あいらいふレポート

【特別インタビュー】平井万紀子さんに聞く 認知症の人が働ける場所「まあいいかcafé」が目指すもの

”忘れん坊になった“お母さん・お父さん奮闘中!

きっかけは認知症になった母の言葉。

「まだまだ私は働きたい!」

認知症になった母親の、まだまだ働きたいと言う思いを叶えるために「まあいいかcafé」を始めた平井万紀子さん。今では、認知症の方々がホールで楽しそうに働く、一大イベントに成長しました。

時には彼ら彼女らをアシストしながら温かな心で見守る、そんな平井さんに「まあいいかcafé」への思いや、今後の展望などを語ってもらいました。

母のために始めたカフェ
どんどん輪が広がって

「同居を始めた母が毎日言うんです。『あんたらに食べさせてもらってるんか?迷惑かけたらあかん、おばあちゃんはまだまだ働ける!』」

認知症になった母親の言葉がきっかけとなって始めた「まあいいかcafé」。2018年3月に、1日だけのカフェを初めて開催して以降、5月には2回、6月には1回と継続的に開催し、口コミを通じてお客さんも90人、100人と増えていったそうです。

「お店だけ借りて、母と一緒に始めました。私が材料を用意して、娘も手伝ってくれて。バタバタでしたが、私の知人だけでなく、小国さんの講演会で知り合った方々も来てくれました。お祝いの花を送ってくださった方もいて、本当に感動でした」

平井さんが「まあいいかcafé」を始めたきっかけは、元NHKディレクターの小国士朗さんが主催するイベント「注文をまちがえる料理店」のクラウドファンディングを、インターネットで知ったことだったそうです。ページの一番上に名前のあった和田行男さん(認知症ケアの第一人者であり、自立支援のパイオニア)に連絡を取ったことが始まりでした。

両氏との出会いや交流を経てスタートした「まあいいかcafé」。同年の9月には、多くの方の応援を受けて、京都市内のホテルグランヴィア京都で開催されました。

「思いが先行して、予算やスタッフの手配なども決めずに走り出してしまいましたが、京都大学の学生さんをはじめ、さまざまな方々が協力してくれました。

後援を受けたり、協賛金を募ったり。和田さんにも京都大学での講演会をお願いして、それらのお金を運営費に充てることで、エプロンやTシャツを作ることもできました」

ずっと探していた
認知症の母ができる仕事

「私、認知症のこと全然知らなかったんです。母がアルツハイマー型認知症という診断を受けてからも、絶対誤診や!と信じなかった」と平井さん。

母親の晏子(やすこ)さんが認知症と診断されたのは、2011年頃。掃除用具の配達員として自ら車を運転し、ご近所を1日80件ほども回っていた元気なお母さんが、配達先への商品を間違えたり、道順を忘れたりを繰り返すようになっていたそうです。

「なかなか現実を受け止められずにいたのですが、母と仲良しだった近所のおばちゃんから電話が来て、『万紀ちゃん、お母さん、ちょっと年相応の物忘れではないかもしれへん』と言われたんです。

親しい人の言葉に、その時初めて、母の認知症を確信しました。同じ時期に定期検査で脳に動脈瘤が見つかったこともあり、手術を機に母は仕事を退職することになりました」

晏子さんの手術は無事に成功し、再び一人暮らしを始めたのですが、「ヘルパーさんから『お母さんに家に入れてもらえない、どうしたらいいでしょうか?』と、何度も電話がかかってきて。火の不始末などの怖さもあり、もう限界だなと思いました。手術から約2年後、母の希望を聞いて、わが家で一緒に暮らすことになりました」。

2014年11月、旦那さんと2人の娘さん(高校1年生と小学4年生)、4人家族の平井さん宅に晏子さんが加わり、5人での生活が始まりました。

「一緒に暮らし始めたとき、一番不安だったのが、母のコミュニティがなくなってしまうことでした。

今までは母が家を一歩出れば知り合いがいて、お茶しようかとか、スーパーで知り合いに会って話が弾んだり、そんな母のコミュニティが消えてしまうことへの不安でした」

同居はしたものの、新たな不安を抱えながら過ごしていた平井さんが、晏子さんとの日課である近所のスーパーへの買い物へ出かけたときのことです。

「野菜売り場でホウレンソウを束ねたりミカンを袋詰めにしているようすを見たときに、ふと『この仕事、お母さんにできるかも!』と思ったんです。

もし、ここで働かせてもらえれば、母を知らない地域の人にも、『あの人、どっかで見たことあるな。野菜売り場のおばちゃんや』なんて、母の顔を覚えてもらえる。母は人の役に立っている喜びを得られるし、スーパーのオーナーも社会貢献活動ができるんじゃないか、って」

そんな考えを胸の中で温めていた平井さんが出会ったのが、認知症の方がホールスタッフとして働く「注文をまちがえる料理店」でした。

「認知症の方がホールスタッフとして可愛らしいエプロンをつけて、お化粧をして接客している姿に、すごくすてき!これ絶対、京都でやろうと心に決めたんです」

「楽しくやりたい」気持ちが大事です。

ホテルグランヴィア京都でのイベントを無事、成功させた平井さん。

「それまでは、母と私がほとんどのことをやっていたので、キャスト集めには苦労しました。大きなイベントなので、少なくとも10人くらいは認知症の方に活躍してもらいたいと考えていて。

母と同じ境遇の方がすぐに集まると思っていたのですが、なかなか人が集まらず、その現状にびっくりしました。今は、やりたいと言っていただけることが増えてきてうれしいです」

「『まあいいかcafé』には、基本的にこれはダメという制限はありません。ご本人のやりたいという気持ちを大事にしています。事前の練習もありません。当日その場で説明をして、始めます。

キャストさん1人に対して、ボランティアの方1人が寄り添ってもらうようにはしていますが、それも、ピタっとくっつくのではなく、後ろの方から、ほんまに困っていらっしゃったら助けてあげてくださいとお願いしています」

提供するメニューは、基本的に会場となるお店のメニューをそのまま活用し、キッチンスタッフもお店の方が務めます。

「もちろん、デイサービスとして企画するケースでは、私も一緒にメニューを考えます。
シンプルに言うと、キャストさん(認知症の方や、まだまだ地域で活躍したい方)にホールスタッフをしていただくというだけですが、最も大切にしていることは、“まあいいか”という、温かな心を持って取り組むことです」

「私は、キャストの方々と、私たちスタッフの“楽しい”を大事にしています。『お客さんを楽しませようと思わなくてもいいよ、今日は私たちみんなが楽しもうね。私たちみんなが“まあいいか”っていう気持ちでやろうね。そうすれば、来る人は必ず楽しいから』って。

自分たちが積極的に楽しもうとする、もしかしたらそこが、この取り組みが続いている秘けつかもしれません」

私たちの社会を”まあいいか“と言える世界に

「最近は、企業の方から『まあいいかcafé』をやってみたい、とお声がけをいただく機会も増えています。今後は、プレイヤーとしてだけでなく、自身の経験を活かした仕組みづくりの輪を広げていきたいと考えているんです」と語る平井さん。新しい取り組みに向けて、2025年3月に法人化を予定しているそうです。

「先日、ある金融機関で研修を行いました。職員さんに『まあいいかcafé』を体験してもらい、認知症のキャストの方とボードゲームで遊んでいただいたんです。

研修の前後で、認知症に対するイメージの変化を書いていただいたんですが、いろいろな気づきがあったようで、各支店でやってほしい、継続して開催してほしいといった、前向きな意見であふれていました。

認知症の方は“特別な人”ではありません。英語で表現するとわかりやすいのですが、『she is dementia』ではなく『she has dementia』。日本語に直すと、『彼女のすべてが認知症』ではなく、『彼女は一つ認知症を持っている』というニュアンスを伝えていきたいなと思っています」

「『まあいいかcafé』を継続してきてわかったことは、もともと関心の高い方が来てくださるということ。一方、認知症に関心のない方にはなかなか届かない。以前の私のような人たちにも、この取り組みを届けたい。それが自分の役割ではないかな、と。

そこで思い浮かんだのが、企業の社員食堂でやってみることでした!社食がない企業でも、できる工夫を凝らして行っています」。次の取り組みに向けた構想を、平井さんは熱く語ります。

平井さんは、小国士朗さんの講演会に参加した時に聞いた言葉が、今でも胸に残っていると言います。

「『私たちの社会の側が“まあいいか”と思えば、実は問題ではなくなること、課題ではなくなることって、世の中にはたくさんあるんじゃないか』って。

人は、人の役に立てること、人から必要とされること、互いに貢献し合えることが生きる力になると思っています。真のD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)がこの活動を通して、広がることを望んでいます。私たちとぜひ協働しませんか?」

【プロフィール】
平井万紀子さん

1964年生まれ
関西外国語短期大学卒

大学卒業後、松下電器産業株式会社(現Panasonic)に入社。
約6年間勤務したのち、結婚を機に退職。その後はフリーとして、営業・取材・企画・編集・講演会主催など、さまざまな仕事を経験。
34歳、39歳で出産、2児の母となる。
2014年、認知症と診断された母と同居スタート。
認知症の人がホールスタッフをつとめる「注文をまちがえる料理店」の存在を知り、インスパイアされ、2018年3月より、地元の京都で「注文をまちがえるリストランテ」「まあいいかcafé」を主宰。当初、母ひとり娘ひとりからスタートした活動が共感と応援を呼び、これまで約6年間で、計39回開催。来店者数は3,300人を超える。

まあいいかlaboきょうと

2018年に、認知症の母親と娘と孫2人の4人で始めた「まあいいかcafé」。認知症の方々がキャストとして接客するカフェイベントは京都市内を中心に開催し、2024年までの6年間で39回を数え、その間活躍した認知症のキャストは延べ340名、来店者数は3,300人を超える。カフェイベントをはじめ、認知症を理解するボードゲーム、企業研修や講演会など、「自分たちが楽しむこと/正しさよりも楽しさ/受容し合うこと」をモットーに活動の場を広げている。
「人は、人の役に立てること、人から必要とされること、互いに貢献し合うことが生きる力になると思っています。福祉や介護に関わる方々だけではなく、認知症やさまざまな生きづらさとは対極にいる方々に『まあいいかcafé』を体験していただきたいと願っています。ダイバーシティ&インクルージョンとしての企業研修や、講演なども承っております」(平井万紀子さん・談)

認知症の方や地域で活躍したい方が活躍するcaféが1日限定でOPEN!

まあいいかcafé【完全予約制】
日時:2025年3月16日(日)
1部 11時~12時半
2部 13時~14時半
会場:ザ ロイヤルパークホテル 京都三条 B1F
京都洋食「レッションとうま」
アクセス:京阪本線「三条」駅 / 京都市営地下鉄「京都市役所前」駅から徒歩3分
参加費(お食事代): 2000円(税込・お支払いは当日会場にて)
提供メニュー:ハンバーグランチ / エビフライランチ / 白身魚の白ワイン蒸し
パンorライスドリンク付き

【完全予約制】のため、事前にお申込みをお願いします。
1.1部or2部、どちらのご参加か
2.ご住所/電話番号/メールアドレス/参加人数

問い合わせ先:まあいいかlaboきょうと
メール:maika.kyoto@gmail.com
TEL:090-3354-3445(ひらい)

共催:京都南ロータリークラブ/まあいいかlaboきょうと

取材・文:あいらいふ編集部
資料提供:まあいいかlaboきょうと

豊かなシニアライフのための情報誌『あいらいふ』編集部
【誌名】『あいらいふ』vol.175(2025年1月30日発行号)
【概要】初めて老人ホームを探すご家族さまの施設選びのポイントをさまざまな切り口でわかりやすく解説。著名人に介護経験を語っていただくインタビュー記事のほか、人生やシニアライフを豊かにするためのさまざまな情報や話題を取り上げて掲載。
【発行部数】4万部
【配布場所】市区役所の高齢者介護担当窓口・社会福祉協議会・地域包括支援センター・居宅介護支援事業所・訪問看護ステーション・病院・薬局など1万か所

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