【知っトク「注目のトピック」vol.10】介護職員、ケアマネジャーの処遇はどう変わる?2024年度介護報酬改定のポイントとは?
介護に携わる人材の報酬を定める基準となる、2024年度の介護報酬改定が、4月および6月から施行されます。介護職員やケアマネジャーなど、介護の現場で働く方々の処遇は、どのように変わるのでしょうか。今回の改定のポイントについて解説します。
介護保険制度のあらまし
介護保険制度は2000年にスタートし、保険者・利用者・サービスを提供する事業者間で成り立っています。
利用者は収入に応じて1~3割の負担金を支払い、事業者は残りの金額を保険者(国・地方自治体)へ請求する仕組みです。
日本では少子高齢化が進行しており、今後よりいっそう、医療や介護の需要が増えると予想されます。介護保険の財源や介護業界における人材の確保が困難になるリスクを回避し、介護保険制度を持続させるために、介護報酬の改定が行われます。
厚生労働省では現在、3年に一度のペースで介護保険制度の改正を行っており、各種調査結果や専門家の意見を参考に、介護サービスの内容の見直しや、報酬の増減を決定します。
人材確保を視野に
報酬は1.59%の引き上げ
2024年度の介護保険制度改正に伴い、介護サービス事業所の収入にあたる介護報酬の改定が行われました。
改定率は、全体で1.59%のプラスとなっており、前回(2021年度)の0.7%を上回る水準です。内訳としては、0.98%が介護職員の処遇改善にあてられ、0.61%が各種サービスの基本報酬や、ほかの加算などに配分されます。
このほか、従来は3つに分かれていた介護職員の処遇改善に関連する加算を一本化したことに伴う賃上げ効果や、水道光熱費の基準費用額引き上げによる介護施設の増収効果なども踏まえると、2.04%相当のプラスが見込まれており、厚労省は、今回の改定が介護職員の処遇改善につながるとの見通しを示しました。
近年は、他業種における賃金の上昇傾向によって、介護職員の給与が相対的に低くなり、介護分野から働き手が流出する懸念が高まっています。人材不足を防ぐため、今回の改定でどのような見直しが行われるかが焦点となっていました。
2024年度改定の重要項目
2024年度の介護報酬改定では、次の4項目の実現に向けて、報酬の配分が行われました。
①地域包括ケアシステムの深化・推進
▽医療・介護の連携の推進
▽質の高い公正中立なケアマネジメント
▽地域の状況に応じた柔軟かつ効率的な取り組み
▽看取りへの対応強化
▽感染症や災害への対応力向上
▽高齢者虐待防止の推進
▽認知症の対応力向上
▽福祉用具貸与・特定福祉用具販売の見直し
②自立支援・重度化防止に向けた対応
▽リハビリ・機能訓練、口腔、栄養の一体的取り組み
▽自立支援・重度化防止に対する取り組みの推進
▽科学的介護情報システム(LIFE)を活用した高品質な介護
③働きやすい職場づくり
▽介護職員の処遇改善
▽生産性の向上などを通じた働きやすい職場環境づくり
▽効率的なサービス提供の推進
④制度の安定性・持続可能性の確保
▽評価の適正化・重点化
▽報酬の整理・簡素化
医療・介護の連携強化
地域包括ケアシステムを推進
2024年は、介護・医療・障害者福祉の報酬改定が同時に実施される、6年に一度の「トリプル改定」の年となります。
通常、トリプル改定が行われる際は、3分野の垣根を超えた改革が実施され、さまざまな社会保障制度の将来の方針に影響を及ぼす節目となるケースが多く、注目を集めていました。
今回のトリプル改定における重要項目としては、医療・介護の連携強化、デジタル化の推進、報酬の適正化などが挙げられます。特に、厚生労働省が2025年をめどに構築を目指す「地域包括ケアシステム」の実現に向けた医療・介護の連携強化については、各種の施策や報酬の加算が導入されました。
地域包括ケアシステムとは、「高齢者が要介護状態となっても、住み慣れた地域での暮らしを最期まで続けられるように、地域が一体となって、医療・介護・予防・住まい・生活に関する支援体制を包括的に確保する仕組み」のことです。医療と介護の連携が深まることで、従来はハードルの高かった在宅医療についても、基盤の整備が進むと考えられます。
また、この地域包括ケアシステムは、介護の主体を国から自治体や地域ネットワークに移行する取り組みの一環でもあり、各地域の特性に応じたシステムを作り上げていく必要があるとされています。今回の介護報酬改定からは、将来の介護保険制度のあり方に関する、厚労省の意向もうかがい知ることができます。
地域包括ケアシステムが有効に機能するためには、介護に携わるさまざまな組織間の連携が欠かせません。
具体的には、高齢者のための総合相談窓口として、すべての市町村に設置されている地域包括支援センターを中心に、ケアマネジャー、医療ソーシャルワーカー、介護事業者、医療機関、社会福祉協議会、民間企業、NPO、ボランティア、民生委員・住民組織、保健所・保健センターなどが挙げられます。
これらの担い手による地域ネットワークが介護の分野で果たす役割は、今後、ますます重要になると予想されます。
次回の2027年度改定は?
介護報酬の改定は、3年に一度の介護保険制度の改正に伴って実施されます。2024年度の制度改正では、以前から懸案とされていた給付減や負担増に関する話題が早々に先送りされた経緯もあり、次回の2027年度は、介護保険の受益者負担に関して、従来よりも抜本的な改正が議論される可能性が高まっています。
税金や社会保険料に頼るところの大きい介護・福祉分野は、介護保険制度の枠組みに大きな影響を受けます。今後もサービスを提供する側、利用する側の双方が関心を持って、政策の動向を見守ることが大切です。
2024年度介護報酬改定の詳細については、下記のアドレスからご確認いただけます。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_38790.html
介護情報誌『あいらいふ』編集部
【誌名】『あいらいふ vol.171(2024年6-7月号)』
【概要】 初めて老人ホームを探すご家族さまの施設選びのポイントをさまざまな切り口でわかりやすく解説。著名人に人生観を語っていただくインタビュー記事他、人生やシニアライフを豊かにするためのさまざまな情報や話題を取り上げて掲載。
【発行部数】4万部
【配布場所】市区役所高齢者介護担当窓口・社会福祉協議会・地域包括支援センター・居宅介護支援事業所・訪問看護ステーション・病院・薬局など1万か所