あいらいふレポート

【知っトク「注目のトピック」vol.21】公共交通+AIで、暮らしに寄り添う移動を実現。「AIデマンド交通」とは?

社会の高齢化に伴い、自治体にとって「シニア世代の移動手段の確保」は、避けられない課題となっています。とりわけ重要なのが、利用者のご自宅から、路線バスの停留所までの数百メートルを、いかに無理なくつなぐかという視点。

今回は、AIを活用した次世代型の「AIデマンド交通」を導入し、「交通福祉」の理念の実現を目指す、東京都三鷹市の取り組みをご紹介します。

運行ルートを最適化 AIデマンド交通の役割

社会の高齢化が進む中で、運転免許証を返納したシニア層からは、「移動のための手段が足りない」「行ける場所が限られてしまう」といった声が聞かれるようになっています。

こうした状況を背景に、「新しい交通のかたち」を模索する動きが、全国各地で広がっています。共通しているのは「決まった時間に、決まったルートを走る」従来型の交通では、地域の実情に十分に応えきれなくなっている、という認識です。

その流れの中で、いま注目を集めているのが「AIデマンド交通」です。

「AIデマンド交通」は、決まった路線や時刻表による定期運行を行わず、複数の利用予約の中から、最も効率的な運行ルートをAIが予測・判断する、新しい公共交通サービスです。

ご利用者が、電話やスマートフォンのアプリを通じて、希望する乗車時間や行き先を伝えると、AIが同じ時間帯・近いエリアで入った複数の予約を取りまとめ、回り道の少ない運行ルートを作成。最寄りの乗車ポイントから目的地の近くの降車ポイントまで、ご利用者を送り届けます。

相乗りを前提とした効率的な運用を行うことで、限られた車両台数でもサービスを維持しやすくなる点が、AIデマンド交通の特長です。

「バスのまち」の実情 三鷹市の取り組み

東京都三鷹市では、2022年にAIデマンド交通の実証運行がスタートし、2025年2月からは本格運行に移行しています。

都市交通課の渡辺佑馬さんにお話をうかがいました。

「三鷹市では現在、AIデマンド交通を活用し、大沢、井口、深大寺などの西部エリアで3台、北東部の井の頭エリアで1台のワンボックスカーを運行しています。

西部エリアは、駅からやや離れた住宅街。道幅の狭い路地が多く、大型のバスよりもワンボックスカーの方が走行しやすいという道路事情がありました。

運賃は、各エリア内の移動が100円、エリア外までは300円。西部エリアでは、100メートルほどの間隔で設定された約80か所の乗降ポイントを巡ります。

乗降ポイントには、路線バスの停留所の近くをはじめ、市役所、病院、スーパーマーケットなどが含まれます。通院や買い物を目的とするシニア世代のご利用が中心ですが、保育園への送迎や塾通いなど、若者・子育て世代のご利用も思った以上に多いというのが実感です。

ご利用者からは、『乗りたい時間に乗れるのがうれしい。便利になった』といった声が寄せられています」

導入の背景にあった 公共交通維持への危機感

三鷹市が、いち早くAIデマンド交通を導入するまでには、どのような経緯があったのでしょうか。

「三鷹市は、市の中心部を走る鉄道路線がないため、長年にわたって、路線バスが市民の暮らしを支えてきた『バスのまち』でした。

ところが、新型コロナウイルスの影響や、生活様式の変化によって、地域のコミュニティバスの利用者数が減少。将来にわたって運行を維持できるのか、という懸念が生まれました。

地域の足を守るため、既存の交通を補完する『新しい交通』のあり方を検討する必要に迫られたことが、AIデマンド交通に取り組むきっかけになりましたね」

全国で生まれる 新しい交通のかたち

「ただ、狭いエリア内を高頻度で運行する“都市型”のAIデマンド交通は、当時は国内の前例がほぼ見当たりませんでした。運行の仕組みづくりは、一から手探りの状態で、スマホ用のアプリも、三鷹市がシステム事業者と共同で開発したものです」

運行にまつわるコストや、ご利用者への周知といった課題。決して簡単ではない側面もあるAIデマンド交通を支えるのが、三鷹市の掲げる「交通福祉」の理念です。

「外出の機会を創出することで、シニア世代を中心としたご利用者の、心身の健康を守る。コミュニティを活性化させ、地域住民の生活を支えるという視点から、交通政策を考える姿勢を大切にしています。

そのために大切なのは、路線バスの停留所から、目的地やご利用者のご自宅までの“最後の数百メートル”を、どのようにつなぐか。

AIデマンド交通は、既存の交通網を補い、暮らしに寄り添う新たな移動の選択肢を提供する存在として、位置づけられると思います」(渡辺さん)

地域ごとの事情に合わせて、形を変えながら広がっていく「新しい交通」の考え方。移動をあきらめない社会を実現するための試みは、すでに各自治体で始まっています。

取材:あいらいふ編集部 / 資料提供:三鷹市

豊かなシニアライフのための情報誌『あいらいふ』編集部
【誌名】『あいらいふvol.182(2026年3月28日発行号)』
【概要】初めて老人ホームを探すご家族さまの施設選びのポイントをさまざまな切り口でわかりやすく解説。著名人に介護経験を語っていただくインタビュー記事のほか、人生やシニアライフを豊かにするためのさまざまな情報や話題を取り上げて掲載。
【発行部数】4万部
【配布場所】市区役所の高齢者介護担当窓口・社会福祉協議会・地域包括支援センター・居宅介護支援事業所・訪問看護ステーション・病院・薬局など1万か所

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