支援連携の輪

【ソーシャルワークの現場から -支援連携の輪-】[京都]介護支援専門員(ケアマネジャー)・渡辺秀伸 氏

介護支援専門員(ケアマネジャー)・渡辺秀伸 氏
care manager/Watanabe Hidenobu

「何を言っても大丈夫」は最高の信頼関係

介護を必要とする方やご家族の相談に乗り、適切な介護サービスが受けられるようにサポートすることが、ケアマネジャー(以下、ケアマネ)の大切な仕事。キャリア8年目の渡辺さんは、言いたいことを言い合える人間関係を築けたとき、この仕事の面白さがわかる、と楽しげに話す。

看護助手からケアマネの道へ

■あいらいふ編集部(以下、あいらいふ):
本日はお時間をいただき、ありがとうございます。最初に、ケアマネジャーになった経緯についてお聞かせください。

■ケアマネジャー・渡辺さん(以下、CM渡辺):
私、出身は横浜なんですよ。元々は看護助手として、横浜の病院に勤めていました。そこで看護師をしていた京都生まれの妻と知り合って、一緒に京都に戻ってきたんです。

■あいらいふ:
看護助手時代は、どのようなお仕事をされていたのでしょうか。

■CM渡辺:
名目としては、病棟で働いている看護師さんのサポートなんですけれど、実際は介護の仕事ですね。

勤めた病院が、ちょうど認知症の方と精神疾患の方の病棟の入れ替えを行っていた時期で、両方の患者さんがいらっしゃる病棟に配属されて。オムツの交換、食事の介助、入浴介助など、介護士さんと同じ仕事をしていました。

介護業界は、入った時にオムツ交換でつまづく人が多いんですけど、そこで違和感なく入ることができたのは大きかったですね。

■あいらいふ:
京都に来られてからは?

■CM渡辺:
横浜で1年半ほど勤務して、京都に来てからも病院の看護助手です。療養棟と一般棟がある病棟で、だいぶ毛色は違いましたが。

その頃は、看護助手の経験が3年間あれば、介護福祉士の資格試験が受けられたんです。ほかにも、介護の業務に通算で5年間従事していれば、ケアマネの受験資格も得られました。

当時は、業界内のステップアップとして、介護福祉士を取ってから、ケアマネを取るという流れがあって。ケアマネを目指してというよりは、流れに沿って、せっかくだから取っておこうかな、という程度でした。

■あいらいふ:
最初からケアマネを目指していたわけではなかった?

■MSW谷口:
ちょうど、ケアマネの資格を取得した頃に、一人目の子どもが生まれたのですが、当時は病院の人手が足りず、夜勤続き。夜勤明けで帰ってきたところに、子どもの泣き声で起こされる生活が続いていました。

そのうち、ふと、今は若いから何とかなっているけれど、40代、50代の体力的にしんどい時期に差しかかっても夜勤を続けられるのか、と考えるようになって。デスクワークのケアマネなら長く続けられるのでは、と思い立ったのが転職のきっかけでした。

本当は苦手なことばかり

■CM渡辺:
実は、ケアマネの仕事って、自分が苦手とすることばかりなんです(笑)。

まず、電話が嫌い。人前でしゃべることもできないし、人の間に入って何かを調整するなんて、本当に苦手でした。

嫌いなことが全部、仕事の中に詰まっているような職種だったので、最初は興味がなかったんですけど、一方で、チャレンジしてみたら何かが変わるかなという気持ちもあって。仕事にすることで、苦手なことも克服できるのではという期待がありました。

■あいらいふ:
チャレンジしてみて、いかがでした?

■CM渡辺:

電話嫌いはあまり変わらない(笑)。人前で話す方は、いくらかマシになったかな、とは思います。以前のままだったら、インタビューもろくに受け答えができなかったかも。

京都市の介護サービス事業者連絡会が、ケアマネを集めて研修会を実施しているのですが、以前、そこの運営委員を務めたことがあって。研修の企画と運営、会場の設営、グループワークの司会などもしました。人前でしゃべる機会にめぐまれたことが大きかった。

今は、「京都市北区ケアマネ魅力みつけ隊」の、次世代ケアマネ創出チームのメンバーとして活動しています。京都府介護支援専門員会でも、北東ブロックのブロック委員長を務めていますね。

■あいらいふ:
ケアマネのお仕事は正直、多忙だと思いますが、忙しい合間を縫って、そういった活動に積極的に取り組まれるようになったきっかけは?

■CM渡辺:
最初にケアマネを始めた事業所が、人の少ない、小規模な所で。外につながりが欲しいと感じたのがきっかけですね。勤めて半年くらいで、連絡会の運営委員の役が回ってきたのが、いいタイミングだと思って。なぜか、次の年には会長にされていました(笑)。

その頃は、業務の方でもご利用者を45人くらい担当していて。(現在の勤務先である)紫野と比べたら、介護度は高くない事業所だったので、並行しながら活動を続けていました。ケアマネを始めてすぐの時期に、外部のケアマネさんたちと触れ合えたことは貴重な経験になりました。

「難しいケース」を取りに行く

■あいらいふ:
紫野さんは、難しい案件を積極的に引き受けている事業所という印象がありますが。

■CM渡辺:
選んで取りに行きますね。うちの最初の管理者がそういった考え方でした。難しいケースや大変なケースを積極的に引き受ける。そういったケースを取ってこそ「自分たちの力になる」と。2023年の4月からは私が管理者を務めていますが、その考え方を踏襲しています。

新規の依頼が来たら、必ず「それは難しいケースですか?」と聞く。もちろん、どこの事業所でも聞かれる質問ですけど、ニュアンスがよそと少し違うんですね。「どこでも対応できるケースなら、よそに振っていただけますか」と。簡単なケースならごめんなさい、難しいケースなら喜んで行きますという言い方をします。

人手不足だった一時期を除いて、基本的にうちの事業所は、特定事業所加算(Ⅰ)という一番高い加算を維持し続けています。介護度3以上が40パーセントを超えている水準。これが自分たちのいる意義というか、アイデンティティの部分だと思っています。

■あいらいふ:
事業所内のチームワークはいかがでしょうか。

■CM渡辺:
いまは私を含めて5人で運営していますが、ケアマネや介護の仕事は“感情労働”(※)だと思っているので、言いたいことは事務所で一通り言ってもらって、家に持ち帰らせないように意識していますね。なんでも話せる環境づくりを心がけています。
※自分の感情の抑制、緊張、忍耐など、情動のコントロールを必要とする労働

■あいらいふ:
渡辺さんのキャリアの中で、印象深いご利用者のエピソードはありますか?

■CM渡辺:
心に残っているのは、悔いの残ったケースですね。

ご利用者の中に、周囲とのトラブルが絶えない方がいらっしゃったんです。デイサービスに行っても、すぐトラブルを起こしてしまって、やっと1回行ったと思ったら、もう行かへん、と。食事やお風呂といった生活支援が必要ではないけれど、心のつながりを求めていて、そういった場所に行きたがるけど、行くとトラブルが起こる。

その方とは、1年半くらいずっと、なんやかんや言いながら、付き合っていました。「もう来るな!」「やめちまえ!」と言われながらも、つながりを保つことができていた。

ところが、その方が隣人トラブルを起こして、事業所のエリア外に転居されてしまったんです。転居先の居宅介護支援事業所にこのケースをお渡ししたんですが、向こうのケアマネとあまりうまくいかなかったらしく、うちの事業所までバスで通って来られるようになって。しばらくは相談を受けていたんですよ。

でも、それを続けていたら、転居先のケアマネと、きちんとした関係が築けなくなってしまう。事業所としても完全に業務外で対応していたので、ある日、「来てもらうのは構わないけど、ケアや生活の問題は、新しいケアマネさんにきちんと相談せなあかん」と言って、突き放してしまったんです。

そうしたら、半年後くらいだったかな。その方が自宅で亡くなっていたと知らせを受けました。インスリンの注射なども必要としていたのですが、セルフネグレクトのような状態になって、病院にもいかず、治療もしていなかったようです。

ちょうどその頃、精神に疾患を抱えている方のケアに関する研修を受けていたんですが、その内容が、そういった方には安全地帯というか、心のよりどころになる存在が必ずどこかに一つは必要なんだ、というものでした。

もし、彼にとって私がそういった存在だったのだとしたら、突き放すのはあかんかったのかな、と。後悔の意味も込めて、そのケースは印象に残っていますね。どうしたら良かったんだろう、というのは。

ケアマネの仕事は“面白い”

■あいらいふ:
渡辺さんご自身の、仕事に対する価値観とはどのようなものですか?

■CM渡辺:
結局は、“自分が楽しいかどうか”なのかな、と。楽しいなんて言うと、利用者さんから不謹慎に思われるかもしれませんけど。

支援はしんどいし、怒られたりもする。こっちも言いたいことを言うときもある。喧嘩みたいになって、一時、話もできないような状態になることもあるけれど、そのやり取りですら楽しいと思えるかどうか、が大事なのかなとは思っていますね。この仕事をしていると、嫌でも相手に興味を持たなければいけないので。

■あいらいふ:
ご利用者のご相談に乗る上で、大切にしている点はどのようなところでしょうか?

■CM渡辺:
「私は、あなたの前からいなくなりませんよ」というメッセージはいつも送っていますね。その部分で、疑いを抱かせることのないように接しています。

また、「こいつは何を言っても大丈夫」と思ってもらえるような関係性を意識しています。「もう来るな!」とか、結構言われるんですよ。でも、何事もなかったように「また来るからね」って。

ある種、根比べでもあるんですけど、「お前、来るな言うたやろ!」「えぇ?言われたっけぇ?」なんてやり取りをしているうちに、お互いに言いたいことが言えるようになってくる。そこまで来たら「やった!」と思いますね

■あいらいふ:
ケアマネとご利用者の「あるべき関係」にこだわり過ぎないからこそ、自然な信頼関係を築けるということですね。

■CM渡辺:
逆に「来るな」と言われて、次に行ったらどんな反応が返ってくるだろう、なんて思いながら現場に向かったりするので。

感情をぶつけられるのはしんどいし、いろいろ言われれば、もちろん気分は良くはない。けど、一方でそれを面白がっている自分がどこかにいる。

グッと近づく本気の一方、フッと遠くから俯瞰で見て『二人とも真剣だなあ』みたいな。どちらの視点も持てると、介護はもっと面白くなって、しんどさは減ると思います。

■あいらいふ:
多くのご利用者のご相談に乗る中で、介護保険ではどうしてもカバーできない部分も出てくると思われます。ご自宅での独り暮らしが難しい場合の自費によるサポートサービスや、老人ホームの施設探しについては、普段どうされていますか。

■CM渡辺:
施設探しに関しては、やっぱり紹介事業者の方たちが、私よりも断然詳しいので。介護付きやサ高住を探してもらうなら、事業者さんに相談するのが一番ですね。

経済面での困難を抱えていらっしゃるご利用者も多いので、京都市内から外れれば条件に合った物件があるよ、と教えていただくこともあります。できるだけ、広いエリアについて情報を教えていただけるとありがたい。

一番大事な点は、利用者さんのところに出向いた際に、きちんと説明をしていただけるかどうか。サービスの内容や金額について、利用者さんにとってわかりやすい言葉を選んでくださる方がいいですね。丁寧にきっちり話さなくてもいいので、相手がわかりやすいように説明してもらえれば。

ご利用者の心の拠り所に

■あいらいふ:
渡辺さんは、将来のキャリアをどのように思い描いていますか?

■CM渡辺:
以前から、障がいを持つ方へのケアに興味があって、社会福祉士の資格も取得しました。障がい者支援をやってみたいな、と。ただ、社会福祉士を取得すると、活動の軸がそちらに移りがちですが、ご高齢者で障がいをお持ちの方もいますから。

ケアマネジャーの中でも、それぞれ得意な分野がある。自分にとっての得意分野が、障がい者の方だったり、精神疾患の方だったりということになればいいなとは思います。

特に力を入れたいのは、高齢者、男性、ハンデを抱えて孤立している、その三つの円が重なる部分。「このケースなら、渡辺に言ったらええやろ」と、病院や地域包括支援センターに思ってもらえたら光栄ですね。

■あいらいふ:
最後に、渡辺さんの今後の目標は。

■CM渡辺:
介護を含む、福祉業界のイメージを変えたいと思っています。「みつけ隊」の活動で、学生さんとお話をする機会があるのですが、ケアマネが何をする仕事かはわからないけど、何かしんどそう、きつそうという、漠然としたイメージを持たれている。

そういったイメージは払拭したい。実際にやってみて、自分の感覚で判断してほしいなとは思いますね。

目の前のことに向き合うしんどさと、本質的な面白さは、別の物じゃない。人格のすべてで相手と向き合う仕事だからこそ、味わえる醍醐味があるんじゃないでしょうか。

どの業界に行っても結局、しんどいことはある。そう考えたら、自分の知らない世界を知っているさまざまな人たちと出会えたり、いろいろな世界を見ることができるこの仕事は、結構、“面白い”んじゃないかな。

【プロフィール】
社会福祉法人京都福祉サービス協会 紫野
ケアマネジャー/社会福祉士 渡辺秀伸

調整ごとや人前で話すなど、「ケアマネ業務は苦手ばかり」だが、尊敬する元上司から「難しく大変なケースほど力になる」という精神を受け継ぎ、現在は管理者を務める。仕事柄、シニアとは感情をぶつけ合う瞬間もあるが、そんな状況を俯瞰して見ることで、自分も本気で向き合っているんだと自覚する毎日。社会福祉士の資格も取り、今後は「高齢×男性×障がい」のプロとして成長を目指している。

===取材協力===
社会福祉法人京都福祉サービス協会 紫野
京都府京都市北区紫野西野町15
https://www.kyoto-fukushi.org/office/detail/msn/

取材・文・撮影/鈴木孝英

介護情報誌『あいらいふ』編集部
【誌名】『あいらいふ vol.173(2024年10-11月号)』
【概要】 初めて老人ホームを探すご家族さまの施設選びのポイントをさまざまな切り口でわかりやすく解説。著名人に人生観を語っていただくインタビュー記事のほか、人生やシニアライフを豊かにするためのさまざまな情報や話題を取り上げて掲載。
【発行部数】4万部
【配布場所】市区役所高齢者介護担当窓口・社会福祉協議会・地域包括支援センター・居宅介護支援事業所・訪問看護ステーション・病院・薬局など1万か所

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