対談・インタビュー

【特別対談「経営論」】経営者が思い描くそれぞれのストーリー シニアが生き生きと暮らせる未来とは

現役東大生で株式会社emome(エモミー)の代表を務める森山穂貴(もりやま・ほだか)社長。「日本にエフィカシー(自己効力感)※をもたらす」をミッションに、動画を使ったデジタルレクリエーション「シニアカレッジ」をはじめ、介護する側、される側の課題解決やモチベーションアップにつながるサービスを展開しています。

あいらいふとエモミーの出会いは、2024年3月、東京ビッグサイトで開催され、両社が出展した「CareTEX東京2024」。会社の規模や事業内容は違えど、介護ビジネスにかける熱い想いに共感した両社。人生100年時代に向けて、シニアの輝きを創出するための取り組みや将来像について、両代表に話を聞きました。

起業の原点にもなった
高齢者の言葉と海外での経験

──最近、日本でも学生時代に起業する方が増えています。森山社長は、どういった理由から介護に特化した事業を立ち上げたのでしょうか?

森山 祖母が2000年に大阪市内で介護事業を始めて、現在は父が継いでいますが、子どもの頃から高齢者と接する機会がありました。その方たちから「自分たちはこの先、死ぬだけだ」とか「社会の邪魔者だから」といったネガティブな言葉を耳にするたびに、自己肯定感が非常に低いことが気になっていたのです。

また、父の仕事の関係で海外生活も長く、特にシンガポールには7年以上住んでいました。日本と同様に高齢化が深刻な国であるにもかかわらず、高齢者がニコニコしながら車イスを利用して海沿いを散歩したりと、まったく悲愴感が漂っていないのです。その姿や笑顔を見て、日本との空気感の違いを痛感させられました。

こうした過去の体験も踏まえ、日本の高齢者に喜びや生きがいをもたらし、“自己効力感”を向上させるサービスを提供したいと思い、2023年3月に株式会社emome(以下、エモミー)を設立しました。

藤田 御社が開発した動画コンテンツ「シニアカレッジ」も売りの一つですよね。ご利用者の満足度を上げて、介護スタッフのレクリエーション(以下、レク)にかける負担も軽減できるとうかがって、画期的なサービスだと思いました。主にどういう施設に導入しているのですか?

森山 令和版映像活用レクリエーション「シニアカレッジ」は、デイサービスやグループホーム、介護付き有料老人ホームで導入いただいています。レクに映像を活用した方法は昔からありましたが、ご利用者、ご入居者の世代が変わってくると、高齢者扱いされることを好まない方も増えてきます。

そこで、今の時代に合った映像活用のレクをつくりたいと思い、シニアカレッジを考えました。脳トレ、海外旅行の疑似体験、スローエアロビなど、幅広いジャンルを取り上げたコンテンツで、基本的に学び直しができる知識系の授業と、クイズなどアウトプット系のワークショップの2部構成。

ご利用者はもちろん、スタッフも心底楽しめるように、エンターテインメントに力を入れた内容に仕上がっています。それ以外にも、介護の領域でこういうものがあったら便利でうれしい、楽しいと感じるサービスの開発に注力しています。

藤田 喜びや楽しみといった感情が、商品やサービス開発のキーワードになっているのですね。

森山 そもそも社名の「エモミー」の由来が、誰かの感情(emotion)が私(me)を動かし、その結果、自然と走り始め、気づいたら私が誰かの心を突き動かしていたというストーリーから生まれました。

ちなみに「emome」の表記は、左右どちらから読んでも同じで、“良い感情は社会の中で循環される”といった意味合いも込められています。

藤田 人のポジティブな感情に着目してサポートするという視点が素敵ですね。

身体だけでなく心の満足、ウェルビーイングなくして良い介護はなし得ない。私たちの仕事も単なる一度限りの施設紹介ではなく、ご相談者自身にとってより良い環境を選び取っていただくための選択肢を提示することが本来の使命です。

そのためには、より長く寄り添う必要がある。ご相談をきっかけに、5年、10年と、その方の人生に長くお付き合いできるようなビジネスが社内で生まれることで、より良い会社に成長していけると考えています。

介護ビジネスを通して、シニア世代とご家族の抱える課題をすべて解決する「介護の悩みのない社会」を目指すことが、私たちのビジョン。両社のビジョンは相通じるものがあると思います。

本当の意味での業務効率は
DXより職員の意識向上

森山 エモミーのスタンスは、介護の現場をプロの方にお任せし、私たちはご利用者、ご入居者のニーズにマッチしたサービスを提供することによって喜びを享受していただき、新たな価値の創出につなげるというものです。

例えば、ご入居者に「その施設のどこがお気に入りですか?」と聞くと、たいてい「ご飯がおいしい」「麻雀ができる」「温泉がある」など、皆さんがそれぞれに楽しみを求めていて、そこは私たちの世代と大して変わりません。

ところが、スタッフは日々のルーティンに追われ、レクの準備や参加にかける時間やリソースが十分でないことが多いのです。

藤田 先日、弊社と同系列の介護施設で、シミュレーションゴルフを導入しました。そのために居室をリフォームし、レッスンプロも招いたのですが、昔、ゴルフをされていたご入居者が結構いらして大好評でした。

プレイはもちろん、そこでの会話も楽しみですから、レクを通したコミュニティは本当に大事だと感じました。ただ、おっしゃる通り、肉体的にも精神的にもスタッフの余裕がなくなり、“介護一辺倒”の状況であると、そのような気づきが難しくなってきます。

森山 施設見学においても、入居したいと思えるような環境がどれだけ整っているかは重要です。同じグループの介護施設でも、施設長によって雰囲気がだいぶ異なりますよね。運営がうまく回っている施設は、何か特別なことをしているわけでもなくて、やるべきことを丁寧に、きちんとこなしていることが多いように思います。

藤田 それは言えますね。介護業界は平均して離職率も高めです。結局、その現場を良くしたいと思う人がどれだけいるか、また、そういった人たちが長く勤め続けられる環境があるかどうかが、ご入居者、ご利用者に提供するサービスの質に大きく影響してきます。

森山 今、介護業界でも人手不足を解消し、業務効率を上げるためにDXの導入が進んでいますが、どこまでいっても人の要素を排除できない領域が介護です。

むしろ、介護業界において一番の業務効率化は、スタッフの意識とモチベーションを高め、できるだけ長く働いていただく点にあると私も周囲によく言っています。

藤田 同感です。ここ数年、あいらいふが堅調な成長を続けてこられた要因も、まさにそこにあります。社長に就任して4年目に入りましたが、在籍している社員の紹介で新しい方が次々と入社してきて、入社後の定着率も改善し、辞める人がほとんどいないのが現状です。

社員のモチベーションが上がると、職場の雰囲気も活気を帯びて、仕事に良い結果をもたらすようになりますから、プラスの連鎖が起こります。

今、できることに目を向ける
歳を重ねて得られる幸福感

藤田 ところで、介護は“できないことをできるようにサポートする”というイメージが強いと思います。リハビリに励んで歩けるようになることも大事ですが、最近、自分の父親を見ていて、あることに気づきました。

父は高齢で足腰が弱まり、歩行が困難であるにもかかわらず、車イスの利用を勧めても「人の世話になりたくない」と断固拒否していました。ところがある時、私の娘に「おじいちゃんを車イスに乗せて押してあげたら」と言うと、あれほど拒んでいた父が喜んで車イスに乗っているじゃないですか。

まさに「これだ」と思いました。脚を悪くしたことは喜ばしくないけれど、それによって新たな体験が生まれ、孫と楽しい時間を共有できたのです。歳を重ねたからこそできることもあるし、そこに着目したサポートも大切です。

森山 そのお話は目から鱗です。私が日頃から強く思っていることは、ご利用者から社会全体に対して、前向きな気持ちをもたらすことができるサービスや仕組みを構築していきたいということです。そうなれば自然とエフィカシーも現れてきます。

藤田 それに似たエピソードが、弊社がフランチャイズ加盟しているシニア向けの生活支援サービス「まごころサポート」でありました。

高齢者の身の回りのお手伝いをする方たちを「コンシェルジュ」と呼んでいて、先日、吉祥寺相談室がその募集広告を出しました。「あなたのできることで、まちのお困りごとを解決しませんか?」と記載して。

すると、ある80代の女性がその言葉に賛同されて「私は杖が必要で歩くことはままならないけど、オンラインで誰かの話し相手になれるかもしれない」と、ご自身ができることをいろいろ考えてきてくださったのです。 

高齢になるにつれ、いろいろとできないことが多くなる。ですが、言葉のかけ方、働きかけ方一つ変えるだけで「まだできることがあるかもしれない」と思えるようになり、そこに生きがいややりがいも生まれてきます。これこそエフィカシーです。

森山 実は以前、九州地方のとある地区の再編プロジェクトに関わっていたことがありました。市長から「とにかく若者がほしい」と言われたのですが、それを実現するのは容易でありません。

ある壮年の職員さんを交えた会話の中で、「○○さんは若いから」と話題に出たので、その方の息子さんの話かと思ったら「違うよ、本人だよ(笑)」と。市内でも特に高齢化の進んだその地区の住民の平均年齢が72歳でしたから、65歳のその方は、若い方に入ります。

そこで「65歳から輝けるまち」としてブランディングを行い、“65歳の出発式”を開催することにしたのです。高齢になるとどうしても、守られたり助けられたりする側になりますが、まちづくりを行う側に加わっていただく取り組みを始めたら、他所からの転入者も増え、まち全体が変わってきました。

藤田 その発想はおもしろいですね。それこそ“日本のモデル”ではないですか。

森山 対談の初めにも「コミュニティ」の話が出ましたが、要は施設単位か、まち単位かの違いです。

施設にとってベストな関係は、スタッフは極力ご利用者を見守る立場にいて、ご利用者同士でできることはお互い助け合える。そんな構図が築けたら理想です。それを実現する上でも、コミュニティの形成は重要な鍵を握ります。

平均寿命より健康寿命!
ウェルエイジングを実現するには?

──日本は平均寿命が世界的にトップクラスとされる一方、健康寿命との間に約10年の差があり、そこをどう改善するかも問われています。介護に携わる企業として、今後どのような取り組みや将来像を考えていますか?

森山 今、日本型の介護が身体的・精神的なケアの面で海外から注目されていて、世界一のモデルをつくるチャンスだと思っています。でも、暗黙知の業界だからなのか、施設が抱える問題も課題も、個々の施設が単独で頑張って対処しているケースがほとんど。

互いにパートナーシップを組むなどして、業界全体で取り組むことができれば、解決の選択肢やスピードも変わってきます。一つの施設が求めているものが、実はみんなが求めていたりするのです。このことは、私たちが携わったシニア向けのレクを考えた時も強く感じました。

藤田 人でも組織でも、仕事をしているうちに「自分の領域はここまで」といった固定観念にとらわれてしまうのは、よくあるケース。私が、あいらいふに来て最初に気になった点も、そういった部分でした。

入居相談をいただいても、実際に入居に至る方は全体の約3割です。この割合は私が着任する前も今も、大きく変わっていません。要するに、7割の方はまだお困りごとを抱えた状態にいるわけです。なぜ、そういう方たちに目を向けようとしないのか、そこに改善の余地があると感じました。

現在は、入居に至らない方たちへのサポートも拡充させているところです。「老人ホーム紹介センター」から、「シニアライフのトータルサポートカンパニー」への、まさに転換期です。

森山 その数字は意外でした。7割の方が入居されない理由は何ですか?

藤田 一番の大きな理由は、環境の変化に対するハードルが高いからです。入居費用の問題もありますが、病院を退院して入居される方は別として、普通は自宅からいきなり介護施設ですから。

例えば、近くに知り合いがいるエリアで2年くらい借りられる家があるとか、自宅と介護施設をつなぐ中間的な場所があれば、違ってくるかもしれませんが。

森山 その視点でいうと、通所サービスは可能性があるとみています。デイサービスに通ううちに「介護施設の活用はあり」と体感できれば、入居に対するハードルも少しずつ下がっていくと思います。

あとは小・中学校、高校のように、段階的にステージ化していく方法も有効に感じます。これをやったら次はここに行くというシステムをつくるのです。次に目指すものがあると気持ちにもハリが生まれますし。何より老いに抵抗する以外、やることがないのは一番つらいと思います。

藤田 歳を重ねると、住む場所が肝心になってきます。施設に入居しないのであれば、自宅で安全に楽しく過ごす方法を検討しなくてはなりません。

特に、定年後は家にいる時間も長くなり、子どもが独立すると、使わない部屋も出てきます。例えば、そこをシアタールームやサウナルームにして、楽しめる趣味の部屋に使う。そのためのリノベーションもワンストップでサポートできないかと思っています。

森山 ご利用者のご家族から話を聞くと、在宅生活の場合、高齢者の見守りが前提です。その上で家の中にいても、会話を楽しめる仕組みをつくることが大事だと思います。よく、配偶者が亡くなられた方の認知症が一気に進むことがありますが、会話をする相手がいなくなったことも大きな要因でしょう。

それに関連した話で、英国で高齢者専用のコールセンターでかなり業績を上げた会社があります。ご利用者は、サービスの月額利用料だけで、家にいながら電話で会話が楽しめます。さらに、ご利用者からの要望で、必要な品物があれば注文して届けてくれるサービスも始めました。

藤田 孤立を防ぐためにも、コミュニティ化はポイントですね。他にも今、施設単位で行っているサービスを、マンション単位でできないかと考えています。

都内には築30年以上のマンションが割と多く、住民の高齢化に伴い、老々介護や独居、認知症など、さまざまな問題が浮き彫りになっています。中には大型マンションにお住まいの認知症の方が、自分の家がわからなくなり、

手当たり次第、他人の家のインターホンを鳴らすようなトラブルも発生しているといいます。さらに、住人だけでなく管理人も高齢になり、対処する側もそこまで手が回らず、何とかならないかという相談もいただいています。

あいらいふの事業のひとつの柱は入居相談ですが、入居相談員も介護スタッフと同じような想いで、ご本人やご家族の話を傾聴し、対応しています。

ご相談を受けて、施設紹介をして終わりではなくて、相談がきっかけとなり“ライフコーディネーター”として、長い目でお付き合いできるビジネスを創出できれば、社会貢献の面でも、さらにより良い会社に成長できると思っています。そういう意味で、今後はシニアのお困りごとをトータルでサポートできる企業でありたいと考えています。

森山 エモミーとしては、将来、世界を代表する企業になりたいですね。私たちの強みはエンタメをうまく取り入れたシニア向けのサービス開発にあると思っています。少しずつそのような実績も増えていき、最近、いい流れができてきました。

他にも、さまざまな企業とコラボして、専門的な技術や知識を介護の領域に掛け合わせて、高齢化社会の課題解決に向けた取り組みも行っています。こうした活動も積極的に展開し、シニアの一人ひとりが輝ける世の中に変えていきたいです。

【プロフィール】
株式会社emome 代表取締役 森山穂高さん

2002年生まれ。東京大学社会心理学研究室在籍。LINE株式会社(現:LINEヤフー株式会社)にて、プロダクトマネジメントに従事し、トークタブ上部コンテンツの企画・実装に携わる。高校時代からのミッションである「日本にエフィカシーをもたらす」を達成するため、2023年に株式会社emomeを創立、代表取締役に就任。次世代レクリエーション「シニアカレッジ」や、大企業との事業共創を展開。高齢者が介護サービスを通じて、総合的な良き生活を実現できる日本モデルの創出を目指す。

株式会社あいらいふ 代表取締役 藤田敦史

1973年生まれ、群馬県みどり市出身。大学卒業後、外資系金融機関で3年間、リテール営業を経験。その後、コンサルティング会社で中小企業の支援、大手営業会社の社長直轄部署でM&Aを担当する。45歳で株式会社ユカリアへ転職し、2020年6月に子会社化したあいらいふの代表取締役に就任。メイン事業の有料老人ホーム紹介業を中心に、近年は「シニアライフのトータルサポートカンバニー」として、ビジネスによる超高齢社会の課題解決を目指す。

取材・文/飯島順子
撮影/近藤 豊

介護情報誌『あいらいふ』編集部
【誌名】『あいらいふ 』 vol.172(8-9月号)
【概要】 初めて老人ホームを探すご家族さまの施設選びのポイントをさまざまな切り口でわかりやすく解説。著名人に人生観を語っていただくインタビュー記事のほか、人生やシニアライフを豊かにするためのさまざまな情報や話題を取り上げて掲載。
【発行部数】4万部
【配布場所】市区役所高齢者介護担当窓口・社会福祉協議会・地域包括支援センター・居宅介護支援事業所・訪問看護ステーション・病院・薬局など1万か所

コラム一覧