【知っトク「注目のトピック」vol.19】VRプログラム「FACE DUO」が提供する 認知症の介護ケア体験とは?
さまざまな介護問題の中でも、特に負担が重くなりがちなのが、認知症のあるご高齢者のケア。ご本人とのコミュニケーションがうまくいかず、ご家族が戸惑うケースも少なくありません。
そんな中、VR(仮想現実)を活用した支援者向けの「認知症ケア体験」プログラムが注目を集めています。今回は、最新のVR技術がもたらす、新たな介護支援の可能性をご紹介します。

VRで認知症ケア支援
当事者の視点を疑似体験
「認知症ケア支援VR」は、認知症のある方のご家族や介護スタッフが、ご本人の立場となって、その言葉や行動の背景にある気持ちを理解し、より良い対応を学ぶことを目的とした体験型コンテンツです。
VRを通じて、認知症の方がどのように世界を感じているのか、当事者の視点で疑似体験することができます。
同コンテンツは、大塚製薬株式会社と株式会社ジョリーグッドが共同で開発・運営を行っている、他者理解や対人スキル向上のためのSST(ソーシャル・スキル・トレーニング)支援VRプログラム「FACE DUO(フェイス デュオ)」の一環として開発されました。
体験時には、タブレットとVRゴーグル、Wi-Fi環境を使用します。研修など複数人で学ぶ場合は、映像をモニターに映して共有することも可能です。

認知症理解の3コンテンツ
症状・対応・心のケア
同プログラムでは、以下の3つの体験が用意されています。
①認知症のさまざまな症状についての解説
介護者が戸惑うことの多い、認知症の方の行動を紹介するとともに、その背景にある代表的な5つの症状(記憶障害、見当識障害、遂行機能障害、易刺激性、妄想)について学びます。
②認知症の方の行動の理解と関わり方の工夫
認知症の方の行動を「行動のきっかけ」「ご本人の気持ち」「症状」「介護者の対応」の4つの視点から分析し、より効果的な関わり方を見つけていきます。
③日常のストレスを軽減するリラックス体験
没入感のあるVR空間で、「心や身体をときほぐす呼吸法」を、VRドクターと一緒に体験します。
編集部員が挑戦!
認知症当事者の“心の中”
実際に、あいらいふ編集部の40代スタッフが、同プログラムを体験してみました。
今回、挑戦したのは「デイサービスに行きたくないと言い出した、認知症のあるご高齢者と家族のやり取り」です。
VRゴーグルを装着すると、周囲360度を映し出すVRならではの映像で、家庭内のやり取りが目の前でリアルに再現されます。体験者が認知症の方の立場となって、家族からぞんざいに扱われていると感じたために生じる疎外感や、急にスケジュールを伝えられたことによる焦り、不安、怒りといった感情の変化を追体験する内容です。
「なぜ突然、外出を拒否したのか?」という行動の裏にある心理を、ご本人とご家族双方の視点から理解する構成となっており、相手に不安を抱かせないコミュニケーションの方法を学べる、非常に実践的なトレーニングだと感じました。
また、実写映像の中に図表や解説が挿入される演出もわかりやすく、効果的に理解を深めることができました。
VR活用のメリットは?
認知症ケアにおけるVRの活用には、どのようなメリットがあるのでしょうか?大塚製薬の大西弘二さんにお話をうかがいました。
「FACE DUOは、人材不足や、支援の質の格差といった課題を抱えがちな医療・福祉・教育の現場において、誰もが専門的なトレーニングを効率的・効果的に受けられることを目的に開発されました。
VRを活用することで、あたかもその人になったかのように相手の心情が理解でき、寄り添う姿勢が自然に育まれます」
「認知症の方のBPSD(認知症の心理症状や行動症状)については、支援者の接し方を変えることで軽減できるという研究結果が出ています。
大塚製薬では、医療関連事業を通じてBPSD治療薬の開発に注力していますが、ただ薬を提供するだけにとどまらず、医薬品と非薬物的介入の両面から支援を行い、より効果的な改善につなげたいと考えています。
FACE DUOには、支援者とともに認知症の方やご家族を支える存在としてのイメージを持っていただけたら、うれしいですね」
FACE DUOにかける思い
全国に広がるVR研修の輪
FACE DUOは現在、全国の医療機関や介護施設で導入が進んでいます。
また、青森県や東京都渋谷区など、多くの自治体でも職員の研修や、住民の方向けのプログラムとして活用されています。
「ご利用者から寄せられた声をもとに、2025年12月には、介護施設で実際に起きた事例をもとにした、新しいプログラムのリリースを予定しています。追加で設備を購入することなく、ダウンロードで簡単に更新していただけます」
認知症ケアの現場において、当事者と支援者、双方の架け橋となるFACE DUO。今後のさらなる展開に期待が寄せられています。
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取材・文:あいらいふ編集部 / 資料提供:大塚製薬株式会社
豊かなシニアライフのための情報誌『あいらいふ』編集部
【誌名】『あいらいふvol.180(2025年11月27日発行号)』
【概要】初めて老人ホームを探すご家族さまの施設選びのポイントをさまざまな切り口でわかりやすく解説。著名人に介護経験を語っていただくインタビュー記事のほか、人生やシニアライフを豊かにするためのさまざまな情報や話題を取り上げて掲載。
【発行部数】4万部
【配布場所】市区役所の高齢者介護担当窓口・社会福祉協議会・地域包括支援センター・居宅介護支援事業所・訪問看護ステーション・病院・薬局など1万か所