支援連携の輪

【ソーシャルワークの現場から-支援連携の輪-】[北海道]医療法人社団図南会あしりべつ病院/精神保健福祉士・鶴羽 康弘 氏

精神保健福祉士・鶴羽 康弘 氏
mental health social worker / Tsuruha Yasuhiro

さまざまな出会いが自分の人生を豊かに

精神保健福祉士(以下、MHSW)として精神科病院で働くキャリア21年の鶴羽さん。コミュニケーションが難しい精神疾患や認知症を抱えた患者さんのより良い明日をともに築くために奮闘する。「人生は思い通りにならないからこそ、一つひとつの出会いやその時々を大切に生きたい」という哲学を持つベテランの職業観とは。

病気はその人の一部分、人生全体に耳を傾ける

■あいらいふ編集部(以下、あいらいふ):
キャリア21年ということですが、これまでの経歴を教えてください。

■精神保健福祉士・鶴羽さん(以下、MHSW鶴羽):
放射線技師だった父親の影響を受けて同じ職業を目指しましたが、受験が上手くいかず浪人生活を経験しました。その後、興味があった心理学も学べる福祉系の大学に進み、MHSWの資格を取りました。

新卒で入職した精神科病院では、高齢者の支援を最初に担当。しかし自分の適性を考えて部署転換を希望し、精神障がいを抱える方の支援に携わり、そこでMHSWとしての経験を積みました。

■あいらいふ:
現在働いているあしりべつ病院は、どんな病院ですか。

■MHSW鶴羽:
精神科、心療内科、神経科に特化した病院で、高齢者を中心に幅広い年齢層の患者さんに対応しています。予約制ではありますが、速やかに受診・入院できるように調整し不安の軽減に努めています。

■あいらいふ:
MHSWとして長い経験を経てきた中で、生まれた信念について教えてください。

■MHSW鶴羽:
「人を一つの『マル』で表したとき、病気はそのマルを構成する一部分にすぎない。歩んできた人生や大切にしていることを聞き取り、その方を総合的に理解する必要がある」という大学の恩師の言葉を心に刻んでいます。
そうすることで、たとえ元気だった頃に戻れないとしてもその方らしさを尊重する支援のヒントが見えてきます。

■あいらいふ:
精神疾患や認知症の患者さんの場合、理解を深める際の意思疎通に苦労することがあると思います。

■MHSW鶴羽:
ご自身の意思で入院に至るケースばかりではないので、最初は警戒心が強くコミュニケーションが難しいことがあります。しかし、焦りは禁物です。病室にこまめに顔を出したり、何気ない会話を重ねて安心していただいたりして、少しずつ関係性を深めています。

「塞翁が馬」という言葉がありますが、私は思い通りにならないことが多くても、すべてに意味があると思っています。だから目の前の困難だけにとらわれず、ご本人やご家族と一緒に可能性を探す姿勢を大切にしています。

人の人生に深く関わる分、丁寧かつ慎重に

■あいらいふ:
これまでに出会った忘れられない患者さんについて教えてください。

■MHSW鶴羽:
一人は多重人格を持つ患者さんで、あるときは小さい子どもになって床で寝そべって泣き出し、またあるときは強面の男性になってスタッフを脅したりして、自分の思い通りに人を動かそうとする方でした。対応に困り果て、多職種のカンファレンスのなかで、心理士さんが提案した心理検査を行ったところ、知能指数がやや低いことが判明。

このようなケースへの対応法を勉強して関わったら症状が少しずつ落ち着き、折り合いが悪かったご家族との関係も改善しました。退院後はご家族と共に生活できるようになりました。絡まった糸を1本ずつほどくように、解決の糸口を見つけていったことをよく覚えています。

■あいらいふ:
多職種連携が功を奏したわけですね。では認知症の患者さんで心に残っているケースはありますか。

■MHSW鶴羽:
認知症のために以前の職場への不法侵入を繰り返していた、ご高齢者の支援が印象に残っています。釈放される際、精神症状により検察庁から入院の相談を受けることになりました。

所持金は30万円のみでした。ご本人は、身寄りもなく住所も持っておらず、住所を病院に設定して、介護保険申請を行いました。

同時に、生活再建に向けた支援に取り組みました。最終的には介護施設への入居が決まり、就労継続支援B型事業所にも通えるようになりました。

精神障がいを抱える認知症の方を受け入れられる施設が少ないため、大変ではありますが、慎重に説明をしつつ交渉を行っています。当院では、退院された患者さんが再び入院することも可能で、外部の施設と協力しながら支援を進めています。

■あいらいふ:
MHSWはその方の人生に深く関わる仕事だと改めて感じますね。

■MHSW鶴羽:
そうですね。だからこそ丁寧かつ慎重に関わることを意識していますし、さまざまな患者さんの人生に触れると自分の人生が豊かになると感じます。

悩みを相談できる同業の妻は良き理解者

■あいらいふ:
鶴羽さんは支援業務に加えて、地域連携室・相談課で課長職も担っているとうかがいました。

■MHSW鶴羽:
現在は、8名の相談員と2名の看護師が在籍していますが、その中で、私は指導役を務めるだけでなく、他の課との交渉も担当しています。また、若い相談員が気軽に悩みを打ち明けられるような雰囲気づくりに力を入れています。

■あいらいふ:
ご自身が行き詰まった際、セルフケアはどうしていますか。

■MHSW鶴羽:
幸運なことに、妻もMHSWをしているので、悩み事があれば聞いてもらい、良き理解者が近くにいてくれるので助かっています。相談員自身のメンタルヘルスが整っていないと適切な支援はできないので、一人で抱え込まないように気を付けています。

特別な才能より、聴こうとする姿勢が大事

■あいらいふ:
キャリア22年目に向けたビジョンを教えてください。

■MHSW鶴羽:
職場には若い相談員が多く、さらに学生指導も担当しています。そのため、より多くの人が相談員を目指してくれるように、次世代の人材育成に力を注ぎたいと考えています。

■あいらいふ:
次世代の相談員に向けて、ぜひメッセージをお願いします。

■MHSW鶴羽:
ソーシャルワーカーという仕事は、人々の人生の重要な瞬間に関わるもので、決して楽な職業ではありません。時には悩んだり戸惑ったりすることもあります。しかし、利用者さんやその家族の笑顔、「ありがとう」という言葉に励まされて、自分自身も成長できる素晴らしい職業です。

私は、元々人見知りの性格だったため、新人の頃は人と接するのが難しかったこともあります。しかし、その経験が自分自身を向上させ、より良いコミュニケーション方法を見つける糧になりました。困難な状況を経験した人は、似たような苦境に直面する患者さんへの理解もより深くなれると信じています。
 
この仕事に必要なのは、特別な才能というよりも「話を聴く姿勢」と「仲間と連携し、一人で悩まない力」だと感じています。人との関わりに興味があり、誰かの役に立ちたいという想いがある方には、大変やりがいのある仕事です。共に頑張りましょう。

===取材協力===
医療法人社団図南会あしりべつ病院

北海道札幌市清田区清田1条4丁目4−35

取材・文:北林あい / 撮影:あいらいふ編集部

豊かなシニアライフのための情報誌『あいらいふ』編集部
【誌名】『あいらいふ』vol.185(2026年9月24日発行号)
【概要】初めて老人ホームを探すご家族の、施設選びのポイントをさまざまな切り口でわかりやすく解説。著名人に介護経験を語っていただくインタビュー記事のほか、人生やシニアライフを豊かにするためのさまざまな情報や話題を取り上げて掲載。
【発行部数】4万部
【配布場所】市区役所の高齢者介護担当窓口・社会福祉協議会・地域包括支援センター・居宅介護支援事業所・訪問看護ステーション・病院・薬局など1万か所

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