【特別鼎談・インタビュー】広がるまごころサポート/2024 民間企業が導く シニアが輝くまちづくり
MIKAWAYA21が、設立以来、12年間にわたって展開するシニア世代の生活支援事業「まごころサポート」。
あいらいふもフランチャイズ加盟する同事業からは、シニアの住環境整備事業「まごころアパート」や、株式会社ユカリエの宅配弁当事業「ジーバーFOOD」、あいらいふの「まごころ入居相談」など、さまざまなシニア向けビジネスが新たに派生し、全国の加盟店ネットワークを活かして、いっそうの広がりを見せています。
「まごころサポート」が目指す“シニアが輝くまちづくり”と各事業の展望について、3社の社長に語っていただきました。
全国に広がるネットワーク
「まごころサポート」が生む新ビジネス
藤田 本日はお時間をいただき、ありがとうございます。
青木 このメンバーがそろうのは、昨年の「まごころサミット」以来でしょうか。
永野 沖縄でお会いしましたね。
藤田 今回は、青木社長とMIKAWAYA21さんの展開する、シニア世代の生活支援事業「まごころサポート」の今後の構想について、お話をおうかがいしたいと思い、お集まりいただきました。
まず、「まごころサポート」とは、全国200店舗以上の加盟店を拠点に、「コンシェルジュ」と呼ばれる地域スタッフが、依頼を受けてシニア世代のご自宅を訪問し、日常生活の中のお困りごとをワンストップで解決するサービスです。
永野社長のユカリエさんの本業は不動産業、あいらいふの本業は老人ホームの紹介業ですが、ともに「まごころサポート」のフランチャイズに加盟しています。
また、両社は、それぞれがMIKAWAYA21との提携による新事業を立ち上げています。ユカリエさんは、地元のおばあちゃんたちがこしらえた健康的な手作り弁当を、仙台市内の企業や団体に宅配する「ジーバーFOOD」を、2022年11月にスタートさせました。
あいらいふは、全国の「まごころサポート」加盟店舗を対象に希望者を募り、あいらいふのノウハウを活かして入居相談事業を行っていただく「まごころ入居相談」を、2023年12月から開始しています。
永野 ユカリエは、地元・仙台の企業として、地域の人たちにもっと豊かな生活やライフスタイルを提供したいとの思いから「まごころサポート」に参加しています。
青木 「ジーバーFOOD」は、アクティブなシニア層の社会参加を促し、⽣きがいづくりの手助けをする。「まごころ入居相談」は、シニアの在宅⽣活から施設での介護に至るまで、お困りごとの段階に応じてワンストップで対応できる。
どちらも「まごころサポート」の発足以来の目標である“高齢社会を支える新たなまちづくり”にとって、欠かせないサービスになっていくと思います。
5つの事業分野を拡大
「まごころサポート」事業のこれから
藤田 青木社長ご自身も2023年4月に、シニアの新たな居住環境を整備する「まごころアパート」事業を立ち上げました。
同事業は、国土交通省のモデル事業にも採択されています。青木社長は、同事業がきっかけとなって、MIKAWAYA21の手がけるシニア向けビジネスが、新たな段階を迎えるとお考えだそうですが。
青木 当社では、加盟店の皆さんとともに12年間、「まごころサポート」を中心にシニア世代の生活支援事業を続けてきました。今後はまちづくりをテーマに、私がシニア向けサービスを提供する上で不可欠と考える新たな要素を加えた、5つの事業分野への拡大を図ろうと考えています。
①生活支援事業
1つ目は、「まごころサポート」の本丸である生活支援事業です。
国の財政を圧迫する介護・福祉分野への給付抑制は長年、議論の対象となっており、公的な介護保険の適用範囲は狭められる傾向にあります。
要支援1・2の方、要介護1~2の方への支援を民間が担うだけでも、数兆円規模の市場となる。民間でシニア世代を支える仕組みづくりは、これから積極的に拡大させていきます。
②エイジテック事業
そこに加わる2つ目が、ICT(情報通信技術)を活用して高齢社会の課題解決をサポートする「エイジテック」事業です。
当社は3月に、沖縄電力の子会社との提携のもと、3年間実証実験を続けていた「やさしいみまもり」サービスについて、商用化に向けた覚書を締結しました。ICTを利用したWi-Fiセンシング技術で、シニアの睡眠と活動状況を離れたところから見守ることができます。
お部屋に設置したセンサーがあれば、特別な訓練を積んでいない方でも、適切なタイミングでシニアにサポートをお届けできる。手元のスマホを見て、眠れていないようであればようすを見にうかがう。これまでは人間の感覚頼みだったところで、従来よりも細やかな支援ができるようになります。
さらに、Wi-Fiセンシング技術を活用して、日中の活動量などさまざまなデータを蓄積していけば、フレイル(加齢による心身の衰え)や初期の認知症など、どのタイミングでお身体に変化が起こりやすいのかといった傾向まで見つけ出すことができる。テクノロジーの時代ならではのサービスです。
③新しい不動産事業
3つ目は、②のWi-Fiセンシングを賃貸住宅に組み込むことで生まれる、新しい不動産事業です。お一人さまのシニア世代が安心して暮らしていける、コミュニティ付きアパート「まごころアパート」がこれに当たります。
ちょうど今、国会では、「住宅セーフティネット法」の改正案が議論され、成立に向けて動いています。
同法では、新たにセンシングによる見守り機能が付いた「居住サポート住宅」を、自治体が認定する制度が創設されます。シニア世代の独り暮らしに伴うリスクを軽減し、大家さんが安心して物件を貸せる環境を整えるのが目的ですね。
国土交通省では、法案の成立後を見据えて、「居住サポート住宅」へのリノベーションにかかる費用を助成するために予算をつけることも議論されています。
まさしく、シニア世代のためにこういった住まいが必要だ、と私たちが長年主張してきた内容が法整備に向けて動き出しており、不動産市場の新たな活性化の主役となる。この「まごころアパート」事業は、今後強く推し進めていきます。
④シニアの生きがい創出事業
ここにもうひとつ加わるのが、4つ目のシニアの生きがい創出事業。おばあちゃんたちに毎日が楽しい、明日も頑張りたいと思ってもらえる生きがいづくりですね。
これは「ジーバーFOOD」との連携によって実現を目指します。「まごころアパート」とセットで全国展開を図り、おばあちゃんたちが引っ張りだこになるマーケットを育てていきます。
⑤民間の介護保険事業
最後は、民間の介護保険事業への参画です。
公的な介護保険が縮小傾向にある中、すでに大手の民間保険会社による商品がちらほら出てきている。数年後から本格化するのでは、と考えています。
こういった商品が普及していく過程で、「まごころサポート」をセットで活用していただく。ご加入者の健康寿命を伸ばし、ご自宅での生活をできるだけ長く続けていただくことで、保険会社の負担軽減にもつながります、というアプローチで、保険会社との提携を進めていきたいと思っています。
コミュニティの創出を
まちづくりの礎に
藤田 今回のお話のテーマであるまちづくりに、特に深く関わるのは不動産事業と生きがい創出事業ですね。
青木 「まごころアパート」事業が、主なご利用者として想定しているのは、中山間地域の一戸建てで独り暮らしをされているシニア世代です。
全国規模では、数百万人の方がこういった生活をされていますが、加齢とともに病院や郵便局、役所に通うのが大変になる。老朽化したお家の維持や、お庭の手入れも難しくなってきます。
ただ、引っ越したいと思ってもシニア世代の独り暮らしは貸し手のリスクが高い。受け入れてくれるところがないので引っ越せないという方に、市内近郊の「まごころアパート」をご紹介します。
また、ご入居の際には、ご希望に応じて、残されたお家の売却を私たちがお手伝いする。基本的には預貯金を取り崩しながら生活されているシニア世代にとって、まとまった手元資金が手に入る貴重な機会となります。
ここで大切なのは、アパートをコミュニティとして機能させるための工夫です。この役割を果たさなければ、「まごころアパート」はシニアが豊かに人生を送れる住まいではなく、ただの高齢者向けアパートになってしまう。
今回の構想では、この部分を「ジーバーFOOD」に担っていただきます。
お弁当の宅配を通じて生きがいを創出し、シニア世代の本来持っている力を引き出すビジネスモデル。アパートの住人の方がご一緒に参加していただける「ジーバーFOOD」事業を、必ずセットで展開します。
藤田 高級な老人ホームに入ることだけが幸せ、ではなくて、コミュニティが付属した住まいであるというところに、付加価値があると感じます。
永野 賃貸住宅では、隣の住人の顔も知らないということがままありますが、仕事という共通項があれば、ご近所さんとも自ずと仲良くなれる。お隣の人と一緒に仕事をしていれば、ここでも見守り合いが発生します。
実際の家族とは離れて住んでいても、「ジーバーFOOD」への参加を通じて、アパートの皆さんが“家族”になる。そんな後押しができればと思います。
貸し手から自治体まで
「まごころアパート」の多彩なメリット
青木 「まごころアパート」のメリットは、ご入居者だけではありません。
不動産屋さんは、シニアのアパートへの住み替えに伴う、不動産の売却を担当するチャンスが生まれますし、国からの補助金によるリノベーション工事を受注したり、住人の健康状態の見守りという、新しい管理業務を請け負うこともできる。
大家さんからすると、老朽化が進んでいたアパートを、補助金でリノベーションできる。付加価値をつけて家賃も上げられる。空室も埋まり、Wi-Fiセンシングによる見守りで、シニアに物件を貸し出すリスクも回避できる。
藤田 三者のメリットが揃っているところに、法整備が後押しをする。今までリスクであった高齢者への住宅の貸し出しが、一転して大きな市場に代わる訳ですね。
青木 あいらいふさんとともに進めている「まごころ入居相談」と合わせて、居住支援の選択肢が広がるという点でも価値があります。
例えば、本格的に介護が必要になって老人ホームに入居される前段階として、比較的健康なうちは安価な「まごころアパート」で生活していただく、といったケースも考えられる。シニアにとっての住環境整備を、両社が手を携えて進めていけます。
藤田 ここまでは経済面から「まごころアパート」のメリットを挙げていただいたのですが、まちづくりの観点から、もう一つ大きなメリットがあるとうかがっています。
青木 自治体のメリットです。
行政側からすると、中山間地域に住んでいるシニア世代のケアにはとてつもないコストがかかる。もし、何かあって救急車を呼ばれたら、片道40分もかけて走っていかないといけない。
中山間地域に住むシニア世代に、市街地に移り住んでほしいというのは、すべての自治体に共通した願いです。
「まごころアパート」は現在、富山市の「スマートシティ推進プロジェクト創出事業」にエントリーしています。採択されれば、2025年から同市内で、まごころアパートの整備が始まります。
藤田 借り手のシニアと大家さん、不動産事業者の3つのメリットに自治体のメリットが加わって、まさに都市設計の一翼を担う取り組みですね。
生きがいづくりの決め手
「ジーバーFOOD」の果たす役割
藤田 一点、気にかかる点を挙げると、すべてのアパートに宅配弁当の「ジーバーFOOD」を付属させるとして、そんなにお弁当を食べる人がいるの?という、需要と供給のバランスの問題でしょうか。
青木 そちらについては、永野社長のアイデアをお借りしてブレイクスルーを図ろうと考えています。
永野 介護業界もそうですが、飲食業界も今、人手不足がすごいんです。僕の知り合いの、仙台の方なら誰でも知っている老舗レストラン。いいお店なので出店依頼も多いのに、人材を確保できないという理由ですべてお断りしている。
別のお店は、青森のホテルから頼まれて朝食の提供をしているんですが、スタッフの一人が退職することになり、早朝の仕込みを誰がするのかという問題が解決できずに、撤退するそうです。有名店、人気のお店でもこういった現状が続いている。
「ジーバーFOOD」を始めてからの1年半、料理が得意なおばあちゃん、宅配をしてくれるおじいちゃんを募ってきましたが、本当に大勢の方に集まっていただけることがよくわかりました。この力をお弁当づくりだけでなく、他のことにも振り向けられないか。
そこで、「「ジーバーFOOD」のサービスの一環として、地域に根差して皆においしい料理を届けようと頑張ってきた飲食店を、おじいちゃんおばあちゃんたちが応援する「本当においしい応援隊」を立ち上げることにしました。
その街ごとの飲食店に、おばあちゃんたちが“出勤”していく。そんな光景を思い描いています。
一例として、最近、仙台の工業団地内で、工業組合が保有する食堂を20年運営されていた事業者が、人材不足を理由に撤退することになった。組合の理事長さんに声をかけていただいて、今度から「ジーバーFOOD」がその食堂を運営することになりました。
近隣に新興住宅街ができたエリアなので、土日は一般の方向けに開放することも想定しています。
シニアの社会参加を募る上で
欠かせない要素とは
青木 肝心な点は、飲食店が直接募集をかけても、おばあちゃんたちが個々に応じるとは限らないということですね。
永野 今、「ジーバーFOOD」に参加していただいている方で、純粋にお金だけが動機という方は、ほぼいない。
おばあちゃんたちには大きく三つの目標があって、①一緒に働ける仲間づくり、②料理スキルの向上など自らの成長、③地域への貢献です。
この3つを備えられずに、ただ仕事があるよ、お金が稼げるよという言葉には、シニア世代は反応しません。
ですから、「ジーバーFOOD」のクッションを間に入れることで、街に出ていくシニアをどんどん増やそうというのが、現在の僕たちの目標です。
藤田 生きがいづくりを考える上で、「ジーバーFOOD」のような“場所”を用意することが、非常に大切だということですね。
各地の「まごころアパート」に「ジーバーFOOD」を付属させることになった場合は、ユカリエからコーチ役、管理役のような人材を派遣するのでしょうか。
永野 ちょうど今、その仕組みを整えようとしています。
「ジーバーFOOD」を運営してみて痛感したことの一つが、管理スタッフが主導する形では、事業の持続性が得られないということです。社員が現場責任者となり、シニア世代に指示を出しながらでは、どうしても過剰な人員配置となってしまい、おばあちゃんたちとスタッフに報酬を支払い続けることができません。
たどり着いた結論は、現場をおばあちゃん、おじいちゃんたちに主導してもらい、足りない部分を会社が後方支援する運営です。
僕たちのポジションは、まとまった出資をして、この地域では今日、どういうニーズがあるか、どういった品目を多く揃えれば良いかといった情報がすべてタブレットに表示されるようなシステムを整備すること。現場のおばあちゃんたちがタブレットを片手に話し合い、自由に動き回るようなイメージですね。
そのために、これまでに培った「ジーバーFOOD」の手法を言語化して、システムに落とし込む作業を始めたところです。
藤田 システムを構築する上で、「ジーバーFOOD」の蓄積が活きる。それがあれば、全国でサービスを稼働させられる訳ですね。
シニアビジネスの新たな未来へ
これからのまごころサポート
青木 「まごころサポート」に加盟していただいて、これはメリットだと感じられたことはありますか?
永野 「まごころサポート」の世界観に触れて、シニア向けビジネスのあり方についてのヒントを得られたことが大きいと思います。僕が「まごころサポート」をまったく知らなかったら、「ジーバーFOOD」事業の構想は、おそらく全然違う方向に進んでいたんじゃないかな。
藤田 私は、この事業のフランチャイズに加盟している経営者仲間の方に合流したいという思いがありました。同じ志を持つ経営者が200人集まると、大企業よりもきっとすごいことができる、と。「まごころ入居相談」で、それがひとつ、形になったと思っています。
永野 シニアの日常生活のお困りごとを解決する「まごころサポート」の全国規模のネットワークから、さまざまなビジネスが派生する。それぞれが、シニア世代の安心・安全の確保から生きがい・やりがいづくりまで役割を担っていて、これらを連携させると、シニア世代に大切なもののすべてをお届けできる。
こんなことができる民間の事業者は、世の中に僕たちしかいないかもしれない。それを実現できることの凄さを感じています。
藤田 介護分野における公的給付の縮小傾向に合わせて、今後、民間企業が担う役割は確実に大きくなっていく。「まごころサポート」と加盟店のネットワークは、その中でも存在感を持って、“シニアが輝くまちづくり”に向けた指針を示すことのできる集団になっていくのではと期待しています。本日はありがとうございました。
【プロフィール】
MIKAWAYA21株式会社 代表取締役 青木慶哉さん
1976年生まれ、大阪府枚方市出身。23歳で読売新聞販売店の経営を始め、27歳で顧客1万2000件を抱える新聞販売会社に成長させる。2013年に会社を売却し、MIKAWAYA21を創業。シニア世代の日常生活のお困りごとを解決する「まごころサポート」事業のフランチャイズ展開を開始する。その後もさまざまなシニア向けビジネスを軌道に乗せ、2023年に新事業「まごころアパート」の立ち上げを発表。
株式会社ユカリエ 代表取締役 永野健太さん
1989年生まれ、北海道出身・宮城県仙台市在住。小学3年生から大学まで野球一筋。大手ハウスメーカーの営業として勤務した後、プロ野球選手を目指して退職し、一年間の野球浪人を経験する。不動産業界に復帰後、2015年より経営者となり、不動産の売買や賃貸事業とともに、リノベーションによる空き家の宿泊施設化などの事業を展開。近年は“地域に必要とされる事業づくり”を目標に掲げ、2022年に「ジーバーFOOD」を立ち上げる。
株式会社あいらいふ 代表取締役 藤田敦史
1973年生まれ、群馬県みどり市出身。大学卒業後、外資系金融機関で3年間、リテール営業を経験。その後、コンサルティング会社で中小企業の支援、大手営業会社の社長直轄部署でM&Aを担当する。45歳で株式会社ユカリアへ転職し、2020年6月に子会社化したあいらいふの代表取締役に就任。メイン事業の有料老人ホーム紹介業を中心に、近年は「シニアライフのトータルサポートカンバニー」として、ビジネスによる超高齢社会の課題解決を目指す。
取材・文/あいらいふ編集部
撮影/木下治子
介護情報誌『あいらいふ』編集部
【誌名】『あいらいふ vol.171(2024年6-7月号)』
【概要】 初めて老人ホームを探すご家族さまの施設選びのポイントをさまざまな切り口でわかりやすく解説。著名人に人生観を語っていただくインタビュー記事他、人生やシニアライフを豊かにするためのさまざまな情報や話題を取り上げて掲載。
【発行部数】4万部
【配布場所】市区役所高齢者介護担当窓口・社会福祉協議会・地域包括支援センター・居宅介護支援事業所・訪問看護ステーション・病院・薬局など1万か所