支援連携の輪

【ソーシャルワークの現場から-支援連携の輪-】[北海道]札幌中央病院/医療ソーシャルワーカー・佐藤 公一 氏

医療ソーシャルワーカー・佐藤 公一 氏
medical social worker/Sato Koichi

「幸せ」を考え支える 医療の現場で福祉を実践

医療資源のひっ迫を防ぎ、患者さんに最適な形で医療を提供するための地域医療連携の仕組みが、ますます求められる現代。北海道の地で、広く道央圏の救急医療を担う急性期の病院に、医療ソーシャルワーカー(以下、MSW)として勤務する佐藤公一さんにお話をうかがった。

実習で見た 医療福祉の世界に魅かれて

■あいらいふ編集部(以下、あいらいふ):
本日はよろしくお願いします。最初に、現在、佐藤さんがお勤めの札幌中央病院についておうかがいします。在籍されている部署や、人員体制について教えてください。

■医療ソーシャルワーカー・佐藤さん(以下、MSW佐藤):
私が在籍しているのは、おもに入退院支援を行うための患者サポートセンターです。MSWは私を含めて3名、ほかに入退院支援の両方を担当する看護師3名、事務職員2名で業務にあたっています。

■あいらいふ:
佐藤さんは、4年制の大学をご卒業後、MSW一筋にキャリアを重ねてこられたベテランでいらっしゃいます。札幌中央病院には、どのくらいお勤めですか?

■MSW佐藤:
新卒で就職したのは、道内にある別の急性期の病院です。15年ほど勤務したのち、病院の経営体制が変わったことを契機に、札幌中央病院に移りました。

札幌中央病院に勤めてみて感じたことは、地元との結びつきを重視し、医療で地域に貢献するという使命感ですね。医療法人として、とても大切な考え方だと思いますし、地域住民の方々からも信頼を寄せていただいていると感じます。

■あいらいふ:
佐藤さんが、ソーシャルワークのお仕事に興味を持たれたきっかけは?

■MSW佐藤:
漠然と意識するようになったのは、高校生のときですね。身内に高齢者がいたことが、社会福祉に対して興味を持つきっかけになりました。

大学に進む際、志望校にたまたま社会福祉学部があったので専攻したのですが、その時点では臨床の現場に出るといった、前向きな目標はありませんでした。

ただ、大学では授業の一環として、役場や特別養護老人ホームなどへ実習に行くのですが、そこでMSWの業務を見せていただく機会があり、医療の現場にも臨床福祉の仕事があることを知ったんです。

病気やけがでお困りごとを抱えた患者さんとご家族を、懸命に支援するMSWの姿を見て、非常にやりがいがある仕事ではないかと感じ、MSWを志望するようになりました。

■あいらいふ:
ご自身では、MSWに向いているという自信はありましたか?

■MSW佐藤:
そういった自覚はなかったですね。学生時代はむしろ、人と話すのが苦手な人間でしたから。相談支援のスキルは、現場に出てから受けた訓練を通じて身に付いたものだと思います。

退院後も見据えた支援を

■あいらいふ:
MSWとしてのポリシーについておうかがいします。佐藤さんが仕事をする上で、大切にされていることはありますか。

■MSW佐藤
私の仕事上のモットーは、「ウェルビーイング(健康で幸福な状態の実現)と、エンパワーメント(可能性を引き出す支援)」です。

患者さんの状態が改善し、今より幸せを感じられるようになっていただくことが、究極の目標です。実現するためには患者さんが得意なこと、できることを伸ばし、生活力を高めていく必要があります。一朝一夕にはできないことは承知の上で、形にしたいという思いは常に持っています。

■あいらいふ:
そのためには、押しつけにならない、患者さんの主体性を重視した支援が必要になりますね。

■MSW佐藤:
選択肢は提案しますが、最終的な決定は患者さんの意思を尊重します。その意思をどうやって支援していくかを考えるのが、MSWの仕事だと思っています。

ただ、最初から今のような考え方だったわけではありません。若い頃はどうしても目先の問題解決を重視してしまい、わかりやすく、自分がどれだけ役に立っているか、ということに意識が向きがちでした。

しかし、相談業務を続けるうちに、患者さんは退院して終わりではなく、その先の生活の方がずっと長く続くことに思いが至りました。

もちろん、現在の治療に専念できる状況を作るのがMSWの仕事ですが、それで終わりではありません。今は、患者さんが病気やけがを負ったことで抱える制約を減らし、不自由のない生活をできるだけ長く続けていただくための支援を目指しています。

退院後の生活を阻害する要因は何か。治療が長期にわたる場合は、病気と共存しながら日常生活に戻る術はないか。さまざまな視点を重ね合わせて、最適と思える提案を行います。

急性期病院のソーシャルワーク

■あいらいふ:
退院までの時間が限られる中で、患者さんやご家族との信頼関係をどのように築くかなど、ご相談に乗る上で、急性期の病院ならではの難しさはありますか?

■MSW佐藤:
そうですね。突然のことで、患者さんとご家族が何も準備をされていない状況で病院に運ばれてくるシチュエーションは多いですし、そういったケースでは、入退院をきっかけにして、経済的な問題や家庭内の問題が表に出てくることもしばしばです。

ですから、そういったさまざまな種類のご相談に対して適切に対応ができるように、日頃から社会的な課題に対する関心を幅広く保ち、アンテナを張っている必要はありますね。

また、患者さんとご家族との信頼関係の構築については、やはりお困りごとがどこにあるのか、課題を明確にするため、十分に時間をかけてお話をうかがうことが大切です。比較的スピード感が求められる環境であるとはいえ、その部分は手を抜かず、患者さんの訴え、ご家族のお話に耳を傾けるよう、心がけています。

MSWの価値は「福祉の視点」

■あいらいふ:
佐藤さんのお仕事に対する姿勢は、さまざまな経験を通して培われたものだと思いますが、特に影響を受けた出来事はありますか?

■MSW佐藤:
若い頃、私が所属していた部署のドクターにこんなことを言われたんです。

「MSWは、医療の中にあって福祉の目線を持つことに意味がある。看護師の真似ごとをするのではなく、福祉の目線で患者さんとご家族に寄り添い、ご提案において自分たちの強みを発揮することが、チーム医療を実現する上での戦力になる。そこに、MSWの価値がある」

MSWがそれほど多くなかった時代にも、MSWのあり方をこのようにきちんととらえてくださっていたドクターの存在は大変ありがたかった。この言葉は、今でも仕事を進める上で、私の軸になっています。

■あいらいふ:
ドクターがおっしゃった「福祉の目線」とは、どのようなものだとお考えでしょうか。

■MSW佐藤:
MSWという職業の根幹の部分は福祉の領域にある、ということ。医療の現場において、MSWは患者さんが安心して治療に専念できるように貢献する。患者さんの「生活」に目を向けて支える。そういったことを指すと思います。

■あいらいふ:
長くMSWを続けて来られる中で、壁にぶつかったこともあるかと思います。そんなとき、何を支えに前に進んできましたか。

■MSW佐藤:
私は、「原点回帰」を座右の銘にしています。自分にとっての原点は、先ほどのドクターに教えてもらった「医療の現場で福祉を実践する」姿勢です。どんなときも原点に立ち返り、MSWとしての役割を果たそうと精進しています。

■あいらいふ:
これまでにたくさんの患者さんの相談支援を担当されて来られた中で、特に印象に残っているエピソードはありますか?

■MSW佐藤:
いろいろな患者さんの顔が浮かんできて、一つに絞るのが難しいのですが……。50代の末期がんの患者さんを担当した際、最期はどうしてもご自宅で迎えたいというご本人の願いを叶えるために、在宅医療をセッティングした経験は印象に残っていますね。

最近は、病院と在宅医療の連携体制が整ってきましたが、当時は在宅医療が立ち上がって間もない頃。手探りの中でも、訪問診療や訪問介護、介護ヘルパーさんたちと協力して体制を整え、ご自宅に戻っていただくことができました。

患者さんを送り出す病院側だけでなく、在宅医療を支えてくださる方々が目線を合わせて、同じ目標に向かって連携できたことは、大変有意義だったと思います。

数か月後に患者さんが亡くなった後、ご家族から連絡をいただき「あのとき相談してよかった。家に帰りたいといつも言っていた、本人の希望が実現できた」と感謝のお言葉をいただきました。

この出来事を機に、いつ、いかなる状況であっても、患者さんとご家族の思いにしっかり耳を傾け、最善策を探すことが大事だと、あらためて心がけるようになりました。

在宅医療と連携し、切れ目なく支える

■あいらいふ:
地域医療連携の大切さを実感させられるエピソードです。札幌中央病院では、地元の医療機関や居宅介護支援事業者、民間の介護施設など、関連する機関との協力体制は進んでいると感じますか。

■MSW佐藤:
当院では、かかりつけのクリニックや訪問診療を介して、患者さんが救急搬送されるケースも多く、病院と在宅医療との連携は欠かせないものとなっています。

また、入院となった時点で初めて、患者さんの抱える生活上の課題が表面化するケースも少なくありません。どのような形で療養を継続していくか、ご自宅に帰った後の生活をどのように営んでいくか。生活の場を変える必要がある場合は、どのような施設やサービスを利用できるか。

入院中だけでなく退院後も含めて、さまざまな関係者と情報を共有し、患者さんのその後の生活を検討する動きが、これからは基本になっていくと感じます。

■あいらいふ:
地域医療連携では、MSWの役割が、ますます欠かせなくなりますね。佐藤さんがMSWの仕事に就かれた頃と比べて、責任が重くなっている実感はありますか?

■MSW佐藤:
私が就職した頃は、MSWがいない病院のほうが多く、資格制度化も進んでいませんでした。その後、資格制度が整備されるとともに、MSWを配置する病院が増え、役割がきちんと整理されていく中で、私たちの業務も周囲から理解を得られるようになったという印象です。

ひと昔前は考えられませんでしたが、今では何かあればMSWに相談しようという、意識付けがなされていますから。周囲の方にもそう思っていただけるようになったことが、ここ30年で大きく変わった点だと思います。

地域医療連携の中軸として働いているという実感とともに、社会的な責任の重さを感じますね。

■あいらいふ:
最後に、佐藤さんのこれからのビジョンを聞かせてください。

■MSW佐藤:
できる限り長く、現場で患者さんとご家族の相談支援を継続していきたいですね。 あとは、当院のMSWがみな同世代ということもありますので、自分たちが培ってきたことを技術面だけでなく、カルチャーとして後進に伝え、次の世代にバトンタッチをする準備をしていきたいと思っています。

【プロフィール】

社会医療法人 鳩仁会 札幌中央病院
患者サポートセンター
医療ソーシャルワーカー/社会福祉士・介護支援専門員 課長代理
佐藤公一

4年制大学の社会福祉学部を卒業後、道央圏にある急性期の病院に就職し、MSWとして一歩を踏み出す。30代半ばで札幌中央病院に移り、患者サポートセンターでMSWとしてのキャリアを積み現在に至る。

===取材協力===
社会医療法人 鳩仁会 札幌中央病院
北海道札幌市中央区南9条西10-1-50
https://www.sc-h.or.jp

取材・あいらいふ/文・北林あい/撮影・Luana Photo 吉田ゆうき

豊かなシニアライフのための情報誌『あいらいふ』編集部
【誌名】『あいらいふ』vol.176(2025年年3月27日発行号)
【概要】初めて老人ホームを探すご家族の、施設選びのポイントをさまざまな切り口でわかりやすく解説。著名人に介護経験を語っていただくインタビュー記事のほか、人生やシニアライフを豊かにするためのさまざまな情報や話題を取り上げて掲載。
【発行部数】4万部
【配布場所】市区役所の高齢者介護担当窓口・社会福祉協議会・地域包括支援センター・居宅介護支援事業所・訪問看護ステーション・病院・薬局など1万か所

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