【特集】お墓の話、していますか? 海に還る、自然に還る〈後編〉 -父を海へと見送って(体験)-

家族の思い出に残る
海へと馳せる父への想い
今から3 年前の2022 年、実の父親を海洋散骨でお見送りした経験を持つ田端(仮名)さん(40 代女性)。
海への散骨をすることになった経緯とご家族の反応をはじめ、過ぎし日の思い出、現在の心境をうかがいました。

あいらいふのライフコーディネーターとして、相談業務に従事する田端さん。亡くなられたお父さまとは、生前から「終活」についてお話していたと言います。「とはいえ、葬儀やお墓の話となると、やはり事情が違いますね。父からも最初のうちは「そんな、縁起でもないことを」と言われていました。
少しずつ会話を重ねるうちに、「自分が死んだら、自宅の山に撒いてくれ」と、ぽっぽつと話すように。葬儀も大々的にではない家族葬を希望していましたし、どこに撒くかはともかく「散骨」というキーワードは、家族の中で共有していました」
田端さんのお家には、代々続いているようなお墓はなかったため、お父さまが亡くなった後は海洋散骨を考えていました。
「実は、私の父が亡くなったおよそ10日後に、父の兄も他界しました。
偶然にも同じ時期に親を見送ることとなった従兄弟から「散骨を考えている」と聞いたため、祖父母と父の兄が暮らしていた鎌倉(神奈川県)の近くで縁のある葉山の海に、二人の遺灰を共に散骨しようという話になりました」
一方で、家族や親族たちが皆散骨に賛成していたとは言えないと感じたことも。
「散骨はお父さんらしいねという点については、家族で一致したのですが、母と妹は、お骨の一部を手元供養として遺すことにしました。
亡くなっても近くにいたい、手を合わせたいという思い。故人の偲び方は本当に人それぞれだと思いました」
「2022年5月、私たち家族、叔父の家族、父の妹家族と、父と叔父の二人の遺骨を乗せた船が、神奈川県の相模湾にある葉山港から出港しました。
事前の準備といったものはなく、当日、私たちは船に乗り込むだけ。散骨ができるスポットに着いたところで、一人ひとつずつ、水溶性の紙製の袋に入れてもらったお骨を手渡され、お花と供に海へと手向けました。粉末化されたお骨が入っている袋は、一瞬、海に浮かんだ後、ゆっくりと水中ヘ沈んでいきます。
その光景を眺めていると、自然と心が穏やかになっていくのを感じました」

船上では、セレモニー形式の儀式などは特に行わず、故人のプロフィールを紹介した後は、それぞれのご家族が思い思いのひとときを過ごされたそうです。
「散骨の後は、港の近くにある海の見えるレストランで、故人を偲びながら食事会をしました。
散骨した海を眺めながらの開放的な雰囲気の中、宗教やしがらみに囚われず、各人が自由な気持ちで、故人の思い出話をすることができて、とても良い時間を過ごせたと感じています。
何より、父の希望どおりに散骨ができたことに対して、ほっとした気持ちになりましたね。葬儀や納骨が、遺された家族にとって大変な思い出にならなかったことも、かったと思います」
お父さまの三周忌には同じレストランを予約し、散骨を行った親族で集まったという田端さん。
「父と長年連れ添ってきた母は、散骨については賛成しつつも、寂しく思うところもあったと思います。でも、今では母も「私のときは、宇宙に撒いてもらうのがいい」なんて話しているんです。
私自身は、海はちょっと寒そうなので、自然の中で眠りに就くイメージのある樹木葬がいいかな、と夫と話しています。
元気なうちにこういう話をしておくことは、大切ですね。父の海洋散骨が実現したのも、早くからこういう話ができていたからだと思います」
一方で、田端さんは「友人との会話で、海洋散骨の体験を話題に出すと、「うちはいろいろなしがらみがあるので難しい」と言われたことが少なからずありました」と話します。
海洋散骨という選択肢を実現するのは、思ったほど簡単ではないのかもしれません。
「個人的な意見ですが、お墓という目に見える存在がないからこそ、普段からより深く、故人のことを偲んでいる気がします。
海はすべてにつながっているので、どこにいても父のことを思うことができるからです」
取材・文:遠藤るりこ
画像提供:株式会社ハウスボートクラブ
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