対談・インタビュー

【特別インタビュー】KAIGO LEADERS発起人 秋本可愛さんに聞く 2025年、介護のリーダーは日本のリーダーになれたのか?

2013年、介護を志す若者たちの自発的な集いから発足したコミュニティ「KAIGO LEADERS(カイゴリーダーズ)」。

「2025年、介護のリーダーは日本のリーダーになる」「すべての人に、カイゴリーダーシップを」のビジョンのもと、2025年を一つの節目としながら、介護をより良くするための活動を進めてきました。

本特集では、同プロジェクトの発起人であり、株式会社Blanket(ブランケット)の代表取締役を務める秋本可愛さんに、12年間の歩みを経て見えてきたことや、新たな介護リーダー像への期待についてうかがいました。

平成生まれが起こした 介護従事者たちのムーブメント

──2013年、秋本さんが大学在籍中に立ち上げられた「KAIGO LEADERS」は、今年で活動12周年を迎えました。発足の経緯を教えてください。

当時、私は介護のアルバイトをしながら、フリーペーパーの制作に携わり、介護に関心のある学生たちとのつながりを少しずつ築いていました。

介護は多くの課題を抱えている分野だからこそ、この領域に関心を持ち、問題解決に関わる若い人材を増やしたいと思ったのが始まりです。

ちょうど東日本大震災を経験した直後で、ボランティアに参加する人が増え、社会貢献に対する意識が高まっていた時期でもありました。“人の役に立つ”介護の仕事と、そうした社会的な気運が結びついたことも、発足の後押しになったと感じています。

──当初は、「HEISEI KAIGO LEADERS」」という名前で、平成生まれの若者限定のコミュニティだったそうですね。

始めたばかりの頃は、大人への反抗心がありました(笑)。大人の作った社会は課題ばかりで、私たちの世代が新しいものを生み出さなければという、使命感のようなものを感じていたんです。

でも、活動の中で、「大人は教える側、若い人は教わる側」という関係性も、場の作り方次第でいくらでも変えられると学びました。世代を超えて新しいものを生み出す関係性を築こうと考えをあらため、年齢制限は早い段階で撤廃しました。

「KAIGOLEADERS」の始まりは、「ただの飲み会」。平成生まれの若者たちが集まった

──発足1年で始めた「KAIGO MY PROJECT(カイゴ マイ プロジェクト)」の取り組みが注目を集めました。

「KAIGO MY PROJECT」は、介護の分野で新たなチャレンジをしたい人たちにプレゼンテーションをしてもらい、皆で一緒に何ができるかを考えるワークショップです。

参加者同士が、自分が何をしたいのか、なぜしたいのか、何を目標とするのかということに、ひたすら向き合います。もともと慶應義塾大学で始まった「マイプロジェクト」という教育手法があって、それを介護の分野に導入したんです。

このプロジェクトから、実際に起業された方も多くいます。たとえば、病院に勤める皮膚科医の先生が、介護施設向けに24時間体制の医療相談サービスを提供する会社を立ち上げたり。

視覚障がいのある親御さんのために、外出の機会を確保しようと、同行援護の事業を始めた方もいます。

介護業界に多くの人材を輩出した「KAIGO MY PROJECT」。起業した仲間も多数

──2019年には、オンラインコミュニティ「SPACE(スペース)」を開設しました。どのような目的で集う場ですか?

介護職、医師、看護師、リハビリ職など、メンバーの約5割が介護・福祉の分野に関わりのある方です。

ほかには、学生さんや、ご家族の介護に直面されている方、介護関連商品のメーカーに勤務する方など、「現場の声を聞きたい」「専門職とつながって視点を広げたい」という人たちも参加しています。

月に一度、定例会を開いて一つの課題を検討したり、メンバーが自主的にイベントを企画しています。「SPACE」のおかげで、全国からより多くの声を集められるようになりました。

オンラインコミュニティ「SPACE」のメンバーが顔を合わせる月に一度の定例会。一人ひとりの興味・関心に基づいて、共に学び、つながりを深めるきっかけをつくる

求められるリーダー像は 声を上げ、他人を巻き込む人

──これまでの活動を振り返って、特に印象に残っている出来事はありますか?

発足5周年のタイミングで行った、全国展開と「SPACE」開設のためのクラウドファンディングですね。

東京でのイベントに、大勢の方が集まっていただけるようになり、活動を全国に広げるため、新たな一歩を踏み出そうとしていた時期でした。

最終的には目標金額の600万円を大きく上回る、約850万円の資金を調達することができました。活動への共感が可視化された瞬間であり、自分たちに力がついたと実感したタイミングでもありました。

──「KAIGO LEADERS」から、どのような新しいリーダーが誕生しましたか?

先ほどご紹介したように、起業家の道を歩む人もいれば、地域に暮らすご高齢者と一緒に料理や食事をして、つながりを育む地域活動を始めた介護士の方もいます。

大切なことは“きっかけづくり”です。新しいことをやるときに「それ、いいね!」と肯定され、自信を持てる場所があること。そして、アクションのヒントになる学びや、パワーをくれる人との出会いが得られる場を提供することが、私たちの役割だと考えています。

──秋本さんの考える、介護リーダーに求められる資質とは?

介護業界ではいま、「こうなったらもっといいよね!」と声を上げられる人、創造性がある人、仲間を巻き込める人が強く求められています。

介護の現場は課題が見えやすい分、改善点を設定して、自分を取り巻く周囲の環境を、少しずつポジティブに変えていける力がとても大切です。

もちろん、リーダーのあり方は一つではありません。私たちは、介護の現状をより良くするためのすべての行動を”カイゴリーダーシップ”と呼んでいます。場合によっては「誰かを頼ること」さえも、その一つです。

介護に関わるすべての人が、それぞれの立場でできることをする。それも、これからのリーダーシップの一つの形だと思います。

介護の仕事に光をあてる 人を惹きつける人材採用の鍵は

──秋本さんは現在、介護業界の人材採用をサポートする「株式会社Blanket」の代表取締役も務めています。主な事業内容を教えてください。

「KAIGO HR」というサービス名で、介護・福祉事業における人材採用のコンサルタントやスタッフの育成、定着に向けた支援を行っています。

「KAIGO LEADERS」の活動を続ける中で、意欲ある若い人が疲弊し、業界を離れていく姿も目にしました。働く人にとって“良い組織”を増やしたいと思って始めたのが「KAIGO HR」です。

──「KAIGO LEADERS」は、団塊の世代全員が75歳以上になる「2025年問題」の解決を目指してスタートしたとうかがっています。深刻な介護の担い手不足を解決する糸口はどこにあると思いますか?

どの業界でも人手不足が言われていますが、実は介護業界で働く人の総数は増えているんです。問題は、ニーズの増加が就業者の増加を圧倒的に上回っていることです。

介護業界はいまだに、仕事がきつく、離職率が高いというイメージが先行しがちですが、近年は関係者の努力によって就労環境の改善が進んでいます。

離職率は、全産業の平均よりも低くなりました。実際に就職された方にとっては、働きがいのある職場ということですね。

ここからさらに、ネガティブなイメージを変えていくためには、処遇の改善に加えて、介護という仕事の価値や魅力を積極的に発信していくことが大切です。

介護は、人を相手にする仕事だからこそ失業リスクが低く、安定性が高い。人と関わることや、社会貢献に関心がある人には、最適な職業だと思います。こうした魅力をしっかり伝えていきたいですね。

介護職の声を伝える 「KAIGO LEADERS SCHOOL」

──2025年に、カイゴリーダーシップを発揮する人たちを増やす新たな取り組み「KAIGO LEADERS SCHOOL(カイゴリーダーズ スクール)」がスタートしました。

「KAIGO LEADERS SCHOOL」は、介護・福祉に特化したコミュニティ型オンラインスクールです。

SNS発信講座、ライティング講座、場づくり講座などを通して、介護職の魅力を発信する力や、地域との関係性を築くスキルを学び、伝える力を磨くことで人を巻き込める人材を育てていきます。

2025年10月から、第1期がスタートしました。幸いなことに、同スクールは厚生労働省の「令和7年度 介護のしごと魅力発信等事業(情報発信事業)」に採択され、意欲のある方に無料で受講いただいています。

──介護の魅力を伝えられる人材を育成した先に、どのような未来を描いていますか?

一般の方、特に若い世代は、ご高齢者と接する機会が少なく、介護に対する具体的なイメージを持てない状況にあります。介護の現場を知っている人間が、仕事の価値や魅力をきちんと伝え、その先に介護職を選択肢として考える人を増やしていくことが大切です。

近年、介護に直面する当事者の数は急増する一方で、社会全体の介護に対するリテラシーはあまり上がっていません。「介護を知っている人」を増やすことは、いまの日本にとって、非常に重要な課題だと思います。

「介護職を目指したい」と言うと、親に反対されるという若者の声を耳にします。介護に対する理解者が増えるほど、自信を持って目指せるようになるはずです。

──「KAIGO LEADERS」としては、介護のどのような側面を知ってほしいですか?

介護は、思ったよりもはるかに、ご利用者の人生を豊かに変えられる仕事だということです。要介護になっても介護の力を借りながら生き生きと生活している方や、介護サービスを利用して再び歩けるようになった方もたくさんいます。

多くの方が介護と真剣に向き合い始めるのは、親御さんの介護に直面する40~50代の頃だと思いますが、もっと若い世代に向けて、老いや介護の中の前向きな側面を伝えていけたらと感じています。

2025年のいま 見えてきた次のステージ

──2025年、介護のリーダーは日本のリーダーになれたのでしょうか?

2013年にこの目標を立てた当時の想いに照らすと、私自身は残念ながら「日本のリーダーになれた」と胸を張って言うことはできないと思っています。

「KAIGO LEADERS」は、「2025年、介護のリーダーは日本のリーダーになる」という目標を2022年に手放し、現在は「すべての人に、カイゴリーダーシップを」という新たなビジョンを掲げています。

私自身も会社を経営し、介護の担い手不足の問題に日々向き合う中で、介護業界を取り巻く課題は依然として深刻です。まだ現状を肯定できる段階ではありません。

ただ、私たちはこれからも「介護のある人生」を肯定できる社会を目指して、挑戦を続ける。そのことについてはお約束できると思っています。

おそらく、日本において最も介護のニーズが高まる時代を生き、その答えを出していくのが私たちの世代であることに変わりはありません。

以前、認知症の研究をされている慶應義塾大学の堀田聰子先生にお話をうかがったとき、「地域包括ケアシステムの構築をはじめ、さまざまな政策が2025年を目指して動いていますが、それは決してゴールではありません。

より持続可能な形で、私たちが『いい人生だった』と思えるまちをつくっていく、終わりのないチャレンジです」とおっしゃっていました。

実際に2025年を迎えてみて、今は次の時代へと向かうスタート地点に立っていると感じます。これまでの取り組み、いま見えている課題、そして自分たちが手に入れたい未来に向けてチャレンジを続けていくことが、ますます重要になると思います。

―─最後に、「KAIGO LEADERS」の今後のビジョンを教えてください。

2025年を迎えた今も、介護の現場にはまだまだ課題が山積しています。

当初は仲間と学び合い、切磋琢磨するチャレンジの場として立ち上げた「KAIGO LEADERS」ですが、

これからはより多くの人たちがアクションを起こすきっかけとなり、介護に関わるすべての人が自分の可能性を最大限に発揮できる環境づくりに力を注いでいきたいと考えています。 

一人ひとりの声が現場を、そして社会を少しずつ変えていく。その積み重ねが「介護のリーダーが、日本のリーダーになる」未来につながると信じています。

【プロフィール】
KAIGO LEADERS 発起人
/ 株式会社Blanket 代表取締役
秋本 可愛(あきもと・かあい)さん

1990年生まれ、山口県出身。大学生時代の介護現場でのアルバイトを通して「人生の終わりが必ずしも幸せではない」状況に問題意識を抱き、2013年、Blanketの前身となる株式会社Join for Kaigoを設立。「すべての人が希望を語れる社会」を目指し、介護・福祉事業者に特化した採用・育成支援事業「KAIGO HR」を運営する。介護に志を持つ若者が集う日本最大級のコミュニティ「KAIGO LEADERS」発起人。


【イベント振り返り】2025年、介護のリーダーは日本のリーダーになれたのか?

2025年8月、「KAIGO LEADERS」は12年間の活動を振り返るアンサーイベントを開催。これまでに生まれた数々のアクションを紹介しながら、「2025年を目指して掲げたビジョンに対して、自分たちがどこまで近づけたのか」を総括した。

また、「KAIGO MY PROJECT」卒業生たちによるピッチ(事業計画のプレゼン)も実施。高齢者向けの遠隔医療相談サービスや、視覚障がい者のための外出支援(同行援護)事業など、多彩な取り組みを発表した。

『2025年、介護のリーダーは日本のリーダーになれたのか?』
日時:2025年8月31日
場所:株式会社リジョブ オフィス(東京都豊島区)
主催:KAIGO LEADERS
運営:株式会社Blanket
会場協賛:株式会社リジョブ

【KAIGO MY PROJECT卒業生 ピッチ】
登壇者:
ドクターメイト株式会社 代表取締役・青柳直樹
博士/非営利型株式会社KOTOBUKI 代表取締役CEO・共同創業者/慶應義塾大学SFC研究所 上席所員・金子智紀
株式会社おとも 代表取締役・鈴木貴達
まほろばBASE代表・矢尾眞理子
まほろばBASE代表・山本春菜
モデレーター:
KAIGO LEADERS発起人/株式会社Blanket 代表取締役・秋本可愛
(敬称略)

取材・文:北林あい / 撮影:近藤 豊 / 資料提供:KAIGO LEADERS

豊かなシニアライフのための情報誌『あいらいふ』編集部
【誌名】『あいらいふvol.180(2025年11月27日発行号)』
【概要】初めて老人ホームを探すご家族さまの施設選びのポイントをさまざまな切り口でわかりやすく解説。著名人に介護経験を語っていただくインタビュー記事のほか、人生やシニアライフを豊かにするためのさまざまな情報や話題を取り上げて掲載。
【発行部数】4万部
【配布場所】市区役所の高齢者介護担当窓口・社会福祉協議会・地域包括支援センター・居宅介護支援事業所・訪問看護ステーション・病院・薬局など1万か所

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