あいらいふレポート

OPEN CARE PROJECT AWARD 2023 介護をもっと身近に 経済産業省が表彰イベント開催

介護を「個人の課題」から「みんなの話題」へ──。2023年3月に、介護の情報発信・オープン化を目的として経済産業省が立ち上げたアクション「OPEN CARE PROJECT」はこのほど、介護に関する前向きなエピソードや取り組み、革新的なアイデアを表彰する「OPEN CARE PROJECT AWARD 2023」を開催しました。

今回は、同イベントの表彰式の模様をお伝えします。

介護に対する認識をアップデート
経産省の新たな取り組み「OCP」

2025年、第一次ベビーブーム(1947~1949年)時に生まれた、いわゆる“団塊の世代”にあたる※約600万人の全員が後期高齢者となり、日本は世界に類を見ない超高齢社会を迎えます。
(※総務省統計局「令和2年国勢調査」)

さらに、高齢者の増加に加えて、少子高齢化・共働き世帯の増加という日本社会の潮流を踏まえれば、今後、多くの方が人生設計の中で、ご自身やご家族の「介護」というライフイベントを考慮せざるを得なくなることは明らかです。介護者の数も、増加傾向が続くことが見込まれます。

加えて、働く現役世代に身内の介護が発生したことに伴う、労働生産性の低下が日本経済に対して及ぼすインパクトは非常に大きく、社会全体で「働く介護者」の課題に向き合うことが急務となっています。

仕事と介護の両立支援については、介護休業・休暇制度をはじめとする制度面の整備に加えて、より実効的な支援が必要という声も上がっています。

こうした課題への対応を進める過程で重要となるのは、「介護」に関連する話題をよりポジティブな切り口で捉え、広く社会の共通の関心事として、周知を図っていく姿勢です。

介護の実態を“見える化”するとともに、異業種を含めた社会全体の取り組みによって、介護の課題を解決していく機運を醸成する必要性があります。

このような背景を踏まえ、経済産業省では、2023年3月に「OPEN CARE PROJECT(以下、OCP)」を発足させました。

同プロジェクトは、介護を「個人の課題」から「みんなの話題」へ転換することを目標として掲げ、介護の当事者に加えて、メディア、クリエイター、企業など、さまざまな主体が分野を横断して介護に関する話題を議論し、課題解決に向けたアクションを推進する取り組みです。

介護を個人が負担すべきものとして終わらせず、社会全体が向かい合うべきテーマであると捉え直すことが、同プロジェクトの核となっています。

初の表彰イベントを実施
珠玉のエピソードやアイデアを募集

プロジェクトの発足に先駆けて行われたトークイベント「OPEN CARE TALKS」をはじめ、立ち上げからおよそ1年間にわたって介護の周知活動を続けてきたOCPは、2023年12月、同プロジェクト初の表彰イベント「OPEN CARE PROJECT AWARD(以下、OCPA)2023」の実施を発表しました。

同アワードは、OCPの理念を実現するため、実際のエピソードや取り組み事例への表彰を通じて介護のエンパワーメント(発展や改革に必要な力をつけること)を図り、介護を話題にしやすい環境づくりに貢献する試みです。

期間中は、介護に関する前向きな実体験やエピソードを紹介する「OPEN EPISODE部門」、介護を組織や社会の関心事とするために行われた取り組みを紹介する「OPEN ACTION部門」、より多くの方々がOCPに参加しやすくなるアイデアを募る「OPEN IDEA部門」の3部門に分かれて、投稿を募集。

全国から144件の応募が寄せられ、2024年2月に行われた審査会では、介護分野のフロントランナーとして招かれた7人の審査員による厳正な審査のもと、6組の個人・団体が部門賞に選出されるとともに、16組が入賞を果たしました。

6組の個人・団体を表彰
介護の未来に向けて情報発信

OCPの立ち上げからちょうど1年を迎えた3月14日、経済産業省の「未来対話ルーム」で、同アワードの表彰式が開催されました。

表彰式では、各部門賞を受賞された6組の個人・団体が登壇。多彩なバックグラウンドを持つ受賞者の皆さんから、介護に前向きな変化をもたらすエピソード、社会全体に影響を与えるアクション、革新的なアイデアが紹介され、その成果を称えられるとともに、吉田宣弘経済産業大臣政務官より、記念の盾が授与されました。

今回の表彰を通じて、各部門の優れた取り組みや新たな価値観が社会全体に波及し、将来の介護分野におけるより良い発展につながることが期待されています。

“介護”を語れる社会を目指して
OCPのこれから

また、OCPA2023の開催期間中には、併せて、「OPEN CARE TALKS」の第2期が実施されました。

2023年12月には、介護と接する機会が少ない若者をメインターゲットに、ワークショップやトークセッションを通じて介護のアイデアを募る「渋谷109介護ミライ会議」、2024年1月には、介護分野で注目を集める新事業や新商品について、介護ビジネスの最前線で活躍するゲストが議論を交わす、事業者向けの「丸の内ミライ会議」が開催されています。

このように、OCPでは、今後もさまざまな形のPR活動を通じて、多様な世代や社会集団へのアプローチを図り、介護をよりポジティブに、オープンにしていくための試みを続けていく方針です。

あいらいふは、同プロジェクトの理念に賛同し、これまでに積み重ねた介護に関する情報や経験、ノウハウを広く社会と共有することで、高齢社会におけるより良いシニア向けサポートビジネスの実現に向けた取り組みを進めていきます。

OPEN CARE PROJECT AWARD 2023
受賞作品

OPEN EPISODE部門
部門賞(2名)

細川 愛香さん

「YouTubeで発信!在宅介護に色々なアイテムを導入」
(一部抜粋)音楽好きな父だが、音楽をかけるためだけに部屋に呼ばれるのは、母にとって負担になっていた。AlexaとAmazon Fire TV Stickがあれば、父一人で音楽をかけられる。父を起こすときに「ジャズをかけて」と母も活用している。「今日はフラダンスを習っている看護師さんが来るから、ハワイアンミュージックをかけるんだ」と、父が使いこなしている姿には驚いた。

正直、介護って暗いイメージがあった。介護休暇もとったけど、大変そうだなって。だけど、今は違う。私が関わることで、介護する側もされる側ももっと楽しくできるんだと気がついた。デジタル技術を導入したり、新しいアイデアを入れたりして、家族みんなで「おー!」「これで楽になるね」と喜び、楽しみ合う瞬間がすごくうれしい。そんな私たち家族のようすをYouTubeに投稿し、SNSでも発信している。

審査員コメント
・家族の介護をDIY的に組み合わせているところはとても斬新。
・在宅介護におけるテクノロジーの新しい可能性を感じる。

三橋 昭さん

「幻視が見えちゃったんです」
(一部抜粋)大学病院で詳しく検査した結果、2019年3月に「レビー小体型認知症」との診断を受けました。その頃から、頻繁に幻視が出現する日々が続くようになりました。花、動物、建物、幾何学模様などなど。現れる幻視はさまざまです。日々の幻視をイラストに記録することにしました。
やがて、イラストを見た主治医の勧めで「麒麟模様の馬を見た」というタイトルの本を出版することになりました。麒麟模様の馬とは、もちろん幻視に登場した馬です。品川区にあるギャラリーの2階スペースを自由に使っていいよとのお声がけをいただき、本の完成に合わせて、幻視イラストの展示をしました。
(中略)これからも、幻視原画展、認知症当事者としてのトークを通して、多くの方に認知症への理解を深めていただくための手助けができればいいなと、活動を続けていきたいと考えています。

審査員コメント
・実際に展覧会を開催することで、大勢の人々との関わりを感じた。
・当事者が発信することで、すでに幻視がある方にとっても発見になるのではないか。支える、関わる側としても気付く点があるエピソードだった。

入賞(9名、敬称略)
外岡 百恵、田中 美幸、常世田 崇、白鳥 美香子、村松 美奈、溝田 弘美、後藤 あゆみ、嘉成 光生、齋藤 亜弓

OPEN ACTION部門
部門賞(2団体)

株式会社aba

「介護の願いを叶える『ねかいごと』プロジェクト」
医療・介護分野を対象としたロボティクス技術の研究開発を手がける株式会社aba。同社の「ねかいごと」プロジェクトは、介護に関わるすべての方々(介護者・要介護者・ご家族など)から「介護についての願い=ねかいごと」を集め、テクノロジーの力を通して叶えていく活動です。
2023年11月11日の介護の日には、初めてのイベントを実施。#ねかいごとを合言葉に願いを募集し、ねかいごとの実現に向けた支援や、ねかいごとを叶える製品・サービスの紹介を行いました。世界に9億人いるとされる介護者を支えるべくプロジェクト化し、「願い」を起点とするケアテック産業の拡張と社会実装を目指します。

審査員コメント
・介護を受ける人は自分が何をしてほしいか、表現する機会がない。その場を作ることで、少しでも関わる・できる人が増えていくきっかけになる点が素晴らしい。
・「当たり前」のことができない環境下で、介護職は業務を行っている。その中で原点に立ち返っている素晴らしい取り組み。

株式会社whicker

「ビジネスケアラー・高齢者・支援者みんなが笑顔でハッピー」
株式会社whicker(ウィッカー)は、京都大学の修士課程に在学中の山本智一氏が、仲間と一緒に立ち上げたベンチャー企業。

「まごとも」は、学生スタッフがご高齢者のもとを訪問し、外出や外食支援、スマホやビデオ通話の使い方支援など、主に介護保険外のサービスを提供します。世代を超えたフラットなコミュニケーションを支援し、孫と一緒にいるような楽しい時間を提供するサービスです。

同サービスは、ご家族の介護の負担を減らし、家族間の絆を強化するためのツールとしても有効。忙しい日常の中で、家族とのつながりを保つためにも役立ちます。

審査員コメント
・ネットやアプリが苦手とされるご高齢者と一緒に使っていくことで、生活に幅を持たせるという発展性を感じた。
・現在の介護業界が抱えている課題を解決できる取り組み。地域社会でどう支えていくかという問題の一助にもなる。若い方に介護に興味をもってもらえるきっかけにつながる。

入賞(4団体)
有限会社齋藤アルケン工業「介護施設のおじいちゃんおばあちゃんを食を通して笑顔にするプロジェクト」
学校法人青丹学園ヴェールルージュ美容専門学校「未来体験プログラム」
SOMPOケア株式会社「キッザニア東京に介護福祉士体験ができるパビリオン『ケアサポートセンター』を開設」
プラスワンケアサポート株式会社「『食』から介護をポジティブに、地産地消の主役は高齢者」

OPEN IDEA部門
部門賞(2名)

洪 鵬さん(パーソルキャリア株式会社)

「ビジネスケアラーの口コミを活用した 介護と仕事の両立がしやすい企業の可視化」
仕事を主としながら、家族の介護にも取り組んでいる「ビジネスケアラー」は、国内におよそ300万人存在し、2030年には、年間約9兆円の経済損失が発生すると推定されています。
ビジネスケアラーは転職意欲が高いにもかかわらず、働きやすい環境の企業を探すのが困難です。そこで、ビジネスケアラーの口コミを掲載した転職サイトを開設し、企業の働きやすさを可視化します。転職希望者の企業選びに、介護との両立のしやすさという新たな視点を設けて、社会全体で議論するよう世論を形成します。

審査員コメント
・社会に必要な指標。ビジネスケアラーや介護離職については、社会への問題提起が必要。
・ビジネスケアラー自身がアクションを起こしている点、待っていられない人が実際に声を上げてアクションを起こしている点が評価できる。

金子 智紀さん(慶應義塾大学大学院)

「みんなの『ともに生きるケア』事例集」
介護現場の実践知の検索が可能なプラットフォームを提案します。
例えば、「うちの施設では、《役割をつくる》として、90歳の認知症のおばあちゃんに思い出の郷土料理を振る舞ってもらったよ。出身地と、今住んでいる場所が違っていて、料理好きな人におすすめです」といった実践事例を掲載します。
イメージとしては、レシピサイトのようにさまざまな事例が載っていて、閲覧者は参考にしたい事例を登録したり、「実践してみた報告」「アレンジ報告」ができる。「介護現場における実践知の社会化」を目指します。

※金子さんは、全国の介護施設を回って収集した、優れたケアの実践例をまとめた書籍『ともに生きることば』を2022年に出版されています。

審査員コメント
・実用性を含めてレベルが高い。
・10年で1300集めたという事例にアイデアの強度を感じた。

入賞(3名、敬称略)
小原 日出美(chainofsmile)「介護を我が事に考えるカードゲーム『CLUE CARD』」
山川 瑞貴(Royal College of Art/Imperial College London)「ケア者のためのケア」
近藤 晴美「介護用品サブスクリプション『LIFESTORY LIFESTYLE』」

「OPEN CARE PROJECT」発起人 
経済産業省・水口怜斉
(みずぐち・りょうせい)さん

─OCPAを開催した手応え、いかがでしたか?総評をお願いします。

我々が期待していた以上に多数のご応募をいただき、大変うれしく思っております。受賞作品はもちろん、応募いただいた作品すべてに熱い思いがこもったストーリーがあり、事務局としても大変読み応えのあるエピソード、アクション、アイデアばかりでした。

また、いずれの部門においても、介護の接点を広げ、これまでにない新鮮さや切り口を提示し、新しいプレイヤーを巻き込むことができるかという観点が重視されていたと思います。あらためて、本アワードを開催して良かったと実感しております。

─今後のOCPの取り組みと展望についてお聞かせください。

私たちは「OPEN CARE PROJECT」を、介護の領域をさらに拡張していく実験的なプロジェクトだと考えています。多くの方に、自分なりの関わり方や言葉で介護について発信していただき、まだ見ぬ人々を巻き込んでいくようなムーブメントをつくれたら。皆さまにもぜひ、前向きに接点を持っていただけるとうれしく思います。

OPEN CARE PROJECT
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/opencareproject/index.html

取材・文/あいらいふ編集部
画像提供/経済産業省

介護情報誌『あいらいふ』編集部
【誌名】『あいらいふ vol.171(2024年6-7月号)』
【概要】 初めて老人ホームを探すご家族さまの施設選びのポイントをさまざまな切り口でわかりやすく解説。著名人に人生観を語っていただくインタビュー記事他、人生やシニアライフを豊かにするためのさまざまな情報や話題を取り上げて掲載。
【発行部数】4万部
【配布場所】市区役所高齢者介護担当窓口・社会福祉協議会・地域包括支援センター・居宅介護支援事業所・訪問看護ステーション・病院・薬局など1万か所

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