支援連携の輪

【ソーシャルワークの現場から-支援連携の輪-】[兵庫]老人保健施設 舞子台 / ケアマネジャー・金谷 由美子氏

[兵庫]介護支援専門員(ケアマネジャー)・金谷 由美子 氏
care manager / Kanaya Yumiko

「ここへ来てよかった」 その一言が聞きたくて

明石海峡を臨む、老人保健施設 舞子台。 地域に根付いた舞子台病院に併設された、介護老人保健施設(老健)の相談室で、ケアマネジャー(以下、ケアマネ)と相談員を務める金谷由美子さん。「ご利用者の些細な不安も見逃さず、笑顔になる瞬間を探す」金谷さんの考える、ご利用者との向き合い方とは。

「ご利用者」と「施設」の真ん中に立ち続ける

■あいらいふ編集部(以下、あいらいふ):
金谷さんのご経歴と、ケアマネを目指したきっかけを教えてください。

■ケアマネジャー・金谷さん(以下、CM金谷):
鍼灸師をしていた祖母と母にあこがれて、私も鍼灸師を目指しました。鍼灸の短大を卒業する際、恩師から「鍼灸師の資格を生かしながらリハビリを経験してみたらどうだろう」と勧められ、介護分野でリハビリ職の道に進むことになりました。

当時は介護保険制度ができる前でしたが、介護保険制度のスタートと同時期にケアマネの資格も取得し、気がついたらずっと介護の世界に身を置いています。

■あいらいふ:
リハビリ職から、介護職のケアマネへと、突き動かされた理由はなんでしょうか。

■CM金谷:
父をがんで亡くした経験が大きいです。もう20年以上前のことですが、当時の私たち家族には何も知識がなくて、「劣悪な環境の病院に父を入れてしまった」という後悔をずっと持っていて。右も左もわからない状態で、誰に頼っていいのか、誰に相談していいのかもわからなかった。

その時に、家族と施設をつないでくれる、真ん中で相談に乗ってくれる人がいたらどんなによかったか。そのような経験を踏まえ、私自身も介護の現場で同じように「つなぎの役割」として貢献できたらいいなと考えるようになりました。

元々、鍼灸師だった頃から高齢者と関わることが多く、コミュニケーションをとるのが好きでした。ただ、介護の現場に実際に入ってからはショックを受けましたね。それまでは「私が治してあげる」とか「助けてあげたい」という思いが強かったんです。

ですが、実際にはその逆でした。高齢のご利用者から教わることの方が圧倒的に多かったんです。「こんな素晴らしい先輩方がたくさんいて、自分はまだまだ何もできていないんだな」と感じながら、日々向き合わせていただいています。

■あいらいふ:
舞子台へ入職したのはいつ頃なのでしょうか。

■CM金谷:
15年ほど前のことです。ちょうど長男が小学校に入学するタイミングで、面接の際には「お子さんを優先して構いませんよ」と言っていただき、育児をしながら働けることに大変魅力を感じました。

当時は、まだ小さかった娘や息子を連れて出勤することもあり、私のデスクで宿題をさせながら一緒に過ごすことがよくありました。その頃も、そして今でも、この職場はとても温かくアットホームな雰囲気です。

■あいらいふ:
舞子台ではどのような立場で、ご利用者に関わっていらっしゃるのでしょうか。

■CM金谷:
相談業務全般を請け負っており、入口から出口までのすべてでご利用者に関わります。

もともと鍼灸師としての医療や、ケアマネとしての介護の知識については持ち合わせていたつもりでしたが、相談業務に携わるようになってから、自分がまだまだ知識不足だと痛感するようになり、育児と仕事を両立しながら社会福祉士の資格も取得しました。

相談業務はまず、入所の相談からスタートします。その中で、どのようなサービスが適しているのかを考えてケアプランを作成します。実際に方向性が決まってご自宅に戻られることになったら、ご自宅を訪問して状況を確認し、それから直接担当するケアマネにつないでいくケースが多いです。長いお付き合いになりますが、一歩ずつご利用者とともに道筋を描いていきます。

また、鍼灸師ですので、ある程度は医療の知識があります。「この方は、こんなところでお困り事を抱えそうだな」などとご利用者の状態を把握して、看護師さんと事前に連携を取っています。介護と医療、お互いにサポートしながら、切れ目のないケアができればいいなと思っています。

小さな「不安」を「不満」に変えないために

■あいらいふ:
金谷さんはケアマネとして豊富な経験をお持ちですが、大切にしていることはありますか。

■CM金谷:
いつも肝に銘じているのは“答えを一方的に決めつけない”ことです。私の提案が必ずしも正解とは限りません。選択肢をいくつか用意し、最終的な判断をご利用者やご家族に委ねます。

小さな「不安」が積み重なると、やがて大きな「不満」に変わってしまうんです。不満につながっていく些細な不安も、決して見逃したくない。

ご相談にいらっしゃる方は、最初はみなさんとても緊張されています。
その中で、少しでも笑顔になれる瞬間を探します。心がほぐれないと、本当に言いたいことが、出てこないこともありますから。まず、場の雰囲気づくりをします。

■あいらいふ:
ご利用者との関わり方で、これまでに苦労したケースがあれば教えてください。

■CM金谷:
年齢の若い方がご入所される場合は、やはりご高齢者とは異なる状況が多いため、対応が難しいと感じることがあります。老健で提供できる医療の範囲と、ご利用者が抱く希望の間にギャップが生まれると、難しい場面に直面することもありますね。

制度上の制約によって、どうしてももどかしさを感じる時もありますが、施設内での対応が可能なことには全力を尽くし、対応が難しい面については必要に応じて他の病院や施設と連携し解決を図っています。

■あいらいふ:
やりがいを感じる瞬間はどのような時でしょうか。

■CM金谷:
やはり、「この舞子台に来て本当に良かった」とおっしゃってもらえる瞬間ですね。ご利用者のご家族がお帰りになる際に、「今回は父が利用したけれど次は母をお願いしたいです」とか、「自分が歳を取ったときはここを頼りたいな」と言われると、本当にやっていて良かったと感じます。

コミュニケーションが得意でない人は介護職向き?

■あいらいふ:
職場でのコミュニケーションで、気を配っていることなどについて教えてください。

■CM金谷:
そうですね、忙しそうに見せないように意識しています。いつも「忙しそうなオーラ」を出していると、みんな声をかけづらいですよね?ですから、いつでもウエルカムな姿勢を大切にしています。

だから、みんなが働いている時間帯には、極力気軽に会話をしながら動き回るようにしています。「仕事の時間内であれば、いつでも話しかけていいんだよ」と。
困りごとや、ちょっと話しておきたいこと、タイミングが合わないことで逃したくないんです。日々の些細な雑談の中にも、大事なポイントがあるので。

就業時間が終わってから自分の事務作業をしたり、計画書を作るようにして、なるべくオープンでいられるように心がけています。

私自身も、心が折れそうな時は上司や先輩にたくさん支えてもらったので、孤立している同僚がいないかには十分に気を配りますね。でも、一緒に働いている相談室の3人とも、コミュニケーションを取るのが苦手なタイプで(笑)。

◼️あいらいふ:
ケアマネや相談員のように人と関わる機会が多い職業には、もともと会話好きでコミュニケーション能力に自信のある人が向いているという印象がありました。

■CM金谷:
個人的にはむしろ、コミュニケーションが得意ではない人の方が、この仕事に適していると感じることも多いですね。コミュニケーションが得意な方は、相手の話を少し聞いただけで話題をどんどん広げ、会話が自分のペースで進んでしまいがちです。

しかし、コミュニケーションが苦手と感じている場合、まずは相手の話をじっくり聞き、時間をかけながら慎重に一歩ずつ会話を進めることができます。また、話しにくいと感じる方の気持ちに寄り添い、沈黙の間さえ心地よく受け入れることができるのではと思います。

そのため、自分の苦手意識を補いながら、懸命に、そして慎重に対応できる人こそ、この仕事を長く続けられるのではないかと思います。

繊細な感受性を持つことで相手の気持ちを敏感に受け取れるため、穏やかで落ち着いたペースの会話を大切にできるという点が、この仕事では大切だと感じています。

■あいらいふ:
金谷さんの座右の銘を教えてください。

■CM金谷:
「適応」です。私たちの仕事は、常に外部の状況や環境の変化に影響を受けます。これが正しい方向だと思い、全員で進んでいても、予想外の出来事によって状況が変わり、計画の再考を迫られることもあります。

そのため、さまざまな可能性をあらかじめ想定し、常に柔軟に対応できる状態でいるよう意識しています。状況が順調なときは、敢えて流れに身を任せる勇気が大切です。一方で、厳しい状況では、変化にうまくついていけるよう日頃から準備を心がけています。

■あいらいふ:
ご自身の、これから描いているキャリアについて教えてください。

■CM金谷:
舞子台のチームとしては、後輩にしっかりとバトンを渡せる形を模索しています。若い世代と一緒に少しずつ学びながら、次の世代へスムーズに交代するのが目標ですね。

穏やかな口調の中に、芯の通った優しさがある金谷さん。
周囲に気を配りながら、「誰も取り残さない」「小さな不安も取りこぼさない」とするまっすぐな姿勢が、利用者との信頼関係を築いています。
同じ歩幅、同じ視線で物事を捉えてくれる、心強い「つなぎ役」です。

===取材協力===
老人保健施設 舞子台
兵庫県神戸市垂水区舞子台7-2-1

取材・文:遠藤 るりこ / 撮影:あいらいふ編集部

豊かなシニアライフのための情報誌『あいらいふ』編集部
【誌名】『あいらいふ』vol.182(2026年3月26日発行号)
【概要】初めて老人ホームを探すご家族の、施設選びのポイントをさまざまな切り口でわかりやすく解説。著名人に介護経験を語っていただくインタビュー記事のほか、人生やシニアライフを豊かにするためのさまざまな情報や話題を取り上げて掲載。
【発行部数】4万部
【配布場所】市区役所の高齢者介護担当窓口・社会福祉協議会・地域包括支援センター・居宅介護支援事業所・訪問看護ステーション・病院・薬局など1万か所

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