支援連携の輪

【ソーシャルワークの現場から-支援連携の輪-】[神奈川]湘南鎌倉総合病院 / 退院調整看護師・秋山 美代 氏

退院調整看護師・秋山 美代 氏
discharge planning nurse / Miyo Akiyama

強みは看護の専門性 退院支援をスムーズに

患者さんが退院した後も、個々のニーズに応じて切れ目なく医療・介護を受けられるように、在宅療養や回復期リハビリテーション病院、介護施設などへの橋渡しをするのが退院調整看護師の役割。神奈川県鎌倉市の湘南鎌倉総合病院で、退院調整看護師として働く秋山さんにお話をうかがった。

病棟勤務のかたわら 大学で福祉を学ぶ

■あいらいふ編集部(以下、あいらいふ):
本日はよろしくお願いいたします。秋山さんは現在、13名が所属する入退院看護支援室の室長を務め、退院調整看護師として退院支援に従事されています。

まず、医療の仕事を志したきっかけを教えてください。

■退院調整看護師・秋山美代さん(以下、秋山):
子どもの頃の夢は、獣医師でした。それも、牛や馬などの家畜を扱う畜産獣医師です。動物を通じて社会に貢献したい、というイメージを抱いていましたね。

ただ、当時は畜産学を学べる大学が少なく、狭き門でしたし、学費の負担も大きかったことから、自分に合った進路として看護の専門学校に進むことを決めました。同じころに両親が入院したこともあって、人に直接かかわり、役に立つ仕事をしたいという思いがありました。

卒業後は、平塚共済病院に病棟看護師として4年間勤務。結婚を機に鎌倉へ移り、現在の湘南鎌倉総合病院に転職しました。当院では、病棟看護師として20年間勤務し、看護師長も務めました。

■あいらいふ:
病棟勤務から、退院調整看護師にシフトした経緯についてお聞かせください。

■秋山:
社会福祉士の資格を取得したことがきっかけです。

看護の現場で働く中で、社会制度についての知識や、対人援助の技術といった福祉のノウハウがあれば、より患者さんに寄り添った支援ができるのでは、と考えるようになって。大学に編入し、2年間通って資格を取りました。

■あいらいふ:
看護師さんは、お忙しい職業の代表格というイメージがありますが、学業との両立は大変だったのでは?

■秋山:
福祉の分野は、医療技術職とは基盤となる法律も異なりますし、学び直しの難しさはありました。

ただ、社会人クラスだったので、医師や看護師、介護職や行政書士など、さまざまな職種の仲間と机を並べて学ぶことができたのは良い経験になりました。それぞれの専門知識を持ち寄って、話し合う時間はとても楽しかったです。

ちょうど同じ頃、入退院看護支援室が新設され、退院支援に看護師が導入されることになったんです。資格取得のタイミングと重なったこともあって、退院調整看護師に任命されました。

ただ、いきなり一人で異動して、入退院看護支援室の立ち上げから関わることになり…。当初は本当に大変でしたね(笑)。

医療の知識と福祉の視点 退院調整看護師の役割を確立

■あいらいふ:
病棟看護師から退院調整看護師にシフトする際に、ギャップを感じたことはありますか?

■秋山:
病棟看護師は、治療が円滑に進むように、診療の補助や療養上のお世話をすることが、主な役割です。

一方、退院調整看護師は、患者さんとご家族の抱えるお困りごとと向き合うために、地域の関係機関も巻き込んで、連携を図る必要があります。

連携先は在宅医や回復期リハビリテーション病院、地域包括支援センターや介護施設など多岐にわたります。患者さんの病状に応じて、医学モデルである患者さんを生活モデルとしてアセスメントし、ご家族の意向を確認し、「どこと連携するか」「そのために何を準備するか」の実行までを担うところが、病棟看護師との大きな違いですね。そして、それは入院時から展開しているのです。

患者さんとご家族がシームレスに必要なケアを受けられるために、私自身も、まずは地域を回って、訪問看護師や訪問診療、各医療機関や施設の看護師らとの関係を築くところからのスタートでした。

■あいらいふ:
入退院看護支援室の立ち上げの当初、特にご苦労されたことは?

■秋山:
やはり、院内での役割開発ですね。看護師が退院支援を行うことのメリットを理解してもらい、「退院調整看護師」の役割をしっかり根づかせるまでが大変でした。今になっても、十分な知名度があるとは言えませんから。

医療の視点を、患者さんの退院後の生活モデルにどのように落とし込むかが、退院調整看護師ならではの役割です。でも、当初は「退院支援はMSWの仕事」という意識が根強く残っていて、なかなか受け入れてもらうことができませんでした。

医師やその他スタッフからの医療的ケアの相談についても、「もっとご相談をいただければ」と感じ、「ますます存在を知っていただくようにしないと」と思うこともいまだにあります。

■あいらいふ:
どのようにして退院調整看護師の役割を確立させていったのですか?

■秋山:
終末期や医療依存度の高い患者さんの退院支援については、これまでの看護経験を活かして積極的に関われるよう、各診療科の主治医の先生に直接お願いしていきました。

また、インフォームド・コンセントの場に同席して、病状に即した看護方針やケアについて説明することで、意思決定支援や退院支援がスムーズに進むことを知ってもらったり。

患者さんの退院までの期間や病態の把握、ご自宅でも対応が可能な医療処置のシンプル化の提案など、看護師が退院支援に関わることで得られるメリットを感じ取っていただけるよう、努力を重ねました。

■あいらいふ:
まさに、秋山さんが退院調整看護師のポジションを切り開いたといっても過言ではないですね。

急性期病院の退院支援 欠かせないのは“提案力”

■あいらいふ:
湘南鎌倉総合病院は、600床以上の病床を有する、地域有数の大病院です。大型の急性期病院で退院支援をスムーズに行うために、工夫されている点があれば教えてください。

■秋山:
当院は、「断らない医療」をモットーに掲げ、年間2万件前後の救急搬送を受け入れています。

一人でも多くの患者さんを受け入れるために、病床を常に確保する上で、治療を終えて依頼を受けてから、退院支援に取りかかっていては遅すぎます。入院時から戦略を立てていかないと間に合いません。

そのため、医局の協力を得て電子カルテの仕組みを強化し、各診療科の先生に、あらかじめ患者さんの治療情報が書かれた「依頼箋(いらいせん)」を提出していただく体制を整えました。

現在は、退院困難とされるほぼすべてのケースで、入院時に依頼箋を出していただけるようになっています。入院から2~3日以内に担当部署で情報を共有し、治療中であっても退院調整看護師が早期にご相談に介入できるようになりました。

患者さんが入院されている間に、介護保険の申請や、包括ケア病床への転床の手続き、そのほか必要な手配を行っています。ご本人やご家族がご自宅での療養を希望される場合は、ケアマネジャーを決定し、在宅ケアの準備を進めます。

現在は、治療を終えた後、一週間以内に受け入れ先や在宅療養準備が完了する仕組みを確立し、治療後の入院長期延長がないように、支援・調整を実施しています。

■あいらいふ:
急性期医療の限られた期間で、退院支援を行うことには、難しさもあるのでは?

■秋山:
大切なのは、患者さんとご家族の抱えるご不安を事前に想定し、それに応えられる現実的な出口戦略と“提案力”だと思います。

私たちは、依頼を受けた時点で、この先起こりうるさまざまな状況を想定し、それに応じた退院支援や調整に関するストーリーを考え、ご家族と共有します。

病棟看護師としての勤務経験を活かし、あらかじめ課題となり得る状況を幅広く把握することで、説得力のある提案を行うことが可能になり、「状況に応じて細やかに寄り添ってくれる」というご家族の実感につながります。こうした提案力を高めるための教育にも、日頃から力を入れています。

老人看護の経験が光る ご家族の想いに寄り添う終末期ケア

■あいらいふ:
秋山さんは現在、院内で唯一の老人看護専門看護師でもいらっしゃいます。終末期の患者さんを担当される中で、「人生の最期をどう過ごすか」という繊細な選択に向き合う場面も多いのではないでしょうか?

■秋山:
大学院で2年間、看護、薬理、病態、治療、倫理など老人看護の専門知識を学びました。終末期の在宅ケアをテーマに論文を書いたこと、老年学に関わるさまざまな分野の先生方の講義を受けられたことは、得難い経験でしたし、私にとっての宝物です。

ご高齢の方の老衰の過程を深く学ぶ機会があったからこそ、終末期のケアに関する調整は、私の強みだと感じています。ご家族にとっては辛い選択となることもありますが、患者さんとご家族の意向を尊重しながら、最善のご提案をすることが、老人専門看護師としての私の大切な役割だと考えています。

■あいらいふ:
終末期のご高齢の患者さんの退院支援で、印象に残っているエピソードはありますか?

■秋山:
さまざまなケースが思い浮かびますが、心に残るのは、ご不安を抱えながらも「自宅で最期を迎えさせたい」と看取りを決意されたご家族の姿です。

その場合は、在宅医の先生や訪問看護師の皆さんに、私たちからご家族の想いを直接お伝えし、「よろしくお願いします」と橋渡しを行います。病状に応じた医療面での支援はもちろんですが、ご家族の気持ちに寄り添う心のケアとの両立も大切にしています。

こうしたケースでは、後日、ご家族から「あのとき自宅に連れて帰ってよかった」と、感謝のお言葉をいただくことも多いですね。

時間的な制約がある中でも、意思決定のプロセスについては患者さんとご家族の気持ちに寄り添い、丁寧に行うことを常に意識しています。

■あいらいふ:
退院後の患者さんを受け入れる地域の関係機関との連携において、秋山さんが大切にしていることを教えてください。

■秋山:
ケアマネジャーさんやホームヘルパーさんに、「病院は敷居が高い」と思われないようにすることですね。そうしたイメージを払拭して、少しでも気になることがあれば、たとえ一言でも気軽に電話をいただけるような関係づくりを、スタッフ全員が心がけています。

■あいらいふ:
あいらいふをはじめとする老人ホーム紹介業については、どのような印象をお持ちですか?

■秋山:
介護施設は数多くありますから、その方に本当に合った入居先をみつけるために、専門業者の力を借りる機会は多いですね。

あいらいふさんには、さまざまなご事情を抱えた患者さんとご家族に対して、時間をかけて丁寧に向き合っていただけるという印象を持っています。

入退院看護支援室では、介護の問題を抱えたご高齢の患者さんを担当することが多いので、私たちにとって心強い存在ですね。

病棟のケアを引き継ぎ退院へつなぐ 退院調整看護師の魅力を伝えたい

■あいらいふ:
日頃の責務を果たすには、リフレッシュも大切だと思います。秋山さんの「ほっとする時間」や、ご家族の存在について教えてください。

■秋山:
自宅で犬と猫を飼っていて、彼らと過ごす時間が私の癒しになっています。子どもたちが成長して、なかなか相手をしてくれないので(笑)。

次女はいま、看護学生なんです。その方らしい看取りができた高齢の患者さんの話や、元気に退院していったお子さんの話など、私が「看護師になってよかった」と感じた体験談を、娘にはよく話しています。

娘は子どもが好きなので、小児科の看護師になりたいと言っています。おおらかな性格なので、大きな心で患者さんに寄り添える看護師になってほしいですね。

■あいらいふ:
親の背を見て子は育つ。秋山さんの生き方を見て、看護師という仕事に魅力を感じたのでしょうね。

■秋山:
そう言えば、長男は省庁に入り、畜産の獣医師として働いているんです。私が昔その道を目指していたことを、彼には話していなかったのですが。不思議ですよね。

今は息子を通してもう一度、かつての夢を見させてもらっているような気持ちです。

■あいらいふ:
最後に、秋山さんのこれからのビジョンについてお聞かせください。

■秋山:
当院は急性期病院ですので、高齢化に伴い、今後さらに症例は増えていくと思います。

そのためにも、退院調整看護師の人数を増やし、育成にも力を入れて行きたいと考えています。さまざまな状況に柔軟に対応できるよう、現在、教育マニュアルの整備を進めているところです。

退院調整看護師は、医療に関する専門的な知識と、退院後の生活を見据えた福祉の視点をバランスよく活かし、包括的な退院支援を提供できる、魅力ある仕事です。

病棟のケアをしっかりと引き継ぎ、退院へとつなげていく。患者さんが安心してご自宅に戻る場面に立ち会える、この仕事の醍醐味を楽しめる人材を育てていきたいですね。

たった1人で始めた入退院看護支援室には、現在13名が所属。頼もしい仲間たちと

【プロフィール】
医療法人徳洲会 湘南鎌倉総合病院
地域総合医療センター 入退院看護支援室
副センター長/室長
秋山 美代

看護学校を卒業後、2つの病院で病棟看護師として28年間にわたり勤務。社会福祉士の資格を取得したことがきっかけとなり、湘南鎌倉総合病院初の退院調整看護師として抜てきを受ける。現在は13人の入院支援・退院調整看護師を抱える、入退院看護支援室の室長として勤務。医療の知識と福祉の視点を活かしながら、患者さんとご家族が安心して退院・在宅生活へ移行できるよう、退院支援に力を注いでいる。

===取材協力===
医療法人徳洲会 湘南鎌倉総合病院
神奈川県鎌倉市岡本1370-1
https://www.skgh.jp/

取材・文:北林あい/撮影:あいらいふ編集部

豊かなシニアライフのための情報誌『あいらいふ』編集部
【誌名】『あいらいふ vol.179(2025年9月25日発行号)
【概要】初めて老人ホームを探すご家族さまの施設選びのポイントをさまざまな切り口でわかりやすく解説。著名人に介護経験を語っていただくインタビュー記事のほか、人生やシニアライフを豊かにするためのさまざまな情報や話題を取り上げて掲載。
【発行部数】4万部
【配布場所】市区役所の高齢者介護担当窓口・社会福祉協議会・地域包括支援センター・居宅介護支援事業所・訪問看護ステーション・病院・薬局など1万か所

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