支援連携の輪

【ソーシャルワークの現場から -支援連携の輪-】[京都]介護支援専門員(ケアマネジャー)・捧 元一 氏

介護支援専門員(ケアマネジャー)・捧 元一 氏
care manager / Sasage Motoichi

ケアマネって決して偉くないんや

介護を必要とする方やご家族の相談に乗り、適切な介護サービスが受けられるようにサポートすることが、ケアマネジャー(以下、ケアマネ)の大切な仕事。我が子の病気をきっかけに、福祉制度の知識がないばかりに不幸に陥る人を減らしたいと奮闘する捧(ささげ)さんに、話をうかがった。

必要とする人に福祉を届ける

■あいらいふ編集部(以下、あいらいふ):
よろしくお願いいたします。
最初に、福祉に関わることになったきっかけを教えていただけますか?

■ケアマネジャー・捧さん(以下、CM捧):
待ち望んで生まれた娘が、生まれてすぐに脳内出血を起こしたことが、福祉の世界に入るきっかけでした。第一子だったこともあり、妻も私もわからないことばかりで泣くしかない状況でしたが、病院の医療ソーシャルワーカー(MSW)さんから福祉制度の存在を教えていただいたのです。

そこで初めて、障がい者控除や障がい児のための手当といった、さまざまな福祉制度があることを知りました。しかし、申請をしないと利用できないなんて、おかしい。同じような状況で制度を知らないばかりに困っている方にも知ってほしい、もっと福祉の光をあてたいと強く感じたんです。

障がいのある娘がいたからこそ、障がい児保育や当事者団体に関する知識を得ることができ、多くの方と関わる機会も得られたと思っています。

■あいらいふ:
多くの方に制度の存在を知っていただきたいという想いが、すべての始まりになったのですね。当時は何のお仕事をされていたのでしょうか?

■CM捧:
私は会計事務所に務める会計士として、妻は保育園の栄養士として、共働きを続けていました。

そして、30歳になる頃、国が新ゴールドプランと呼ばれる高齢者保健福祉施策を推進する計画が発表されたことを知りました。この施策の一つとして、訪問介護員(ホームヘルパー。以下、ヘルパー)の増員が図られ、実務に従事しながらホームヘルパーの資格が取得できるように支援するプログラムが導入されたのです。そこで、私もこのプログラムを利用して、まずはヘルパーの資格を取得しました。

訪問介護を担うヘルパーとして、家事や入浴といった日常生活支援のほか、障がいがある方の外出同行も行っていました。介護保険制度ができる前だったので、現在よりも幅広い支援を任されていましたね。

■あいらいふ:
会計事務所ではどのようなお仕事を担当されていたのですか?

■CM捧:
会員企業の経理や月次決算の書類作成、社会保険の労務、年金の計算などの業務を担当していました。それが実は、今になって役立っているんです。

ご高齢者と接していると、年金や相続、固定資産税、節税に関することがよく話題になるので、アドバイスできる知識と経験があって良かったと心から思っています。本当は手続きの代行もして差し上げたい気持ちはあるのですが、ケアマネの業務が忙しくて、なかなかそこまでの時間が確保できていない状況です。

■あいらいふ:
お願いしたいと考えているご利用者は、たくさんいらっしゃると思います。
ではヘルパーとして経験を積んだ後、ケアマネになられたという流れですね。

■CM捧:
はい。ヘルパーとして働きながら、2006年にケアマネの資格を取得しました。同時期に、社会福祉士は”福祉分野における弁護士のような存在”だと聞いていたので、社会福祉士の資格も取得しています。その後、2008年から本格的にケアマネとして働き始めました。

■あいらいふ:
介護・福祉の分野で働きながら資格取得の勉強をするのが大変なことは容易に想像できます。捧さんは高い意欲をお持ちですね。

■CM捧:
笑われてしまうかもしれませんが、その根底には”ヒーロー”へのあこがれがあるんです。『仮面ライダー』や『水戸黄門』。子どもの頃はいつも祖母と一緒にテレビを観ていて、弱きを助け、強きをくじく水戸黄門が大好きでした。自身の知識や技量を最大限に発揮して、困っている方や仲間たちを助けるヒーローは、なんてかっこいいんだろうと、あこがれていたんです。

■あいらいふ:
根底に、困っている人を助けたいという子どもの頃からの想いがあるのですね。ケアマネとして働く中で、印象に残っているエピソードはありますか?

■CM捧:
もう20年前になりますが、ケアマネを始めた当初は、ケアマネは偉い、人を導く立場なのだと思い違いをしていた時期がありました。訪問介護や通所介護の利用者さんから、お気に召さないヘルパーさんを変更してほしい、もっと良い人を紹介してほしいという依頼を受けていたのですが、そのうちに、私自身も違うケアマネに変更してほしいと言われてしまったんです。

その理由は、良かれと思って「薬は決められた用法通りに服薬して」「身体に悪いからタバコはやめて」「お酒もやめて」と口うるさく言っていたから。今、振り返れば上から目線で伝えていたからです。そうしたら、地域包括支援センターを通じて、ケアマネ交代を告げられてしまった。ショックで、プライドはずたずたでした。「ケアマネって決して偉くないんや」と痛感して、自分の愚かさに気づいた瞬間でした。

当たり前ですが、利用者さんは皆さん私よりずっと年上の方々なんですよね。人生の先輩に上から目線で言ったところで、聞くわけはない。それに、結局は本人の人生ですから、自覚に任せるしかないんです。ただ、せめてきちんと”自己選択”ができるように、寄り添って支えていくことは欠かせないと思っています。最初にお話しした、福祉制度の存在を知らないがゆえに起こる不幸を減らしたいという想いと同様に、身体に悪影響を与える嗜好品は減らした方がいいですよ、というメッセージもお伝えしておきたい。

そのためには、タバコも飲酒も無理にやめろと言うのではなく、「量を減らしてや」というお声がけをするようにしています。

■あいらいふ:
そのように対応を変えることで、ご利用者との関係はどのように変化しましたか?

■CM捧:
それ以降は、自然と信頼関係が築けるように変わってきたと思います。しかし、ある程度の関係性ができるまでは、私自身も慎重に言葉を選んで接するように心がけています。利用者さんがネガティブな気持ちにならないような、言葉選びも大切にしています。

水戸黄門のように人助け

■あいらいふ:
ケアマネの仕事をする上で、あいらいふが提供しているような介護保険外のサービスと関わる機会もあると思います。そうしたサービスについて、どのような印象をお持ちですか?

■CM捧:
かつては地域のシルバー人材センターにお願いしていた仕事が、人手不足によって、自費サービスを提供する民間の会社への依頼につながっているのではないでしょうか。通院同行やお墓の清掃・お墓参り、ご自宅のお庭の樹木の剪定・伐採などは、特に必要とされている方が多いですね。私自身は、民間のサービスも大切な地域資源の一つだと認識しています。

■あいらいふ:
ありがとうございます。捧さんが特に必要性を感じているサービスはありますか?

■CM捧:
話し相手になるサービスの需要は大きいと思います。あとは、電球の交換やお掃除などのちょっとしたお手伝いが頼めるといいですね。個人的には、さまざまなサービスが整っている都市よりも、地方の方が需要が大きいように感じています。

■あいらいふ:
まさに、社会資源として認知してくださっている地域では、頻繁にお声がけいただいています。ご高齢者がご自宅に住み続けられるように支援する一方で、ご自宅での生活がいよいよ難しくなってくると、施設へのご入居の検討を始める方もいらっしゃいます。あいらいふのメイン事業は老人ホームの紹介業ですが、捧さんが担当されているご利用者の中にも、施設に入居される方はいらっしゃいますか?

■CM捧:
もちろん、いらっしゃいます。経済状況やお身体の状態、医療依存度などを考慮して、利用者さんに合う施設をお勧めしています。介護付き有料老人ホーム、住宅型有料老人ホームなどの民間施設の場合は、あいらいふのような紹介会社に依頼しています。

紹介会社はいくつもありますが、依頼する際はその会社のご担当者のお人柄を重視しています。私の大事な利用者さんを安心してお任せできる!と信じられる方でないと。利用者さんのその後の人生に大きく影響するわけですから、しっかりと見極めてお願いしています。

■あいらいふ:
まもなく60歳になられるとお聞きしましたが、今後の目標はございますか?

■CM捧:
60歳以降もケアマネを続けながら、仕事量は少しセーブして、ファイナンシャル・プランナーの資格を取ろうと考えています。大学時代に経営学部で投資に関する証券論を学んだので、あらためてしっかりと投資の勉強もする。その上で、利用者さんからの年金や相続など、お金に関するさまざまなお困りごとの相談にのることができれば。お金や経済に関する知識もおすそ分けしたいと思います。

■あいらいふ:
福祉制度の話と原点は一緒で、 経済の仕組みを知っておいた方がいい、知らないばかりに損をしてしまうこともあると、多くの方に伝えたいという想いが根底にあるのですね。

■CM捧:
はい。水戸黄門ではありませんが、もっともっと人助けがしたいと思っています。

■あいらいふ:
お仕事の際に大切にしている愛用品や思い出の品はありますか?

■CM捧:
これは、愛用品の携帯ポーチです。仕事中は外しているのですが、それ以外は常にこのポーチに携帯を入れて持ち歩いています。ですから、たとえ通勤途中でも、休みの日に妻と買い物をしているときでも、緊急連絡があればすぐに対応できるように心がけています。

■あいらいふ:
お忙しいことと思いますが、ご利用者のためにも、お身体にはくれぐれも気をつけてくださいね。
本日は、素敵なお話をありがとうございました。

【プロフィール】
社会福祉法人積慶園
居宅介護支援事業所 絆
捧 元一

大学卒業後は会計事務所に勤務。長女が生後まもなく重度の障がいを負った経験から、医療・福祉制度を正しく伝えることで、多くの人々が救われることを痛感する。その後、在宅のホームヘルパーをしながら、社会福祉士、介護福祉士、ケアマネの資格を取得。2006年から変わらず在宅生活をお手伝いしてきた。日々の業務で心がけていることは「利用者さんの気持ちに寄り添うこと」と「制度や社会資源は積極的に情報提供していくこと」。

===取材協力===
社会福祉法人積慶園
居宅介護支援事業所 絆
京都府京都市山科区北花山大林町34
http://yamashinasekkeien.com/

介護情報誌『あいらいふ』編集部
【誌名】『あいらいふ』 vol.172(8-9月号)
【概要】 初めて老人ホームを探すご家族さまの施設選びのポイントをさまざまな切り口でわかりやすく解説。著名人に人生観を語っていただくインタビュー記事のほか、人生やシニアライフを豊かにするためのさまざまな情報や話題を取り上げて掲載。
【発行部数】4万部
【配布場所】市区役所高齢者介護担当窓口・社会福祉協議会・地域包括支援センター・居宅介護支援事業所・訪問看護ステーション・病院・薬局など1万か所

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