【ソーシャルワークの現場から-支援連携の輪-】[東京]田中吉祥寺病院/医療ソーシャルワーカー・遠藤 美鈴 氏

医療ソーシャルワーカー・遠藤 美鈴 氏
medical social worker / Endo Misuzu
障がい者福祉から医療へ 変わらない「支える」思い
東京・練馬区の田中吉祥寺病院は、整形外科と脳神経外科を中心に、救急医療からリハビリまでを担う地域密着型の病院です。
院内の多職種連携や地域連携の要となり、患者さんの退院後の暮らしを見据えた支援に取り組んでいる、医療ソーシャルワーカー(以下、MSW)の遠藤さんにお話をうかがいました。(聞き手:あいらいふ編集部、あいらいふライフコーディネーター・清水久生)
福祉との出会い 深めた学び
■あいらいふ編集部(以下、あいらいふ):
本日は、よろしくお願いします。まず、MSWになるまでのご経歴を教えてください。
■医療ソーシャルワーカー・遠藤さん(以下、MSW遠藤):
もともと、福祉の仕事を目指していたわけではないんです。高校生までは部活のハンドボール一筋で、福祉への興味といったものもありませんでした。
きっかけは、大学に入学してから始めたボランティア活動です。部活がなくなったら、本当にやることがなくなってしまって。大学の窓口に資料を探しに行って、ボランティアの申し込みをしました。
そこで、さまざまな方とお会いして、福祉への興味が湧いたんです。人助けというよりは、出会った人たちと言葉を交わして、触れ合うのが楽しいといった感じですね。
進学したのは普通の4年制大学で、当初はスポーツ科学部に在籍していたのですが、福祉に目が向くようになったタイミングで、たまたま大学に福祉系の学科があることに気がついて。2年生の時に転部したのが、いまの仕事に就くきっかけになりました。
■あいらいふライフコーディネーター・清水(以下、ILC清水):
大学に入ってから転部に踏み切るのは、勇気が要りますよね。
■MSW遠藤:
そうですね。でも、それだけ魅力を感じたというか。福祉の世界を一度知ったからには、もっと深く知りたいという興味が湧いたんだと思います。
大学の卒業と同時に社会福祉士の資格を取得して、最初は精神障がいのある方の入所施設兼自立訓練施設に勤めました。働きながら、精神保健福祉士の資格を取得しました。
そこでは4年ほど勤めたのですが、引越しと結婚・出産が重なったのを機に退職して、田中吉祥寺病院に入職しました。現在は、MSWとして働いています。
振り返ると、障がい者福祉と医療という異なる分野を経験できたことは、自分にとって大きな財産だと思います。それぞれの現場で得た知識や経験が、いまの仕事につながっています。
顔の見える距離感が生む、細やかな支援と連携
■あいらいふ:
現在は、どのようなお仕事をされていますか?
■MSW遠藤:
患者さんやご家族からご相談をいただいて、退院後の生活の選択肢について、ご一緒に考えます。当院はリハビリに力を入れており、ご高齢の患者さんも多いので、「治療が終われば退院」ではなく、その後どこで、どのように過ごされるのかを考えなければいけません。
脳神経外科の患者さんだと、伝え方にも工夫が必要です。筆談にしても、簡単な言葉で大きく字を書いてお話ししたり。ご家族の力も借りながら進めます。あとは、病院に在籍している言語聴覚士(ST)の方に、コミュニケーションのコツを教えてもらっています。
■あいらいふ:
医師や看護師、リハビリスタッフとの多職種連携も重要ですね。
■MSW遠藤:
連携は常に密に行っています。日頃の患者さんの状態をよく把握しているのは、看護師とリハビリスタッフですから、支援の方向性について相談に乗ってもらい、判断を仰ぎながら進めます。リハビリの時間に訪ねて行って、ご本人を交えてお話をうかがうこともありますね。
患者さんのお身体の状況、ご本人のご意向、リハビリの状態、医療的な情報などを共有しながら、ご自宅、回復期リハビリテーション病院、高齢者向け施設など、その方に合った選択肢を考えていきます。
大きくはない病院ですから、「あたりを探せば誰かがいる」という感じですね。ちょっと確認したいことでも、気軽に声をかけられる職種同士の距離の近さがあります。
■あいらいふ:
他の医療機関や支援者との地域連携については、いかがでしょうか。
■MSW遠藤:
ご高齢の方がご自宅に戻られる際は、ケアマネジャーが中心的な存在になります。入院当初から打ち合わせをして、必要に応じてリハビリの見学に来ていただいたり、訪問看護や訪問リハビリにつないでいただいたり。ケアマネさんには本当に助けられています。

ご本人の思いを 支援の主軸に
■あいらいふ:
患者さんとご家族のご相談に乗る上で、遠藤さんが大切にされていることは何でしょうか。
■MSW遠藤:
やはり、患者さんご本人の思いを支援の主軸に置くということですね。ご本人とご家族、それぞれのお気持ちをうかがいながらも、そこはぶれないように心がけています。
MSWになったばかりの頃、介護をされているご家族のお気持ちに、私自身が思い入れを持ってしまって。ご本人のご希望を十分に確認しないまま、ご家族の負担を減らすことをベースに、退院支援を進めてしまったことがあるんです。
ただ、その患者さんには認知症の症状もあったのですが、はっきりと「家に帰りたい」という意思表示をされて。最終的に、そのケースは再検討することになりました。
反省点も多かったのですが、そこで気づかされたのが、退院後の生活を実際に送るのはご本人だということです。ご本人の思いをまず、支援の中心に置いた上で、ご家族の負担を軽減するための道筋を探るべきだったと思い至りました。
「その人の生活を支える」という福祉の視点は、以前の職場であった障がい者福祉の現場と同じ。医療の現場に来たからといって、そこは決して変わらない。自分の中では、二つの経験がそこでつながったように感じています。
ご本人とご家族をつないだ選択肢
■あいらいふ:
その考え方が、実際の支援に生かされたケースはありますか?
■MSW遠藤:
最近、すごく印象に残ったケースがありました。
脳外科に来られた患者さんで、麻痺などもあり、医師やリハビリスタッフからは「もう少しリハビリをすれば、状態が上がる可能性がある。リハビリ病院に行くのはどうか」という意見が出ていたんです。
一方で、ご家族は「本人は、この病院でリハビリをして、以前より元気になっている」と感じておられて。かなりご高齢ということもあって、これ以上、環境を変えてご本人に負担をかけるより、過ごしやすい場所を用意してあげたいという思いをお持ちでした。
そこで、ケアマネジャーとの間で出ていた、看護小規模多機能型居宅介護(看多機)を利用しながらご自宅に戻るという選択肢をお伝えしたところ、ご家族にも納得していただけました。
■あいらいふ:
その提案が、ご家族の決断を後押ししたのですね。
■MSW遠藤:
当初は、リハビリ病院の方向に進んでいたので、連携室が覆してしまった形になるのですが、後からご家族に、「あのとき話せてよかった」と言っていただきました。
退院の日には、担当者一人ひとりに名前入りのカードを用意してくださって、「この病院に運ばれて、よかったです」と言ってくださったんです。
私自身は、特別なことをしたという感覚はなくて、いつも通りお話をしたつもりだったのですが、ご家族にとっては、大きなきっかけになったのだと。そのときは、ご本人とご家族の想いをつなぐ支援ができたのだな、という実感がありました。
一方で、自分の一言が、患者さんやご家族の意思決定にこれほど深く関わっているのだと、あらためて感じました。喜びでもあり、同時に、MSWの言葉にはそれだけの責任があるのだと実感しました。
■ILC清水:
そうした支援を支えている、職種間の風通しのよさも印象的ですね。
■MSW遠藤:
こういうことができるのは、うちの連携室の伝統というか(笑)。女性の上司がドクターに対して必要なことをはっきり伝えている姿をずっと見てきました。その姿から、MSWとしてどうあるべきかを学んだと思います。
ありがたいことに、当院では先生方も連携室の意見を踏まえて、柔軟に治療や退院の方向性を決めてくださるので、本当に働きがいがありますね。

お話をうかがった遠藤 美鈴さん(左)とあいらいふライフコーディネーターの清水久生(右)
脳外科を柱に、地域医療の裾野を広げる
■あいらいふ:
田中吉祥寺病院さんは、近年、地域とのつながりをますます大切にしていく方針を打ち出されています。
■ILC清水:
歴史があり、地域に根付いている、信頼されている病院だということは、おうかがいするたびに伝わってきますね。
■MSW遠藤:
当院は、2025年に「田中脳神経外科病院」から改称しました。脳神経外科は以前からの柱ではありますが、同様に整形外科やリハビリにも力を入れ、地域で暮らすご高齢者を支える病院へ、役割を広げていきたいと思っています。
病院名が変わったことで、以前からの患者さんに「別の病院になったの?」とご心配いただくこともあるのですが(笑)、地域の幅広い医療ニーズにこたえていく姿勢を、より明確にしたと思っています。
これから、地域との関わりをさらに深めながら、当院の理念である「この街に希望を灯す」を実践していきたいですね。
「その人らしさ」を支えるために
■あいらいふ:
最後に、遠藤さんのこれからの目標を教えてください。
■MSW遠藤:
障がい者福祉、そして医療と、これまでに二つの分野を経験してきました。最近は、ご高齢者の介護について学ぶ機会も増えています。
これまでに得た知識や経験を生かして、この先もずっと、福祉・医療の世界で、地域の人々を支える仕事をしていきたい。
福祉の仕事を始めたときには、いまの自分の姿は想像していませんでしたが、これからも「その人らしさ」を支えるという思いを変えずに、支援を続けていきたいと思います。
===取材協力===
医療法人社団千秋会 田中吉祥寺病院
東京都練馬区関町南3-9-23
取材・文:あいらいふ編集部 / 撮影:岩下洋介
豊かなシニアライフのための情報誌『あいらいふ』編集部
【誌名】『あいらいふ』vol.185(2026年9月24日発行号)
【概要】初めて老人ホームを探すご家族の、施設選びのポイントをさまざまな切り口でわかりやすく解説。著名人に介護経験を語っていただくインタビュー記事のほか、人生やシニアライフを豊かにするためのさまざまな情報や話題を取り上げて掲載。
【発行部数】4万部
【配布場所】市区役所の高齢者介護担当窓口・社会福祉協議会・地域包括支援センター・居宅介護支援事業所・訪問看護ステーション・病院・薬局など1万か所