【特集】日本医療ソーシャルワーカー協会 20年ぶりに東京で全国大会開催
2023年6月17~18日の両日、東京・江東区有明のTFTホールを会場に、「第71回 公益社団法人日本医療ソーシャルワーカー協会全国大会」および「第43回 日本医療社会事業学会東京大会」が開催されました。
老人ホーム紹介業を主事業の一つとするあいらいふにとって、施設探しをするご相談者との架け橋となってくださる医療ソーシャルワーカー(MSW)の皆さんは、かけがえのないパートナーです。普段からどのようなビジョンを持って職務に取り組まれているのか。交流・情報交換の場である全国大会の取材におうかがいしました。
変動するコロナ禍後の社会
必要とされるMSWのあり方を検討
日本医療ソーシャルワーカー協会は、保健医療分野で働くMSWの全国組織として1953年に設立されて以来、70年間にわたり、患者さんやそのご家族が抱えるさまざまな問題の解決や、社会復帰の促進に向けた取り組みを続けてきた、歴史ある団体です。
今回、20年ぶりの東京開催となった同協会の全国大会には、全国から1400人を上回る多数が参加。「社会変動の中の医療ソーシャルワーカー─支援者としてかけがえのない存在であり続けるために─」をテーマに掲げ、ライブ配信やオンデマンド配信を併用して全国に情報を発信しました。
初日の開会式では、同協会会長の野口百香氏、続いて本大会の大会長を務める東京都医療ソーシャルワーカー協会会長の平田和広氏が登壇し、本大会を通じて、コロナ禍以降の社会において求められるMSWの役割について議論を深めるよう、呼びかけを行いました。
その後、来賓の厚生労働省 健康局健康課 保健指導室長・五十嵐久美子氏による祝辞に続いて、江東区長・木村弥生氏、東京都知事・小池百合子氏、巨人軍終身名誉監督・長嶋茂雄氏らからのメッセージが相次いで紹介され、会場は盛り上がりを見せました。
2日間の会期中は、MSWをはじめ、医師、文化人、研究者、官公庁、大学教員など、多彩な領域から多くの講師や演者を迎え、社会的考察や研究成果についての講演や発表が行われました。また、別会場で開催された分科会では、事例検討、新人教育、業務分析・業務開発などのテーマのもと、各地のMSWから、現場におけるさまざまな実践についての報告が行われました。
今大会の取材を通じて印象に残ったのは、MSWの業務に関する技術的な側面だけではない、社会課題を重視したテーマ選びです。
シンポジウムやワークショップでは、若くして家族の介護を担う立場に置かれたヤングケアラーとのかかわり方や、東日本大震災の支援活動を通じて得た体験を現場での実践にどのように活かすかといった話題が多く取り上げられ、社会に寄り添う姿勢を重視するMSWの職業観が反映されたディスカッションが、各所で行われました。
初日の講演終了後には、交流会を盛大に開催。全国から参集したMSWの間で、地域の垣根を超えた活発な意見交換が行われ、盛況のうちに散会となりました。
なお、2024年度の第72回全国大会は、大分県で開催される予定です。
講演・シンポジウムを多数開催
さまざまな社会課題にフォーカス
多数の講演・シンポジウムの中から、概要をいくつかご紹介します。
●基調講演
開会式後に行われた基調講演では、「医療ソーシャルワーカーに求められる2・5人称の視点」と題して、ノンフィクション作家の柳田邦男氏が登壇しました。
講演の中で柳田氏は、医療・福祉に携わる専門職にとって、患者さんやご家族は、赤の他人である“3人称の命”ではないと指摘。MSWには、患者さんの生活や仕事、家族、さらには周囲の人間関係や人生観・死生観といった背景をとらえつつ、広い視野に基づいたサポートを行う役割が求められると述べ、「MSWが、患者さんやご家族に寄り添う姿勢と、プロとしての冷静な対応を両立させるために、どのような社会的施策が必要になるか」について提言を行いました。熱のこもった講義に、参加者は熱心に聞き入りました。
●プライマリ・ケア医とMSWの連携
本大会では、日本医療ソーシャルワーカー協会と、一般社団法人日本プライマリ・ケア連合会との共催によるシンポジウムが開かれました。
プライマリ・ケア(総合診療)は、特定の疾病の診療に従事することの多い専門医療とは異なり、急に体調が悪くなったなど緊急時の診療から、健康診断の結果についての相談まで対応する、“かかりやすさ”を重視した地域医療のことを指します。日常生活の早い段階から継続的なケアを提供することで、患者さんの健康上の問題を早期に解決できるという考えに基づいた医療の側からのアプローチであり、ソーシャルワークの考え方との共通点が多いことで知られています。
同シンポジウムに参加した大阪医科薬科大学の西岡大輔医師は、患者さんが、社会的・経済的な側面からも健康な生活を取り戻す上で、福祉と医療の連携に対する期待はますます高まっていると述べ、プライマリ・ケア医とMSWのさらなる協働について、期待を表明しました。
また、野村病院MSWの名田部明子氏は、自治体が医療・介護などが一体的に機能する「地域包括ケアシステム」を構築するためには、各専門職が共通の基盤として、プライマリ・ケアの考え方を習得する必要があると述べるとともに、多職種連携の中でMSWが果たすべき役割について言及しました。
地域社会の頼れるサポーター
MSWの果たす役割
健康な日常生活を送っているうちは、なかなか出会う機会のないMSWというお仕事。一体、どのような職業なのでしょうか。
一般的に、日本では「社会福祉士」、または「精神保健福祉士」の国家資格を取得した方を“ソーシャルワーカー(SW)”と呼称しており、その中でも医療機関で働いている人々のことを特に“医療ソーシャルワーカー(MSW)”と呼んでいます。
厚生労働省の策定した『医療ソーシャルワーカー業務指針』では、MSWの業務として,次の6つを挙げています。
① 療養中の心理的・社会的問題の解決援助:
患者さんとご家族が安心して療養に専念できるよう、心理的、社会的な問題のご相談に応じ、解決をサポートします。育児や教育、就労に関わる不安の解消、家族関係および人間関係の調整、また、患者さんの死によるご家族の精神的苦痛の軽減、生活の再設計への援助なども行います。
②退院援助:
主治医をはじめ、病院内のスタッフと連絡・調整を取りながら、退院後の在宅復帰へ向けた支援を行います。在宅復帰が難しい場合は、適切な転院先や入居施設のご紹介・調整を行います。
③社会復帰援助:
退院後の社会復帰が円滑に進むように、患者さんの職場や学校と調整を行い、復職、復学を支援します。
④受診・受療援助:
患者さんやご家族に対して、適切な医療の受け方や、病院・診療所についての情報提供を行うほか、必要に応じて診療の参考となる情報を収集し、医師や看護師へ提供します。
⑤経済的問題の解決・調整援助:
患者さんが医費、生活費に困っている場合に、福祉、保険の諸制度を活用できるよう、支援します。
⑥地域活動:
関係機関と連携しながら、地域の保健・医療・福祉システムづくりに貢献します。
MSWの援助が必要とされる事例は、往々にして制度と制度の狭間にあることが多く、身体的・心理的・社会的・経済的な問題が複雑にからみ合っているケースがしばしば発生します。このため、MSWは、状況を正しく把握し、課題解決に向けて動く高度な判断力と、社会保障制度についての広範な知識を要求される一方で、困難な立場にある人々の事情を理解する、熱意や思いやりを求められる職業でもあるのです。
MSWは高い職業倫理観を備え、さまざまな問題を抱えた患者さんやご家族の助けになってくれる頼もしい存在です。MSWは、多くの病院、診療所などの保健医療機関に在籍しています。ご相談をご希望の方は、各地域の保健医療機関にご確認の上、一度相談されてみてはいかがでしょうか。
高齢化が進む日本社会において、ますます欠かせない存在となっていくMSWという職業。シニア世代が悔いのない、充実したセカンドライフを送れるように、あいらいふはこれからも、MSWの皆さんと協力し、共に支え合いながら併走していきます。
同協会では、「認定医療ソーシャルワーカー」の認定、各種研修の企画、求人情報の紹介などを行っています。
日本医療ソーシャルワーカー協会
https://www.jaswhs.or.jp/
介護情報誌『あいらいふ』編集部
【誌名】『あいらいふ 2023年8-9月号』
【概要】 初めて老人ホームを探すご家族さまの施設選びのポイントをさまざまな切り口でわかりやすく解説。著名人に介護経験を語っていただくインタビュー記事ほか、人生やシニアライフを豊かにするためのさまざまな情報や話題を取り上げて掲載。
【発行部数】4万部
【配布場所】市区役所高齢者介護担当窓口・社会福祉協議会・地域包括支援センター・居宅介護支援事業所・訪問看護ステーション・病院・薬局など1万か所