【ソーシャルワークの現場から-支援連携の輪-】[京都]介護支援専門員(ケアマネジャー)・川西 政哉氏

介護支援専門員(ケアマネジャー)・川西政哉
care manager/Masaya Kawanishi
「一人ひとりと丁寧に向き合う」ことの大切さ
介護保険制度が複雑化し、「相談できる相手がわからない」という不安が増えている。
この状況で、ご本人やご家族を支える存在がケアマネジャー(以下、ケアマネ)。
京都市北区の居宅介護支援事業所に勤務する川西政哉さんは、豊富な介護経験を活かし独自のアプローチを追求している。
“ありがとう”の一言で福祉の世界に
■あいらいふ編集部(以下、あいらいふ):
本日はお時間をいただき、ありがとうございます。最初に、ケアマネというご職業を選んだ経緯について、お聞かせいただけますか?
■ケアマネ・川西さん(以下、CM川西):
私は北海道の出身なのですが、高校1年生の時に、野球部全員で1日だけのボランティア活動に参加しました。
その時やったのは、障害を抱える子どもたちが参加するキャンプのお手伝いでした。
ベッドに寝たままの状態の子どもや、多くの管につながれている子どもたちなど、これまで見たことのない光景で、どう接したらいいのか戸惑いました。
ただ、付き添って一緒に過ごすだけしかできなかったのですが、“ありがとうございました”と言われ、それが忘れられませんでした。
これがきっかけで福祉や介護に関心を抱きました。
■あいらいふ:
高校生の時のボランティアの経験が、進路を決めるきっかけになったのですか?
■CM川西:
いいえ、進路については悩みましたね。最初は学校の先生になりたいと考えていました。子どもの頃からずっと野球に熱中していたので、学校で野球部の監督を務めるのが自分の夢だったんです。ただ、大学の就職活動をしているうちに、野球は必ずしも学校の先生でなければ関われないわけではないなと思うようになり、少しずつ福祉や介護の分野にも関心が移っていきました。
■あいらいふ:
進路選択に迷いながらも、介護の現場に飛び込んだという事ですね。
■CM川西:
そうですね。志望していた施設に初めて電話をかけた時には、既に採用が終了していると言われたんです。
ただ、男性の内定者がいなかったとのことで、人事の方から「よければ一度話をしてみませんか?」と提案され、翌日すぐに向かいました。
そこでは面談をしながらお話をいろいろうかがい、内定をいただきました。
そして、卒業までの1〜3月は研修を兼ねて特別養護老人ホームで勤務することになりました。
当初は4月以降もその特別養護老人ホームで働き続けると思っていましたが、会社のグループホーム新規立ち上げメンバーとして配属されることになったんです。
■あいらいふ:
グループホームの新規立ち上げから働き始めていかがでしたか?
■CM川西:
立ち上げ当初ということもあり、決められたルールを覚えるというより、自分たちで一からルールや仕組みを作り上げていく楽しさがありました。
このような機会はなかなか得られるものではなく、ご利用者の暮らしを少しずつ支えながら、その過程を築いていく中で、大きなやりがいやモチベーションを感じていました。
ただ、現場では日々多くの課題に追われる状況がありました。
例えば、夜更けに叫び声を聞いて駆けつけたところ、ご利用者が錯乱していて、腕をつかまれ頭を噛まれてしまったこともありました。
現在では落ち着いて対処できるようになりましたが、当時は何をすべきか悩みながら、まずは安全を保つことを心がけていました。
■あいらいふ:
その後2014年に居宅介護のケアマネにキャリアチェンジしましたが、グループホームでの仕事とケアマネの仕事の違いはありますか?
エピソードなども含めて教えてください。
■CM川西:
ケアマネの仕事は、制度や計画だけでは動かせないものばかりなんですね。
現場では、認知症の方の唐突な行動や、家庭内の“見えない困りごと”に日々直面します。
「“形”ではなく“人”を見ること。現役世代の常識や普通では測れない価値観と向き合うのが、この仕事の本質だと思います」
特に印象に残っているエピソードは、物で溢れ返ったご自宅で独り暮らしをされている方のサポートをしたときのことです。
近隣から苦情も寄せられなかったため、逆に援助の手を差し伸べるタイミングを掴むのが非常に難しかったです。
相談者が複雑な事情を抱えて孤立し、支援が困難とされるケースでは「どこまでがご本人の自由で、どこから支援が必要か」という判断を迫られることもあります。
“生活しづらい”ことの背景にある思いや関係性を見極めて、地域とつなぐ事に関してはケアマネにしかできない役割があると思います。
それと、ケアマネはイメージ的に、なんでも知っていないといけないとか、すべてのことに精通していないといけないといった印象を持たれているかもしれません。
でも実際はそうではなく、むしろ専門的なことはその分野のプロに依頼して、支援チームがスムーズに活動できる状態を整えることが、ケアマネの役割です。
つまり、マネージャーとして全体を調整・サポートする立場だと思っています。
ケアマネ同士が相談し合える環境
■あいらいふ:
5年後、10年後を見据えて現在行っている取り組みはありますか?
■CM川西:
ケアマネ同士が仲良くなろうと言う取り組みをしています。
事業所の枠を超えて、ケアマネ同士が相談し合える環境があれば、支援の質ももっと高まると思い、オンラインミーティングでの情報交換や、発信の場としてのラジオ配信の構想など、新たな可能性も模索しています。
現役ケアマネの質の向上、新人ケアマネの育成、次世代ケアマネの創出の3つのチームに分かれていますが、活動自体にすごい意味があって、違う事業所からケアマネが集まって、やっぱり業務とは違った時間で交流が生まれて、「こういうケースがあるんだけど」みたいな話ができたらいいなと思っています。
結果としてケアマネをやりたいと思ってくれる人が増えればとうれしいですね。
※川西さんのお話で感じたのは、「人として関わる」ことの大切さだった。目指すのは、ケアマネという職業の可能性を広げ、地域に根差した“生きた支援”をつくること。
「自分が関わる人たちの生活が少しでも安心できるものになるように、これからも一人ひとりと丁寧に向き合っていきます」と川西さん。
【プロフィール】
冨田病院居宅介護支援事業室
介護支援専門員(ケアマネジャー)・川西政哉
北海道出身。龍谷大学社会学部卒業後、社会福祉法人健光園に就職。
就業前に特別養護老人ホームでの研修後、グループホーム新規立ち上げメンバーとして配属される。
9年間のキャリアを積み上げた後、社会福祉法人京都博愛会冨田病院居宅にてケアマネに。
===取材協力===
社会福祉法人京都博愛会 冨田病院
京都府京都市北区小山下内河原町56
https://www.kyoto-hakuaikai.or.jp/tomita/
取材・撮影・文/鈴木孝英
豊かなシニアライフのための情報誌『あいらいふ』編集部
【誌名】『あいらいふ』vol.177(2025年5月29日発行号)
【概要】初めて老人ホームを探すご家族さまの施設選びのポイントをさまざまな切り口でわかりやすく解説。著名人に介護経験を語っていただくインタビュー記事のほか、人生やシニアライフを豊かにするためのさまざまな情報や話題を取り上げて掲載。
【発行部数】4万部
【配布場所】市区役所の高齢者介護担当窓口・社会福祉協議会・地域包括支援センター・居宅介護支援事業所・訪問看護ステーション・病院・薬局など1万か所