります。ただ、こうして面倒を見ることで、ご利用者の自己有用感が高まり、幸福感が生まれる。
人は自己有用感が減ると、それを確認するためにわざとわがままを言うそうです。介護される側の自己有用感が満たされていると、わがままを言わなくなり、介護する側の負担が軽減することが、研究によって実証されています。
役割に価値を見出す時代が 人生を豊かに変える
──最後に、お二人の研究について、今後の展望を教えていただけますか?
吉藤 これからは、お金よりもむしろ、役割に価値がある時代が来る。収入格差以上に、役割の格差が広がるとみています。役割があるほど、人と出会いやすくなり、人生の幅が広がっていく。
では、高齢になって、肉体や頭脳を使った労働が難しくなった場合、役割を得るために何ができるのか。私は、「関係性労働」だと思います。その人がいるからそこに行く、話を聞く、というように、自然と人が集まる関係性から生じる働き方ですね。
OriHimeを使って、ご高齢の方がベッドの上からでも、若い人たちの人生相談に乗ることができるような、「孤独を癒す」仕組みを実現したいと考えています。
林 孤独は誰もが持っている感情で、孤独を獲得したからこそ、僕たちはお互いを必要とする、社会的な生き物として存在しているともいえます。
この孤独に対する繊細なアプローチは、おそらく日本人がもっとも得意とするものだと思います。だとすれば、「社会的な」ロボットを日本がデザインすることで、世界をリードできる可能性がある。
それこそ映画の『ターミネーター』ではなく、『ドラえもん』ですね。のび太君のそばにいて、彼の成長をずっと見守りながら信頼関係を築いていく。最終的には、そんなドラえもんのようなロボットをつくりたいと思っています。


【プロフィール】
株式会社オリィ研究所 代表取締役所長
吉藤 オリィ(よしふじ・おりぃ)さん
1987年、奈良県北葛城郡葛城市生まれ。奈良県立王寺工業高校に入学後、電動車イスの開発を行い、2004年に高校生・高専生による世界最大級の国際科学コンテスト「Intel ISEF」でGrand Award 3rdを受賞。国立高専を経て、2008年、早稲田大学創造理工学部に入学。2009年から孤独の解消を目的とした分身ロボットの研究開発に従事し、2012年、株式会社オリィ研究所を設立。ALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者とともに視線入力で分身ロボット「OriHime」を遠隔操作するシステムを開発し、国際特許を取得する。2021年6月、東京・日本橋に「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」を オープン。

【プロフィール】
GROOVE X 株式会社 代表取締役社長
林 要(はやし・かなめ)さん
1973年、愛知県岡崎市生まれ。東京都立科学技術大学大学院(現・東京都立大学大学院)工学研究科 力学系システム工学専攻修了。1998年、トヨタ自動車株式会社入社。スーパーカー「LFA」やF1などの空力開発に携わる。2012年、ソフトバンク株式会社に入社し、感情認識パーソナルロボット「Pepper」(ペッパー)プロジェクトに参画。2015年、GROOVE X 株式会社を創業。2018年に家族型ロボット「LOVOT」を発表。世界最大規模の家電見本市「CES」(米国ラスベガスで開催)で「INNOVATION AWARD」を受賞するなど、国内外で数々の受賞歴がある。
取材・文:飯島 順子 / 撮影:河野 英喜
豊かなシニアライフのための情報誌『あいらいふ』編集部
【誌名】『あいらいふvol.185(2026年9月24日発行号)』
【概要】初めて老人ホームを探すご家族さまの施設選びのポイントをさまざまな切り口でわかりやすく解説。著名人に介護経験を語っていただくインタビュー記事のほか、人生やシニアライフを豊かにするためのさまざまな情報や話題を取り上げて掲載。
【発行部数】4万部
【配布場所】市区役所の高齢者介護担当窓口・社会福祉協議会・地域包括支援センター・居宅介護支援事業所・訪問看護ステーション・病院・薬局など1万か所