対談・インタビュー

【特別インタビュー】ケアマネジャー制度の現在と未来 介護保険制度とともに歩んだ道のり 日本ケアマネジメント学会理事長・白澤政和さん

一般社団法人日本ケアマネジメント学会では、同分野に携わる研究者と実務者が協力し合い、理論と実践の両面から、国内におけるケアマネジメントの質的向上に取り組んでいます。

また、介護支援専門員(ケアマネジャー、以下ケアマネ)のさらなる能力の向上を目指す同学会の「認定ケアマネジャー」資格は、2024年に創設20周年を迎えました。

ケアマネジメントの現状と、ケアマネジャー制度の今後の展望について、介護保険制度の立ち上げにも携わられた、同学会の白澤政和理事長にお話をうかがいました。

学術と現場の循環を生み出す
認定ケアマネジャー資格

──認定ケアマネジャー制度が20周年を迎えました。あらためて同制度の意義について、お聞かせください。

「認定ケアマネジャー」は、本学会が認定・運営を行っている資格です。2004年にスタートし、今年で20周年を迎えることになりました。現在の認定ケアマネの数は1473人(2023年度末現在)を数えます。

ケアマネの上位資格として都道府県が認定する「主任ケアマネジャー」は、2006年の介護保険法改正に伴い誕生した公的資格ですので、それよりも早く創設されたことになります。

本学会では現在、認定ケアマネを「主任ケアマネに対するサポートや、新人ケアマネへのスーパービジョン(助言・アドバイス)ができる人材」と位置づけ、人材の育成に努めています。

認定試験は、学会への入会の有無を問わず、3年以上の実務経験を有するケアマネであれば受験が可能です。筆記試験ではなく、受験者が手がけた実際の事例を提出してもらい、事例についての口頭試問によって、ケアマネジメントの現場における受験者の能力を判定します。

認定ケアマネは民間資格ではありますが、同資格を取得していれば、都道府県の認定する主任ケアマネになるための実務期間の要件を、5年から3年に短縮することができます。また、主任ケアマネの更新研修については、本学会で研究発表した経験、あるいは認定ケアマネであることが受講要件の一つにもなっているなど、行政側からも高い評価を受けています。

本資格は学会との連携を不可欠な要素として成り立つものであり、新たな知識を意欲的に取り入れ続ける姿勢が求められることから、5年ごとの更新制を採用しています。資格の更新には、本学会が定めた研究大会や研修会などに参加し、規定のポイントを取得しなければなりません。

本学会では、認定ケアマネを単なる認定資格ではなく、このような形で、常に自主的に研鑽を積む経験につなげてきたという自負を持っています。今後も、同資格を通じて、介護業界に貢献する有用な人材の輩出を目指します。

深刻化するケアマネの人手不足
課題は待遇改善と“効力感”の向上

──現在、介護の現場では、ケアマネの人員不足が深刻化しています。人手が足りない中で、ケアマネジメントの質を保つ難しさをどうお考えでしょうか。

ケアマネの有効求人倍率は現在、4倍を超えており、介護分野でも突出して高い水準です。

昨年12月に厚生労働省が公表した、2024年度からの介護報酬改定の大枠では、居宅介護支援事業所の経営改善、およびケアマネの報酬増を目的として、運営基準を見直すとしています。

テレビ電話などを活用したオンラインモニタリングの導入や、基本報酬の減算が適用される担当件数を従来の一人あたり40件以上から45件以上(条件が整えば50件以上)に引き上げるなど、ケアマネ一人あたりが受け持つ件数を引き上げる方針が明らかになりました。

一方で、こういった施策を過剰に進めると、利用者に提供するサービスの質の低下や、ケアマネの業務量の増加を引き起こしかねません。将来のケアマネジメントの質をどのように担保していくのか。非常にリスクが大きく、大変な問題だと感じています。

なぜケアマネの志望者が少なくなってしまったのか。2018年に行われたケアマネ受験資格の厳格化なども一因といえますが、大きな要因としては、介護職員の待遇改善が先行して進められていることが挙げられます。

ご利用者の生活と、必要とするサービスをよく知る介護職員は、ケアマネを目指す上で適したポストです。

従来は、介護職の経験を活かしてケアマネへの転身を図るルートが、報酬面を含むキャリアアップにつながっていましたが、近年の「介護職員処遇改善加算」をはじめとする各種施策の導入により、一部では勤続年数による介護職員とケアマネの報酬の逆転が生じており、転職への動機づけが弱くなっています。

介護従事者の報酬引き上げが進む中、蚊帳の外に置かれていたケアマネの待遇の見直しは喫緊の課題です。

もう一つは、ケアマネという職種における、仕事に対する“効力感”の向上です。

ケアマネが仕事の面白さ、やりがいを感じ、それを広く“見える化”していかなければなりません。ところが実際は、現場のケアマネの疲弊ばかりがクローズアップされているのが現状です。

ケアマネは、2000年に設立された介護保険制度を基にして生まれた、比較的新しい職業です。両制度は20年以上にわたり、二人三脚の関係で歩んできました。一方で、介護保険という仕組みの中で、ケアマネは自由裁量の面で大きな縛りを課せられています。

例えば、介護を受ける方にとどまらず、その方が亡くなられた後に、取り残されたご遺族の精神面をケアする「グリーフケア」と呼ばれる支援を必要とされる方もいます。

ご遺族と一番密接に関わってきたのはケアマネですから、ケアマネがその役割を担うべきだといえるでしょう。

ところが、介護保険はご本人が存命の間しか適用されません。ケアマネがグリーフケアを提供しようとしても、介護保険にはそれを評価する仕組みがないのです。

こういった問題は、要介護認定を受けてはいないものの、いわゆる“ゴミ屋敷”に住んでいる高齢者なども該当します。こうした方々の多くはケアマネジメントを必要としていますが、制度の枠外にあるため、ケアマネが関わることは制度的にできません。

このように、多くの人に介護を提供することを目的とする介護保険と、利用者一人ひとりのニーズを満たして、在宅生活を支えるケアマネという二つの制度は、基本的な考え方を同じくする訳ではありません。制度がスタートした時から、出発点が異なることによる矛盾を抱えているのです。

私は、介護保険制度の設計にも携わってきましたが、これまでの24年間を振り返って、この矛盾が少しずつ顕在化してきているという思いがあります。

ケアマネは、高い職業倫理観を備えたエキスパートです。相談を通じて利用者やご家族との信頼関係を築き、助けとなる、ケアマネの仕事の奥深さとやりがいには、他の仕事に類を見ないものがあります。

介護保険とケアマネジメント制度の間で現実的に折り合いをつけながら、もう少しケアマネの自立性を尊重した仕組みを作っていかなければいけません。こうした取り組みが、ケアマネの志望者を増やしていくことにもつながります。

介護サービスの提供だけではない
ケアマネの果たすべき役割

──介護保険制度において、ケアマネはどのような役割を担っているとお考えでしょうか。

ケアマネジメントは、基本的に介護サービスなどの提供を通じて利用者のQOL(生活の質)を高め、在宅介護を支える仕組みですから、ケアマネは社会保障費用の抑制にも貢献しています。

介護保険制度では、できる限り長く在宅生活が続けられることを目指してきました。介護保険ができた当初は、3人に1人が施設入所でしたが、現在は介護サービス利用者の7人に1人が施設入所となっています。

高齢者者施設に入居できない“施設難民”が発生せずに済んでいる背景には、ケアマネの貢献があると言えます。

また、ケアマネジメントには利用者に必要なサービスを提供するだけでなく、その人の本来持っている力や意欲を引き出す「ストレングスモデル」といった考え方があります。

ADL(日常生活動作)の向上や維持についても、利用者だけではモチベーションを保つことは困難です。ケアマネが寄り添い、本人の意欲を引き出せるようなケアプランを作成することで、利用者の意識も変わります。

こういったアプローチによって在宅での生活をより長く続けられるようになり、介護保険制度の財政負担の軽減にもさらに寄与します。

今後、この分野の研究を進めることで、ケアマネの多角的な評価につなげていかなければならないと考えています。

介護保険制度とともに歩む
ケアマネの未来

──介護保険制度とケアマネの将来像についてお聞かせください。

高齢者の介護を社会全体で支えることを目的に施行され、現在は約690万人(要介護・要支援認定者数)が利用する介護保険制度は、これまでに6回の改正が行われ、その中身はいっそう複雑になっています。

また、さまざまな新しいサービスも登場しています。介護保険の仕組みやサービスを、ケアマネの存在によって利用者にわかりやすく提示することは重要です。

ケアマネがいるから、必要なサービスとつながることができる。一方で、介護保険によるさまざまなサービスが整備される。これらが相互に作用することで、在宅での生活が可能となり、ケアマネの仕事が有効なものになります。

我々がケアマネジメントで目指しているもっとも基本的なテーマは、必要なサービスにきちんとワンストップでつなげられるかという点です。

行政が縦割りのままでは、利用者はあちこちに足を運ばないといけない。医療、住まい、生活、そういったものを一体的に支援できるようになれば、長期の在宅生活を支えられる。それを一か所でできる仕組みを実現したのが、2000年に成立した介護保険法です。

介護保険が始まる前夜は、さまざまな理由で治療が終了しても退院できない「社会的入院」が問題になっていた時代でした。

社会の要請に応じて、必要とされる在宅サービスにワンストップでアクセスできる介護保険制度が生まれ、入院患者が自宅に退院していくことを可能にする仕組みができたのです。

先ほども申し上げた通り、ケアマネジメントと介護保険は別個のものです。ケアマネジメントの基本的な考え方と、介護保険という環境下で起こってくる矛盾にどのように折り合いをつけて、利用者に質の高い在宅生活を送っていただくかが課題です。

私自身は、現在の介護保険制度もケアマネジメントも、それぞれは大変に素晴らしい制度であると評価しています。

一方で、今後は、介護保険外のサービスをビジネスとして拡充させる流れも進むでしょう。官民を問わず、主体的に福祉を支えるという視点の下、ケアマネが適切なサービスを利用するよう支援することで、多様な介護サービスが有効に共存できると思います。

今後も、日本社会の高齢化が進む中、ケアマネの役割が一段と重要になることは明白です。

本学会では、すべての研究や制度設計は、利用者の視点を中心に検討されるべきという理念の下、実務を担う日本介護支援専門員協会などの職能団体とも連携しながら、研究結果を広く普及させていくとともに、認定ケアマネ制度による人材育成を図り、介護の現場に還元していきます。

【プロフィール】

国際医療福祉大学大学院教授/日本ケアマネジメント学会 理事長 白澤政和さん

1949年生まれ、三重県名張市出身。博士(社会学)。1974年大阪市立大学大学院修士課程修了、1994年同大学生活科学部人間福祉学科教授、2011年同大学名誉教授、桜美林大学大学院老年学研究科教授、2019年国際医療福祉大学大学院医療福祉学研究科教授。『ケースマネジメントの理論と実際』で第7回吉村仁賞、第3回福武直賞受賞。他の著書に『ケアマネジメントの本質』(中央法規出版、2018年)など多数。

同学会では、「認定ケアマネジャー」の認定、各種研修の企画、ケアマネジメントに関する調査研究活動などを行っています。

日本ケアマネジメント学会
https://jscm.jp/

取材・文・撮影/あいらいふ編集部

介護情報誌『あいらいふ』編集部
【誌名】『あいらいふ 2024年2-3月号』
【概要】 初めて老人ホームを探すご家族さまの施設選びのポイントをさまざまな切り口でわかりやすく解説。著名人に介護経験を語っていただくインタビュー記事他、人生やシニアライフを豊かにするためのさまざまな情報や話題を取り上げて掲載。
【発行部数】4万部
【配布場所】市区役所高齢者介護担当窓口・社会福祉協議会・地域包括支援センター・居宅介護支援事業所・訪問看護ステーション・病院・薬局など1万か所

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