対談・インタビュー

【経営トップ対談・インタビュー】世界初の排せつ予測機器「DFree」“小さなDX化”が目指す 介護の悩みのない社会

ご自宅や高齢者施設、さまざまな場面で行われている介護の中でも、ハードルが高いとされているのが「排せつ介助」。

介護をする、介護を受ける側、両者にとっての切実なお悩みを解決するために誕生したのが、世界初の排せつ予測機器「DFree(ディフリー)」です。

※商品説明はこちらから

今回は、同製品の製造・販売を手がけるDFree株式会社(旧トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社)の代表取締役・中西敦士さんをお招きし、ICT(情報通信技術)が介護業界にもたらす新たな社会的価値について、弊社代表取締役の藤田がお話をうかがいました。

手のひらに収まる小型化を実現
第5世代機が2025年5月に登場

──DFreeは、本体を腹部に装着することで、超音波センサーが膀胱(ぼうこう)内の尿のたまり具合をリアルタイムで計測。タブレットやスマートフォンなどと連携してデータを共有することで、ご使用者がトイレに行くタイミングを事前に通知してくれる、ウェアラブルの福祉用具です。

中西 実は今日、5月に発売される第5世代機の見本をお持ちしたんですよ。

(編集部注:今回の対談は2025年3月に行われました)

藤田 新製品!ワクワクしますね。実は、私は前職で企業のM&Aや事業提携を担当していた際に、中西さんにお会いして、お話をうかがっているんです。DFreeが発売された際のプレスリリースを拝見して、これは画期的な商品だ、と確信しました。

2024年9月に、あいらいふとDFreeが業務提携を交わして、協業の機会に恵まれましたが、何か運命的なものを感じます。

中西 藤田さんと初めてお会いしたのが、DFreeが誕生した2017年。初代の製品は、まだ本体とバッテリーがコードでつながっていて、市販の医療用テープで腹部に貼りつける仕組みでした。本体部分だけで、重さが100gもあったんです。

後に、密着性の高い専用の装着シートを開発し、本体とセンサー部分を一体化して、スマートフォンやタブレットのアプリとも連動できるように改良しました。

藤田 本当に軽い。手に持ってみても、重量感をまったく感じません。

中西 本体の重さは、約19gまで軽量・薄型化を図りました。試着していた社員が外し忘れて、そのまま帰宅してしまったことがあるほどです。

藤田 万歩計と変わらないサイズ感で、装着時の違和感がないのは、毎日使い続ける上で大切なポイントですね。

この小さなデバイスを介して、膀胱にたまっている尿の量を可視化するというのは、誰かが思いつきそうでいて、誰も思いつかなかったアイデア。介護における一大ハードルである排せつ介助の負担を軽減し、ご利用者の自立支援を促すというコンセプトも素晴らしいですね。

2017年に発売された「DFree」の初代機と、最新の第5世代機の比較。厚さは半分以下、重量は5分の1以下に

留学先で起きた悲劇をチャンスに?
「お漏らし」事件から得た着想

藤田 DFreeの発想の原点が、中西さんの実体験に基づいたものだというのは、意外でした(笑)。

中西 米国に留学していたとき、引っ越しの最中に急にお腹の調子が悪くなって、ズボンをはいたまま、漏らしてしまったんです…。30歳手前のいい大人なのに、トイレで失敗したことは衝撃的でした。でも、この悲惨な出来事が、まさしく自分の人生の転機になりました(笑)。

藤田 そのときの失敗がなければ、介護の領域で起業することもなかった?

中西 おそらく、なかったと思います。

あまりにもショックだったので、同じ悲劇を二度と繰り返さないために「一生、トイレに行かなくてもよくなる手術はできないか?」「便の臭いを消す方法はないか?」などと、非現実的な妄想にふけっているうちに思いついたのが、「出るのは止められなくても、何分後に出るか、予測できる装置をつくれるのではないか?」というアイデアでした。

藤田 それが、DFreeでの起業につながるわけですね。

中西さんは新卒でベンチャー企業に就職され、大手のコンサルティング会社を経て、青年海外協力隊に参加した後、米国カリフォルニア大学のバークレー校に留学されています。この時点で、「起業」に対する確固たる目標があったのでしょうか?

中西 実は、実業家の祖父の影響で、小学生の頃から起業に関心があったんです。「いつか自分で、ビジネスのもとを生み出そう!」と思っていました。

ただ、今はこれが儲かるぞといった、早い者勝ちの競争のような分野に参加するよりは、少しでも世の中が良くなる、社会課題の解決に人生をかけたいなという思いは常に持っていましたね。

起業しない選択肢などない!
シリコンバレーのイケイケムード

藤田 バークレー校を留学先に選んだのはどういった理由からですか?

中西 当時、バークレー校はシリコンバレーの起業家を多く支援していたんです。私が、インターン先に選んだ投資会社では、年中ピッチ(事業計画のプレゼン)が行われていて。私もビジネスのアイデアを20個出して、どれなら出資してもらえるか、プレゼンをしました。

その中で、評価が高かったのは、やはりDFreeのもととなった構想でしたね。みんなから「これは面白い!」と言われて、その一言が、自分にとっての大きな後押しになりました。

米国では、大学に留学して卒業すると、1年間滞在して働ける制度があるんです。僕もそのビザを取得して、いろいろなことにトライしました。最初は仲間内で資金を募り、試作品をつくっていく中で本格的に事業化を検討するようになり、日本から資金を調達して、2015年に会社を設立しました。

藤田 資金集めも含めて、起業することに不安はありませんでしたか?

中西 当時のシリコンバレーには、そういった不安をかき消すような、特有の熱気があったんです。現地で知り合った日本の駐在員は、「パワースポット」と呼んでいましたね。

資金面や技術面でサポートしてくれる人々に出会えたことも、大きな力になりました。僕は文系の人間なのですが、その当時、光学機器メーカーに勤めていた友人が力を貸してくれたり。

周囲の人々に手当たり次第に声をかけて、手に入れた細いつながりを必死に手繰り寄せる。そんな、あきらめの悪さだけでここまでたどり着きました(笑)。

藤田 商品化が実現するまでに、特に大変だったのは、どの段階ですか?

中西 プロトタイプの製作も大変でしたが、一番苦労したのは2017年の発売直後です。

それまで、DFreeのような製品が世の中になかったので、「どういった人たちが、どのように使えばいいのか?」「これを使うことで、どのような課題解決ができるのか?」といったノウハウが、私たちにありませんでした。

そのため、カスタマーサービスのチームをつくり、スタッフには元看護師や元介護職の方たちにも加わっていただきました。ご利用者の意見をフィードバックして、こういった使い方をすればこんなメリットが生まれるという実績を積み重ねていったんです。

DFreeは現在、欧米でも販売しているのですが、ほぼ福祉用具として扱われている日本とは異なり、海外ではニーズに合わせて、医療器具としての側面を打ち出していこうと考えています。

尿の溜まり具合を“見える化”する排せつ予測機器「DFree」。適切なタイミングを通知して排せつ介助をサポート

自立した生活を長く続けるために
DFreeでQOLの向上を

藤田 排せつ介助は、ご本人の尊厳に関わる問題ですから、トイレへの誘導の仕方も難しいものがあります。DFreeは、機器が判定するという“納得感”があることに加えて「そろそろです」と優しく声で知らせてくれる点も良いですね。

中西 高齢者施設では、食後の決まった時間にご入居者をトイレに誘導しているケースも多い。排せつのタイミングがズレていれば、空振りになってしまいます。

逆に、夜間にナースコールが一斉に鳴り出すようなことがあれば、スタッフもすぐに対応することが難しく、尿汚染によるオムツやシーツの交換と、仕事はさらに増えていく。DFreeの排尿データをもとに、ご入居者をトイレにお連れするタイミングを把握できれば、空振りや失敗は大幅に改善されます。

藤田 排せつのタイミングがわかれば、介護する側の余分な仕事が減り、介護を受ける方のQOL(生活の質)も向上する。

中西 おっしゃる通りです。DFreeによるトイレ誘導のタイミングがうまく合ってくると、オムツやパッドの使用枚数も減りますし、介護スタッフのモチベーションも上がっていきます。

藤田 人間だけだと、決まった時間に機械的に行っていたことが、機器を介することで、むしろご入居者お一人おひとりに寄り添ったケアができるようになる。これは意外な発見でした。

DFreeを活用した、自立支援の効果に関してはいかがですか?

中西 ご利用者の状態によりますが、特に自立支援の効果が高いのは、介護度が低く、認知症でも軽度の方。ご自分でトイレには行けるけれど、時々失敗してしまう方です。

DFreeを利用して、トイレ誘導の声かけをするだけで、尿失禁が減り、オムツの交換が不要になるケースもあります。こういった傾向は、ご自宅で介護を受けている方に比較的多いですね。

藤田 自立支援という観点からは、ご自宅で日常生活を営めている、少し早いと思われる段階でご利用を始めるのが良いのかもしれませんね。

中西 ご高齢の方の中には、トイレが近いからと外出を控えがちになり、ご自宅に引きこもってしまう方もいらっしゃいます。

以前に、長野県が「高齢者が外出しなくなる要因」を調査したところ、「トイレの不安」は、足腰の痛みや交通手段の不足に次ぐ3位でした。それだけ、トイレの問題が外出の足かせになっていることがわかります。

藤田 DFreeがあれば、そういった方にとっても心強い。行動範囲が広がり、幸福感も向上するでしょうね。

11年ぶりに特定福祉用具として認定
DFree「排便用」も登場?

藤田 メリットをうかがいながら、あらためてすごい製品だと感じました。

社会や行政の側からの期待も高く、DFreeは、2022年4月に介護保険の適用対象となる「特定福祉用具」に認定されています。

中西 介護保険制度の創設時(2000年)を除くと、特定福祉用具として認可されたのは、DFreeが2例目だそうです。個人向けの製品は、介護保険で1割負担の方であれば、9,900円(税込)でご購入いただけます。

藤田 介護認定を受けている方にとって、費用面でも利用しやすくなったことは大きい。普及に弾みがつきそうですね。

ところで、弊社に25年の介護スタッフ経験を持つ社員がいるのですが、先日、彼にDFreeの話をしたところ、尿だけでなく便の排せつ予測機器をリリースしてほしいと切実に訴えていました。

彼の経験によると、夜勤中のナースコールで急ぎ部屋に駆けつけると…といったケースがしばしばあったそうです。下着から寝具まで、すべてを取り替えなければならず、その作業だけで数十分を要する。スタッフの人数が少ない夜間の時間帯では、大変な負担です。

DFreeで便の排せつ予測ができるようになれば、こうした手間も減り、困難な状況からも解放される。実際の介護の現場で排せつ介助の苦労を知っている方ほど、この商品の価値を実感されると思います。

中西 実は、今年中にDFree「排便用」をリリースする予定です。

超音波センサーによる尿量の予測システムとは少し異なり、便を排せつしたタイミングで、臭いセンサーが感知して知らせる仕組みですね。通知を受けて、便がオムツの中にとどまっている間に処理することで、オムツから便が漏れてシーツに広がったり、ご本人が不快感から便を触ったりといった被害を防ぐことができます。

弊社が事前に行った調査では、現状では便汚染で悩んでいらっしゃる施設は全体の1割程度で、回数の面では、排尿のトラブルの方が多いという印象でした。

ただ、将来は便の排せつ予測についても実現したいと考えています。超音波で腸の動きを把握する製品はすでにあるため、それを活用して、腸の動くようすが排便にどう関係するのか、いま、大学病院の先生方とデータを収集しているところです。

ご利用者の尊厳と主体性を守る
介護施設づくりとは、街づくり

中西 先月、仕事で北欧のデンマークに行ってきました。公営の老人ホームを訪問したのですが、そこではご入居者が、ご本人の居場所を特定するためのGPSセンサーを装着して過ごしているんです。

日本であれば「人権を無視した監視」ととらえられかねませんが、ご家族にお話をうかがうと、「スタッフがつきっきりで、ずっと見守っている方が双方にとって負担だ」と。

GPSを装着することで、本当に助けが必要なとき以外は自由に過ごすことができ、プライバシーも守られる。ご本人の尊厳を守るために、ご自身やご家族が進んでGPSを選択するというのが、彼らの考え方です。これと同様のことが、DFreeにもいえると思います。

藤田 中西さんとのお話で意見が一致したのが、二人とも「介護施設づくりとは、街づくり」が持論だということ。ご入居者がご自身の尊厳を守り、主体的に生きることのできる環境を、施設の内外に広げていくという考え方ですね。

もちろん、そのためには介護スタッフが過度な負担を負うことなく、モチベーションを保ちながらご入居者に寄り添える環境づくりも必要です。

中西 ブランディングという意味でも、そういった施設づくりのコンセプトは、今後、重要になるでしょうね。これまで通りの施設をどんどん建てよう!となっても、そもそも介護スタッフの人数が足りませんから。

DFreeのような福祉用具のイノベーションが進むにつれて、できる限り在宅介護で頑張るという方も増えていくはずですし、ご入居者に、そしてスタッフにいかに選ばれ続けるかを考えない施設と事業者は、縮小していく時代になると思います。

“小さなDX化”は
介護の悩みのない社会への第一歩

藤田 今後の構想として、あいらいふの別の提携先が保有している、ご入居者の睡眠状況などの各種データを、DFreeの尿量のデータと組み合わせて利用できれば、施設の夜間帯の巡回において、さらに効率化されたサービスの提供が期待できます。

定期巡回で部屋の扉を開けたがために、熟睡されているご入居者をむやみに起こしてしまうといった問題もなくなります。

中西 事業者同士が連携して、新たな社会的価値の創出につなげる。ビジネスの力を通じて、介護施設づくりを街づくりに育てていくお手伝いをさせていただきたいですね。

藤田 よく、介護業界の人材不足に対する切り札は、DX化(デジタル技術を活用したビジネスモデルの変革)による省力化と言われますが、本格的なDX化を進めるには、大変なお金がかかります。ご利用者の負担増として跳ね返ってくることも避けられません。

でも、DFreeのような小さなツールで、大きな効果が見込めるDX化であれば、お互いの幸せにつながります。

この製品の導入をきっかけにして、テクノロジーのもたらす小さな“気づき”が、介護の現場を大きく変えることを、一人でも多くの方に実感していただきたい。

さまざまな人々が抱える介護のお困りごとを解決するため、DFreeの知名度を全国に広めていくことが、今回の業務提携における、あいらいふの役割だと思っています。

【プロフィール】
DFree株式会社 代表取締役 中西敦士さん

1983年生まれ、兵庫県明石市出身。慶應義塾大学商学部を卒業後、大手企業向けのヘルスケアを含む新規事業立ち上げのコンサルティング業務に従事。

その後、青年海外協力隊でフィリピンに派遣。2013年よりUC Berkeleyに留学し、2014年に米国にてTriple Wを設立。2015年にトリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社(2024年4月よりDfree株式会社に社名変更)を設立し、代表取締役に就任。

世界初の排せつ予測機器「DFree」の製造・販売を通じて、医療・介護の現場で提供されるサービスの向上に貢献している。

株式会社あいらいふ 代表取締役 藤田敦史

1973年生まれ、群馬県みどり市出身。大学卒業後、外資系金融機関で3年間、リテール営業を経験。

その後、コンサルティング会社で中小企業の支援、大手営業会社の社長直轄部署でM&Aを担当する。45歳で株式会社ユカリアへ転職し、2020年6月に子会社化したあいらいふの代表取締役に就任。

メイン事業の有料老人ホーム紹介業を中心に、近年は「シニアライフのトータルサポートカンバニー」として、ビジネスによる超高齢社会の課題解決を目指す。

トイレの介護負担を減らす 排せつ予測機器「DFree」
https://dfree.biz

取材・文:飯島順子/撮影:近藤 豊

豊かなシニアライフのための情報誌『あいらいふ』編集部
【誌名】『あいらいふvol.177(2025年5月29日発行号)』
【概要】初めて老人ホームを探すご家族さまの施設選びのポイントをさまざまな切り口でわかりやすく解説。著名人に介護経験を語っていただくインタビュー記事のほか、人生やシニアライフを豊かにするためのさまざまな情報や話題を取り上げて掲載。
【発行部数】4万部
【配布場所】市区役所の高齢者介護担当窓口・社会福祉協議会・地域包括支援センター・居宅介護支援事業所・訪問看護ステーション・病院・薬局など1万か所

コラム一覧