対談・インタビュー

【特集】老人ホームの「食」事情

有料老人ホームへの入居を考え始めたとき、選ぶポイントとして頻繁に挙げられる項目のひとつが、毎日の食事。

食事は、身体機能を維持する上で不可欠であると同時に、ご高齢者にとっては楽しみでもあり、生きがいにもつながる重要な要素。

多くの方が気にするポイントです。

そこで今回は、老人ホームの”食”事情に迫るべく、老人ホームや病院、保育所への食事を提供している㈱グリーンヘルスケアサービスのご担当者に、一般的な給食サービスとの違いや、安心・安全への配慮、食事を楽しんでいただくための工夫などをお聞きしました。

※写真はイベントなどで提供する特別食です。

食欲を高めるために
工夫を重ねた食事を提供

――㈱グリーンハウスヘルスケアサービスの手がける給食サービスの特徴について教えてください。

吉田 弊社では現在、老人ホーム、病院、保育所を含め、全国で約580か所の給食サービスを運営しています。グループ企業のレストランやホテル部門で培ったノウハウを活かし、エンタメ要素のある”イベント食”を積極的に提供している点が、弊社の強みになっています。

例えば、老人ホームのお食事として、グループ企業である「とんかつ新宿さぼてん」のメニューや、名の知れた老舗・銘店とのコラボメニューなどを週1、2回企画しており、ちょっとした外食気分が味わえると好評をいただいています。

――高齢者向けの食事だからこそ、心がけていることは?

比留間 加齢に伴い、食べる意欲や食への興味が低下してしまう方がいらっしゃるので、食欲を高めることを意識しています。具体的には、食材の彩りや盛り付けを工夫して視覚的な華やかさを演出したり、四季折々の旬の食材を多く採り入れた季節感のあるメニューを提案するなど、”おいしそう”と感じていただけるものをご提供しています。

また、演出の一環として、盛り付ける器も重要となるため、ある老人ホームでは、職員の方と相談しながら、定期的に新しい器を買い足しています。見た目だけでなく、ご高齢者が持ちやすいように重さと大きさにも配慮して器を選んでいます。器や箸置きなどの変更が、ご入居者さまとの会話が弾むきっかけになることも多々あります。

吉田 新メニューをつくる際は、多数の調理指導員が研究・試作を重ね、喜んでいただける見た目とおいしさを追求しています。栄養面では、食事量や栄養素を制限しなければならない食事療法が必要なご入居者さまにも対応できるように、㈱グリーンヘルスケアサービスと契約しているすべての老人ホームに栄養士を配属。各栄養士が、国が公表する栄養素の摂取基準にのっとってメニューを作成するので安心です。

技術の進歩により
介護食の見た目は激変

――学校や企業と違い、老人ホームには摂食・嚥下(えんげ)機能(噛む力・飲み込む力)の低下している方が少なくありません。どのような対応をされていますか?

比留間 かつては、摂食・嚥下機能が低下した方のための食事というと、ミキサーで食材を混ぜて液状にしたドリンクや、食感を犠牲にして細かく刻んだ食事しかなく、決して食欲がわく見た目ではありませんでした。

けれども、近年は技術の進歩により、ムース状にかためて形を整えたり、飲み込む機能のレベルに応じて適度なとろみをつけることで、誤嚥(ごえん)の防止が可能になっています。”見た目” “食べやすさ”、そして何より”安全であること”の3点をクリアした新しい調理法・商品を活用し、より一般的な料理の完成形に近い見た目で、かつ、やわらかい食事をご提供しています。

吉田 老人ホームによっては、月に1、2回、介護・医療関係者が集まる給食会議を実施しています。職員の方からのご要望はもちろんのこと、口腔の専門家である歯科医など専門家のご意見もお聞きして、メニューに反映するようにしています。

ご要望を聞き取り
できる限り短時間で対応

――これまでに評判が良かった、食事に関連する取り組みはありますか?

吉田 月1回、食事前の10~15分を使って開催する、健康セミナーは大変喜ばれています。ご入居者さまが対象ですが、職員の方が参加されることもあります。季節に合わせたテーマを取り上げており、例えば、夏バテ解消のため、疲労回復の効果があるといわれているうなぎの情報をお伝えした後、「今日のお食事は、うな丼をご用意しています」とご案内するんです。

すると、ほとんどのご入居者さまがご興味をもって召し上がってくださいます。セミナー後、すぐにお食事の時間になるので、お話しした内容を忘れずに食べ始められると好評です。セミナーの内容をお料理メモにして、お食事と一緒にご案内する試みも喜んでいただけています。

――入居者・老人ホームからの要望には、どのように応えていますか?

比留間 まずはどのようなご要望があるかを知るため、一般的なレストランのように接客する老人ホームの場合は、ご入居者さまとの会話を通じて、ご感想やご要望を直接お聞きするよう心がけています。

“硬すぎる” “冷たすぎる”など、やわらかさや温度に関するご要望があれば、次回の食事からでも対応が可能です。ほかにも、その日の気温に合わせて、温かいメニューを急きょ、冷製仕立てに変更するといったアドリブを加えることもあります。

――急な変更やさまざまな要望に応えるためには個別対応が必要ですね。複数の老人ホームに提供する食事を一か所で調理するセントラルキッチン方式でなく、各老人ホームで調理する現地調理方式を採用しているのですか?

吉田 セントラルキッチン方式は効率的ですが、味が画一化してしまう懸念があるため、各老人ホーのニーズに合わせた食事を提供することを優先し、現地調理方式を採用しています。お客さまに寄り添い、現地で調理・提供することにより、直接ご要望をうかがう機会が頻繁に得られます。ただ、どうしても人手不足の問題があるため、将来はセントラルキッチン方式も検討していく予定です。

――老人ホームの給食サービスで最も気をつけている点は?

吉田 体調を崩しやすいご入居者も多いので、何よりも注意している点は、まず、安全な食事を提供するための衛生管理です。本社が食材の調達から物流・商品管理まで一括して行うことにより、徹底した安全・衛生の管理体制を整えています。

具体的には、食材衛生管理の専門部署「ISO品質安全衛生管理室」を設けて、仕入れ先の衛生状況や、商品規格などの安全性を細部まで確認し、厳選した食材を使用しています。ほかにも、20年以上前から100項目を超える安全・衛生のためのチェックリストを使用しており、年2回、各老人ホームを巡回して、リストにのっとって行動しているかどうか抜き打ち検査を行っています。

生涯のあらゆる場面で
食事を楽しんでいただきたい

――専門知識や高い安全性、細やかな配慮が求められる老人ホーム・病院・保育所の給食サービスは、決して容易な事業ではありません。あえて難易度の高い分野で、同事業を展開されている理由は?

吉田 終戦後の食糧難の時代に、大学の学生寮の食堂経営を引き受けた創業者が、”学生さんたちにおなかいっぱい食べてもらいたい”という思いで、食料調達に奮闘したことが㈱グリーンハウスの始まりです。保育所から病院、老人ホームの給食サービスを始めた理由は、”生まれてから亡くなるまで、生涯のあらゆる場面で食事を楽しんでいただきたい”という創業者の思いが強かったからだと聞いております。

グループ内でも特別な配慮が必要とされる難易度の高い部門ですが、㈱グリーンハウスの社是は”人に喜ばれてこそ、会社は発展する”。私自身が入社したのも社是にひかれたのが理由で、多くの従業員が同じ思いを共有しています。常に新しい知識や技術を吸収しながら、今後もお客さまに喜んでいただけるお食事を提供していきたいと思っております。

老人ホーム食のプロに聞く!
自宅での介護食づくりのコツ

自宅で介護をされている方で、食事づくりの不安のある方は少なくありません。編集部でよく耳にする介護食づくりのお悩みを、㈱グリーンヘルスケアサービスのお二人に質問してみました。

●時短で介護食をつくるには?

すべてを手づくりする必要はありません。近年はムース状のものや刻んで煮込んだ食材などの加工品が、ドラッグストアやスーパーマーケットで購入できます。ぜひ上手に活用してください。

●摂食・嚥下機能の低下が進んだら?

飲み物・食べ物にとろみをつけることで、誤嚥を防ぐことができます。食事のやわらかさを示した基準である「日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021」などを参考に、どの程度のやわらかさが良いのか見極めてください。わからないことは歯科医、ケアマネジャーなど医療・介護の専門家に相談しましょう。

●やわらかい食事をおいしそうにつくるコツは?

素材ごとに別々につくってから盛り合わせるなどの工夫が効果的です。彩りとして、3~4色の色みがあるとおいしそうに見えます。小さい器をいくつか並べて、お膳にするのもおすすめです。

●食事を楽しんでもらうには?

お正月や土用の丑の日といった行事食を用意したり、あるいは季節の食材を使うだけでも気分が変わります。好物を出すことも食べる意欲につながります。身体状況を見ながら、ご本人が食べたいと思うものを召し上がっていただくことも大切です。

●介護食づくりにおすすめの調理器具は?

ミキサー、ブレンダー、圧力鍋はあると便利です。そのほか、介護食づくりのために作られたやわらか食調理家電「デリソフター」もおすすめ。

普通に調理した唐揚げなどをデリソフターに入れると、そのままの形でやわらかくすることができます。家庭用に販売しているので、ご興味のある方は調べてみてください。

写真 デリソフター/ギフモ㈱

●ほかに注意すべき点は?

まず、衛生面にはくれぐれも気をつけてください。そして、食べるときの様子をしっかりと見てください。飲み込みやすそうか、食べづらそうか、口の中に食べかすが残っているか。どのくらいの噛む力・飲み込む力があるのかを把握してから、能力に合わせて食事をつくりましょう。

撮影協力/クラーチ・ファミリア光が丘公園

㈱グリーンハウス/㈱グリーンヘルスケアサービス

㈱グリーンハウスは1947年の創業。創業者が”社会の役に立つ仕事がしたい”と慶應義塾大学予科の学生寮で食堂の経営を開始した。現在は約2,600店の運営先を預かるほか、900万人以上が利用する食事管理・ダイエットアプリを手がけるなど、国内外で事業を展開する食と健康の総合ホスピタリティ企業に成長。1999年に設立された子会社の㈱グリーンヘルスケアサービスは、医療・介護・保育の分野に特化した給食サービスを担っている。

㈱グリーンヘルスケアサービス
全国HC推進部・田美和子部長

高齢の方や病気の方への栄養管理・指導を行う管理栄養士の資格をもつ。病院、特別養護老人ホームの給食サービスを担当するなど現場経験が豊富。

㈱グリーンヘルスケアサービス
HC第三支社・比留間健吾副部長

有名ホテルのフレンチレストランでシェフとして活躍した前職での経験を活かし、入社後は店舗責任者、指導員を経て、現在は運営統括を担当。

取材・文/あいらいふ編集部
撮影/近藤 豊・仙洞田 猛

介護情報誌『あいらいふ』編集部
【誌名】『あいらいふ 2023年10-11月号』
【概要】 初めて老人ホームを探すご家族さまの施設選びのポイントをさまざまな切り口でわかりやすく解説。著名人に介護経験を語っていただくインタビュー記事他、人生やシニアライフを豊かにするためのさまざまな情報や話題を取り上げて掲載。
【発行部数】4万部
【配布場所】市区役所高齢者介護担当窓口・社会福祉協議会・地域包括支援センター・居宅介護支援事業所・訪問看護ステーション・病院・薬局など1万か所

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