【特集】お墓の話、していますか? 海に還る、自然に還る〈前編〉 -樹木葬や海洋散骨 自然に還るという選択肢-

多様な生き方が認められる時代。自分らしい生き方を選べるなら、亡くなった後のことについても自分なりの考えをまとめて、周囲の人たちに伝えておきたいものです。
近年、「最期は自然に還りたい」という死生観を重んじる「自然葬」が広まりつつあります。自然に還る葬送とは、どういったものなのでしょう。自然葬の実情や課題、実際に散骨を経験した方のエピソードから、「新しい葬送の選択肢」を考えます。
変わるお墓への価値観
一般墓の購入は2割未満
「老後」や「終活」の先に待ち受ける、「お墓」のこと。近しい人と、どこまで「お墓の話」をしていますか?
終活に関するさまざまなサ—ビスを提供する株式会社鎌倉新書が、2025 年に行った「お墓の消費者全国実態調査」によると、新たに購入されたお墓の種類は「樹木葬」が約半数を占め、最も多いことがわかりました(※下記グラフ参照)。

※ 2024年1月~同年12月にお墓に関するポータルサイト「いいお墓」経由でお墓を購入した方1,475件の調査回答より
一方で、従来のご供養の形とされている「一般墓」は17%程度にとどまり、「納骨堂」や「合祀墓・合葬墓」がその後に続いています。
先祖代々同じお墓に入るという、それまでの家制度に根ざした供養観が変わりゆく背景には、社会構造の変化と、個人の価値観の多様化があります。また、少子高齢化によるお墓の無縁化といった「継承の課題」も、大きく関係しています。
近年、葬儀に関しては「故人をその人らしい方法で見送りたい」という風潮が定着し、家族葬と呼ばれる近親者のみで執り行われる小規模なお葬式が浸透してきています。
しかし、葬儀後の納骨やお墓、供養についての選択肢は、まだ多くはありません。
葬儀同様に「自分らしい見送られ方は何か」を考えること、そしてお墓や納骨についての「こうあるべき」から解き放たれることは、自分らしい生き方を選ぶことの延長線上にあるのです。
これまでの供養の常識にとらわれない「自然葬」という葬送の方法があります。生まれ育った地や思い出の場所に眠りたいという考えで、遺骨や遺灰を海や山などの自然の循環の中に還す見送り方です。
近年、多くの方が選択肢のひとつとしている樹木葬は、墓石ではなく樹木を墓標として、遺骨を土に還す埋葬方法のこと。
一般的なお墓や納骨堂に比べて安価で、宗教や宗派を問わず、埋葬後の管理費などがかからない場合が多いとされています。
樹木葬には、墓地の許可を受けた山林に埋葬される「里山型」や、都市部の霊園や寺院に植えられたシンボルツリーの周りに埋葬される「公園型」などがあり、個別や合祀など、埋葬の仕方もさまざまです。管理や供養は霊園や寺院が担う永代供養付きの場合が多く、お墓の継承が必要ないことが特徴です。
また、故人の遺骨を海に撒く「海洋散骨」も、自然葬のひとつ。火葬後の焼骨を海洋に散布する方法です。生命の起源である海へ還るという、自然への帰属意識が高い人はもちろん、地球環境にも配慮した葬送法として注目されています。
一方で、現在の日本では、散骨事業は許認可事業ではありません。海洋散骨は、一般社団法人「日本海洋散骨協会」が策定した散骨に関するガイドラインに沿って、専門業者が行っているのが一般的です。
今回は、海洋散骨を行う専門業者と、海洋散骨をご経験されたご家族の方に、「新しいご供養の選択肢」についてのお考えをうかがいました。
自然ヘの帰属意識、お墓の継承や管理ができない…。
海洋散骨を望む人たちの背景には何があるのか
自然な葬送を求めて「海洋散骨」という見送りの方法をとる人たちがいます。俳優の石原裕次郎さんや勝新太郎さんなどが海に散骨されたことで知られていますが、一体どのような方が、海洋散骨を希望されているのでしょうか。
海洋散骨事業を手がける、株式会社ハウスボートクラブの水野聡志さんにお話をうかがいました。
「故人の「死後は自然に還りたい」「大好きだった海で眠りたい」といったご遺志があり、ご遺族から依頼がある場合が大半です。もちろん、海洋散骨を望むご本人からのお問い合わせも多くいただきます。
実際に海洋散骨をされる方は、その8割以上が故人の遺志によるものです。
他にも、実家の墓じまいや改葬を考えている、いろいろな理由があってお墓を持てない、自分が亡くなったらペットの遺骨と一緒に撒いて欲しい……など、海洋散骨を検討されている方には、本当にさまざまな背景があります」
一般的な納骨に比べて、費用面や物的な負担が抑えられるのも、海洋散骨の利点。継続的な維持費や管理費も発生しないため、お墓の継承にまつわる課題を解決する、時代に合った葬送の方法なのでは、といった見方が広がっています。
「私たちは、従来からの葬儀のやり方や、代々受け継がれているお墓を否定はしません。
ただ、必ずそうしなくてはいけないものではなく、もっと自由な考え方があっても良い。葬送の際に、海洋散骨が選択肢のひとつになればと考えています」
個々の偲び方を尊重
供養方法は多様化していく
一方で、「ご家族やご親戚など、関わりのある方から理解を得ることは大切です」と続ける水野さん。
自身が海洋散骨を望んでいるのなら、家族へしっかりと伝えておくことや、生前から業者を探しておくことも大事です。
「ご本人のご遺志があったとしても、遺されたご家族の考えや宗教上のしがらみなどが、海洋散骨の障壁となる場合も少なくありません。『お墓参りができないと寂しい』『お骨を撒いてしまったら、もう戻ってこない』とご不安を感じる方も、一定数は必ずいらっしゃいます。


そういったケースでは、ご遺骨の一部を遺す「手元供養」や、お墓参りの代わりとなる「メモリアルクルーズ』などのサービスを実施するなどして、ご遺族のお気持ちに寄り添う方法を提案しております」同社の行う海洋散骨では、型にはまったセレモニーはありません。
「クルージングの要素もありますから、船の上でどう過ごされるのかは、ご遺族の方のお気持ちを尊重しています。
東京湾でロケーションが良いのは、羽田空港沖。にぎわう夕—ミナルを少し離れると、船舶も少なく静かなエリアです。離発着する飛行機を頭上に見ながら、ゆっくりとお見送りをしていただけます。
故人が好きだった音楽をかけて在りし日を偲んだり、デッキに出て景色を眺めたり、皆さま思い思いの時間を過ごされています」
他にも、デリバリーして持ち寄ったお食事を囲む方、お坊さんを呼んでお焼香や読経をしてもらう方もいます。散骨とともに、海へ献花や献酒をすることも。
「お花のご用意はこちらでさせていただきます。それ以外は故人が好きだったものをお持ちいただいております。自然に還りやすいものという条件はありますが、おまんじゅうや日本酒を手向ける方が多いです」
遺されたご家族が「故人をどう見送りたいのか」を考え、個々のスタイルが尊重される、海洋散骨のセレモニー。ひとつとして、同じ見送り方はありません。
「私が同行させていただいた散骨では、お孫さんがフルートを演奏されたこともあります。風と音を感じながら、船が静かに旋回し、港に帰ります。皆さまが、言葉では言い表せない思いに浸るセレモニーになりました」
自然葬〈後編〉に続く
取材・文:遠藤るりこ
画像提供:株式会社ハウスボートクラブ
豊かなシニアライフのための情報誌『あいらいふ』編集部
【誌名】『あいらいふvol.178(2025年7月31日発行号)』
【概要】初めて老人ホームを探すご家族さまの施設選びのポイントをさまざまな切り口でわかりやすく解説。著名人に介護経験を語っていただくインタビュー記事のほか、人生やシニアライフを豊かにするためのさまざまな情報や話題を取り上げて掲載。
【発行部数】4万部
【配布場所】市区役所の高齢者介護担当窓口・社会福祉協議会・地域包括支援センター・居宅介護支援事業所・訪問看護ステーション・病院・薬局など1万か所