対談・インタビュー

【特集】映画『ツナガル』上映会を開催 ケアラー支援団体CAN 持田恭子代表理事に聞く2025年、ヤングケアラー支援の現在地 

2025年1月26日、東京都多摩市のベルブホールで、家族の介護や感情面のサポートをしている高校生の日常をテーマにしたオムニバス映画『ツナガル』(34分2秒)の上映イベント&講演会が開催されました。

同作は、一般社団法人ケアラーアクションネットワーク協会(以下、CAN)が制作した作品です。監督および製作総指揮を担当されたCANの持田恭子代表理事に、ヤングケアラー支援の現状についてお話をうかがいました。

第1部
オムニバス映画『ツナガル』
上映会&講演会リポート

今回のイベントは、多摩市の社会福祉法人こばと会が運営する地域貢献事業「みんなのリバティ」の主催により開催されました。

同作は、家族のケアをする高校生3人の実話を元にした物語です。上映後は、監督および製作総指揮を務めたCANの持田恭子代表理事による講演会も行われ、映画の内容と、同作の制作に至った経緯について、解説が行われました。以下に、講演の一部を抜粋してご紹介します。

『ツナガル』制作の経緯
“目に見えないケア”を知ってほしい

CANでは、これまでに2本の短編映画を制作しています。1作目の『陽菜(ひな)の世界』(16分32秒)は2021年12月に、2作目の『ツナガル』は、2024年の10月に制作されました。

CANは、2020年からヤングケアラーを対象としたオンラインの集まりを主催してきました。そこに参加している中学生、高校生、大学生たちから、

「世の中にはさまざまな事情を抱えている家庭があるのに、目に見える形での介護(重たい介護)をしている子どもだけがヤングケアラーだと思われている。〝目に見えない〟感情面のサポートをしている子どもの存在を、もっと社会に知ってほしい」

という声が上がり、家族をケアする高校生の日常生活を映画化するプロジェクトが始まったのが、2023年の7月です。

参加者たちに自身のケア経験を書いてもらい、その中から3つのストーリーを選んで、オムニバス形式の映画を作りました。

どの経験談を読んでも、ご家族のケアをすることを〝問題〟として捉えている人はいませんでした。家族が大切だから当たり前に手を貸したいという、素直な気持ちが彼らを動かしていることがわかりました。

セリフに関しては、ほとんど手を入れていません。彼らの言葉をそのまま映画にしました。

多摩市のベルブホールで開催された上映会&講演会のようす

いま、大人たちにできること

私が「きょうだい支援活動」を始めたのは、およそ30年前の1996年です。

自分と似たような「きょうだい児(難病や障がいなど、日常生活で手助けや介助が必要な兄弟姉妹がいる人)」に逢いたいと思い、メーリングリストを使った「きょうだい会」を始めました。

その後、母親の介護などで10年ほど活動を休止したのですが、2013年に、これまでのケア経験を活かしてCANを設立し、対面での交流を始めました。2019年に法人化して、現在に至っています。

活動の内容は、ケアラー同士の交流会と、ケアラーの周囲にいる方への人材教育、映画制作や講演活動などの啓発事業です。オンラインの交流会には、きょうだい児やヤングケアラーのほかに、年齢の近いメンター役(ピアメンターといいます)として、ケア経験のある大学生が参加しています。

身体介助をはじめとする文字どおりの介護もケアですが、気遣う、関心を持つ、心配する、見守るといった感情面のサポートもケアなのです。

しかし、このように目に見えない形で家族のケアをしている人たちは、自分が介護やケアをしているとは思っていないので、何がケアなのかをしっかりと伝えていくことが大事であると考えています。

また、家族のことを気軽に話せる環境も必要です。そのためには、家族をケアすることを自分ごととして受け止めてくれる人の存在も必要です。

そういった社会をこれから作っていくという思いを込めて、『ツナガル』では、友だちの存在の大切さを主な要素のひとつとして描いています。

重要なのは
「傾聴と積極的関与」

家族のケアを優先している子どもや若者は、無意識に自分の気持ちを抑えてしまいがちなので、「別に大したことはしていない」と言って、相手と自分の間に見えない境界線を張ってしまうことがあります。

例えば、身近な人に家族の状況を打ち明けるにはどうしたら良いのか、自分のキャリアプランとケアの兼ね合いをどうするか、恋愛や結婚を考える際に、家族のことを相手にどのように理解してもらえば良いか。

そういった悩みを抱えていても、「これはプライベートなことだから、他人に相談することではない」と思ってしまうんですね。

そんなとき、聞き手には、穏やかながらも、こちらから質問をして相手の気持ちを引き出す「積極的な関与」が求められます。「傾聴すること」と「積極的な関与」をうまく組み合わせながら、本人の心の奥底にある「本当の願い」を引き出す手助けをしていく必要があると思います。

さまざまな形のケア体験
ポジティブな要素に目を向けて

家族のケアをしていることで生じるポジティブな面としては、他人に優しく協調性が高い、聞き役が上手でよく相談される、マルチタスクの能力に長け、複数の物事を一度にこなすことができる、料理や家事が上達するなどが挙げられます。ご家族をケアしてきた経験を、何らかの形で将来に生かしたいと思っている人もいます。

こうしたケア体験のポジティブな側面は、これまでのヤングケアラー支援においてあまり語られてこなかったのではないでしょうか。どちらかというと、ヤングケアラーは時間に追われ、学校にも行けないというネガティブな印象が中心でした。

「自分の子どもをヤングケアラーにしてはいけない」「ヤングケアラーを生み出さない社会」という言い方が散見されますが、こうした言い方は、要介護者や支援を必要としている家族を傷つけ、子どもや若者にとっては不本意なものとなってしまうことがあります。

ヤングケアラーであることは悪いことではなく、家族のケアをする行為を取り除くべきだとは思いません。まだ表に出てきていない、ケアラーのポジティブな面を社会に発信することが、これからの支援のポイントになると考えています。

サムネイル画像
contact@careraction.com

第2部
持田代表へのインタビュー
2025年、ヤングケアラー支援の現在地

後日、あらためて持田代表理事にお話をうかがいました。前回、あいらいふ誌にご登場いただいたインタビューから約2年。この間、CANの活動と、ヤングケアラー支援の現状について、どのような変化があったのでしょうか。

(本誌2022年11月発行号に掲載された前回のインタビュー記事は、https://i-life.net/column/young-carer2022/ からご覧いただけます。併せてご覧ください)。

──前回のインタビュー後から2年間の活動についておうかがいします。

まず、2023年に開催された、こども家庭庁の第1回「未来をつくる こどもまんなかアワード」で、CANが内閣総理大臣表彰を受賞されました。

持田 2023年4月に、子どものための施策を総合的に推進することを目的とした「こども基本法」が施行され、併せてこども家庭庁が新たに設立されました。

これを記念して創設されたのが、同アワードです。CANの受賞に際しては、長年ケアラーへのサポートを続けてきた継続性に加えて、ヤングケアラーが成人してからも集まる機会を設けるといった支援の多様性、今回の短編映画の制作など、活動の新規性を評価していただきました。

こどもまんなか社会を実現するために、CANの取り組みを全国に伝え、ロールモデルとして活躍してほしい、と当時の首相からメッセージをいただき、感慨深いものがありました。

──持田代表は、ご自身が30年にわたってケアラー・介護者として活動されてきた経歴をお持ちです。CANを設立された10年前やそれ以前と比較して、ヤングケアラーに対する社会の認知は広がっているとお感じになりますか?

持田 私自身が家族のケアをしていた頃と比べれば、社会的な認知度は格段に高まりました。ヤングケアラー支援をテーマとして取り上げていただく機会も増えています。

ただ、いまだにヤングケアラーは「かわいそうで大変そう」な人たち、自分とは違う世界にいる人たちと思われているように感じます。これからは、そういった点についての理解を深めていただきたいと考えています。

──介護を身内だけで抱え込んでしまう日本の「家族主義」。ヤングケアラーの存在を見えにくくしている原因の一つとされていますが、この点について変化は見られますか?

持田 近年になって、ヤングケアラーの存在がようやく「見える化」されました。次のステップは、社会がこの家族主義的な考え方をどう捉え直すか、です。

例えば、ご家族が介護施設に入居する際に、周囲から「家族を捨てるのか」と冷たい目で見られるようでは元も子もありません。

周囲の人々も家族のケアとはどういったものなのかを知り、ケアラーもサポートを受ける力、〝受援力〟を身につけることで、ようやく世の中の人々がケアを自分ごととして捉えられる社会が訪れるのではないでしょうか。

「ヤングケアラー」という言葉を耳にする機会が増え、もしかしたら自分も当てはまるのではないかと考える人が増える中、そうした寛容性のある社会のムーブメントを作っていくのが私たちの役割だと考えています。

社会を変えるというよりも、社会が変わるようなアプローチに力を注いでいます。今回の映画『ツナガル』も、そのために制作したものです。

動き出した行政・立法
ヤングケアラー支援が具体化

──過去数年で、ヤングケアラーに対する認知が大きく進んだ背景には、どのような要素がありますか?

持田 2020~2021年にかけて、厚生労働省が全国的な実態調査を行ったことが大きかったと思います。当時の首相が、国会の答弁でヤングケアラーという名称を初めて出してくれたことは画期的で、多くの支援団体が「ようやくわかってくれた」と思えた瞬間でした。

その後、子ども・子育て支援推進調査研究事業が発足し、私も委員として参加しました。2023年4月にこども家庭庁ができてからは、具体的な施策が打ち出されるようになりました。

──2024年6月に、“ヤングケアラー支援法”とも呼ばれる改正子ども・若者育成支援推進法が施行されました。

持田 ヤングケアラー支援について、今までは全国の自治体ごとの取り組みにバラつきがあったようです。18歳を過ぎると支援が打ち切られるという懸念があったことから、ヤングケアラーの定義も明確化されていませんでした。

そうした温度差を是正するため、既存の子ども・若者育成支援推進法において、ヤングケアラーが「家族の介護その他の日常生活上の世話を過度に行っていると認められる子ども・若者」として定義され、国・地方公共団体等が各種支援に努めるべき対象とされました。

──施行から半年が過ぎて、同法の狙いであった、自治体の足並みを揃える効果は感じられますか?

持田 効果はこれからだと思いますが、政府から全国の自治体に通達が出て説明会も開かれたようです。全国の自治体の担当部署に向けてフォローを行っているそうです。

今回の改正について、大学生や20代の若者から、「元ヤングケアラー」と言われなくなったことがうれしいという声を聞きました。介護やケアは何歳になっても続いているのに、「元」と言われてしまうと、(介護は)終わったと言われているようで違和感があったそうです。

ヤングケアラーの対象年齢が引き上がったことは、当事者にとっては望ましいことでした。

今回の法律には、「日常生活において、環境面のさまざまなサポートをしている子どもを含む」と明記されており、身体面の介護に限定されているわけではないのですが、「過度に行っている」という表現が拡大解釈されて、重たい介護をしていない人は支援の対象外であるとみなされてしまうこともあるようです。

こうした条文の解釈について、自治体から助言を求められる機会も増えているので、この点については引き続き、しっかりとお伝えしていこうと思います。

各自治体のそういった反応や受け取り方を見ながら、いつか正式なケアラー支援法が整備されるのではないかと思っています(現状ではケアラー支援条例が各自治体で策定され始めている)。

ヤングケアラーの声を伝える
CANからのメッセージ

──CANの今後のビジョン、果たすべき役割についてお聞かせください。

持田 CANが果たすべき役割は、ケアラーの声を社会に発信していくことです。

私たちは、社会に対してケアラー自身はこうしてほしいと願っているとか、このようなことに違和感があるというメッセージをしっかりと届けたいと考えています。

もう一つ、懸念していることがあります。それは、家族のケアをする若者が、身を削る思いで自分のケア経験を語っているにもかかわらず「いい話を聴いた」と感じるだけで終わってしまっていたら、それはとてももったいないことだと思うのです。

自分がどれだけケア経験を語っても社会が変わらない、そうしたあきらめや焦燥感が募ると、これ以上語っても無駄ではないかと思ってしまう若者もいます。こうしたケアラーに対する心のケアも必要です。

これまでは、「家族だけでケアを抱えなくてもいい社会を作る」が私たちの理念でしたが、今後の当協会のビジョンとして、新年度からは「ケアラーとともに成長する組織づくり」を目指していこうと考えています。 生きるとは、希望に向かって自分を活かすことです。自分の経験や勉強から学んだことを活用しながら、ケアラーが希望に向かって羽ばたいていけるよう、私たちはサポートを続けていきます。

【プロフィール】

一般社団法人ケアラーアクションネットワーク協会 代表理事
持田恭子さん

外資系企業で管理職や専門職に従事した後、2013年にケアラーアクションネットワーク協会を設立し、2019年の法人化を経て代表理事に就任する。自身が小学生の頃から、母親の心のケアやダウン症候群がある兄の生活面のサポートを行ってきた。後年、要介護5になった母親の在宅介護と兄の世話、仕事を両立させながら、似たような立場の人との交流を目指して「きょうだい会」を始める。現在も、きょうだい児やケアラーを対象にした交流会やワークショップなどのプログラムを通じて、「家族だけでケアを抱えなくてもいい」社会づくりを目指す。

一般社団法人ケアラーアクションネットワーク協会
https://CANjpn.jimdofree.com

取材・文・撮影:あいらいふ編集部

豊かなシニアライフのための情報誌『あいらいふ』編集部
【誌名】『あいらいふ』vol.176(2025年年3月27日発行号)
【概要】初めて老人ホームを探すご家族の、施設選びのポイントをさまざまな切り口でわかりやすく解説。著名人に介護経験を語っていただくインタビュー記事のほか、人生やシニアライフを豊かにするためのさまざまな情報や話題を取り上げて掲載。
【発行部数】4万部
【配布場所】市区役所の高齢者介護担当窓口・社会福祉協議会・地域包括支援センター・居宅介護支援事業所・訪問看護ステーション・病院・薬局など1万か所

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