支援連携の輪

【ソーシャルワークの現場から-支援連携の輪-】[埼玉]安東病院 / 地域連携室 室長代理 兼 看護師・佐藤 真紀子 氏

地域連携室 室長代理 兼 看護師・佐藤 真紀子 氏
community based nurse / Makiko Sato

地域の基盤となる
病院づくりの担い手に

病院内のベッドコントロールや地域の医療機関、介護施設、訪問介護と連携し、患者さんの入退院や転院などを調整・支援する地域連携室。今回は、埼玉・川口市の安東病院で、病棟看護師としての勤務経験を生かし、地域連携室の室長代理兼看護師として勤務する佐藤さんに、お話をうかがった。

人の役に立ちたくて
思いを胸に看護師の道へ

■あいらいふ編集部(以下、あいらいふ):
本日はよろしくお願いします。まずは現在に至るまでのお話を聞かせてください。佐藤さんは小さい頃、どんなお子さんでしたか?

■地域連携室 看護師・佐藤さん(以下、佐藤):
現在は地域連携室で多職種の中心に立つ役割を担っていますが、小さい頃は控えめな性格でした。
今も変わらず人見知りなんですよ。

思い当たる転機はありませんが、中学校、高校に進むと学級委員をやる機会が多くなり、クラスがまとまることにやりがいを感じるようになりました。

■あいらいふ:
何をきっかけに、看護師という職業に興味を持ちましたか?

佐藤:
私は九州の佐賀県出身ですが、中学校の帰りに田舎の山道を歩きながら進路のことを考えていたとき、直感的に「これだ!」と思った職業が看護師でした。

高校は看護科のある県内の学校に進み、その後、神奈川県にある看護の専門学校に入学しました。人の役に立つ仕事に就きたいという思いが基盤にあったのだと思います。

■あいらいふ:
専門学校を卒業した後は、どのような道に進みましたか?

佐藤
子どもが好きだったので、神奈川県にある大学病院の小児科で3年間勤務しました。
当時は独身で、親の気持ちがわからないながらも、お子さんとご家族に精一杯寄り添おうとしていました。自分が母になってからは、出会った親御さんの気持ちを親の立場で考えられるようになりました。

■あいらいふ:
3年間の小児科勤務を振り返ると、どんな学びがありましたか?

佐藤
入院していても親子の絆は途切れませんが、厳しい治療が続けば不安になることもあります。

そんなとき、互いが気持ちを一つにして前に進んでもらうために、医師や看護師はどう関わるべきか。またお子さんが亡くなったときの、親御さんへの寄り添い方もすごく勉強になりました。

「努力は夢中に勝てない」
背中を押した息子さんの一言

■あいらいふ:
安東病院で働き始めたのはいつ頃ですか?

佐藤
大学病院の小児科を退職後、2年間、クリニックに勤務しました。クリニックを辞めて結婚し、27歳で看護師に復帰する際に選んだのが安東病院でした。最初は地域包括ケア病棟で、おもに退院支援を担当していました。

■あいらいふ:
病棟勤務時代、看護師をやっていてよかったと感じたのはどのような時でしたか?

佐藤
私はとにかく会話によるコミュニケーションを大切にしていて、どんなに忙しくてもそこは譲れません。

患者さんはもちろん、面会にきたご家族がエレベーターの前を通るのを見逃さずに話しかけて、患者さんの食事の状況やその日の体調をお伝えしていました。

そうやって関わりを深めていくうちに「佐藤さん」と名前で呼んでいただけるようになり、「あなたがいてくれてよかった」と言っていただけることがすごく嬉しかったです。

■あいらいふ:
どのような経緯で地域包括ケア病棟から、現在の地域連携室に移られたのですか?

佐藤
2024年12月に地域連携室を立ち上げるにあたり、地域包括ケア病棟でやしなった経験を生かしてほしいと、病院側から声をかけていただき今に至ります。安東病院は地域密着の病院なので、地域の基盤となる病院づくりの力になりたいと思い決心しました。

■あいらいふ:
地域包括ケア病棟を離れることに葛藤はありましたか?

佐藤
すごくありました。体を拭く、口腔内をきれいにするといった看護の仕事から離れることにためらう自分がいました。それに地域包括ケア病棟をスムーズに回していくためのスタッフ教育が道半ばで、やり残したことも多かったので。

ただ、置かれた立場によって求められる役割が異なることも充分に理解しているので、異動後は、いかに情報を共有して連携を強化していくかという地域連携室の課題と向き合い続けています。当室にきてからは、病院全体をより広い視野で見られるようになったと感じています。

■あいらいふ:
地域連携室に行くことを悩んでいた佐藤さんが、一歩を踏み出すきっかけになった出来事があれば教えてください。

佐藤
高校の空手部で活躍している長男が好きな言葉、「努力は夢中に勝てない」という一言に背中を押されました。地域連携室にきたら覚えることはたくさんあるけど、看護師の仕事が好きという気持ちを忘れず、夢中でやれたら挑戦を続けられると思い、一歩を踏み出したんです。

長男は空手の強豪校に通っていますが、思うように勝てないときもありました。でも、「周りを見ると夢中になっている人ほど強いってわかった。夢中が先にくると努力がついてくる」という、彼の言葉に教えられました。

■あいらいふ:
経験にもとづく息子さんの言葉は大人の心にも響き、挑戦を後押ししてくれますね。

佐藤
そうですね。物事はすべてに意味があり、いろいろなところでつながっていると思います。だから後悔や落ち込みもたくさんあるけど、何事にも挑戦するように心がけています。

患者さんの安心と快適のため
院内と外部機関との連携を強化

■あいらいふ:
地域連携室の人員体制と、佐藤さんの役割を教えてください。

佐藤
当院の地域連携室は、相談員2名と看護師である私の3名体制です。私は病院全体のベッドコントロールのほか、患者さんの状態に合わせて退院や転棟を調整したり、他の医療機関からの入院・転院の支援も行っています。

■あいらいふ:
地域連携室ができて半年ほど経ちますが、手ごたえは感じていますか?

佐藤
病院の体制が変わり忙しさが倍増し、スタッフは混乱しかなかったと思います。地域連携室で私は受け入れられていないと感じ、何のためにここにきたのだろうと自信を失うこともありました。

その状況を変えたいと思い、スタッフに積極的に声をかけて指示を出せるようになると、少しずつ頼られている実感を持てるようになりました。

■あいらいふ:
現時点で佐藤さんが感じる目標の達成度は、どのくらいでしょうか?

佐藤
まだ10%程度ですね。医師、看護師、相談員など、それぞれの職種で考え方が異なるため、それらをひとつにまとめる難しさを痛感しています。

ただ、院内連携がさらに円滑になり、組織体制がしっかり整えば、スタッフの働く姿にも笑顔が増え、病院全体の雰囲気がより良くなると期待しています。そのようなポジティブな空気感は自然と患者さんにも伝わり、安心感や快適さを感じていただけるはずです。

そのために、各々の意見を丁寧に受け止めつつ情報を集め、私が中心となってより良い環境と職場づくりに努めていきたいと考えています。

■あいらいふ:
まだ課題はあるかもしれませんが、佐藤さんが地域連携室に来たことで改善されたことは多々あると思います。

佐藤
そう願っています。当院は一般病棟、地域包括ケア病棟、療養病棟に分かれていますが、私がベッドコントロールを担うことで、患者さんをどのタイミングで適切な病棟に移すか、またどのタイミングで退院していただくかを把握しやすくなればと思っています。

患者さんは自宅に戻る、施設に入る、どちらも難しければ療養病棟に移りますが、先の道筋が立てやすくなるように動いています。

■あいらいふ:
多職種間のつながりを深めるコツとして、佐藤さんが特に意識しているポイントを教えていただけますか?

佐藤
病棟勤務時代から、チーム内の連携をとても大切にしてきました。医師やリハビリスタッフ、医療ソーシャルワーカーと密にコミュニケーションをとり、情報交換を積極的に行ってきました。こういった関わり方が私の強みとも言えると思います。

その経験を活かし、地域連携室においても率直に意見を出し合える、良好な関係性づくりに努めたいと考えています。

■あいらいふ:
院内の連携強化という面で、新たにどのようなビジョンをお持ちですか?

佐藤
現状、連携をよりスムーズにするための効果的なカンファレンスのあり方について検討中です。また、情報の「可視化」に力を入れたいと考えています。当院では未だ電子カルテを導入していないので、医師や看護師、他のスタッフと相談員の記録をリアルタイムで共有できるような仕組みを構築していきたいと思っています。

■あいらいふ:
病院外部との連携も不可欠だと思います。この点は現在どのように行われていますか?

佐藤
地域包括ケア病棟で勤務していたときは、患者さんやそのご家族、相談員と密接に関わりながら退院支援を行ってきました。
一方、地域連携室では、例えばケアマネジャーなど病院外の専門職との連携が求められます。

現段階では、私自身がそのハブの役割を担っているつもりですが、地域の病院や介護施設、さらには「あいらいふ」さんのような老人ホーム紹介会社とも密な関係を築くべきと感じています。
そのためにも、外部機関との「顔が見える関係性」を意識し、どんな時でも当院が頼りにされる存在になることを目指して取り組んでいきたいと思っています。

■あいらいふ:
「あいらいふ」のような老人ホーム紹介会社の存在をどのように感じていますか?

佐藤
私が直接やりとりする機会はありませんが、間に入っていただくことで患者さんとご家族に専門的な知識を提供でき、その方に最適な施設を提案できると思います。

家族の支えを糧に、
病院の中心的役割を担う

■あいらいふ:
忙しい日々の中で、仕事を忘れてほっとする瞬間はどんな時ですか?

佐藤
高校3年生の長男が、空手部を引退する時期を迎えており、残された試合を見に行くのが今の楽しみです。

彼は全国大会に進出した実績もありますが、メンバーに選ばれたり選ばれなかったりしながら粘り強く努力を重ねてきました。その試合を、一緒にハラハラドキドキしながら応援する時間は、仕事のことを完全に忘れます。

■あいらいふ:
佐藤さんにとって家族とはどのような存在ですか?

佐藤
頭が上がらない、かけがえのない存在です。仕事の影響で夕食が遅れることがあっても文句ひとつ言わず待っていてくれる。

特に長男は部活を通じて多くの経験を積んだせいか、大人びた考え方ができるようになり、「今まで親から好きなことをやりなさいと言われてきたのだから、お母さんも挑戦すべき」という応援の言葉をくれました。
その言葉が、私が地域連携室の看護師の道へ進む大きな後押しとなり、これまでの経験をその役割で活かそうと前進する勇気をもらったと思います。

■あいらいふ:
ご家庭で仕事にまつわる話をすることはありますか?

佐藤
患者さんのことを家庭で話す機会はありますね。そのためか長女は現在、看護系の大学に進学しています。

彼女は小学生のころから看護師になりたいという夢を語っていました。

8歳年下の中学生である次男の世話を率先して手伝う面倒見の良さがあるので、私から見ても確かに看護師に向いていると思っています。

■あいらいふ:
地域連携室を設置する病院が増え、入退院支援に関心を持つ看護師も増加してくると思いますが、佐藤さんから後輩へアドバイスをお願いします。

佐藤
患者さんが生活している「現場」に着目し、その生活をより充実させるためにどのような課題を解決すると良いのか、常に関心を持つことが大切です。その視点を持ちアイデアを考えることによって気持ちのスイッチが入り、努力する中で成長できると思います。

指導していて感じるのは、QOL(生活の質)の向上に役立つ方法を少しずつ習得し、主体的に動けるようになると、表情や態度に自信が表れ、輝く瞬間につながっていくということです。試行錯誤をいとわず、楽しさを感じながら、患者さんのために率先して動ける後輩が増えてほしいですね。

■あいらいふ:
今後のビジョンについて教えてください。

佐藤
まだ試行錯誤の段階で明確な正解は見えていませんが、私自身が壁となってスタッフたちが同じ方向に進めるように土台を作るのが当面の目標です。

さらに、地域の病院や介護施設、そして訪問介護に関わる方々との連携を深め、地域に根差した病院としての役割を果たしていきたいです。

【プロフィール】
医療法人 安東病院
地域連携室 室長代理 看護師 / 佐藤 真紀子

佐賀県出身。佐賀県内の高校の看護科に進み、その後神奈川県にある看護の専門学校へ進学。卒業後、神奈川県にある大学病院の小児科で3年間勤務し、その後クリニックで3年間働く。一時的に結婚を機に職を離れるも、27歳で看護師として復帰。以降、安東病院の地域包括ケア病棟において退院支援を担当。2024年12月からは、地域連携室の開設に伴い、室長代理と看護師を兼務する形で勤務。

===取材協力===
医療法人 安東病院
埼玉県川口市芝3-7-12

取材・文:北林あい / 撮影:近藤 豊

豊かなシニアライフのための情報誌『あいらいふ』編集部
【誌名】『あいらいふ』vol.178(2025年7月31日発行号)
【概要】初めて老人ホームを探すご家族さまの施設選びのポイントをさまざまな切り口でわかりやすく解説。著名人に介護経験を語っていただくインタビュー記事のほか、人生やシニアライフを豊かにするためのさまざまな情報や話題を取り上げて掲載。
【発行部数】4万部
【配布場所】市区役所の高齢者介護担当窓口・社会福祉協議会・地域包括支援センター・居宅介護支援事業所・訪問看護ステーション・病院・薬局など1万か所

コラム一覧