対談・インタビュー

【特集】一から創り上げたのは “ごちゃまぜ”が普通になる「まち」『シェア金沢』

多様性という言葉が使われるようになって久しいが、イメージは浸透しても属性の壁は簡単にはなくならない。見えない高い壁をなくそうと、石川県金沢市に一つのまちが誕生した。それが、分け隔てない関わり合いを目指す『シェア金沢』。まちをつくって壁をなくすという発想の原点や、つながりを創出する仕組み、つながりが生む相乗効果について、現在、『シェア金沢』の高齢者施設チーフとして働く、石塚与志生さんにお話をうかがった。


あらゆる人が関わり合いながら暮らす『シェア金沢』のテーマは“ごちゃまぜ”。そのルーツを探ると、石川県白山市にある行善寺という寺院にたどり着く。

「行善寺の住職だった初代理事長が、生活の場を失った戦争孤児や知的障がい児を引き取り、寺に住まわせて面倒を見るようになったんです。1960年には、社会福祉法人佛子園を立ち上げて、障がい児の入所施設の運営が始まりました。

ところが、しばらくして、彼らの卒園後の居場所となるグループホームを建設しようとしたら、住民からの反対運動が起こった。

『障がいを持った方々が、地域に出て行くことは応援したい。でも、自分の家の隣に来たらどう接していいかわからない。トラブルが起こったら、誰が責任を取ってくれるのか』というのがまちの人たちの本音でした」と当時を語る石塚さん。

「これまで、さまざまなイベントを通してまちの人たちと交流し、障がい者への理解は深まっていると思っていたけど、イベントのような非日常的な関わり方では不十分だった。いろいろな人が、日常的に関わり合える場の必要性を実感しました」

そこで、隣接する小松市にあった廃寺を活用して、地域住民の方々とともに、複合型地域コミュニティ施設『三草二木 西圓寺』を設立する。

「高齢者デイサービス、障がいを持つ方向けの生活介護支援や就労継続支援、放課後等デイサービスに加えて、住民の方のサードプレイスになり得る温泉やカフェも揃っています。

年代も障がいのあるなしも関係なく自然に人が集まって、いつしか名前で呼び合うのが当たり前の関係ができあがり、僕らと地域の人たちの双方にとって、居心地のいい場所になった。“ごちゃまぜ”というテーマは西圓寺から生まれました」

スタッフやご利用者がそろって寿司パーティーやバーベキューなど、笑顔あふれるイベントが盛りだくさん

石塚さんは、西圓寺で印象に残っている光景があるという。

「認知症のある女性が、首から下にマヒが残る車いすの男性にゼリーを食べさせようとしたんです。何度も、何度も根気よく。数週間後、男性は首の可動域が徐々に広がっていったのか、ゼリーを食べられるようになりました。理学療法士が、時間をかけてリハビリをしてもあまり改善しなかったのに、二人で一緒に食事をしたいという強い気持ちが、生きる力を後押しした。

これは、いろいろな人が共生し、関わり合ったことで生まれた結果であり、“ごちゃまぜ”の相乗効果を感じた瞬間でした」

西圓寺で培った経験を土台にして、今度は施設ではなく、まち単位で“ごちゃまぜ”を実現しようと踏み出したのが、『シェア金沢』だ。

「敷地面積は、西圓寺の10倍の約1万1000坪。元々国立病院があった跡地に、障がい児入所施設や就労支援を行うワークセンター、サービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)、学生向け賃貸住宅を建設しました」

ほかにも天然温泉に飲食店、ライブハウス、クリーニング店など、暮らしを彩るテナントが並び、まち自体をゼロからつくり上げた。

人が集まる仕組みづくりの一つである天然温泉は、住人だけでなく、地域の人たちにとっても憩いの場。地下600mから源泉が湧き出す温泉で、月見ができる露天風呂も人気。毎日訪れる人もいるという。地域住民との交流の場でもあり、自然と顔見知りが増える
新鮮な野菜が手に入る野菜市。ご近所の農家さんや家庭菜園を楽しんでいるご入居者が集まり、朝採れ野菜や山菜を販売している。

『シェア金沢』で多世代交流を図るために、どんな工夫が必要だったのだろうか。

「建物の配置一つを取っても、障がい児入所施設の隣にサ高住を配置するなど、違いのある人同士で、互いを意識するきっかけが生まれやすいレイアウトにこだわりました。各施設をつなぐ小道は、わざと道幅を狭く設計しています。すれ違う際に譲り合う必要があるから、お互いに無関心ではいられませんよね。

天然温泉は、町内会の方なら無料で入浴できます。住民の方の名前を書いた温泉札があって、お風呂に入りに来たら裏返すようになっている。今日はこの人が来ているから、お風呂上がりにビールを一緒に飲もうとか、地域の人とコンタクトをとりやすい。また、障がいを持った子どもたちに地域のおじいちゃんが『体を洗ってから入らんとダメだよ』と諭してくれたりする場面も見られます」

学生向けの賃貸住宅もあり、月に決められた時間のボランティア活動を行うことが入居条件になっている。ボランティアをきっかけに信頼関係を築き、いつしかサ高住に暮らす高齢者と学生が一緒に朝ごはんをつくっていたなど、微笑ましい交流が生まれている。

「目指すのは住んでいる人、関わってくれる人が主役になるまちであり、スタッフは黒子であれ、というのが僕らの考え方です。いろいろな人が異なる特技を生かして、役割を得たいと思っているけど、やりたいことと、やれることにはギャップがあったりする。だからこそ、ご本人の思いを聞き、求めているものに向けて後支えをするのが僕らの役目だと思っています。

たとえば、高齢の方で子どもと関わるボランティアの希望者は多いですが、いきなり障がいを持つお子さんと接するのは、ハードルが高い。ファーストステップとして、健常なお子さんが通う近隣の学童保育や、通学時の交通誘導を提案し、経験を積んでいただいています。今後もご本人のできることと、社会のニーズをつなげるお手伝いをしていきたいです」

32戸の「サービス付き高齢者向け住宅」。緑の中にたたずむサ高住は、木のぬくもりを感じるゆったりした居室を備え、愛するペットと一緒に暮らせる

世代を超えた新しい出会い、毎日入れる天然温泉…。そんなセカンドライフに魅力を感じる人は多く、32戸あるサ高住は現在、満室。これまで入居募集をしたことはなく、先住者のSNSなどを見た人からの問い合わせが後を絶たない。

「ご入居者の中には、ロサンゼルスで寿司職人をしていた方もいますよ。定年を迎えて帰国して、一時はマンションに住んでみたけど友達ができず、一日中誰とも話さない日が続き、帰国した意味を見出せなくなった。より良い選択肢を探して、たどり着いたのが『シェア金沢』だったそうです」

ご入居希望者に共通するニーズについて、石塚さんはこう話す。「生きがいとやりがいを実感できる、暮らしの実現です。一人で叶えられるか不安だけど、がんじがらめに管理されたくないという方に、ちょうど良いのだと思います。

ここには人と人との関わりを生む、さまざまな仕組みがありますが、参加するかしないかは自由。個々の気持ちを大切にしながらスタッフがチームとなり、ベストな後押しの仕方を常に話し合っています。

先日は、その元寿司職人の方から、卒園する子どもたちのために寿司パーティーをやりたいと提案していただき、実現しました。こうした展開はご本人の経歴や才能があってこそですが、それを発揮できる『シェア金沢』という、居場所の力も大きいと思っています」

最後に、より良いまちにするために今後取り組むべき課題についてうかがってみた。

「ご高齢の方の場合、ここを終の住処にしたいと願い、実際に、さまざまな人の手を借りてサ高住でお看取りをしたケースもあります。現状では、より高度な医療的ケアが必要になったり、認知症が進行すれば、病院や他施設に移る必要がありますが、移った先で望む最期を迎えられたかというと、必ずしもそうではありません。今後は、地域の病院やケアマネジャーとの連携、また地域資源の掘り起こしをして、ご入居者が望む、最期を叶えられるサポート体制を強化したいです」

児童菜園
児童入所施設

18歳を迎えて、障がい児入所施設を卒園する子どもたちのその先についても、石塚さんは思いを馳せる。

「石川県内にはグループホームをはじめ、障がいを持つ18歳以上の方が入居できる施設の空きが少ない。入居できたとしても、ご本人とご家族の意向に沿った生活環境で暮らせるとは限らず、ミスマッチが起きることがあります。

近隣には金沢大学があり、単身者向けのアパートが豊富なので、そうしたまちの資源を活用して、彼らが地域に受け入れられながら生活できる環境をつくるのも、これからの課題だと考えています」

今も『シェア金沢』のまちづくりは現在進行形。“ごちゃまぜ”がもたらす予想外の相乗効果に期待したい。

取材・文:北林あい/資料提供:シェア金沢

豊かなシニアライフのための情報誌『あいらいふ』編集部
【誌名】『あいらいふ』vol.183(2026年5月28日発行号)
【概要】初めて老人ホームを探すご家族さまの施設選びのポイントをさまざまな切り口でわかりやすく解説。著名人に介護経験を語っていただくインタビュー記事のほか、人生やシニアライフを豊かにするためのさまざまな情報や話題を取り上げて掲載。
【発行部数】4万部
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