【対談・インタビュー】エンタメで目指す先は、「まぜこぜの社会」を作る! 俳優・東ちづるさん
笑って、
気づいて、
考えて。


俳優業のかたわら、多くの社会活動に携わっている東ちづるさんは、パフオーマンス集団「まぜこぜ一座」の座長でもあります。座員たちはさまざまな特性を持つ、社会的にはマイノリティといわれる人たち。「見世物」になる覚悟とユーモアを携えて表舞台に立ち、一座が投じた石は、波紋を広げ、大きな波を起こし、いつの間にか出来上がった常識や普適という概念を考え直すきっかけを与えています。
彼らと共に東さんが目指す社会と、伝えたい思いとは。そして、東さんから見た老いと介護についてうかがいました。
誤解や勘違いより、理由なきふんわりとした偏見の方が厄介

社会はアップデートしているけど
分断をなくすのは難しい
──30年以上にわたり社会活動を続けている東ちづるさん。そのきっかけは、白血病を公表した一人の少年の存在でした。
東ちづる(以下東):
「自宅で情報報道番組の生放送を見ていたら、白血病を発症した17歳の少年が、泣くわけでもなく淡々とインタビューに答えていたんです。
番組は「がんばってほしいですね」というコメントで終わりましたが「がんばっている人に、これ以上がんばれって何?」と違和感を覚えました。
番組は涙を誘ったけど、多感な時期の少年が、なぜ全国ネットの番組で自分の病名を公表したのか。真に伝えたかったことは伝わってきませんでした。
かつて私が情報報道番組の司会をしていたとき、ディレクターに言われた「政治と報道は困っている人のためにある」という言葉がずっと心に残っていて。
私は『表現者である自分』を活用して何かをしたいと思い立ち、その少年の家族に直接連絡をしたんです。設立されたばかりの骨髄バンクの存在を広く知ってほしかったという真意を知り、啓発活動を始めました」
──その後も戦争で傷ついた子どもたちの援助活動を行うドイツ国際平和村の平和大使に就任したり、自閉症啓発イベントなどを立ち上げてきた東さん。その目に、社会の変化はどのように映っているのでしょうか。
東:
「社会はすごくアップデートしていますよ。私が社会活動を始めた当初は、選挙に出るのか、好感度アップを狙ったパフォーマンスかと言われましたが、阪神淡路大震災が発生し、ボランティア元年と呼ばれた1995 年くらいから、こうした活動が奇異ではなくなり風向きが変わってきました。
アップデ—卜が進む一方で、同性婚などをかたくなに否定する人たちもいて分断を感じます。
背景には、制度や社会保障の基盤が整っていないから気持ちが追いつかない、人権や政治に関する教育が十分でないなどさまざまな理由があると思います。
芸能界では、芸能人の政治的・社会的発言がタプー視され、古くからの慣習が社会課題に目を向ける上での壁になっていると感じます」
──メディアは良くも悪くも影響力を持っていますが、例えば「こびと」という表現をNG とするなど、違いに蓋をする傾向には疑問がわくと話す東さん。
東:
「正しくは「こびと」という表現がいけないのではなく、放送自粛用語なんです。でもその理由は誰も答えられません。
ロジックがあれば議論できるけど、ふんわりとした自粛だから厄介。 誤解もたくさんありますよ。
ラジオ番組で、ドラアグクイーンという表現は一回までにしてほしいと言われたことがあります。
理由を尋ねると、「薬物のクイーンはちょっと…」って。危険薬物をイメージする「ドラッグ」ではなく、ゴージャスな衣装をまとい、ドレスの裾を引きずる意味の「ドラアグ」だと説明しました。
こうした悪気のない誤解や勘違いは解けるけど、ふんわりとした偏見を変えるのは難しいという実感があります」
困っている人は近くにいないと
思っている人に「エンタメ」で気付きを

「まぜこぜ一座」の旗揚げ公演
なぜ、テレビは取り上げなかった
──2011 年3 月11日、東日本大震災が発生。「絆」や「日本は一つ」と叫ばれる一方、避難所では車イスの人がノンバリアフリーを理由にやんわりと避難を断られ、トランスジェンダーの人がお風呂やトイレの利用に困窮する事態が頻発しました。
取りこぼされる人たちを目の当たりにした東さんは、縦割り社会を脱するために団体や企業のハブとなる、一般社団法人「Get in touch 」を立ち上げ理事長に就任しました。
東:
「がんばっていますね、大変ですねと言われ続けてきたので、社会活動につきまとう泥臭さをなくし、ポップでスタイリッシュなイメージづくりを意識しました。その一例として、スタッフはジーパン禁止(笑)。
ユニフォームはBEAMSさんとコラボして、毎年かっこいいものを提供してもらっています。ユニフォームをフックに、若い人が団体の活動に関心を持ってくれるケースも増えました。
活動内容とユニフォーム、フライヤーやポスターまで、見せ方のすべてを自分たちでデザインしています」
──さらに、さまざまな特性を持つプロパフォーマーで構成する「まぜこぜ一座」を旗揚げし、アートや音楽、映像、舞台などのエンターテインメントを通じて、誰も排除しない「まぜこぜの社会」を目指して活動を続けています。
東さんがスーパーな人たちと呼ぶ座員の顔ぶれは、車イスや義足、ダウン症、自閉症、低身長症のダンサ—、全盲の歌手など多彩。共通点は、世界に通用するパフォーマーだということ。車イスで逆立ちだってやるし、空中ブランコもできる。
そんな比類なきパフォーマンススキルにほれ込むと、自ら舞台などに足を運び、楽屋前で出待ちをしてスカウトするそう。SNSからDM を送ったら、偽アカウントと疑われたこともあると笑って振り返ります。
東:
「この団体では、エンタメしかやらないと決めたんです。自分の周りに障がい者やLGBTQはいないと思っている人に問題意識を持ってもらうためには、絶対に楽しいことの方がいいと思って。
ワクワクしてパフォーマンスを見て、モヤモヤして帰ってもらい、家族や友だちとの会話で取り上げてもらえたら本望です」
──「まぜこぜ一座」の初舞台は2017年12月10日。品川プリンスホテルで華々しく幕を開けました。
「現代の見世物小屋」をイメージした、類を見ない舞台に多くのメディアが駆け付けましたが、放送したテレビ局はなんとゼロ。
東:
「数分でも放送されたら、まぜこぜの社会の扉が開く。そう思ったけど、壁が見えただけでした。
放送されない理由を関係者に尋ねると、デスクも、広告代理店も、スポンサーも、 「たくさんの人に見てほしい内容だけど…」と言葉を濁されました。
最終的には、視聴者からクレームがあるといけないからって。何か問題が起こったときのことを考えると、みんな怖いんですよね。
第一回公演は、なかなかチケットが売れませんでした。見たいけれど、車イスや義足のパフォーマーをどんな顔をして見ればいいのか、わからなかったのだと思います。
そこで“見世物”を“魅せ者”という表記に変えてネットニュ—スにしてもらいました。すると一気にチケットが売れたんです。
子どもには見せられないという理由でファミリーチケットのキャンセルもあったけど、実際に見に来た子どもたちはかっこいい!なんで脚がないの?と素直に関心を持って受け止めてくれました」
──その後も舞台公演を続け、2024 年には映画「まぜこぜ一座殺人事件~まつりのあとのあとのまつり~」が公開になりました。
東:
「映画を通して伝えたいメッセージ?みんな感想がバラバラなので、それぞれが感じて、楽しんで、考えてくれたらいいかな。
気付きがあって、驚きがあって、ちょっとぐっとくるところもあって、最後に感じるモヤモヤを大事にしています。
答えは―つじゃないから、各々で考えてみようということをエンタメの力で伝えられたら」


誰にでも訪れる老いを
前向きな覚悟を持って受け止め
──「まぜこぜの社会」では、介護者と被介護者が必要なサポートを受けながら、自分らしく生活できる。そんな日常が理想です。
東さんは、47 歳で難病を発症した夫の介護を経験しました。
2 年間は病名がわからず寝たきりに。その後、ジストニア痙性斜頸(けいせいしゃけい) という脳神経の難病と診断されました。首の筋肉が自分の意思とは関係なく収縮し、頭部や体の自由が利かない病気です。どのように介護に臨んだのでしょうか。
東:
「当初、夫は寝たきりで何もできなかったので、仕事を控えて介護をしてほしいと言われました。
しかしちょうど「Get in touch」を設立した年だったし、それはできないと。もし私が仕事をセープしたり、辞めたりしたら、いずれ病気を憎むようになり、あなたに対する感情も変わり存在が負担になる。
それはまったく望まないから、私の人生を生きながらあなたを助けます。そう伝えました」
──そんなことができるのかと聞く夫に、できるかわからないけどやってみようと。無理ならプロのヘルパーの手を借りることも視野に入れて、東さんの母と二人三脚で夫を支えたといいます。
老いは誰にでも訪れ、事故や病がその身に降りかかれば若くても介護が必要になることがあります。頭では分かっていても、これまでできていたことができなくなる変化に直面すると、その負い目を明るく振り払いつつも、時には人生を悲観的に捉えてしまうこともあるかもしれません。
東:
「老いや病が訪れたら、そうきたかと「前向きな覚悟」で受け止めたいですね。金属疲労と一緒で、使い続けた身体は加齢と共に骨はもろくなるし、筋肉は硬くなって当然。
でも、食事に気を付けてたんぱく質を積極的に摂る、運動や脳トレをするなど、対抗するツールはたくさんあります。老いのスピードを緩める努力も必要ではないでしょうか」
──86歳になる東さんの母は、両膝の手術をし、痛みから解放され、積極的にリハビリを続け、今やジムに通うまでに。最近「バス停4つ分歩けるようになった」そう。命ある限り、自分の身体に責任を持つ姿勢には頭が下がります。
仕事を続けながら夫の介護をした経験から、介護の問題点も見えたといいます。
東:
「介護に関する課題はたくさんあると思うけれどまず、家族が負担することが当然という意識を変えていきたい。
私は度々、こんなことを言われてきました。お子さんがいないから、年をとったときどうするの?将来、大変よって。
その発言、自分の子どもに言えますか、と問いたいですね。老後は当然子どもに面倒を見てもらうという考えは、子どもに対しても失礼だと思います。介護のために仕事や社会活動をあきらめ、自己犠牲の上に成り立たせる介護は、誰も幸せにならないはず」
「親と子それぞれの幸せを考えるなら、依存先は多い方がいいと思います。家族だけでなく医療、福祉、社会などなど。依存先がたくさんないと、自立していることにはならないから」
──自立とは、一人で何でもやろうとすることではなく、他人を頼る術と勇気を持っていること。その視点が新鮮です。続けて、「他人に迷惑をかけてはダメ」という考え方にも疑問を呈します。
東:
「私たちは子どもの頃から、他人に迷惑をかけてはいけませんと言われて育ってきました。でも、それは間違いです。人は互いに迷惑をかけ合うものだから、寛容になって許し合いましょう。そう考えたほうが楽だと思いませんか。
母には、「娘である私はあなたに一生迷惑をかけるから、あなたも私に迷惑をかけていいんだよ。それが家族でしょ」と言っています」
──東さんが「自立」した生活を続けるために介護施設を頼るとしたら、どんな施設が理想でしょうか。
東:
「規律で縛らず、自分らしく生きられる施設でしょうか。規律は管理する側の便利さを優先したもので、ユーザーファーストではないですよね。
規律が少なく自由なほど、自分で決めることが多いから本当は不自由。でも、その方が私らしくいられそう。
あとは施設内に地域の人も使えるカフェテリアや、おいしいパンが買えるベーカリーがあるような、開かれた施設がいいですね」

──最後に、介護施設を舞台に作品を創るとしたら?そんな質問をしてみました。
東:
「そのアイデアはすでにあって、実現させたいと思っていました。私が仕事をしている芸能界は、若い、かわいい、かっこいい、美しいことが重宝され、重ねた年齢やキャリアが認められにくい世界です。
特に女性は、年齢が上になると「劣化した」とか言われるし。もし、介護施設を舞台にするなら、私と同年代の3 人の女性が活躍して、社会の悪に対して世直しをしようと詐欺を仕掛ける痛快なストーリーなんてどうでしょうか。
施設には低身長症の人や車イスを巧みに操る人もいて、まぜこぜで元気が出る舞台を創りたいです」
【プロフィール】

東ちづる
(あずま・ちづる)
俳優・タレントとしてドラマ出演から情報番組のコメンテーター、司会、講演、出版まで幅広く活躍。一方で社会活動を30年以上続けている。
2011 年、アートや音楽、映像、舞台などのエンタメを通じて、誰も排除しない「まぜこぜの社会」を目指す、一般社団法人「Get in t ouch 」を設立。2017年にパフォーマンス集団「まぜこぜ一座」を旗揚げし、座長を務める。東京2020 オリンピックパラリンピック公式映像「MAZEKOZE アイランドツアー」を総指揮し、2023 年3月にはTEDXKyotoに登壇。
2024年10月に公開された映画「まぜこぜ一座殺人事件~まつりのあとのあとのまつり~」では、自身が企画・構成・プロデュース・出演している。
近著「妖怪魔混(まぜまぜ)大百科」が好評発売中。

〈2021年8月〉
東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会公式文化プログラムとして
『MAZEKOZE アイランドツアー』世界に配信!

『東京2020 NIPPON フェスティバル」のひとつとして世界に配信された「MAZEKOZE アイランドツアー」の総合構成・演出・総指揮を担当。
同プログラムは、まぜこぜのおもしろさや心地よさを体験し、多様性や共生社会の魅力にふれる、9 つの島の冒険の旅。
ジェンダー、年齢、国籍、さまざまな障がいなどの既成概念をヒョイッと超越した、唯一無二のユニークなアーティスト(表現者)たちが最高のホスピタリティで、皆さま方を異空間にいざないます。

映画
「まぜこぜ一座殺人事件
~まつりのあとのあとのまつり~」
「まぜこぜ一座」初の映像作品。出演者は義足・車イスユーザー、全盲、ダウン症、聾(ろう)、ドラァグクイーン、トランスジェンダー、こびとなどの特性を持つ面々。東さんをはじめ、出演者のほとんどが本人役で登場している。
殺人事件をきっかけに、マイノリテイパフォーマーたちの本音と疑問、怒りと笑いが爆発。ワクワクとモヤモヤが交差し、多様性、障がい者差別、SDGs 、マイノリティなどの社会課題について考えさせられます。
監督・齋藤雄基、企画・キャスティング・プロデューサー•東ちづる、脚本・エスムラルダ。
エンディング曲は、三ツ矢雄二、山寺宏一、日高のり子ほか、レジェンド声優11人が無償ボランティアで歌っている。
アレンジ、サウンドプロデューサーはYANAGIMAN が担当。



取材・文:北林あい/撮影:エントランス河野英喜
撮影協力:グリーンライフ仲池上(東京都大田区)
豊かなシニアライフのための情報誌『あいらいふ』編集部
【誌名】『あいらいふ』vol.177(2025年5月29日発行号)
【概要】初めて老人ホームを探すご家族さまの施設選びのポイントをさまざまな切り口でわかりやすく解説。著名人に介護経験を語っていただくインタビュー記事のほか、人生やシニアライフを豊かにするためのさまざまな情報や話題を取り上げて掲載。
【発行部数】4万部
【配布場所】市区役所の高齢者介護担当窓口・社会福祉協議会・地域包括支援センター・居宅介護支援事業所・訪問看護ステーション・病院・薬局など1万か所