あいらいふレポート

【知っトク「注目のトピック」vol.16】介護離職防止の心強い味方「ワークサポートケアマネジャー(WSCM)」とは?

近年、企業にとって大きなリスクとなっている「介護離職」。この問題の解決をサポートする頼もしい存在として注目を集めているのが、(一社)日本介護支援専門員協会が認定する「ワークサポートケアマネジャー」(以下、WSCM)です。

今回は、2022年にスタートした同資格の概要と、民間資格を活かし、介護保険外のフィールドで活躍する“新しいケアマネ像”をご紹介します。

仕事と介護の両立を支援
WSCMの果たす役割

日本社会の少子高齢化が進み、労働人口が減少する中、働く現役世代が家族の介護を理由に仕事を辞めざるを得ない、いわゆる「介護離職」が大きな社会問題となっています。

WSCMは、企業における介護離職問題の解決をサポートするため、日本介護支援専門員協会が創設した、介護支援専門員(以下、ケアマネジャー)のための専門資格です。

公的介護保険制度のスペシャリストであるケアマネジャーが、企業と契約を交わし、従業員が仕事と介護を両立しながら意欲的に働き続けられる環境づくりをサポートするため、雇う側、働く側の双方に必要なプランを、さまざまな形で提供します。

資格制度創設から3年目を迎えたWSCMの現状について、同協会の七種(さいくさ)秀樹副会長にお話をうかがいました。

「実際に、居宅介護支援事業所が企業と契約を交わして、所属するWSCMを職場に派遣する取り組みが始まっています。この場合、協会に何らかの費用を納める必要はありません。純粋に、ケアマネジャーの活躍の場を広げる機会のひとつとして活用いただいています。

もちろん、協会にも問い合わせ窓口を設置し、各企業が必要に応じて、スムーズにWSCMにアクセスできる環境を整備しています。該当する地域に所在するWSCMを無料で仲介するほか、多くの支社を持つ大企業であれば、当協会が一括して契約を締結することで、全国の拠点にWSCMを派遣することも可能です。

介護離職の問題にぶつかる方は、多くが40~50代のベテランで、企業の中核を担う人材です。離職や降格などで、せっかくのキャリアを失うのはあまりにも残念。課題解決のために、WSCMのサポートをご活用いただければと思います」

背景には社会的な要請
WSCM設立の経緯

同協会が、WSCMの資格認定制度を設立した背景には、社会からの要請がありました。

「2021年度には、厚生労働省がケアマネジャーの研修向けに『仕事と介護の両立支援カリキュラム』を作成するなど、以前からケアマネジャーに対しては、護離職防止に向けたサポートの役割を期待されていた側面があります。

このため、同分野で活躍するプレイヤーとしてのケアマネジャーを育成するとともに、人材の質を確保するため、統一した判断基準を設けようとする機運が高まりました。

ケアマネジャーの職能団体である当協会が責任を持って取り組むべきとの声が組織内で高まったことで、研修制度を備えた資格認定制度の設立につながったのです」

WSCMを県内企業に派遣
長崎県の取り組み

WSCMを活用した取り組みは、民間企業にとどまらず、各自治体でも始まっています。

2022年に「ケアラ―支援条例」を制定し、ケアラー支援のための先進的な取り組みを続けている長崎県では、2024年度の委託事業として、「長崎県WSCM派遣事業」を実施しました。

同事業では、年間を通じて、県内のモデル事業所10社にWSCMを派遣。従業員向けの介護離職予防セミナーを開催しました。

「地方の担い手不足は、どこでも深刻な問題。参加された企業からは『会社として、介護離職問題のリスクを認識できた』『事前に介入してくれる専門職がいることを知って、心強く感じた』などの感想をいただきました」

長崎県では今後、派遣時のようすやモデル事業所の反応を記載した事例集を取りまとめ、県のホームページなどで公開するとしています。

活躍の場は介護保険外にも
WSCMは新たなケアマネジャー像

同協会では現在、年間100~120人のWSCMを養成しています。

「ケアマネジャーからの関心は高く、応募者が短期間で定員に達する状況が続いています。

ただ、WSCMが企業からの信頼を得るためには、高度な専門性が欠かせません。無理に人数だけを増やすようなことはせず、研修の質を保ちながら、人材の育成に取り組んでいきます。

今後の展望として、企業が集まる地域については、中学校の校区程度のエリアに1人を配置できる水準まで、WSCMを増やしたいと考えています。企業の側にも、WSCMを選ぶ際の選択肢を持っていただくことで、介護離職の防止に向けて、ともに向上していける環境をつくりたいですね」

専門性を活かして、新たな分野に参入するWSCMの試みは、居宅介護支援事業所の経営を安定させるとともに、ケアマネジャーの収入増にもつながります。

介護保険の枠を超え、活躍の場を広げる新しいケアマネジャー像として、WSCMの取り組みに期待が寄せられています。

【プロフィール】
一般社団法人日本介護支援専門員協会 副会長
七種秀樹(さいくさ・ひでき)さん

1965年生まれ、長崎県在住。重度身体障害者更正援護施設生活指導員、老人保健施設の支援相談員、在宅介護支援センター長などを務め、2000年より介護支援専門員(主任介護支援専門員)として従事。

現在は、特別養護老人ホームの施設長。また、児童発達支援・放課後等デイサービスふぁみりーステーション・クレール代表取締役。

2015年より日本介護支援専門員協会理事、副会長を歴任(現職)。

ワークサポートケアマネジャー総合ページ

https://www.jcma.or.jp/?p=576067

豊かなシニアライフのための情報誌『あいらいふ』編集部
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