【特集】多世代共生の現在地 スープのさめない距離で暮らそう! 支え合って暮らすまち「SOUP TOWN」
介護付き有料老人ホームや訪問介護ステーション、デイサービスに加えて、放課後等デイサービスや就労継続支援B型事業所といった介護・福祉目的の事業所を併設し、ご高齢者からお子さんまで、多世代の住民が共生する複合型福祉施設「SOUP TOWN(スープタウン)」が、2025年3月、愛知県豊田市にオープンしました。
同施設が目指す未来像とは、どのようなものでしょうか。令和の新たな高齢者施設のあり方に迫ります。

暮らし・交流・就労 「複合型福祉施設」の誕生
豊田市内を流れる、紅葉と清流で有名な巴川。その東側に位置する松平・下山地区にオープンしたのが、複合型福祉施設「SOUP TOWN」です。周辺には、トヨタ自動車の企業城下町という同市のイメージとはやや異なる、のどかな里山の風景が広がっています。
「SOUP TOWN」の建物内には、介護付き有料老人ホーム、看護小規模多機能型居宅介護、放課後デイサービス、就労継続支援B型事業所の機能を持つレストラン「スマイリング キッチンLABO」などを一体的に整備。ほかにも駄菓子屋、工作室、イベントスペースといった、交流のための共有スペースを設置しました。
また、エントランスを2階に設けて、来館者が建物内の各フロアに直接移動できる動線を採用し、地域に開かれた施設として、ご利用者と地域住民の方々が、コミュニケーションを取りやすい設計になっています。
昼食時になると、「キッチンLABO」にはご入居者やご家族、そして地域住民の方々が大勢訪れます。朝はモーニングブッフェ、昼はランチブッフェ、夕方5時まではカフェとして利用できます。
この「キッチンLABO」では、障がいのある方たちとともに、要介護認定を受けたり認知症と診断されたご高齢者も、ご自身の力を発揮して働かれています。
福祉施設としての機能にとどまらず、世代を超えた交流と、それぞれの生きがいの創出に向けた工夫が、ハード・ソフトの両面に組み込まれているのが、「SOUP TOWN」ならではの魅力です。

地域の課題に取り組む中で 「SOUP TOWN」構想の原点
多世代共生のまち「SOUP TOWN」は、どのような経緯や取り組みから生まれたのでしょうか。同施設を運営する株式会社SMIRING(スマイリング)の中根成寿社長にお話をうかがいました。
──まず、「SOUP TOWN」の設立の経緯からお聞かせください。
元々は、ご高齢者のデイサービスをメインに事業を展開していたのですが、豊田市内でもこの松平・下山地区は、介護サービスをはじめ、福祉関連の社会的なインフラが少ないという課題を抱えていました。
そこで事業方針の転換を図り、この地域に必要なものを、私たちがすべて提供しようと考えました。同地区をSMIRINGの“ホームタウン”ととらえ、ご高齢者や障がいのある方はもちろん、地域住民の皆さんが笑顔になれるサポート事業を展開していこうと決めたのです。
この「SOUP TOWN」構想の原点は、2021年から始まった「スープ会議」にあります。介護・福祉関係者に限らず、同地区の住民の中からさまざまな年齢や職業の方に参加していただき、地域の課題を洗い出して、どのようなまちづくりを目指すのか話し合いました。
さらに、まちづくりのプロであるコミュニティデザイナーも加わり、3年かけて構想を練り上げ、「SOUP TOWN」が誕生したのです。
「SOUP TOWN」という名前は、多世代が支え合い、快適に暮らせるまちづくりには、「スープがさめないくらいの、人と人の距離感がちょうどいい」という考え方をもとにしています。歳を重ねても、障がいがあっても、誰もがぬくもりを感じながら暮らせる関係を築いていきたいという願いを込めました。

──複合型福祉施設のアイデアは、「SOUP TOWN」構想を進める中で浮かんできたものでしょうか?
SMIRINGのビジネスは、ご利用者の抱えるお困りごとに対して、こちらが解決策を提示する「リアクション型」です。
例えば、デイサービス事業を始めた当初、「子どもを預けられるなら働きたい」という声がありました。子育て中でも働ける環境を整えようと、事業所の共有スペースにキッズコーナーを設けたのですが、そこから発展して、現在「SOUP TOWN」の向かいで運営している保育園事業が立ち上がったんです。
そうした、これまでに培われた課題解決のノウハウの積み重ねの中から、複合型福祉施設のアイデアが固まっていきました。
――地域の福祉を一手に引き受けるSMIRINGは、住民の方にとって頼もしい存在ですね。
そうですね。「SMIRINGを訪ねれば、なんとかなる」という状況が、自社のブランド向上につながるという期待もあります。
弊社には、ソーシャルクリエイト事業部という部署があり、地域のお困りごとの解決や、地域活性化のためのアイデアを見つけ出す業務に取り組んでいます。全国の介護・福祉分野における先進事例などの情報も共有しながら、実現可能な部分を取り入れ、実行に移してきました。
自然に寄り添う多世代交流 ともに過ごす時間が育む笑顔
――ご入居者とご家族の面会は基本的に自由とするなど、オープンな運営を心がけていらっしゃいますが、実際にどのような効果が感じられますか?
昼食時になると、ご入居者が、面会にお越しいただいたご家族やご友人と一緒にお食事をされている光景が見られます。ご家族の中には、毎日、親御さんの食事介助のためにお越しになる方もいます。
スタッフもご家族と顔見なじみになり、お話をする機会も増えますから、ご入居者の素顔やこれまでの歩みを知ることができたり、私たちからも普段のご様子をお伝えしたりと、意思の疎通も図りやすくなります。
ご入居者とスタッフの仲がどれだけ良好であっても、ご入居者がご家族の前で見せる笑顔は、やはり格別ですね。



――多世代交流も「SOUP TOWN」の特徴です。ご入居者と子どもたちの交流は、普段どのように行われているのでしょうか。
「SOUP TOWN」には、障がいを持つお子さんが放課後の時間を過ごす施設である、放課後等デイサービスも併設しています。
老人ホームでは、レクリエーションとしてご入居者が自分たちのおやつを作るのですが、最近は曜日を決めて、子どもたちの分も用意していただいています。皆がフロアに集まり、テーブルを囲みながら、自然な交流が生まれています。
毎日の午後3時半頃には、ご入居者と子どもたちが散歩に出かけるのが日課です。施設として決め事にしているのはそれだけですが、いまの時期だと、子どもが道ばたの柿の木から実をもいでご入居者に手渡すなど、心温まるやり取りがいくつも見られます。
(編集部注:今回のインタビューは2025年11月に行われました)
ご高齢のご入居者にとっては、散歩が機能訓練の一環になりますし、子どもたちも触れ合いを通じて心豊かな時間を過ごしています。あとは、向かいにある保育園の子どもたちが、お昼寝明けに施設に遊びに来ることもありますね。

限られた人材を有効活用 ハイブリッドな働き方とは
──新たな試みである「SOUP TOWN」の運営を継続していく上で、どういった点に注力されていますか?
「SOUP TOWN」のほかに、デイサービス、訪問看護、訪問介護などを運営していますが、いずれも規模は大きくはないものの、安定して利益が出ています。まずは、トータルで一定の利益額を確保することが重要だと考えています。
ただ、福祉事業の収益の大半は保険制度に準拠しており、価格が制度で決められているため、単に規模を大きくするだけではメリットは得られません。利益率を高めるためには、限られた人材で、いかに効率よく業務を回すかが重要になります。
介護業界では人手不足が課題となっていますが、複合施設には人員を効率的に配置できるメリットがあります。「SOUP TOWN」では、“施設内での副業”を推奨しており、他部署の応援に入っていただいたスタッフには手当を支給しています。
例えば、デイサービスと訪問看護の両方をご利用されている方の場合、デイサービスの看護師が訪問看護も担当することがあります。
また、デイサービスの職員が、訪問介護のヘルパーとしてご利用者のご自宅へうかがい、そのままデイサービスにお連れすることも。
スタッフには2拠点分の手当てがつき、同じスタッフが関わることで、ご利用者にも安心していただけます。
――B型事業所や保育園のスタッフが、高齢者向け施設の業務を担うこともあるのでしょうか?
ありますね。介護現場で働いている方が保育士の資格を持っていたり、看護師の資格のある方がケアマネジャーとして活躍しているケースもあります。
以前、障がいについて学ぶために、B型事業所で働いてキャリアを積みたいと応募されてきた方がいました。その方は介護士としての経験も豊富で、本人の希望もあったことから、現在は老人ホームの方でも人手が手薄になる夕方から夜間にかけて、サポートをお願いしています。
多職種に対応できる人材が柔軟に現場を支えることで、人手不足のピンチを乗り越えられますし、サポートしていただいた分を報酬で還元する「ハイブリッドな働き方」によって、Win-Winの関係を築けていると感じています。

福祉施設が地域のインフラに 地元に根差したまちづくりを目指して
――中根社長は、どのようなきっかけで介護・福祉の分野を志されたのでしょうか。
以前は、トヨタ系列の車の自動車ディーラーに勤務していたのですが、管理職をやりたくなくて飛び出したんです。いまは嫌々やっていますが(笑)。
転職先としては、保険の営業くらいしか考えていなかったのですが、地元のバレーボールチームでチームメイトだった女性が介護職の経験者だったので、声をかけてデイサービス事業を始めました。最初は、そんな軽い気持ちでした。
そのとき、私たちが何をしたかったのというと、自分たちのホームタウンを作りたかったんです。有名になって全国制覇を目指すよりも、地元で知られる会社として、そこに就職したら親御さんが喜んでくれるような場所。
そうした存在になることで、次の就職者が増えたり、利益が地域に還元され、企業にとってもアドバンテージとなる。そんな考え方に対して、介護業界はピタリと当てはまりました。
いまは、介護保険制度の助けを借りながら、持続可能なまちづくりを目指している感覚ですね。
介護・福祉事業者としては、何も工夫せずとも収益を得られるのであれば、それに越したことはない。でも、高齢者人口は急増し、国の予算は上限のある状態です。
自分たちが新たな社会的インフラの一端を担い、地域の生活を支えることで、現在の世代にも次世代にも貢献でき、結果として利益にもつながる。
いま、そういった立場に身を置き、チャンスをいただけていることを、幸運だと感じています。
――「SOUP TOWN」を立ち上げて、手応えを感じた点はどこでしょうか?
さまざまな人たちが共生して、助け合うという観点から見ると、「SOUP TOWN」は非常に有効なスタイルだとおもいます。
地域住民の方にも喜んでいただけることは予想していましたが、それが思った以上に速やかに実現できたことはうれしかったですね。
ただ、この取り組みは、松平・下山地区が私の地元で、地域を熟知していたからこそ、実現できた部分も大きいと思います。
「SOUP TOWN」をそっくりそのまま、他の場所につくって成功するかと言われれば、難しいでしょう。その地域には、地域にあったものが必ずある。各々の地域に特有の課題と解決策をきちんと把握した上でないと、うまくいくとは限りません。
――最後に、「SOUP TOWN」が目指す将来のビジョンをお聞かせください。
「スープタウンプロジェクト」では、建物が完成して、これからはまちづくりの部分を進めていくのが、私たちの役目です。
「SOUP TOWN」とともに地域のインフラとなり、住民の皆さんが主役になるためのサポートをしていきたい。一緒に問題解決を図っていきます。
もし、この「SOUP TOWN」モデルを参考にしたいと考えている事業者の方がいれば、それは大歓迎。その方が、日本全体の豊かさにつながると思うからです。できる限り協力しますので、ぜひパクってください(笑)。皆さんの地元で、検討していただきたいですね。
この取り組みが全国に広がることで、超高齢社会の将来に向けて、明るい光が見えてくるのではないかと期待しています。

【プロフィール】
株式会社SMIRING 代表取締役
中根 成寿(なかね・なるひさ)さん
1976年、愛知県豊田市生まれ。大学卒業後、地元の自動車ディーラーに就職し、営業職を経験。その後、介護業界へ転身する。「自分が生まれ育った地域の課題解決に取り組みたい」という思いから、高齢者向けのデイサービス事業を立ち上げ、2013年に株式会社SMIRINGを創業。2021年には、地域の課題解決につながるアイデアを募るワークショップ「スープ会議」を立ち上げ、そこで得た知見をもとに、2025年春、複合型福祉施設「SOUP TOWN」を開設。
取材・文:飯島順子 / 資料提供:株式会社SMIRING
豊かなシニアライフのための情報誌『あいらいふ』編集部
【誌名】『あいらいふvol.181(2026年1月29日発行号)』
【概要】初めて老人ホームを探すご家族さまの施設選びのポイントをさまざまな切り口でわかりやすく解説。著名人に介護経験を語っていただくインタビュー記事のほか、人生やシニアライフを豊かにするためのさまざまな情報や話題を取り上げて掲載。
【発行部数】4万部
【配布場所】市区役所の高齢者介護担当窓口・社会福祉協議会・地域包括支援センター・居宅介護支援事業所・訪問看護ステーション・病院・薬局など1万か所