【特集】日本マネジメント学会 第24回研究大会 ケアマネジメント従事者1,000人が幕張メッセに参集 当日の模様を密着レポート
2025年6月27~29日の3日間、千葉市の幕張メッセを会場に開催された「日本ケアマネジメント学会第24回研究大会」には、全国から約1,000人のケアマネジメント従事者が参加しました。
高齢化が進む日本社会において、介護を必要とされる方やご家族の相談に乗り、日々の生活を支援するケアマネジメントの役割は、ますます重要性を増しています。
ケアマネジャーの皆さんが、普段からどのようなビジョンを持って職務に取り組まれているのか。交流・情報交換の場である同大会を取材しました。

人・場所を問わず地域のサポート役に
いま、求められるケアマネ像とは
本大会は、日本ケアマネジメント学会、日本老年医学会、日本老年社会科学会など7学会が所属する日本老年学会との合同大会として開催されました。
会場には、全国から多数のケアマネジメント従事者が参加。
「ケアマネジメントの新たな展開:高齢・障害・児童・家族・職場・地域におけるケアマネジメントの連携・協働を求めて」を大会テーマに掲げ、ライブ配信やオンデマンド配信を併用して、全国に情報を発信しました。会場では、いくつものプログラムで立ち見が出るなど、大変な盛況となりました。
28日に行われた開会式では、同学会の理事長であり、本大会の大会長も務める国際医療福祉大学大学院教授の白澤政和氏が登壇。
今回の大会テーマについて「高齢者・障がい者・児童、また、家庭や職場など、人・場所を問わず、地域におけるすべてのライフサイクルに対応できるケアマネジメントが求められている」と、これからのケアマネジャー像を語るとともに、「ケアマネジメントを必要とするすべての人にサポートを提供できる仕組みをどのように作り上げていくのか、ともに考えたい」と、呼びかけました。

その後、来賓である韓国統合事例管理学会会長のクォン・ヒョンジョン氏が登壇。
「前日に開催された日韓の特別シンポジウム『日本・韓国での支援困難事例へのアプローチについて』では、両国のケアマネジメントの共通点と違いについて熱心な議論が交わされ、双方の経験と知識を共有する貴重な交流の場となった。
両国の独自の取り組みや成功事例の紹介を通じて、お互いに刺激を与え合い、より良い未来をともに築いていけることを願う。本大会が、両学会の協力関係をさらに強力なものにすると確信している」と祝辞を述べました。

大会会期中は、ケアマネジャーをはじめ、研究者、医療・介護従事者、官公庁関係者、介護関連サービス事業者など、さまざまな領域から多くの講師や演者を迎え、ケアマネジメントの社会的考察や研究成果についての講演・シンポジウムが多数実施されました。
また、研究発表では、事例検討、新人教育、多職種連携などのテーマのもと、全国各地から参加したケアマネジャーを通じて、現場におけるさまざまな実践についての報告が行われました。
ケアマネジャーの業務に関する技術的な側面だけではない、社会課題を重視したテーマ選びも多数。
災害時のケアマネジメントや、認知症のあるの方のケアマネジメント、支援困難事例への対応など、現場での経験をどのように実践に活かすかといった話題が多く取り上げられ、ご利用者とご家族に寄り添う姿勢を重視するケアマネジャーの職業観が反映されたディスカッションが、各会場で行われました。
そのほか、企業共催セミナーでは、AIを活用したケアマネジャーの日常業務の効率化、VR(仮想現実)プログラムによる認知症ケアなど、各出展社が自社製品・サービスのPRを行いました。
28日の講演終了後には、交流会を盛大に開催。全国から参集したケアマネジメント従事者の間で、地域の垣根を超えた活発な意見交換が行われ、盛況のうちに散会となりました。
なお、次年度の第25回研究大会は2026年5月、福井県で開催される予定です。
講演・シンポジウムを多数開催
さまざまな社会課題にフォーカス
3日間を通じて行われた多数の講演・シンポジウムの中から、概要をいくつかご紹介します。
●大会長講演
開会式後に行われた大会長講演では、白澤大会長が「利用者のエンパワメントとケアマネジャーの自己効力感を高めるために」と題してスピーチを行いました。
講演では、ケアマネジャーの人材確保に向けた施策として、介護報酬の改定に伴うケアマネジャーの処遇改善とは別に、ケアマネジャーの業務に対する“自己効力感”の向上が必須であると解説。
業務の効率化の枠に当てはまらない、ご利用者の質の高い在宅生活を支援することが、ケアマネジャーの自己効力感を高める要素であると述べ、ケアマネジャーがご利用者の生活を守る最後の砦となり、そのことを評価できる仕組みとするために、介護保険制度を見直していく必要があると論じました。
●医療と介護、ソーシャルワークの連携
本大会では、日本ケアマネジメント学会と日本老年学会の合同シンポジウム「医療と介護の専門性、どうつかむ・どう実践する・どうつなぐ」が開催されました。
同シンポジウムでは、医療・介護分野に携わる4名の専門職として、在宅医療専門医、訪問看護師、医療ソーシャルワーカー、ケアマネジャーが登壇。患者さんやご利用者、そのご家族をより良い形で支援するためにはどうすればよいか、現場での具体例について触れながら、職種や制度を超えた連携のあり方について議論を交わしました。
ケアマネジャーの相田里香氏が紹介したご利用者の事例では、医療・介護従事者がご利用者を必要な福祉サービスにつなぐ上で、どこまでの決定権を持つのか、ご本人の意思決定とのバランスをどのようにとればよいのかについて議論。
医師の石垣泰則氏は、「病院で診断を受けたときには頭が真っ白になってしまい、医師から受けた説明がほとんど記憶に残っていないという方も多い。多職種が協働してご利用者に対応することが、“尊厳が守られている”とご本人が感じられる医療・介護のポイントになる」
と述べ、ご本人やご家族との信頼関係を築く上で、ケアマネジャーや医療ソーシャルワーカーのように、ご利用者に寄り添い、併走する存在が重要になるとの考えを示しました。

合同シンポジウム
「医療と介護の専門性; どうつかむ・どう実践する・どうつなぐ」
パネリスト:
医療法人社団悠輝会 コーラルクリニック 院長・石垣泰則
(一社) Neighborhood Care 代表理事・吉江 悟
愛知厚生連江南厚生病院 患者連携室 室長・野田智子
日本ケアマネジメント学会 理事・相田里香
(敬称略)
豊かな地域社会への貢献を目指して
ケアマネジメント学会の取り組み
一般社団法人日本ケアマネジメント学会は、質の高いケアマネジメントを実現し、支援を必要とする人々の生活の質を高め、豊かな地域社会の創造に貢献することを目的として活動する学術団体です。
2000年の介護保険制度施行に伴い、ケアマネジメント制度が導入されたことを背景に、2001年7月に設立されました。
全国におよそ3000名の会員を擁する同学会では、ケアマネジメント分野に携わる産学の人材が協力し合い、実践と理論の両面から、国内におけるケアマネジメントの品質向上に取り組んでいます。
また、ケアマネジャーのさらなる資質の向上を目的として立ち上げた、同学会の「認定ケアマネジャー」制度は、2024年に創設20周年を迎えました。
今後、日本社会の高齢化がさらに進む中、ケアマネジメントの果たす役割は、ますます重要になっていきます。同学会では、すべての研究や制度設計が、ご利用者の視点にもとづいて行われるべきという理念の下、認定ケアマネジャー制度による人材育成を図り、研究結果を提言・意見表明という形で介護の現場に還元しています。

一般社団法人日本ケアマネジメント学会
https://jscm.jp/
取材:あいらいふ編集部/文:久下真以子/撮影:近藤 豊
豊かなシニアライフのための情報誌『あいらいふ』編集部
【誌名】『あいらいふvol.178(2025年7月31日発行号)』
【概要】初めて老人ホームを探すご家族さまの施設選びのポイントをさまざまな切り口でわかりやすく解説。著名人に介護経験を語っていただくインタビュー記事のほか、人生やシニアライフを豊かにするためのさまざまな情報や話題を取り上げて掲載。
【発行部数】4万部
【配布場所】市区役所の高齢者介護担当窓口・社会福祉協議会・地域包括支援センター・居宅介護支援事業所・訪問看護ステーション・病院・薬局など1万か所