あいらいふレポート

【特集】見守り・生活支援・地域コミュニティ  シニアのための新しい住まいのかたち 「まごころアパート」第1号が始動

高齢化がますます進む現代社会。シニア世代の暮らしを支える取り組みが全国的に注目を集めています。

そんな中、シニア向け生活支援サービス「まごころサポート」を全国で展開するMIKAWAYA21株式会社が、シニア世代のための見守りサービス付き集合住宅「まごころアパート」を横浜市内に完成させました。

単なる“住居”ではなく、日々の生活に安心とつながりを提供する「コミュニティ型住宅」とはどのようなものか。シニアに向けた、新しい住まいのかたちを取材しました。

横浜市郊外に誕生した 「まごころアパート」

「まごころアパート」の第1号となる「まごころアパート松葉台」は、横浜市神奈川区の北西部、菅田町の丘の上にあります。閑静な住宅街の中に立つ、青と緑のカラーリングが印象的な2棟建てのアパートの周辺には、農地や樹林地が点在。郊外ののどかな風景が残っています。

2025年7月12日、竣工したばかりの同アパートで見学会が開催されました。

新たに完成した新築棟と、既存のアパートをリノベーションした改修棟、ウッドデッキや日除け棚が設けられた中庭を巡るルームツアーが行われ、参加者は皆、興味津々。

各部屋に設けられたシニアの暮らしに配慮した仕掛けや、ご入居者同士のコミュニケーションを促す工夫について、質問が飛び交いました。

見学会には介護関係者、不動産関係者をはじめ、さまざまな職種の方々が参加

シニア世代の居住環境を整備 安心の住まいを低コストで提供

「シニア世代に向けた、新しい住まいのかたち」を提供する「まごころアパート」とは、どのような取り組みなのでしょうか。

同事業を展開する、MIKAWAYA21株式会社の青木慶哉・代表取締役CEOに教えていただきました。

──「まごころアパート」の概要についてお聞かせください。

「まごころアパート」は、地域に点在する一般的な賃貸アパートを、まちの中にある“小さなシニアの支援拠点”として改修・整備することで、シニア世代が住み慣れた地元を離れることなく、環境を大きく変えずに安心して暮らし続けられるまちづくりを目指すプロジェクトです。

「まごころアパート」を運営する上でのベースとなるのが、当社のメイン事業であるシニア世代向けの生活支援サービス「まごころサポート」です。「コンシェルジュ」と呼ばれるスタッフが、依頼を受けてシニア世代のご自宅を訪問し、日常生活の中のお困りごとをワンストップで解決します。

あいらいふさんをはじめ、全国に200社以上のフランチャイズ加盟店を抱える「まごころサポート」のネットワークを活用して、地域のコンシェルジュが、シニア世代の“ご近所さん”として寄り添いながら、見守りと生活支援を兼ねたサポートを行う。それが、「まごころアパート」のコンセプトです。

──「まごころアパート」の特徴は、どのようなものですか?

「まごころアパート」には、3つの柱があります。

1つ目は、Wi-Fiセンシング技術を利用したご入居者の見守りサービスです。人の動きを検知することで、日常生活の中でご入居者に生じた変化を捉え、必要に応じて対応できる仕組みを整えています。

2つ目は、アパート内に常駐する「まごころサポート」のコンシェルジュによる生活支援です。日頃からの声かけや、ご相談への対応、ちょっとしたお手伝いなど、ご入居者の日常生活のサポートを行います。

3つ目は、ご入居者同士のふれあいを促すコミュニティデザイン建築です。中庭や共用スペースなどを工夫し、自然な交流が生まれる設計を取り入れています。

この3つの要素─技術によるつながり、コンシェルジュとのつながり、ご入居者同士のつながり─を組み合わせることで、ご高齢の方が抱えがちな健康面や生活面の不安を和らげ、さらに地域との結びつきも感じながら、安心して暮らせる住まいをご用意しようという構想です。

新築棟の居室。車イスで移動する際の取り回しを考慮して広く作られた玄関と、「ミチニワ」に面したカウンター付きの出窓(左)
改修棟の玄関ドアはガラス張りのシースルー。目隠しにはブラインドを使用(右)
どちらも、コミュニケーションのための部屋の外との“つながり具合”を、気分に応じて自分で調整できる工夫が施されている

シニアの住まい探しを後押し 「居住サポート住宅」制度

──2025年10月からスタートする「居住サポート住宅」制度とは、どのようなものでしょうか。

「まごころアパート」を、社会制度の面から後押ししてくれる新しい仕組みが、「居住サポート住宅」制度です。

同制度は、改正住宅セーフティネット法のもとで定められた、住宅の確保に配慮を必要とする方々のための賃貸住宅の登録制度です。

さまざまな事情で、一般の賃貸住宅を借りづらくなりがちな方を対象に、「まごころアパート」のような住まいと生活支援を一体で提供する「居住サポート住宅」を増やすことを目的としています。

居住サポート住宅は、近年、深刻化している空き家・空きアパートの問題や、賃貸物件のオーナーがご高齢の方のご入居を敬遠しがちなことで、住まいの確保が難しくなっている高齢者の住居問題の解決策として注目されています。

加えて、シニア世代が賃貸物件へスムーズに住み替えられるようになれば、アパートの新築や改修の需要が高まるほか、住み替えによって離れることになったご自宅の売却など、不動産の売買も活発になります。建設・不動産市場を刺激することで、大きな経済効果も見込めるのです。

「まごころアパート」は、2022年に国土交通省の「人生100年時代を支える住まい環境整備モデル事業」に選定され、関係機関と情報を共有しながら、居住サポート住宅としての認定に向けた準備を進めてきました。今後、制度の施行に合わせて認定申請を行う予定です。

介護が必要になった際の導線を考慮した居室(左)と、排せつ介助が必要になった場合に備えて、2方向から入ることができるトイレ(右)

シニアライフに不可欠な 「コミュニティ」と「生きがいづくり」

──「まごころアパート」における、ご利用者同士のコミュニティづくりの仕組みについてお聞かせください。

居住サポートとは別に、「まごころアパート」が大切にしているのが、「コミュニティ」と「シニアの生きがいの創出」です。ご入居者と、地域に暮らす多世代の住民が緩やかにつながりながら共に暮らす、新しい住まいのかたちを実現しようとしています。

2棟のアパートは、それぞれが道路に面しており、間に設けた中庭は、路地のように通り抜けができる通路を兼ねた空間です。私たちは、まちなかの通り道のような庭、「ミチニワ」と呼ぶことにしました。

ウッドデッキや縁側、菜園、日除け棚などを設置し、ご入居者間の交流の場として活用することはもちろん、地域住民の皆さまにも開かれたアパートを目指します。

また、「まごころアパート」の新築棟1階には、ウッドデッキとつながる「コミュニティキッチン」を設置しました。

ここでは、まごころサポートのコンシェルジュが、食事会や季節のイベントなどを企画し、アパート内の交流をけん引します。ご入居者と地域の方々が触れ合える場となることを意図しています。

さらに、コミュニティキッチンが提供する「食」を通じて、ご入居者が地域のために働くことができる「おしごとプログラム」も導入します。これにより、ご入居者が、地域とのつながりや社会との関わりを深める機会を育んでいきます。

稼働後は「まごころサポート」の拠点としても機能する「まごころアパート」は、地域住民の皆さまにも安心とワクワクをお届けする“小さな拠点”として、地域に根差した歩みを進めて参ります。

ご入居者同士のコミュニケーションの場となる「ミチニワ」。地域住民にも開かれた、まちなかのランドマークとして機能する

豊かな暮らしのための 新しい住まいのかたち

──シニア人口の急増に合わせて、受け皿となる住まいの確保が叫ばれています。

単身や高齢のご夫婦の二人暮らしで、ご自宅の維持が難しくなった。住み替えたくても、民間の介護施設は費用面で負担が大きい。特養も空いていない。高齢社会の進展でシニア人口が急増する将来、こうした方々の受け皿がますます必要になります。

生活スタイルに合わせた適切なサイズの住宅への住み替えは、不安や負担の少ない老後を送るために、ぜひ検討していただきたい選択肢です。シニア世代がリスクを抑えながら住まいをダウンサイジングできる「まごころアパート」が、安心をご提供します。

“シニア世代にとって大切なこと”を少しずつ組み合わせてつくった「まごころアパート」は、私たちがこれまでに展開してきたシニア向けサービスの集大成ともいえる取り組みです。

既存アパートのリノベーションという視点にも注目が集まっており、不動産再生の新たな手法として、多くの期待が寄せられています。

これからのまちづくり、地域づくりの中心となる、シニア世代の豊かなコミュニティを築くために、ぜひ皆さまの町でもこのようなアパートを作ろうと思っていただけるよう、この小さなプロジェクトから火を点けていけたらと考えています。

【プロフィール】

MIKAWAYA21株式会社 代表取締役CEO
青木慶哉(あおき・よしや)さん

1976年生まれ、大阪府枚方市出身。23歳で読売新聞販売店の経営を始め、27歳で顧客1万2000件を抱える新聞販売会社に成長させる。2013年に会社を売却し、MIKAWAYA21を創業。シニア世代の日常生活のお困りごとを解決する「まごころサポート」事業のフランチャイズ展開を開始する。その後もさまざまなシニア向けビジネスを軌道に乗せ、2023年に新事業「まごころアパート」の立ち上げを発表。

取材・文:あいらいふ編集部/撮影:近藤 豊

豊かなシニアライフのための情報誌『あいらいふ』編集部
【誌名】『あいらいふvol.179(2025年9月25日発行号)』
【概要】初めて老人ホームを探すご家族さまの施設選びのポイントをさまざまな切り口でわかりやすく解説。著名人に介護経験を語っていただくインタビュー記事のほか、人生やシニアライフを豊かにするためのさまざまな情報や話題を取り上げて掲載。
【発行部数】4万部
【配布場所】市区役所の高齢者介護担当窓口・社会福祉協議会・地域包括支援センター・居宅介護支援事業所・訪問看護ステーション・病院・薬局など1万か所

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