支援連携の輪

【ソーシャルワークの現場から-支援連携の輪-】[東京]居宅介護支援事業所竜泉 / 介護支援専門員(ケアマネジャー)・池田 泰代 氏

介護支援専門員(ケアマネジャー)・池田 泰代 氏
care manager / Ikeda Yasuyo

いつか求められる日のために 育む信頼

「大切なのは、いざというとき、手を差し伸べられる距離にいること」。東京都台東区にある居宅介護支援事業所竜泉(以下、竜泉)で活躍するケアマネジャー(以下、ケアマネ)の池田泰代さんは、医療生協を母体とする充実した連携体制のもと、地域を支える〝チームの要〟として尽力している。

都市銀行で培った〝接遇力〟

■あいらいふ編集部(以下、あいらいふ):
本日はよろしくお願いいたします。まず、ケアマネになる前のご経歴についてお聞かせください。

■ケアマネ・池田さん(以下、CM池田):
専門学校を卒業後、1992年に都市銀行に入行しました。行員番号は、今でも覚えています。日々の業務は大変でしたし、特に接遇や言葉遣いについては厳しく叩き込まれましたが、今となっては貴重な経験をさせていただいたと、感謝しかありません。

身につけたことは今でも、ご利用者やご家族と接する際に役立っています。何気ない態度や言葉遣いひとつで、信頼は築かれたり、壊れたりするので。

■あいらいふライフコーディネーター・橋本浩朋(以下、ILC橋本):
池田さんとお話をしていて印象に残るのが、姿勢の素晴らしさなんです。背筋をまっすぐに伸ばして、決して崩されることがない。竜泉のご利用者の皆さんからも、しっかりした方に対応していただいている、と安心されているようすが伝わってきます。

◼️CM池田:
ありがとうございます(笑)。

■あいらいふ:
都市銀行で培った“接遇力”が活かされているのですね。介護・福祉の仕事を志されたのは、どのようなきっかけからでしょうか?

◼️CM池田:
入り口は、子育てとの両立を図るためですね。銀行を退行し、ヘルパーとしてデイサービスで9年、訪問介護の現場で3年勤務した後、ケアマネの資格を取得して、研修先の系列だった現在の事業所に勤めるようになりました。

今は主任ケアマネとして働いています。今年の8月で7年目になりますが、毎日がまだまだ新鮮です。

支援は信頼関係があってこそ

■あいらいふ:
池田さんがケアマネとしてお仕事をする上で、最も大事にされている考え方はなんですか?

■CM池田
やはり、「ご利用者の尊厳を守る」こと。ご本人主体の支援を心がけることですね。ご利用者は何を望まれているのか」「どのように暮らしたいのか」に耳を傾けます。

また、ケアの大切な担い手であるご家族への感情面・負担面でのサポートが、支援を行う上でのポイントだと感じています。「今だけでなく、これから」を見据えた提案を心がけています。

医療が優先になると、どうしてもご利用者のお気持ちが置き去りにされてしまうケースをいくつも見てきました。もちろん、治療は必要ですから、そこにご本人とご家族をつないでいく過程を、ケアマネがどのようにフォローしていくかが重要です。

どんな提案であっても、ご利用者から求められていなければ、「見当違いのことを言うケアマネ」でしかありません。だからこそ、ご利用者やご家族から「助けて」の声が上がったときに、すぐに応えられる距離から見守り続けることが大切だと考えています。

■あいらいふ:
関係を構築する際に、ご利用者を圧迫しない“距離感”を保つことに重点を置かれているのですね。

■CM池田:
ケアプランが意味を持つのは、信頼関係を築いた上でこそ、ですから。

あとは、何よりご利用者に対して丁寧であること。自分自身が、「雑に扱われた」と感じることが一番嫌いだからかもしれません。

介護保険をはじめとする制度やサービスの内容、費用について説明するときは、難しい専門用語は使わないように気をつけます。初めて接する方にとっては、すべてが未知の世界。ご本人・ご家族が納得した上で選択していただけるように、必要な情報をわかりやすく、正確にお届けすることを心がけています。

介護はチームプレイが命綱

■あいらいふ:
医師や訪問看護師、ヘルパーなど、多職種間の連携・情報共有について心がけている点をお聞かせください。

■CM池田:
この仕事に就く前は、ケアマネの仕事は“個人プレイ”というイメージを持っていたのですが、今はむしろ、チームワークが命綱だと感じています。

例えば、ご利用者のささいな変化に最初に気づくのは、ヘルパーや訪問看護師の皆さんです。「何か、変だな」という、言葉にできないほどの小さな違和感が、検査をしたときに実際の数値の差として表れることもあります。

そういった現場の気づきを迷わず共有していただいて、医療サイドにつなげていくのがケアマネの役割だと思っています。

一人では限界があるからこそ、職種を越えたチームでご利用者とご家族を支えるのが基本。皆が“ご利用者の生活を支える一員”である意識を持つことが大切です。

■あいらいふ:
現在、お勤めになっている竜泉でのチームワークはいかがでしょうか?

■CM池田:
医療生協(※)である「東京保健生活協同組合」を母体とする竜泉では、組合に所属する診療所、訪問看護ステーション、ヘルパーステーション、病院との連携が非常にスムーズです。また、全国の医療生協のネットワークを通じた情報共有も強みですね。

大規模な病院では、担当の先生とお話をするだけでもハードルが高い部分があるのですが、ここでは診療所の訪問診療に同行することもできるので、その場で先生を交えてお話しした結果を、ケアプランに組み入れることもあります。

それに、大病院ではどうしても治療優先の考え方で物事が進められがちなのですが、訪問診療の先生は、ご自宅での生活がどういうものかをよく把握されていて、ご利用者の日常生活を中心に考えてくださる方が多く、この点でも助かっています。

そういった連携が機動的にできるという点で、竜泉はとても働きやすいですね。連携する診療所が台東区内に3か所ある竜泉では、医療依存度の高いご利用者をお願いされるケースが多いのですが、ご本人にもご家族にも、安心感を持っていただけると思います。

※医療・介護事業を行っている生活協同組合

下町で育つ 地域の絆

■あいらいふ:
竜泉と、地域住民の皆さんの結びつきについてはいかがでしょう。

■CM池田:
竜泉は山谷をはじめとする台東区の下町エリアも担当していますから、ご高齢で独り暮らしの方をはじめ、複雑な背景を抱えている方も大勢いらっしゃいます。

簡易宿泊所にお住まいの方や、過去に警察沙汰を起こした方、さまざまな事情で銀行の通帳をお持ちでない方など、スムーズな生活設計が難しいケースもあります。「こんなところに人が暮らしているのか」と驚くこともありましたね。

初対面で怒鳴られたり、グサッとくることを言われることもありました。難しさを抱えた地域ではありますが、だからこそ現場の担当者が報連相を欠かさず、ご利用者の情報を共有することが大切になってきます。

■あいらいふ:
怒鳴られるのは、怖くないですか?

■CM池田:
怖いです(笑)。でも、落ち込んでも次の日にはケロッとしているのが私の性分なので。そこでめげずにやり直せるところが、自分の強みかなと思っています。

それに、入り口は難しくても、一度打ち解ければ、あたたかく迎え入れてくれる。そういった、人情に厚い土地柄なんです。

特に、コロナ禍のときのことは、忘れられません。組合員さんが、「何か手伝えることはないか」と言ってくださって。感染症対策のためのパーテーション(間仕切り)を自分たちで作って、診療所まで届けてくださったんです。

■あいらいふ:
日頃からの信頼関係をうかがわせるエピソードですね。ご利用者と打ち解けるきっかけは、どのようにつかむのでしょうか?

■CM池田:
やはり、適切なプランを、適切なタイミングで提案することが、信頼を得るコツだと思います。あとは、顔を合わせる機会を増やす。会う回数を重ねるのは大事ですね。

それから、ご利用者は思った以上に、こちらの連携が取れているかを見ていらっしゃいますし、そこがうまくいっていると心を開いてくださることが多い。

自分が今、困っていることを、きちんと先生につなげてくれているなとか、看護師さんにお願いしたことが、ちゃんとケアマネに届いているなとか、そういったことが、ご利用者には自ずと伝わるのだと思います。

■ILC橋本:
まさしく、チームプレイですね。

父の介護と支援者の矜持

■あいらいふ:
池田さんの考える支援のあり方には、お父さまの介護経験も影響を及ぼしているとうかがいました。

■CM池田:
父が亡くなってから、13年が経ちました。介護期間は5年ほどでしたが、脳腫瘍の手術をした後、後遺症で性格が一変してしまったんです。失語症も発症してしまい、本人ももどかしかったと思います。

その間、あちこちの病院や施設をまわりました。療養型病院や回復期リハビリテーション病院、介護老人保健施設(老健)などを転々としている間は、父が身をもって、介護の仕事をしている私にいろいろなことを教えてくれているように感じていましたね。

九州男児で、もともと頑固な一面もあった父でしたが、母がとにかく懸命に介護をしていて。本人は介護を終えた後、自身に言い聞かせるように「悔いはない」と何度も繰り返し話していました。はたから見ていてもきっとそうなのだろうと思えるくらい、母の献身的な姿は目に焼き付いていますし、介護に携わる人間として、今でも尊敬しています。

もう一つ、心に残っているのが、看護師さんとのエピソードです。

入院中のある日、父が「今日は、誕生日」と言ったらしいんです。でも、カルテを見直しても、家族の中に誕生日の人間はいない。看護師さんたちは不思議に思ったそうですが、実は、その日は両親の結婚記念日だったんです。

その日の午後、私が花束を持って訪ねていくと、看護師さんたちが「やっぱり、何かの記念日なんですね」と。事情が判明して、父は皆さんからお祝いの言葉をいただいたのですが、父の何気ない一言を拾って、心に留めてくださっていた看護師さんたちの心遣いに、胸が熱くなりました。

私もあのときのように、誰かの言葉を逃さない支援者でありたいと思っています。

いつか求められる日のために

■ILC橋本:
池田さんは、あいらいふをはじめとする老人ホーム紹介事業者については、どのような印象をお持ちでしょうか。

■CM池田:
「施設に入るほどお金ないよ」とおっしゃる方も多いのですが、本当に困ったときのために、有料老人ホームを含む介護施設の選択肢は必ず挙げています。

離れた場所に施設があると、ご家族がなかなか見学に行けないケースもありますから、豊富な情報量で、ご本人・ご家族と施設をつないでいだける紹介事業者さんは、頼りにしています。

特に、奥さまやご主人が介護をされている老老介護のケースでは、インターネットで調べ物をする習慣がない方もいらっしゃいますので、相談員の方がご本人・ご家族と一緒に施設選びをされている姿は心強く感じられますね。

■ILC橋本:
大変うれしいお言葉です。先ほどのお話にもありましたが、竜泉さんは、医療依存度の高い方とご家族にとって、本当に安心できる存在だと思います。

下町の気さくな雰囲気というか、訪問するときも敷居が低いですね。私も地方出身者なので、親しみやすさを感じます。

■あいらいふ:
最後に、池田さんの今後の目標をお聞かせください。

■CM池田:
ケアマネとしてご相談に乗る中で、ご本人の衰えや変化を受け入れるまでのご家族の葛藤を、何度も見てきました。どれほど知的で穏やかな方であっても、家族の介護を目の当たりにして、決して冷静ではいられないことも実感しました。

私と家族も同じ経験をしているので、お気持ちは痛いほどわかります。だからこそ、ケアマネという職業があり、チームケアの連携の要を任されているのだと思います。

ご利用者とご家族のご不安を取り除き、より良い将来像を描くための専門知識を備えた支援者、伴走者として、必要とされたときに迷わず頼っていただけるよう、これからも変わらずご利用者に寄り添い続ける。それが、私の現在の目標です。

【プロフィール】
居宅介護支援事業所竜泉
介護支援専門員(ケアマネジャー)・池田 泰代

専門学校を卒業後、都市銀行に勤務。子育てとの両立を図るため、介護業界に転職し、訪問介護職を経て、ケアマネジャーとしてのキャリアをスタートさせる。現在は、医療生協を母体とする居宅介護支援事業所竜泉に勤務し、主任ケアマネとして活躍。
支援に携わる上でのモットーは、「ご本人の尊厳を守ること」と、ご利用者を圧迫しない「距離感」。多職種によるチーム連携を重視し、“その人らしさ”を応援する支援に力を注ぐ。

===取材協力===
居宅介護支援事業所竜泉
東京都台東区竜泉3-1-2 3F

取材・文:青北 アンナ / 撮影:近藤 豊

豊かなシニアライフのための情報誌『あいらいふ』編集部
【誌名】『あいらいふ』vol.177(2025年5月29日発行号)
【概要】初めて老人ホームを探すご家族さまの施設選びのポイントをさまざまな切り口でわかりやすく解説。著名人に介護経験を語っていただくインタビュー記事のほか、人生やシニアライフを豊かにするためのさまざまな情報や話題を取り上げて掲載。
【発行部数】4万部
【配布場所】市区役所の高齢者介護担当窓口・社会福祉協議会・地域包括支援センター・居宅介護支援事業所・訪問看護ステーション・病院・薬局など1万か所

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