【特集】「高齢都市」東京の介護、現在と未来を語る
世界でも類を見ない速度で高齢化が進む日本。中でも、人口が集中する東京都では、高齢者人口の急増、介護の担い手不足、単身世帯の増加、地域ごとの高齢化率の偏りなど、大都市特有の課題が顕在化しています。
制度の枠組みだけでは支えきれない、安心して暮らせる地域をつくるには、行政の取り組みだけでなく、地域住民や民間企業の力を含む“共に支える社会”の視点が欠かせません。
今回は、東京都議会議員の後藤なみさんをお迎えし、東京都における介護の現状と施策、今後の展望について、弊社代表取締役の藤田がお話をうかがいました。

政治家への道を切り開いた思い 介護業界の課題は“待ったなし”
藤田 後藤さんは現在、東京都議会議員として3期目を務められ、議員歴は9年になります。どのような経緯で、介護業界の課題に携わるようになったのですか?
後藤 私が政治を志す原点となったのが、介護の問題です。
当時、勤めていた株式会社リクルートキャリア(現・株式会社リクルート)が、介護業界の就業問題を解決する新規事業部「HELPMAN! JAPAN(ヘルプマン ジャパン)」を2010年に立ち上げ、そこに参加したことがきっかけでした。
同事業で、私は離職問題を担当し、官民を問わず、全国の高齢者向け施設を1000か所以上訪問しました。ですが、行く先々で現場の介護職や経営者の方々が、処遇への不満や将来への不安を口にされる状況に、強い危機感を抱いたのです。
介護業界は働き方や報酬、サービス提供のあり方など、国の制度によって決められている部分が多く、根本から改善を図るためには、社会制度そのものを変える必要があります。
私自身も制度についてより詳しく学ばなければと考えていた頃、小池百合子都知事が立ち上げた政治塾が受講生を募集するというニュースを目にし、参加することを決めました。
藤田 介護業界への課題意識が、政治塾での学びにつながったのですね。
後藤 実は初めから、自身が政治家になるつもりはありませんでした。でも、2017年の東京都議会議員選挙の際に、塾生からの候補者として声がかかったんです。
当時、私は30歳で第一子を妊娠中。会社を退職して都議選に立候補することには、家族も親戚も大反対でした。
それでも、当時は都政が大きく変わる時期で、「東京から改革を始めよう」という空気があった。介護の課題も“待ったなし”の状況で、国の制度を変える一助になれば、と思い立ちました。
「介護現場の課題をもっともよく知るあなたが、政治の世界に飛び込むべき」と都知事から背中を押されたことも、立候補を決めた理由の一つになりました。
人手不足のあまり… 衝撃を受けた入浴介助の光景
後藤 リクルート時代には、仕事で介護の現場を訪問するだけでなく、週末には高齢者向け施設でボランティアをしていました。夜勤も経験して、やはり「現場を知らないと良いサービスはつくれない」と実感しました。
当時、衝撃的だったのは、ある特別養護老人ホーム(特養)を訪問したときの光景です。ご入居者が車イスに乗せられ、機械浴に並ばれているのですが、皆さん、ほぼ裸同然で、肩からタオルをかけられただけの状態でした。
介護スタッフの人手不足や負担軽減のため、やむを得ない状況だったのでしょう。ただ、自分が高齢になって同じ立場に置かれたとき、この状況を受け入れられるのかという疑問が、活動への意欲をさらに強くしました。
藤田 いずれ自分も、そして自分の子どもも高齢者になる。現状を見れば、何とか手を打ち、解決策を見つけていかなければと思わされます。後藤議員を突き動かしたのは、そういった社会課題の核心に触れた経験なのでしょうか?
後藤 それもありますが、私自身は、介護という仕事を知るにつれて、介護に携わる人たちに “惚れ込んで”しまったんです。
医療や看護と異なり、介護は治療だけが最終のゴールではありません。ご利用者が幸せな最期を迎えるために、長年にわたってQOL(生活の質)をいかに高めていくか。コミュニケーションの取り方、ケアの仕方一つで結果が大きく変わる、非常に創造性の高い仕事だと思っています。
そして、介護職の方は、本当に優しい人が多いんです。介護という仕事自体、もっと評価されてしかるべきですが、個人的には、この「優しさ」も評価され、きちんと報われる制度や仕組みに変えていければと考えています。
ケアマネにも処遇改善を! 都知事への直談判
藤田 後藤さんは、都政における介護の課題をどのようにお考えですか?
後藤 東京では、介護の担い手不足が何より深刻です。
今後、介護を必要とするご高齢者が急増していく中で、ニーズに対して供給が追い付いていません。地域間の偏在も大きく、一部の地域では求人倍率が100倍を超える状況です。
現在、都内にお住まいの方が、「最期まで自宅で暮らしたい」と思っても、それを支える人材が不足していることが最大の課題です。
介護はどれだけICT(情報通信技術)化が進んでも、最終的には人から人へのサービスです。人材にどれだけ投資できる環境をつくれるかが、政治の大きな役割であり、中でも重要な施策は処遇の改善です。
藤田 都は、介護職の処遇改善に関して、どのような取り組みをされていますか?
後藤 2023年10月に、都では介護職員とケアマネジャー(以下、ケアマネ)に対して、居住支援特別手当として月額1万円(※勤続5年までの介護職員は2万円)を独自に支給することを決定しました。
当時、私は知事与党の政調会長として、政策の実現に奔走しましたが、決定までは非常に苦労しましたね。
当時、国の処遇改善加算にはケアマネが含まれておらず、特別手当も介護保険法に基づいて設計されていたため、当初は介護職員のみが支給の対象でした。「ケアマネも対象者に入れてほしい」とずいぶん交渉しましたが、調整は難航しました。
最終的には、都知事に決断していただこうと、ケアマネの処遇改善の必要性を直接訴え、ようやく予算案を通過させることができました。
藤田 在宅介護の手配から入院の手続き、退院後の生活支援まで、介護も医療も、ケアマネや医療ソーシャルワーカーといった対人援助職の力に支えられています。介護職員同様に、こうした職業に対する理解促進も重要ですね。
後藤 特別手当の支給が決まったときも、自分たちの仕事に初めて光を当ててくれたことがうれしいという声を、ケアマネさんからいただくことが多かったです。
介護はこれだけ大きな社会的課題であるにも関わらず、現場の切実な声が行政や議会に十分届いていないと感じます。
介護保険は公定価格で運営されているため、処遇改善には当事者の皆さんに声を上げていただくことが、本当に大切です。私たちもサポートする側として、皆さんと一緒に訴えを届けていきたいと考えています。

シニアに役割と生きがいを 地域と連携したまちづくり
藤田 後藤さんは、3期目のマニフェストに「シニアが地域で集う居場所の設置」を掲げていらっしゃいますが、これはどのようなものですか?
後藤 ご高齢者が集う「居場所」の特徴は、地域ごとに異なりますよね。
例えば、私の地元である足立区には、下町の風情が残っていて、ご近所付き合いも盛んです。昔ながらの銭湯が多くあって、自然に交流する文化が残っています。
例えば、そういった銭湯でリフレッシュしていただきながら、健康診断やマイナンバーカードの申請、フレイル(加齢による心身機能の低下)予防を兼ねた食事会などを実施し、地域で元気に過ごせる仕組みをつくれたら。
銭湯には都から補助金が給付されていますが、単なる支援でなく、こうしたコミュニティづくりの視点を取り入れれば、認知症予防や医療費・介護保険料の抑制など、さまざまなメリットも生まれます。
こうした、地域の皆さんが自ら考え、地域の特色を活かしたご高齢者の居場所づくりに注力していきたいと思っています。行政だけでは限界がありますので、地域住民の方や、民間企業の皆さんの力も借りながら取り組んでいきたいですね。

藤田 「高齢者施設づくりは、まちづくり」というのが僕の持論です。介護の問題を、家庭や地域社会の中でもっともっとオープンにしていかなければならない。
以前、あいらいふ京都相談室で「おせっかい商店街」という、認知症の方の生きがいづくりと、地域の活性化を目的としたイベントを開催しました。
近隣のグループホームのご入居者に、商店街の食堂の店員になっていただき、料理を作ってお客さまをもてなすという内容です。
当日は、ボランティアで参加してくれた地元の小学生と手をつないで買い物に出かけたり、一緒に接客をしたりと、ご家族や地元の方にも大好評で、地域の“おせっかい”があれば、認知症になっても、住み慣れた地域で楽しく暮らせるのだと実感していただけました。
後藤 素晴らしい取り組みですね。私も以前、千葉県船橋市のコンビニエンスストアを視察したのですが、そちらではデイサービスを利用している認知症の方が、レクリエーションの時間を使い、有償のボランティアとして働かれているんです。
介護を必要とされる立場でも、多くの方が、誰かの役に立ちたいという思いを抱えています。そうした願いを実現することが、ご本人、ご家族、ひいては地域社会の幸福にもつながります。
船橋市の取り組みは、東京都でも仕組みを整えて、導入・事業化されることになりました。
藤田 認知症の予防や治療はもちろん大切ですが、ご高齢者の6人に1人が認知症になる時代においては、「共生」も重要なテーマです。暮らしの中のお困りごとを減らしていくために、どのような取り組みが有効か、考えていく必要がありますね。
後藤 例えば、スーパーマーケットでご高齢の方がゆっくり利用できる「スローレジ」、バスに乗るときに提示すると、降りる停留所で運転手がサポートしてくれる英国の「認知症フレンドリーカード」制度など、
周囲のサポートを仕組みとして広げていくことで、ご高齢者が地域の中で役割を担い、最期まで生きがいを持って過ごせる可能性は大きく高まると思います。
藤田 まさに、まちづくりによる効果ですね。僕はいま、足立区に引っ越したくなりました(笑)。
共生社会を双方向で支える 逆ヘルプマークの考え方
藤田 サポートの仕組みづくりとともに、介護の知識を備えた「関係者人口」を増やすことも大切です。
あいらいふでは2023年に、障がいや病気でお困りごとを抱えた方が身につけるヘルプマークの認知度向上を目的としたタイアップ広告を、都営地下鉄の車内に掲載したことがあるのですが、妊婦さんのためのマタニティマークが広く知られている一方、ヘルプマークの認知度はまだまだ低いと感じました。
後藤 加えて、ヘルプマークを携帯している方を見かけても、「どのように声をかければよいかわからない」という意見をいただくこともありますね。
都では現在、「困ったときは私に声をかけてください」という“逆ヘルプマーク”の作成に取り組んでいます。本来は、マークがなくても自然に声をかけ合える社会が理想ですが、現状を変えるきっかけになればと考えています。
藤田 確かに、助けたい気持ちがあっても、相手への伝え方で戸惑う方は多い。逆ヘルプマークは素晴らしい発想ですね。
例えば、厚生労働省が主導し、自治体などが取り組んでいる認知症サポーター制度には、サポーターの証となるオレンジリングがあります。しかし、認知症の方が「声をかけていいですよ」とアピールできるマークがないですよね。
さまざまな場所で、双方向の目印があれば、声かけやお手伝いもしやすくなると思います。
後藤 介護に対する理解の土壌を育てながら、介護を必要とする方が外出した先々で周囲のサポートを得られるよう、実効性のあるアイデアを実現させていきたいですね。
あいらいふさんのように、地域のご高齢者の生活を熟知されている方々に、そうした活動を後押しする旗振り役を担っていただけるのは、大変ありがたいです。
藤田 ありがとうございます。地域で地域の人をケアしていく「コミュニティケア」という言葉が、もっと広がってほしいと思いながら、取り組みを続けています。
高齢社会の未来に向けて これからの介護のあり方
藤田 東京都の地域性にまつわる介護の課題はありますか?
後藤 東京都では、ご高齢者の2人に1人が単身世帯です。そうしたおひとりさまの方々が、安心して生活できる環境をどう整えるかが、重要な課題になっています。
藤田 単身の方は、身元保証や成年後見といった、介護保険の枠組みでは解決できない問題も抱えていますね。
公的な介護サービスは、介護保険制度に則って提供する内容や時間が決められているため、カバーしきれないニーズが各所で生じています。結果として、ケアマネのシャドーワーク(対価の発生しない細かい仕事)の増加や、ご家族の介護離職の問題にまで影響が及んでいる状況です。
こうした課題の解決策として、最近はさまざまなニーズにお応えする介護保険外の自費サービス(以下、保険外サービス)の活用が注目されていますね。
後藤 20年、30年先を見据えると、介護保険制度のもとで、ご高齢者のご自宅を一軒ずつ回る訪問介護などの形態は、徐々に縮小を余儀なくされるのではないかと考えています。保険外サービスを併用しなければ、在宅での介護が成り立たなくなる可能性もあります。
ただ、保険外サービスの導入にあたっては、「どこまでが保険内で、どこからが保険外か」という線引きを明確にすることが不可欠です。適正に運用される体制づくりに加えて、サービスの品質を評価し、担保する仕組みも欠かせません。
藤田 そうした点でも、2025年に介護関連事業を手がける民間企業の手で「一般社団法人 介護関連サービス事業協会」が設立されたことには、大きな意味があると思います。
同協会の「100年人生サポート認証」制度は信頼性の指標として、事業者側はもちろん、ご利用者にもメリットを提供するものです。
ケアマネの皆さんにも、ご利用者とご家族のニーズに応えるため、同制度を積極的に活用して、保険外サービスを含めたケアプランのプランニングをお願いしたいですね。
後藤 ご利用者のニーズに応えられるサービスを柔軟に提示するなど、ケアプランの内容の専門性が対価につながる仕組みを構築することは、ケアマネのモチベーションやケアプランの質の向上にもつながると思います。
結果的に、介護業界全体のボトムアップにもつながりますね。
藤田 本日は貴重なお話をありがとうございました。最後に、あいらいふの読者にメッセージをお願いします。
後藤 超高齢化社会を目前に控え、介護職員の方をはじめ、ケアマネや医療ソーシャルワーカーの皆さんのお仕事はますます重要になっていきます。国や東京都も、皆さんの仕事に理解を示し、課題解決に向けて後押しを続けていきます。
共によい未来をつくっていきましょう。
【プロフィール】
東京都議会議員 後藤 なみ さん
1986年生まれ、東京都足立区出身。大学卒業後は、明治安田生命相互保険会社、株式会社リクルートキャリア(現・株式会社リクルート)に勤務しながら、2016年に小池百合子都知事主宰の政治塾「希望の翼」に参加する。
2017年7月の東京都議会議員選挙に、都民ファーストの会の公認候補として立候補し、初当選。
以後3期連続でトップ当選を果たす。現在は、都民ファーストの会の党代表代行、党政務調査会長、都議会会派 政務調査会長の3つの役職を兼務し、党運営にも従事する。
株式会社あいらいふ 代表取締役 藤田 敦史
1973年生まれ、群馬県みどり市出身。大学卒業後、外資系金融機関で3年間、リテール営業を経験。
その後、コンサルティング会社で中小企業の支援、大手営業会社の社長直轄部署でM&Aを担当する。45歳で株式会社ユカリアへ転職し、2020年6月に子会社化したあいらいふの代表取締役に就任。
メイン事業の有料老人ホーム紹介業を中心に、近年は「シニアライフのトータルサポートカンバニー」として、ビジネスによる超高齢社会の課題解決を目指す。
取材・文:飯島順子 / 撮影:仙洞田 猛
豊かなシニアライフのための情報誌『あいらいふ』編集部
【誌名】『あいらいふvol.181(2026年1月29日発行号)』
【概要】初めて老人ホームを探すご家族さまの施設選びのポイントをさまざまな切り口でわかりやすく解説。著名人に介護経験を語っていただくインタビュー記事のほか、人生やシニアライフを豊かにするためのさまざまな情報や話題を取り上げて掲載。
【発行部数】4万部
【配布場所】市区役所の高齢者介護担当窓口・社会福祉協議会・地域包括支援センター・居宅介護支援事業所・訪問看護ステーション・病院・薬局など1万か所