支援連携の輪

【ソーシャルワークの現場から-支援連携の輪-】[東京]あそか病院/医療ソーシャルワーカー・小浦 茂 氏

医療ソーシャルワーカー・小浦 茂 氏
medical social worker/ Koura Shigeru

平等な医療・福祉・保健を
すべての人に

患者さんとご家族が安心して治療・療養に専念できるよう、また退院後にも安心して暮らせるよう、心理的・社会的問題を解決するための支援や調整を行う医療ソーシャルワーカー(以下、MSW)。多様な患者さんを受け入れるケアミックス型の病院で、後進の指導・育成に力を注ぐ小浦さんに、お話をうかがった。

高齢者施設の相談職からMSWへ

■あいらいふ編集部(以下、あいらいふ):
本日はお時間をいただき、ありがとうございます。最初に、MSWになるまでの経緯についてお聞かせください。

■医療ソーシャルワーカー・小浦さん(以下、MSW小浦):
出身は鹿児島なのですが、一回り年の離れた姉が看護師で、東京で病院勤めをしていたこともあって、病院や医療、福祉といったテーマは子どもの頃から身近に感じていましたね。実際、“人のために何かをしてあげること”を面倒と感じない性格の子どもでした。

それから、両親が共働きだったので、平日は祖父母の家に寄ったり、週末は祖父母の家に泊まって、月曜日にそこから学校に通ったり。そういった機会もあって、祖父母や周囲の高齢者と接している時間が長かったことも、福祉職を目指すきっかけとなったかもしれません。

福祉の大学を卒業したのが、25年前。そのままMSWとして病院に勤務する道もあったのですが、当時は、病院に勤めるまでに、どこかで相談職を3年は経験しないとダメだという空気がありました。

そのため、最初に勤務したのは老人ホームです。特別養護老人ホーム(特養)に4年、老人保健施設(老健)に2年。その後、老健の事務長が設立した社会福祉法人で、グループホームや小規模多機能型居宅介護、デイサービスの立ち上げも経験しました。

それでも、やはり医療の現場に行きたいという思いが強く、そこから病院にシフトしていきました。MSWとしてのキャリアは、20年ほどです。

初めて勤めた特養の上司は介護福祉士の方でしたが、相談職であっても、医療従事者と同等の知識を持って仕事にあたらなければ、医師や看護師とはうまく話ができないということを常に教えてもらいました。

老人ホームで学べたことは、本当に貴重な経験でした。リハビリのスタッフや、医師の資格を持つ施設長とのやり取りは、現在の病院での業務にも活かせていて、自分の仕事の原点になっていますね。先ほどの話に出てきた上司とは、今でも連絡を取り合っています。

ケアミックス型病院でのソーシャルワーク

■あいらいふ:

小浦さんがお勤めになられているあそか病院は、1月に新棟(南館)がオープンしたばかりです。同院の特徴をお聞かせいただけますでしょうか。

■MSW小浦:
あそか病院は、急性期の治療から回復期のリハビリ、在宅復帰・在宅療養支援、長期療養、緩和ケアに至るまで、地域のさまざまな医療ニーズにお応えするケアミックス型の病院です。

2025年1月の新棟オープンにより、病床数は254床から399床に増加し、江東区でも最大規模の総合病院となりました。

新棟では、特に回復期リハビリテーション病棟の増床によるリハビリの充実と、新たに開設した緩和ケア病棟の運営に力を注いでいます。

新棟の1階は、広々としたスペースを活用したリハビリテーションセンターとして、患者さんの身体の回復や、社会復帰をサポートするためのリハビリを実施します。また、6階の緩和ケア病棟は、おもに末期のがんを抱えた患者さんを受け入れ、苦痛を取り除くためのケアを提供します。

加えて、地域医療に貢献する病院として、患者さんに安心して治療に専念していただけるよう、本館の既存の病室についても、順次改修を進めています。

■あいらいふ:
ソーシャルワークに関わる部署の、現在の体制をお聞かせください。

■MSW小浦:
地域医療連携室に事務職4名、医療相談室にMSW7名が所属。退院支援看護師兼管理者である課長を加えた12名で、入退院支援に取り組んでいます。

大まかに地域医療連携室が入院前支援、医療相談室が退院支援を担当していますが、入院して来られる患者さんの容態や、ご家族のニーズに対する早い段階での情報共有は大変重要ですから、両室間では緊密に連携を取っています。

私自身は現在、医療相談室で他のMSWを指導する立場にあります。医師の先生方からいただいた相談への対応や、他のMSWが担当している相談に対して、必要に応じて指導やアドバイスを行うのが業務の中心です。

■あいらいふ:
以前にお勤めになった病院と比較して、ケアミックス型の病院におけるソーシャルワークの難しさはありますか?

■MSW小浦:
あそか病院は急性期病棟、回復期リハビリテーション病棟、地域包括ケア病棟、医療療養病棟を擁し、2月からは新たに緩和ケア病棟がスタートしました。これだけ多岐にわたる病棟を抱える中、MSWの人員を確保し、育成していく上での難しさはありますね。

指導する立場ではありますが、新人のMSWが患者さんに携わりながら成長を続けていく過程では、さまざまな病棟の患者さんから寄せられるご相談を、私が代わって受けることもあります。

■あいらいふライフコーディネーター/錦糸町相談室長・須永洋祐(以下、ILC須永):
各病棟に専任で勤務しているMSWを指導するためには、ニーズの異なる多種多様なご相談に応えるための、幅広い知見が必要なのでは?ご苦労がしのばれます。

■MSW小浦:
ありがとうございます。とはいえ、患者さんとご家族の思いを大切にする、「傾聴」というソーシャルワークの根幹部分は共通していますから。

ご相談の解決に向けては、MSWごとに思い描くそれぞれの道筋があるので、多職種連携の下、各MSWがたどり着いた患者さんへのご提案に対して、否定することはよほどのことがない限りありません。別の視点をさらに加える形でアドバイスをすることが多いですね。

それぞれのMSWが担当する病棟で、さまざまな患者さんとご家族のご相談に乗っていく中で、独立して然るべき対応ができるよう、彼らに成長していってほしいというのが、現在の一番の目標です。

■あいらいふ:
ケアミックス型の病院におけるソーシャルワークの利点はどのようなものでしょうか?

■MSW小浦:
ケアミックス型の良さは、病棟間の調整によって、患者さんの不安要素を少しでも取り除ける点です。

短期間で急性期の治療を終えて退院を促され、この後どうすれば良いのかと迷われている患者さんを、一旦、地域包括ケア病棟で受け入れることで、ご自宅への復帰、転院、高齢者施設へのご入居といった選択肢を検討する余地ができる。

病棟ごとにさまざまに異なる患者さんのニーズを踏まえ、課題の解決に向けて最良と思われる方法をご提案する上で、創意工夫の余地が大きいケアミックス型病院のソーシャルワークには、大変な要素もある一方、やりがいも多いと思います。

よく、新人のMSWには、この病院のいろいろな病棟での経験は、将来ほかの病院に移ってもすごく活かせるよと伝えています。本音では、あまり移ってほしくはないのですが(笑)。

無料低額診療事業を
通じて見えてきたこと

■あいらいふ:
あそか病院は、「無料低額診療事業」を行う医療機関として、東京都から指定を受けています。

■MSW小浦:
日本では、生活保護を受給されている方であれば、医療扶助の対象となり、医療を無料で受けられます。一方で、生活保護の受給対象外、もしくは諸事情により受給ができない方は、必要な医療を受けられないことになる。

例えば、経済面で困窮している方が病気にかかって生活保護の申請をしても、その場で受給を開始できる訳ではありません。そういった場合に福祉事務所から依頼を受けて、患者さんの治療や受け入れを行っています。

ほかにも、健康保険に加入しておらず無保険の患者さんや、難民申請をされている外国の患者さんなどに対応しています。

■あいらいふ:
あそか病院さまは「平等な医療・福祉・保健の提供」を理念として掲げており、必要としている人に対して医療を提供するという、福祉の視点を大切にされている印象があります。

■ILC須永:
確かに、患者さんの人格や価値観を尊重する姿勢を、職員の皆さんが共有されていると、ご相談でこちらにうかがうたびに感じますね。

■MSW小浦:
当院は、1925年に起こった関東大震災の際に、社会活動家である九条武子が救護事業として創設した診療所が前身となっているんです。そういった経緯から、医療を必要とするすべての人の目線に立つというカルチャーがありますね。無料低額診療事業は、その一環です。

また、患者さんとご家族に寄り添い、お話を傾聴し、ともに解決を目指すというソーシャルワークの考え方も、早くから取り入れられていると思います。

小浦さんと、新設の緩和ケア病棟に常勤するビハーラ僧※の山本顕生さん(写真左)、緩和ケア認定看護師の近藤美希さん(写真中央)。ソーシャルワークの視点を備えたスタッフが、さまざまな場面で患者さんとご家族を支える

※医療・福祉の現場で活動する仏教者のこと。おもに末期のがんを患った患者さんの緩和ケアの現場で、ご本人のお話をうかがったり、遺されたご家族のグリーフケアなどにあたる。

■あいらいふ:
無料低額診療事業の一環として、ホームレスの方の支援も行っているとうかがっています。

■MSW小浦:
月に1回、区内にある家を持たずに生活されている方たちの「テント村」を訪問し、無料健康相談会を開催しています。

救急バックを持った看護師とMSW、事務職のスリーマンセルで巡回し、問診や血圧測定を行います。MSWは、お困りごとを抱えていないかお尋ねしたり、お話をうかがう中で病院の受診を勧めたりしています。

同様に、比較的低額で寝泊まりができる簡易宿泊所の巡回も実施しています。医療を受ける習慣のない方たちも多いのですが、私たちが訪問した後に、病院の外来にいらっしゃったり、入院される方もいます。

加えて、一般の患者さんの中にも、社会からの支援を得られずにお困りごとを抱えている方がいらっしゃいます。ご家族との関係が良くない方、入院費用もままならず、経済面で余裕のない生活をしておられる方。

独居で誰にも気にかけてもらえず、倒れているところをたまたま見つかって運び込まれる方もいます。そういった患者さんのご相談に乗って、生活保護をはじめとする公的な支援につなげることも多いですね。

途切れることのない 人と人のつながり

■あいらいふ:
小浦さんがあそか病院で経験した、患者さんやご家族との印象深いエピソードはありますか?

■MSW小浦:
記憶に残っているのは、ホームレス支援を通じて出会った患者さんたちですね。私たちは毎月無料健康相談にうかがうのですが、その都度会っていただける方もいれば、絶対に出てきてくださらない方もいるんです。

ある冬の日、そのような方のお一人が、テント村の人たちに付き添われて来院されました。ご本人は痛がりながら長い間我慢されていたとのことですが、足の傷が化膿してしまい、かなり衰弱された状態でした。

すぐに入院していただいて、いろいろな治療を施したのですが、予後が悪く、全身の状態が悪化して、最後は亡くなられてしまったんです。

その際、テント村の人たちが10人ほど病院に詰めかけてきて。「彼を助けるにはどうしたらいいんだ」と口々に言うんです。「俺たちは強い絆がある、だからみんなでこいつを支援したいんだ」と。

私はその言葉に、単なる友人や隣人といった枠を超えたもの、どんな場所であっても決して途絶えることのない、人と人とのつながりを感じました。

結局その方は「行旅死亡人」として、江東区が葬儀・埋葬を行ったのですが、葬儀に関する区役所とのやり取りについては、テント村の人たちにも並行してお伝えすることで、納得していただくことができました。

ホームレスの方の中には、生活保護を受けることを嫌がる方が一定数いらっしゃいます。その方たちが口を揃えるのが「自由がなくなる」ですね。

冬の時期に行くと、ビニールのテントひとつに暖房もないところで、ダウンジャケットをいっぱい着込んで、奥から出て来たり。私たちからすると厳しい環境であり、何とか公的な福祉につなげられないかという歯がゆさもあるのですが、

一方で「自由に生きる」ことこそが、その人にとってかけがえのない生き方であるのなら、できる限り尊重すべき面もあるのではないか、という思いもあります。

行政ではない私たちにできることは、上から目線の支援ではなく、彼らの持つ仲間意識というか、人と人との支え合いをできる限りサポートしていくことなのかな、と。

無料低額診療事業を行っているあそか病院に勤めていたからこそできた経験であり、本当に勉強になった出来事でした。

地域の医療を担う 役割の拡大に向けて

■ILC須永:
小浦さんは、特養や老健での勤務経験もおありとのことですが、あいらいふのような老人ホーム紹介業者に対してはどのようなイメージをお持ちでしょうか?

■MSW小浦:
私たちだけでは、数多ある高齢者施設の情報量は抱えきれませんから、MSWにとって紹介業者さんの存在は非常に大きい。ご家族の施設見学に同行していただいたり、施設と病院との間に立ってコーディネートをしていただけることには大変感謝しています。

ただ、施設の紹介をしていただくという基本的な部分はどの業者さんも同じですから、あいらいふさんのように長くお付き合いいただけるかどうかは、最後は相談員さんの人柄にかかってくると思います。実際、患者さんとご家族にご満足いただけるかも、その部分が大きいと感じますね。

■あいらいふ:
最後に、小浦さんが思い描く今後のビジョンをお聞かせください。

■MSW小浦:
現在進行形で病棟が増え、あそか病院の規模と役割が拡大していく中、今以上に職員数も増えてきますし、それぞれのMSWも、自分たちが今後どの病棟でどのように活躍をしていくのか、興味深く見守っていると思います。

緩和ケア病棟も初めての経験ですが、MSWの一人が果敢に手を挙げてくれて、本当に頼もしく感じています。成長したMSWたちのもとで、患者さんとご家族へのより良い支援につなげられるよう、チームワークを育てていきたいですね。

【プロフィール】
社会福祉法人あそか会 あそか病院
医療ソーシャルワーカー
小浦 茂

社会福祉の大学を卒業後、複数の高齢者施設での相談職を経て病院に転職し、MSWとしてのキャリアをスタート。現在は、江東区エリア最大規模のケアミックス型病院であるあそか病院で、後進の指導・育成に携わる。

===取材協力===
社会福祉法人あそか会 あそか病院
東京都江東区住吉1-18-1
https://hp.asokakai.or.jp

取材・文・撮影:あいらいふ編集部

豊かなシニアライフのための情報誌『あいらいふ』編集部
【誌名】『あいらいふ』vol.176(2025年年3月27日発行号)
【概要】初めて老人ホームを探すご家族の、施設選びのポイントをさまざまな切り口でわかりやすく解説。著名人に介護経験を語っていただくインタビュー記事のほか、人生やシニアライフを豊かにするためのさまざまな情報や話題を取り上げて掲載。
【発行部数】4万部
【配布場所】市区役所の高齢者介護担当窓口・社会福祉協議会・地域包括支援センター・居宅介護支援事業所・訪問看護ステーション・病院・薬局など1万か所

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