支援連携の輪

【ソーシャルワークの現場から-支援連携の輪-】[神奈川]退院調整看護師・西元寺 秋奈氏

退院調整看護師・西元寺 秋奈氏
discharge nurse/Saigengi Akina

平等な医療・福祉・保健を
すべての人に

退院後も自宅で医療や看護を受けながら生活できる体制づくりをサポートし、地域医療や福祉サービスとの連携を調整する退院調整看護師。

今回は神奈川県相模原市のさがみ林間病院で、退院調整看護師として働く西元寺さんにお話をうかがった

病棟看護師から退院調整看護師へ
つまずきを恐れず、挑戦を忘れず

■あいらいふ編集部(以下、あいらいふ):
医療ソーシャルワーカーが心理的、社会的側面の支援を行うのに対し、退院調整看護師は退院後、自宅で継続的に医療的ケアを受けるための支援、調整を担います。

経験豊富な西元寺さんですが、まずは経歴を教えてください。

■西元寺:
最初は療養型病院に長く勤め、急性期の病院で看護師経験を積みたいと思い東芝林間病院(現・さがみ林間病院)に移りました。

回復期リハビリテーション病棟や外来看護師を経て、8年前に病床管理部(現・地域連携室)に配属されて退院調整看護師として勤務しています。

自分で希望したというよりも、部署の立ち上げに際して、在宅復帰する医療的ケアが必要な患者さんへの退院支援をしてほしいと依頼を受けたのがきっかけでした。

■あいらいふ:
病棟看護師を経て退院調整看護師になり、就任当初は戸惑うこともありましたか?

■西元寺:
そうですね。私は在宅看護の経験はないですし、当初は、食事ができないような医療依存度の高い患者さんがご自宅に戻って生活するイメージがわきませんでした。

連携先のケアマネジャーや訪問看護師から在宅でできる支援を提案してもらい、力添えをいただきながら経験を重ねてきた感じです。

座右の銘でもある「初めから完璧なんて期待しちゃいけない」の精神で、挑戦を忘れず取り組んできました。

■あいらいふ:
さまざまな状況に対応するなかで、特に大変だったのはどんなケースですか?

■西元寺:
患者さんが帰りたくないと退院を拒むケースがあり、その際はご不安に思うことを丁寧に傾聴し、解決へと導く支援を行いました。

逆に患者さんは帰りたいけれど、ご家族から帰ってきては困ると言われたケースもありました。

その場合、在宅で生活するためには何が必要で、どんなサービスを使えば足りないものを補い、負担を減らせるか、何度も話し合いました。

最後は、訪問看護師の「退院後は私たちが支える」という言葉がご家族の安心につながり、退院が実現しました。

私一人では支援できないことも多くあり、地域の支援連携に感謝しています。

■あいらいふ:
病棟看護師時代には経験してこなかった業務も多かったと思います。慣れるまでに苦労したことはありますか?

■西元寺:
病棟業務では、基本的に目の前の患者さんとご家族への対応がメインになるので、電話をかけることがありませんでした。

退院調整看護師になってからは、ケアマネジャーなど病院外の方たちと電話でやりとりする機会が増え、電話応対における言葉遣いなど社会人としてのマナーを身に付けるところから勉強が必要でした。

■あいらいふ:
大小さまざまな経験を積んで今日に至るわけですね。退院調整看護師として経験を積まれた今、患者さんとご家族に向き合う上で、大切にしていることを教えてください。

■西元寺:
患者さんとご家族の思いをすべて叶えられるとは限りませんが、この先どんな生活がしたいか、ご家族はどのように支援したいかを真摯に傾聴することが大事だと思っています。

密なコミュニケーションで
知恵を出し合いベストな支援を模索

■あいらいふ:
現在お勤めのさがみ林間病院についてうかがいます。在宅復帰率が高いと聞いていますが、詳しく教えてください。

■西元寺:
在宅復帰率は8割程度になります。ご自宅への復帰を支える取り組みの一例として、回復期リハビリテーション病棟には、一般居宅の造りをした「ADLルーム」があります。

介護ベッドやベッドが置けない方用の布団もあり、キッチン、トイレも完備しています。

脳梗塞で片麻痺がある方などが、ご自宅での生活を想定して布団からの立ち上がりを訓練したり、ご家族が一緒に泊まって排泄介助などを体験できる環境が整っています。

■あいらいふ:
高い在宅復帰率を誇るさがみ林間病院で、退院調整看護師の果たす役割は大きいと思います。

退院調整看護師の存在が患者さんに及ぼすメリットを、どのように感じていますか?

■西元寺:
メリットの一つは、医療的ケアを必要としながら在宅に戻る患者さんに、具体的なケアの仕方をご提案できることです。

もう一つは訪問診療との橋渡しを行い、医療依存度の高い患者さんを自宅で支えていくご家族の不安を軽減して差し上げられることだと思います。

■あいらいふ:
退院調整看護師として西元寺さんが大切にしていることを教えてください。

■西元寺:
人とのコミュニケーションはとても大事だと思っています。

情報共有はもちろんですが、目の前の患者さんにどのような退院支援ができるか、関わるスタッフと相談できる環境づくり、関係づくりが重要だと感じています。

積極的にコミュニケーションを取って医療ソーシャルワーカーやケアマネジャーなどに知恵をお貸しいただき、それが患者さんとご家族へのより良い提案につながっています。

■あいらいふ:
医療ソーシャルワーカーと連携して方向性を共有するうえで、意識していることはありますか?

■西元寺:
退院調整看護師は医療資格を持っているので、在宅での医療管理の知識は豊富ですが、医療ソーシャルワーカーが担う分野の支援スキルは持ち合わせていません。

ですからコミュニケーションを取りながらお互いの強みを活かし、足りない知識を補い合って退院調整を行うように意識しています。

■あいらいふ:
退院調整看護師は、在宅での医療的ケアを見据えて医師に提言することもありますか?

■西元寺:
そうですね。病院で行う医療的ケアを在宅でそのままできるわけではありません。

患者さんの生活状況に合わせて、例えばご家族の負担を減らすためにインスリン注射の回数を調整できないか、注射が難しい場合は服薬に変更できないかなど、退院調整看護師から医師に提案することがあります。

■あいらいふ:
慣れない医療的ケアに不安と負担を覚える患者さん、ご家族は多いと思います。当事者に代わって調整してくれる退院調整看護師は心強い存在ですね。

では、ケアマネや訪問看護師など外部スタッフと連携する際に意識している点はありますか?

■西元寺:
患者さんが今まで在宅でどんな生活をされてきたか、大切にしていたことは何か。

またご家族がどんな関わり方をしていたか、家族の思い出は何かなど、幅広く情報も共有します。

ケアマネや訪問看護師からの情報提供がより良い支援につながるので、話しやすい雰囲気を心がけてコミュニケーションが円滑にいくように意識しています。

家でも思い出すのは患者さんのこと
緊張の糸を緩めるのは家族との時間

■あいらいふ:
子供の頃やプライベートについてうかがいます。いつ頃から看護師の仕事に興味を持ったのですか?

■西元寺:
小学校の頃から「看護師さんになりたい」と言っていて、きっかけは看護師さんを取り上げたテレビのドキュメンタリー番組でした。

つらい治療や入院生活を送る患者さんに寄り添う姿を見て、「かっこいい!」と思ったのが始まりでした。

■あいらいふ:
看護師さんになる夢はずっと変わりませんでしたか?

■西元寺:
そうですね。高校を卒業して地元の長野県から神奈川県の相模原市に出てきて、働きながら奨学金で准看護学校に通い准看護師の資格を取りました。奨学金を返済後、正看護師の学校に通って正看護師の職に就きました。

■あいらいふ:
仕事と学びの掛け持ちで心が折れそうになったことはないですか?

■西元寺:
実習はきつかったですね。でも地元の同級生と一緒に生活寮に入ったので、互いに支え合えたのはよかったです。すごくいいパートナーに恵まれました。

■あいらいふ:
今は忙しい毎日だと思いますが、西元寺さん流のリセット法はありますか?

■西元寺:
仕事が終わり制服を脱いだら気持ちを切り替えているつもりですが、寝る前に患者さんの顔が浮かんだり、退院日が迫っているけど、不安がなくならないご家族の姿を夢で見たりします。

結局、家に居ても退院調整を考えてしまい上手く切り替えられていませんね(笑)。

■あいらいふ:
ご家族と過ごす時間はありますか?

■西元寺:
昨年度まで息子がバスケットボールをやっていて、試合の引率が忙しかったです。

今年から娘がアイススケートを始めました。仕事が終わった後は子供たちの習い事につき合っている感じです。

お母さんをやることが、気持ちの切り替えになっているかもしれません。

退院後の患者さんの元気な姿に
支援の正解を見てやりがいを実感

■あいらいふ:
今後、西元寺さんのように病棟看護師から退院調整看護師を目指される方もいると思います。先輩としてメッセージをお願いします。

■西元寺:
ご自宅に戻った患者さんが外来で声をかけてくれて、今はこんなことができるようになったとか、ご家族から楽しく生活できているという話を聞くと、あのとき退院調整看護師として支援できてよかったと思うんです。

ケアマネジャーからも退院後のエピソードを聞くことがあり、自分が行った支援がその後の生活で良い方向に作用していると思うと喜びを感じます。

そんなやりがいを感じられる仕事なので、ぜひ挑戦してほしいです。

■あいらいふ:
最後になりますが、2023年5月よりあいらいふの親会社である株式会社ユカリアによるさがみ林間病院の経営サポートがスタートしました。

経営サポートの開始以降、実感する変化はありますか?

■西元寺:
ユカリアさんが新しい風を吹かせてくれたと感じています。

ユカリアさんの方針に沿って、患者さんの受け入れなどを調整するということが必要なのだということを、認識するようになりました。

以前はそのようなことはあまり意識せずに仕事をしていましたが、現在はさらに積極的に会議に参加したり、ベッドコントロールなどにも意識するようになり、自分たちも、病院経営に関わる責任感を深めたり、「これをやらなくては」という強い意欲が生まれています。

■あいらいふ:
そう言っていただけると嬉しいです。本日はありがとうございました。

【プロフィール】
医療法人ユーカリ さがみ林間病院
退院調整看護師
西元寺 秋奈

長野県の高校卒業後、神奈川県相模原市にある准看護学校に通いながら働き、准看護師の資格を取得。
奨学金を返済後、さらに正看護師の学校に通って正看護師として働く。
卒業後、療養型病院での勤務経験を通じて看護技術を磨き、急性期の病院で看護師経験を積むために東芝林間病院(現・さがみ林間病院)に転職。
その後、回復期リハビリテーション病棟や外来看護師を経て、8年前に病床管理部(現・地域連携室)に配属され、退院調整看護師として勤務。
部署の立ち上げに際し、在宅復帰する医療的ケアが必要な患者さんに退院支援をしてほしいとの依頼を受けたことがきっかけ。

===取材協力===
医療法人ユーカリ さがみ林間病院
神奈川県相模原市南区上鶴間7-9-1
https://www.rinkan-hp.com/

取材・文/北林あい
撮影/あいらいふ編集部

豊かなシニアライフのための情報誌『あいらいふ』編集部
【誌名】『あいらいふ』vol.177(2025年5月29日発行号)
【概要】初めて老人ホームを探すご家族さまの施設選びのポイントをさまざまな切り口でわかりやすく解説。著名人に介護経験を語っていただくインタビュー記事のほか、人生やシニアライフを豊かにするためのさまざまな情報や話題を取り上げて掲載。
【発行部数】4万部
【配布場所】市区役所の高齢者介護担当窓口・社会福祉協議会・地域包括支援センター・居宅介護支援事業所・訪問看護ステーション・病院・薬局など1万か所

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