対談・インタビュー

【経営トップ対談 vol.01】民間企業のチカラで超高齢社会を支える

2025年、団塊の世代にあたる約600万人が全員、75歳以上の後期高齢者となり、いわゆる「超高齢化社会」に突入する日本の福祉・介護制度は、大きなターニングポイントを迎えます。

こうした現状を踏まえて、シニア世代のお困りごとをサポートする生活支援サービス「まごころサポート」を展開するMIKAWAYA21と、老人ホーム紹介事業を手がける「あいらいふ」は、将来を見据えた業務提携を発表。両社の経営トップが描く“理想の高齢化社会”とは、どのような姿なのでしょうか。

新聞販売店の生き残り策から
「まごころサポート」誕生

青木 高校卒業後、伯父の経営する新聞販売店で飛び込みの訪問営業を2年間やっていました。読売新聞が主催する営業コンクールでは、2年連続で優勝したこともあります。そうした経験を買われ、23歳の時に読売新聞社からの誘いで、小さな新聞販売店を一つ任せてもらえることになりました。

当時は新聞販売が好調な時代。購読契約は順調に伸び続け、4年後には顧客1万2000件を抱える関西最大の新聞販売会社に成長します。

ところが、時代の流れとともに世の中の新聞離れが加速していき、新規の契約件数も伸び悩むようになりました。

そこで、営業エリア内の顧客の皆様に1日でも長く新聞を購読していただくため、1軒ずつ訪ねて、どのようなご要望があるのかを聞いて回ったところ、「野球の観戦チケットはもういらない。それより庭の草むしりや障子の張り替えをしてくれたほうがよっぽど助かる」という声がたくさん聞こえてきました。

新聞は、購読層の多くが60〜70代のシニア世代です。それならいっそ“暮らしのお困りごとを解決するサービス”を新しく立ち上げようと思い、「まごころサポート」をはじめました。すると、シニアの方々から「うれしい」や「ありがとう」といった感謝の言葉をいただくようになります。しかも、そうした口コミや評判が、新聞の購読契約にもプラスの効果をもたらしました。

その後、“暮らしのお困りごと解決”を求めている方たちが世の中には大勢いらっしゃることを知り、「まごころサポート」を本格的に世に広めていくほうが、社会的意義のある事業ではないかと悩むようになります。熟慮の末、関西一の規模に育て上げた新聞販売会社を売却し、2012年にMIKAWAYA21を立ち上げました。

現在、まごころサポートの活動に賛同し、加盟していただいている企業の総数は180社(取材時点)を突破しています。ビンのふた開けやゴミ出し、買い物代行などのちょっとしたお困りごとやお願いから、ご自宅の清掃クリーニング、旅行のアテンドまで、コンプライアンスに抵触しない内容であれば、基本的にどのようなご要望でもワンストップで対応しています。

新たな付加価値を生む
“理想の業務提携”

藤田 東京の多摩エリアに新しい相談室の開設を検討していた時、偶然、「まごころサポート」の広告を目にしました。直感的に「これはあいらいふの心強いパートナーになってもらえる」というイメージが湧き、すぐに資料を取り寄せ、2週間後にはフランチャイズ事業への加盟を決定しました。

そして2022年2月下旬、吉祥寺(東京都武蔵野市)に「まごころサポート」とあいらいふの両方を利用できる新しい相談室をオープンしています。

弊社は業歴22年目。1都3県の6か所(取材時点)に相談室を設けているのですが、ご相談から解決(施設へのご入居)にまで至るのは、相談件数全体の3割ほどです。ご本人から強い入居希望があった場合でも、経済的な理由や諸般の事情により、断念される方も少なくありません。

不必要になった家財の処分や不動産の売却、身元保証など、ご入居時のトータルサポートを提供している私たちにとって、こうした現実は大きな課題の一つでした。

今回の業務提携は、これまで解決に至らなかった方々へ向けて“新たなアプローチ”の道筋を開くものと考えています。ご自宅で過ごされている間は「まごころサポート」をご利用いただく一方、お客様の介護ステージが上がってしまい、施設へのご入居が必要になった場合は、すぐに弊社の経験豊富な相談員が対応します。こうした試みを継続していけば、高齢化社会をより円滑に下支えできる「新たな付加価値」が創出されると思います。

電通と協力して進める
「シニアの本音ビッグデータ」解析

青木 弊社がお願いしているコンシェルジュ(有償ボランティア)のみなさんは、活動される地域ごとに募集を行い、学生や会社員、専業主婦など、年齢・性別を問わず、多くの方々にご協力をいただいています。

これはちょっとしたこぼれ話ですが、コンシェルジュがご自宅にうかがい、サポートをする中で、人生経験の豊富なシニアのご利用者から、ためになる人生のアドバイスをしていただくこともあるそうです。

実際に「貴重なお話をありがとうございました!」と、お礼を言って帰る若い学生さんもいて、単にお金のやり取りだけでは得られない“世代間交流”や“価値の交換”が行われていると思います。

藤田 私が感心したのは、まごころサポートのコンシェルジュになると、DIYやガーデニングなど、サポートを行う上で必要となるスキルを、「まちなか大学」のオンライン講座で無料で受講することができる点です。

正直に申し上げて、介護や福祉といった仕事は個人のボランティア精神に依存する面がまだ強く残っており、場合によっては、やりがい搾取を疑ってしまうような企業もあります。その点、まごころサポートは可能な限り、事業を支えるコンシェルジュのために、利益を還元する仕組みを構築していると感じました。

青木 訪問先のお客様とのやり取りは、各コンシェルジュがスマホに記録を残しています。私はこれを「シニアの本音ビッグデータ」と名付け、電通さんのプロジェクトチームと共にデータの解析を行い、さらなるサービスの深化や、次世代の商品開発に活用しています。

その一つが「100歳でも使えるデバイス」というユニークな発想から誕生した、「マゴコロボタン」。このデバイスはコンセントに差すだけで使えて、面倒な設置工事やWi-Fiもいりません。大きな青いボタンを押すとコールセンターのスタッフにつながり、お客様のご用件をうかがうことができます。

また、毎日の天気予報や防災情報(地震・大雨・台風)、ラジオ体操に豆知識やクイズ、服薬管理などにも対応しています。加えて、コールセンター側からの呼びかけができるコール機能も付いています。

佐賀県のみやき町では、私たちが作った「マゴコロボタン」を、地元のシニアが暮らす300世帯に配布していただきました。自治体への導入は初めてのことで、“ゴミの日”をお知らせしたところ、ゴミ出しの間違いがなくなったそうです。

よく、シニアの方に「何かあったらお電話ください」とお伝えすることがあるのですが、こちらに気を使って遠慮される方がほとんど。でも、このマゴコロボタンがあれば安心です。ボタン一つでつながって、簡単にコミュニケーションが取れますからね。

専門の才能を結集して描く
今後のビジョンとは──

藤田 今の日本は少子高齢化の影響により、社会保障制度を支えている現役世代が減少の一途をたどっています。将来、国や行政だけでは対応が難しくなるかもしれない。

もしもの時は、「まごころサポート」やあいらいふのようなノウハウを持つ民間企業が、力を合わせて対応に当たらねばなりません。「まごころサポート」にフランチャイズ加盟する44業種180社(取材時点)が団結すれば、世の中を動かせる大きなパワーを発揮するのではないでしょうか。

青木 「まごころサポート」では、シニアのサポートだけでなく、生きがいを創造する活動も積極的に行っています。

以前、90歳の方から「友だちがみんな亡くなって寂しい……」という声をいただきました。そこで、2022年10月から、シニア向けの文通サービス「まごころ文通」というサービスを始めてみました。最初はいろいろと質問に答えていただき、相性の良さそうな方をご紹介してから文通がスタートします。もちろん、「まごころサポート」の事務局が間に入るので、安心してご利用いただけます。

また、宮城県仙台市では、「ジーバーFOOD」という飲食系の活動も展開しています。料理好きのおばあちゃんたちがお弁当を作り、法人契約した会社におじいちゃんたちがお届けするというスタイル。活動で得た収益は運営費などを除いて、みなさんに利益の配分をしています。「若い世代の健康を支えたい」と、一生懸命に取り組んでくださっている姿が素敵です。

藤田 シニアでも「まだまだ働きたい」という方は、労働力をご提供いただく代わりに、そこで得た収益を将来の老人ホーム入居費用に充当できるとか、何らかの形で恩恵を受けられるシステムが作れないか考えています。

加えて、認知症や経済的な問題で入居できなかった方々が、一時的にでも快適に暮らせる施設があるといいですね。いろいろと模索している途中ではありますが、全力で解決に取り組んでいくつもりです。

青木 「まごころサポート」は“共創”がテーマ。私は「集合天才(専門分野の才能を集めて、天才を凌ぐ存在を作り出す)」という言葉を大切にしています。老人ホームのご入居相談を手がけるあいらいふさんをはじめ、タクシー会社さんや牛乳屋さんなど、多くのビジネスパートナーとクロスオーバーしていくことで、素晴らしい化学反応を起こせると信じています。シニアが楽しく幸せに暮らせるサービスの実現を進めていきましょう。

藤田 あいらいふには22年の紹介・相談実績があります。「シニアライフをコーディネートし、介護業界の未来を支える」という企業理念の下、日本の高齢化社会を支えていかなければなりません。

そのためにも現在の事業にこだわらず、質の高いサービスを提供し続けていく必要があると感じています。あいらいふが「あってよかった」ではなく、「なくては困る」と言ってもらえる存在になるために、しっかり精進していきたいですね。

MIKAWAYA21株式会社
代表取締役 青木慶哉さん

大阪府枚方市出身。高校卒業後、伯父の新聞販売会社で飛び込み営業を経験し、読売新聞の営業コンクールで2年連続優勝。23歳で新聞販売店の経営を始め、27歳で顧客1万2000件を抱える関西最大の新聞販売会社に成長させる。その後、2012年に会社を売却し、MIKAWAYA21を創業。高齢者の日常生活のお困りごとを解決する「まごころサポート」事業のフランチャイズ展開を開始する。その後もさまざまなシニア向けビジネスを軌道に乗せ、高齢者の皆様が安心して暮らせる社会の実現に向けて邁進中。

株式会社あいらいふ
代表取締役 藤田敦史

1973年生まれ、群馬県みどり市出身。大学卒業後、外資系金融機関で3年間、リテール営業を経験。その後、コンサルティング会社で中小企業の支援、大手営業会社の社長直轄部署でM&Aを担当する。45歳で株式会社ユカリアへ転職し、45歳で株式会社ユカリアへ転職し、2020年6月に子会社化したあいらいふの代表取締役に就任。メイン事業の有料老人ホーム紹介業とともに、「まごころサポート」のフランチャイズ加盟店として、ビジネスによる超高齢社会の課題解決を目指す。

介護情報誌『あいらいふ』編集部
【誌名】『あいらいふ 2022年12月-2023年1月号』
【概要】 初めて老人ホームを探すご家族様の施設選びのポイントを様々な切り口でわかりやすく解説。著名人に介護経験を語っていただくインタビュー記事他、人生やシニアライフを豊かにするための様々な情報や話題を取り上げて掲載。
【発行部数】4万部
【配布場所】市区役所高齢者介護担当窓口・社会福祉協議会・地域包括支援センター・居宅介護支援事業所・訪問看護ステーション・病院・薬局など1万か所

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