支援連携の輪

【ソーシャルワークの現場から-支援連携の輪-】[京都]在宅サポート・北白川 / 介護支援専門員(ケアマネジャー)・後呂 文子 氏

介護支援専門員(ケアマネジャー)・後呂 文子 氏
care manager / Fumiko Ushiro

「寄り添う力」が、地域を照らす

“暮らしに寄り添える存在”でありたい、という思いを抱き、利用者目線で誠実に。
介護を必要とする方やご家族の相談に乗り、利用者目線で適切な介護サービスを提供することが、ケアマネジャー(以下、ケアマネ)の大切な仕事。北白川の静かな住宅街に位置する居宅介護支援事業所で働く後呂 文子(うしろ ふみこ)さんに、支援のあり方、地域との関わり方についてお話をうかがった。

「保育士」、「幼稚園教諭」、「介護福祉士」
資格を取得した短期大学時代

■あいらいふ編集部(以下、あいらいふ):
本日はお時間をいただき、ありがとうございます。最初に、後呂さんのこれまでの経歴についてお聞かせください。

■ケアマネ・後呂さん(以下、CM後呂):
私は、三重県伊賀市で生まれ育ち、高校卒業後は奈良県にある福祉系の短期大学に通いました。保育を専攻し、保育士と幼稚園教諭の資格を取りました。同期には、そのまま就職する友だちも多くいたのですが、自分が、卒業してすぐに保育士として働くイメージがなかなかもてませんでした。

そこでもう一年短期大学に在籍して、介護福祉士を養成するカリキュラムを受講し、介護福祉士資格も取得しました。卒業後は、京都にある介護施設に就職しました。

■あいらいふ:
もともと介護の仕事に興味があったのですか?

■CM後呂:
短期大学に入る前から、漠然と「人と関わる仕事がしたい」と考えていました。保育の勉強をするかたわら、スーパーマーケットのレジでアルバイトをしていたこともありました。田舎のスーパーマーケットですから、お客さんはお年寄りが多いんですよ。

1日に何度もお酒を買いに来るおじいちゃんとか、毎日、あんぱんを1個買いに来るおばあちゃんとか…。ある日、その方が「1回の食事であんぱんを半分食べるの」と話しているのを耳にして、衝撃を受けました。

そのとき、この人たちはどんな暮らしをしているのだろう、家にご家族はいるのかな?大丈夫なのかな?って、すごく気になってしまって。

この経験をきっかけに、介護の仕事をしてみたいと思うようになりました。

子育て支援事業所併設の
「小規模多機能型居宅介護」の現場へ

■あいらいふ:
短期大学卒業後、最初はどのようなお仕事からはじめられたのですか?

■CM後呂:
最初に務めたのは、京都の伏見にある「小規模多機能型居宅介護(以下小多機)」でした。通い(デイサービス)を中心に、訪問(訪問介護)や泊まり(ショートステイ)を一体で提供する施設で、介護だけでなく、日常生活に必要なお世話や生活リハビリなども行っていました。

また、保育士さんがいる子育て支援の事業所が併設されていて、子育て中のママ・パパが多く利用されていたんです。そんな中で、地域の小さなお子さんや親御さんたちが、施設の高齢者の方と一緒に楽しめる交流イベントを企画させていただいたこともありました。

育休中のママさんの中には、講師になってくださる方もいらして、フラワーアレンジメントとか、羊毛フェルトなど、2カ月に1回ほどの割合で、ワークショップを開催していました。

介護と保育の経験が拓いた新たな道

■あいらいふ:
短期大学で習得した知識を活かして、介護の仕事に就いてからも高齢者と若い親子が一緒に楽しめる場を創り上げられたのですね。

■CM後呂:
保育士としての道とは別の形を選びましたが、それでも子育て世代の方々とつながりを持てたり、保育士との協働の機会を得られたのはとても嬉しい経験でした。他にも、意義のある体験をさせていただきましたね。

その頃、施設では「共存共生」という考えを大切にしており、新しい事業を積極的に展開しようと取り組んでいました。その一環で、就労支援プロジェクトの立ち上げに参加する機会もいただけました。

プロジェクトには専門職や包括支援・障害者支援の職員、幹部の方々、厨房スタッフなど、法人内の多職種の方々が集まり、それぞれの視点から新しい事業の実現方法を議論する場にも加わることができました。「私がここに居ても役に立つのかな…」と悩んだりもしましたが(笑)、非常に多くのことを学んだ貴重な経験となりました。

■あいらいふ:
期待の新人だったようですね。実際の職場での勤務はいかがでしたか?

■CM後呂:
私にとってはじめての就職、はじめての一人暮らしだったこともあり、毎日が新鮮でした。

慣れない夜勤や早番、遅番などの不規則な勤務体制には少々不安がありましたが、職場の方々が新しく入った私を暖かく迎え入れ、しっかりとサポートしてくださったおかげで、心を落ち着けて業務にあたることができました。

一方で、通い・訪問・泊まりのサービスのすべてに関わるので、事務作業から食器洗いなどの家事まで、多岐にわたる業務を覚える必要があり、苦労することも多々ありました。
結局、この施設では約10年もの間働き、その期間に結婚と出産も経験しました。そして子育てを優先しながら働こうと考えた際、夜勤や土日勤務の多い仕事を続ける難しさを感じたため、転職を決意しました。

介護という仕事の全体像を早く理解する、という意味では、これ以上ない環境だったと思います。また、働きながら一人暮らしをする中で、おいしい味噌汁の作り方を、調理担当の方に教えてもらったのも良い思い出です。生活の知恵を学ぶ機会がたくさんありました。

■あいらいふ:
お子さんが生まれた後の、キャリア形成についてお聞かせください。

■CM後呂:
その時点でケアマネジャーの資格を取得していたため、将来的にケアマネジャーとして働く可能性も視野に入れながら転職活動を始めました。

ただし、実務経験がまだ乏しく、複数のサービスを活用して、ご利用者ごとに最適なケアプランを作成するスキルには自信がありませんでした。そのような状況下で、ケアマネジャーが常駐する居宅介護支援事務所でまずは現場経験を積むことを決意し、デイサービス職員として働くことにしたのです。

自宅から事務所までは、自転車で約50分かかりましたが、短期大学に通っていた頃は片道2時間以上もかかる通学時間をこなしていたので、そこまで負担には感じませんでした。鴨川沿いをママチャリで快走するのが、田舎育ちならではの得意技(笑)です。

■あいらいふ:
転職先での業務に関してはいかがでしたか?

■CM後呂:
業務が細分化されており、効率面では優れていたものの、小規模多機能型居宅介護の現場とは違った緊張感がありましたね。特にご利用者数が多く、入浴介助中などはてんてこ舞いで、集中力を維持し続けねばならない状況が続きました。以前の職場と比べると明確に対照的な点を多く感じましたね。

体調を崩して2~3ヶ月ほど休養を取る事態となりましたが、その間にじっくりと自身の働き方について見つめ直しました。いろいろ考えるうちに、「やはりケアマネジャーとして働きたい」という想いがさらに強くなり、本格的に取り組む決意を新たにしました。

復職後はその願いを叶えるために左京区下鴨の居宅介護支援事務所で、専業のケアマネジャーとして新たな一歩を踏み出しました。

■あいらいふ:
いよいよ念願のケアマネジャーのお仕事がはじまったのですね。

■CM後呂:
はい。訪問看護が併設された事業所で、最大の特徴は、看護師が数多く在籍していたことです。それまでの職場とは違った環境で、看護師さんと密に連携できたのは、私にとって貴重な経験でした。

そのおかげで医療に関する知識も深まり、医療ニーズの高い利用者さんの新規相談に対応する機会も増えました。ここでの勤務は、1年数ヵ月という短い期間でしたが、看護師や医師との連携を通じて学んだことは数多く、今ふり返っても、良い選択だったと感じています。

地域と多職種連携から見出す「人とのつながり」

■あいらいふ:
実際にケアマネジャーになってから、お仕事に対する考え方は変わりましたか?

■CM後呂:
現場で働いていたときとは、また違う視点が必要だと思いました。デイサービスのように、一日を通してご利用者をサポートするのとは異なり、ケアマネジャーは年間の流れを見ながら、長期的な観点でご利用者と向き合います。

その点では、ケアマネジャーになってからの方が、比較的落ち着いて、仕事に取り組めているかもしれません。

それと、ケアマネジャーの仕事は、地域で暮らす利用者さんの生活を、より立体的に捉えられるのがおもしろいところです。近所の方々との関わりから情報が入ってくることもあり、「地域とこういうつながりがあるから、この方の生活はこうなっているんだな」といった発見があって、より深い洞察が得られます。

また、自分の施設内だけでなく、他の事業所さんとの連携も多くなりました。利用者さんの「口コミ」や、他のケアマネさんからの引き継ぎで、新しい施設とつながることもあります。

こうした人間関係が増えていくのも、ケアマネという仕事ならではの魅力ですし、日々、学ぶことがたくさんあります。

■あいらいふ:
その後に、有限会社ケアリング京都一乗寺事務所の「在宅サポート・北白川」に移られたのですね。

■CM後呂:
今年で勤続5年となりました。現在の事業所は非常にアットホームな雰囲気。スタッフ同士のコミュニケーションも円滑で、働きやすい環境が整っています。急な休みが発生しても日頃から業務状況を共有できているため、ご利用者や外部スタッフの方々とも良好な関係を築くことができています。

近年では在宅勤務を推奨する事業所が増えているようですが、対面で一箇所に集まることの良さを改めて実感しています。コロナ禍で在宅や分散勤務を体験しましたが、支えが必要な局面で即座に連携できる環境の重要性を痛感しました。

現在は複数の経験豊富なケアマネジャーとヘルパーが力を合わせて、地域に密着したサービス提供を行っています。

■あいらいふ:
これまでの経歴の中で、印象深いご利用者とご家族のケースがあれば教えてください。

■CM後呂:
ご利用者の変化が、ご家族にも良い影響を与えた経験が特に印象深いです。あるお母さまが長年一人暮らしをしていましたが、娘さんご夫婦と同居を始めることに。

とはいえ、当初は家族間の関係に軋轢が生まれていたようです。まして、お孫さんが障がいを抱え、引きこもりがちだった状況でした。

そんな中、お母さまがデイサービスの利用を開始。家庭内でもいきいきと過ごす姿に変わったことで驚いていました。さらに、おばあちゃんの変化を目の当たりにしたお孫さん自身が、自ら就労支援へ通う道を踏み出されたそうです。心を痛めていた娘さんご夫婦も「本当に助かった」とお話しされ、大変喜んでいたのが印象的でした。

もちろん、大きな特別な支援を私が行ったわけではありません。ただ、一人のご利用者が元気を取り戻した姿が、ご家族全体を良い方向へ導く力があることを学びました。この経験を通して、「人と人とのつながりが生み出す力」の深さを再認識し、温もりある支援の意義を改めて感じるきっかけとなりました。

地域に根差し、人々の暮らしに優しく寄り添う“伴走者”を目指して

■あいらいふ:
ケアマネジャーとして、将来にどのようなビジョンをおもちですか?

■CM後呂:
漠然と考えるのは、まだ自分が未経験の分野、たとえば、障がいのある方々への支援など、今まであまり深く関わる機会がなかった領域にも積極的に取り組み、経験を積んでいきたいということです。
ご本人はもとより、ご家族が抱えるさまざまなお悩みに寄り添い、解決へと導けるような相談窓口として、「この人にだったら何でも話せる」と思ってもらえるような存在を目指したいです。

また、「介護保険だけではカバーできない部分にも、ご利用者の暮らしを豊かにするヒントがたくさんある」という思いで、介護保険外のサービスも含めて日々、情報収集に励んでいます。これからも、人々の暮らしに優しく寄り添う“伴走者”として、地域を支え、社会に明るい希望の火を灯し続けられるよう、努力したいと思います。

【プロフィール】
有限会社ケアリング京都 一乗寺事務所
在宅サポート・北白川
後呂 文子

三重県伊賀市出身。奈良佐保短期大学卒業後、京都市内にある小規模多機能型居宅介護に就職。10年間の現場を経験した後、介護福祉士として10年近く勤めた後、結婚・出産を経てケアマネジャーへ転身。現在は居宅介護支援事業所にてケアプランの作成に携わる。

===取材協力===
有限会社ケアリング京都 一乗寺事務所 在宅サポート・北白川
京都府京都市左京区一乗寺梅ノ木町16

取材・撮影:鈴木孝英/文:山田ふみ

豊かなシニアライフのための情報誌『あいらいふ』編集部
【誌名】『あいらいふ』vol.178(2025年7月31日発行号)
【概要】初めて老人ホームを探すご家族さまの施設選びのポイントをさまざまな切り口でわかりやすく解説。著名人に介護経験を語っていただくインタビュー記事のほか、人生やシニアライフを豊かにするためのさまざまな情報や話題を取り上げて掲載。
【発行部数】4万部
【配布場所】市区役所の高齢者介護担当窓口・社会福祉協議会・地域包括支援センター・居宅介護支援事業所・訪問看護ステーション・病院・薬局など1万か所

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