対談・インタビュー

【経営トップ対談 vol.02】シニア世代の社会参加が未来を育てる。いま、民間企業にできること

2021年4月に高齢者雇用安定法が改正され、70歳までの就業確保に向けた支援措置が努力義務化されてから、約2年が経過しました。

シニア世代の活躍する場所の確保が求められる中、2022年11月に仙台でスタートした配食サービス「ジーバーFOOD」は、シニアと現役世代が互いに支え合うビジネスモデルとして注目を集めています。

同事業を運営する株式会社ユカリエの永野社長と、あいらいふ代表・藤田が、シニア向けビジネスの将来像について語り合いました。

シニア世代の力を借りる
新ビジネス「ジーバーFOOD」

──まず、永野社長が手がける新事業「ジーバーFOOD」について、概要をお聞かせください。

永野 「ジーバーFOOD」は、地元のおばあちゃんたちがこしらえた健康的な手作り弁当を、仙台市内の企業や団体に宅配するサービスです。シニア世代のお困りごとをサポートする生活支援サービス「まごころサポート」から派生した新たなビジネスとして、同事業を展開するMIKAWAYA21と、仙台市を中心に不動産・飲食事業を展開するユカリエが共同で立ち上げました。

お弁当を通じて、シニアの生きがいづくり、働く世代の健康推進、企業の健康経営による地域活性化を図ることを目的に、2022年11月から事業をスタートしています。

藤田 あいらいふが「まごころサポート」のフランチャイズに加盟して、吉祥寺に「まごころサポート 東京武蔵野あいらいふ店」を開設したのが2022年9月。ちょうど同じ時期ですね。そのご縁で、今回対談をお願いした訳ですが。実際に働かれているおばあちゃんたちの反応はいかがですか。

永野 「こうやって出勤して料理を作っていなかったら、今ごろ、家でTVを見ているよね」、と。シニア世代には、毎週の決まった予定がない方も多い。ここで立ち仕事をしている時の疲れが逆に心地いいと現場のスタッフに声をかけてくださることもあり、意義のある取り組みができていると手ごたえを感じています。

──おばあちゃんたちがヒーローとして登場するユニークなプロモーション戦略が各メディアに取り上げられ、話題になりました。

永野 キャストは全員、実際に勤めてくださっている宮城県在住・平均年齢70歳のおばあちゃんたちです。今だから打ち明けますが、当初は本当に嫌がられて。東北の人たちは奥手なんです。

慣れない撮影に大変緊張されていましたが、カメラマンの方が盛り上げ上手で、だんだん乗り気になっていって。最後は「70年生きてきて、こんな経験はしたことがない。楽しかった!」と言っていただきました。

藤田 ビジネスとして、収支の面ではいかがですが。

永野 現状では、なかなか合っていません。でもこれは割り切っているところもあります。おばあちゃんたちも、想像以上に売上についての意識を持っていますし、ビジネスとして軌道に乗せるための階段を少しずつ上っていくスピードを、いかに心地よく設定できるかが経営者の役割だと思っています。

これまででおばあちゃんたちが一番喜んだのが、仙台が本拠地の人気スポーツチームの事務所から、150個のお弁当を注文していただいた時ですね。もちろん、過去に受注したことのない規模でしたが、おばあちゃんたちも、できるかしら…、ではなく、やるしかない!実現するためにああしよう、こうしようと円陣を組んで。その姿にはスタッフも感動しました。

やはり「地元を代表するチームに、自分たちがお弁当を届けている」という思いは自信につながります。3月には150個の注文を3回も入れていただきましたし、シーズンが始まると、運営スタッフのために1日600個のお弁当が必要になる日もあるそうです。2024年はその枠を受注できないかと狙っています(笑)。

もう一つ、本業の不動産事業で、紹介された地主さんに会社のパンフレットをお渡ししたら、「ジーバーFOODはお宅でやっているのね、ニュースで見たわ」と。そこから普通の不動産屋とは見る目が変わったというか、話もトントン拍子に進んで。こういった波及効果もあるのだと感じました。

藤田 当社は老人ホーム紹介業を営んでいるので、1都3県を中心に地域包括支援センターや居宅介護支援事業所を営業で回るのですが、20数年続けているだけあって「あいらいふ」の名前を知らない方はいない。でも、同業他社も山ほどあるので、別にあいらいふでなくても構わないんです。

ところが「まごころサポート」を始めてみると、「そんなところまでフォローしてもらえるのであれば、あいらいふさんにお願いしたい」と言われることも多くなって。経済の原理だけでない、地域に住まう人たちのための事業を手がける会社だということが、ユーザーにも伝わるのでしょうね。

実際にお弁当作りを担当している12人の“ばあちゃん”が、12品入りのお弁当と共にミッションに立ち向かう「バーチャンズ12(トゥエルブ)」のメインビジュアル。サービス開始時のユニークなプロモーション戦略が各メディアに取り上げられ、話題になった。

提供するおかずはすべて手作り。おばあちゃんたちが早朝から集まり、手間暇かけて調理を行っている。弁当の内容は、おばあちゃんたちが得意とする家庭料理を中心に構成。レシピの策定や味付けを決める際も、おばあちゃんたちが加わって検討を重ねている。

地域の価値を創出する
企業へまごころサポートへの期待

──不動産事業を主事業とされていた永野社長が、シニア向けサービスであるまごころサポートに加盟されたきっかけは。

永野 「ジーバーFOOD」のキッチンになっているこのスペース、以前はバイクショップだったのですが、しばらく空きテナントになっていて。このビルのオーナーでもある長町商店街の会長さんから、「空いたテナントを使って、地域に貢献できる事業を創出できないか」と相談されたんです。

私自身はそのころ、2020年から流行が始まったコロナ禍を経て、今後の会社の方向性を見つめ直している時期でした。今後、自分たちの会社は本当にやっていけるのだろうか?そもそも、自分たちの会社は地域に対して価値を提供してこれたのだろうか?悩んだ末に行き着いたのは、「地域に必要な事業をつくる会社になろう」ということでした。

新型コロナウイルス感染症が流行する1年前に「来年、未知のウイルスが流行する」と予想していた人は当然、1人もいません。ということは、1年先の未来なんて誰にも予想できないということ。

それなら、利益のことばかり考えて自分の意に沿わないことをするのはやめようと。仮に1年後、会社がダメになってしまったとしても「あの会社があって良かったね」と言われる事業をつくろうと思っていた時に、人づてに紹介されたのが「まごころサポート」でした。

当社は、沖縄の宮古島で空き家をリノベーションした宿泊施設の経営や、カフェの運営事業も手がけているのですが、当時、「まごころサポート」を手がけるMIKAWAYA21の青木慶哉社長が宮古島まで、わざわざ出向いてくださったんです。

丸二日間、一緒に過ごして、色々お話しをさせていただく過程で、ここ長町の空きテナントを活用する「ジーバーFOOD」のアイデアをうかがいました。運命的というか、「まごころサポート」への加盟とともに、「ジーバーFOOD」を共同で運営することが、ほぼその日に決まった覚えがあります。

藤田 地域になくてはならない会社という点では、まさに我々も同じことを考えています。あった方がいい会社と、なくてはならない会社は明確に違う。

あいらいふの本業である老人ホーム紹介業も付加価値を生んではいるのですが、要は物件を探すお手伝いですから、極端なことを言えば、自分で直接探して契約してしまっても問題はない。そこで、今は老人ホーム紹介業を内包する、シニアライフのトータルサポートを請け負っていこうと考えています。「まごころサポート」事業への参入で方向性が見えてきたという点も一致していますね。

私の場合は、そこに加えて、同事業のフランチャイズに加盟している経営者の皆さんに合流したいという思いがありました。「まごころサポート」のフランチャイズは現在、約190社(取材時点)。同じ志を持つ経営者が190人も集まると、きっと大企業よりもすごいことができる。たとえ儲からなくても、会社にとって必ずプラスになると確信しています。

自助を求められる社会
シニア世代の可能性

──健康寿命の延伸というキーワードが打ち出され、社会のさまざまな場面でシニア世代に自立や自助努力を促す動きが進んでいます。お二方は現状をどう捉えていますか。

永野 むしろ、私たちの中に最初から、これはできないからやってあげなければと決めつけてしまう傾向があるように感じます。「まごころサポート」をはじめ、できない方や困っている方に向けたサービスは手厚い。毎年、さまざまなサービスが生まれ、参入する会社も増えています。一方で、もっと色々なことができるはずのシニア世代が活躍する場があまり増えていない。

私や現場のスタッフが心がけていることは、できないと決めつけず、むしろおばあちゃんたちを頼ってみる。「顧客からこんなお弁当が欲しいと相談されているのですが、どうですか」とおうかがいを立てると、非常にやる気を出して、素晴らしいお弁当を作ってくれる。サポートする、支援するばかりでなく、頼る、任せることが、その方をはつらつと輝かせたり、若さを保つ上でとても効果があると日々感じています。

藤田 介護業界では2022年の春ごろから、軽度の要介護状態(要介護度1・2)の方が利用する訪問介護や通所介護を、介護保険の対象から外す制度改正についての議論が本格化しました。いったんは先送りとなったものの、2027年の次々回改正に向けた検討が続いています。

ただ、今後もシニア層は増え続けますから、財源が見込めない以上、いつかは限界が訪れます。そうなった時に結局、健康寿命をいかに伸ばすかというビジネスをしている人たちが勝つ。この分野は大きな可能性を秘めていると思います。シニアの就業支援や、活躍の場を用意する取り組みには、当社もいずれチャレンジしたいと考えています。

思い描くのは“地域に暮らす人”
人のつながりが社会を動かす

──永野社長は北海道のご出身ですが、仙台を活動の拠点とされたきっかけは。

永野 北海道の高校を卒業後、京都の立命館大学に進学して、ずっと野球をやっていました。新卒で大手のハウスメーカーに入社したのがちょうど東日本大震災の次の年。復興のために東北に人が集められていた時期で、そこで仙台との縁が生まれました。

当社のコンセプトは「人に寄り添い、場所に寄り添う」ですが、正直な話をすると、私自身は土地や地域に対してあまり思い入れを持たない人間です。

では、なぜこんな事業を?と思われるかもしれませんが、私が惹かれるのはその土地に暮らす人々。「ジーバーFOOD」を始めたのも、商店街の会長さんが手弁当で、所有する不動産を地域のために提供したいという思いに共感した部分が大きいと思います。

宮古島の事業も、地元の方たちと交わした言葉、過ごした時間があるから、何かをしようと思えた訳で、そうでなければ、単なるリゾート地でしかない。出会った人々がいて、その方のためにと心から思えることが自分にとって重要な要素です。

藤田 私も上京して30年が経ちますが、東京という雑多な街にそれほど愛着はない。やはり人を動かすのは人なんです。今、日本で私たちが幸せに暮らせているのは、戦後の復興に尽力して来られた方たちがいるから。ところが、その方たちが元気がない、そういう状況なんですね。そこに報いるというか、恩を返す。それを実現するのがあいらいふと、「まごころサポート」のビジネスかなと思っています。

あいらいふでは今期、「ペイ・フォワード(Pay it forward)」という言葉を全社目標の一つに挙げています。自分が受けた善意をそのまま相手に返すのではなく、周囲の人たちに振り向けることで、善意をその先につないでいく。

2001年に同タイトルの映画が日本でも公開されましたが、一見、何も変わらなかったように見えた善意の輪が、主人公に見えないところで徐々に広がっていくというあらすじです。今後ますます社会の高齢化が進む中で、シニア向けビジネスは他者の自己実現を手助けする「ペイ・フォワード」の考え方を取り入れていくことが重要だと考えています。

永野 自分の経験を語らせてもらうと、ハウスメーカーに勤めて2年経った頃、子供のころからの夢だったプロ野球界入りにどうしても挑戦したくて。会社を辞めて、母校で野球浪人をしていたんです。当時の監督に、大学生に交じって練習していいよと言っていただいて。

朝から昼まで練習して、午後の3時から夕方の7時まではスポーツジムのインストラクター、そこから週に2日程度、割烹料理屋でのアルバイト。家賃2万円のボロボロのアパートに住んで、それも払えるか、払えないかくらいの生活でした。

そんな時に、学生時代からお世話になっている野球部の食堂のご主人が、いつも自分のためにご飯を取っておいてくれて、タダで食べさせてくれたり。割烹料理屋の店長にも、「いつでもまかないを作ってやるから、困ったらうちに来い」と言われました。

当時の自分が大人たちから受け取った無償の愛は、まさに「ペイ・フォワード」ですね。貧乏だった当時の、あのまかないの味は一生覚えている。

今、お金を稼げるようになって、どうにか恩を返したいと思っても、この方たちはきっと「だったら、同じことを下の世代にしてやれ」と言うはずです。ならば自分は事業を通じて、社会や地域の人々に還元していこうと。そういった思いが、自分の原体験としてありますね。

シニア世代の活躍が
豊かさを未来につなぐ鍵

──最後に、シニアのためのビジネスを手がける両社が描く、将来のビジョンをお聞かせください。

藤田 あいらいふには、老人ホームへなどのご入居を検討されている方から、月間で1200人くらいご相談があります。でも、実際に入居されるのは300人しかいない。経済的な理由もありますし、やはり自宅の方がいいとおっしゃる方も多くて、900人が諦めてしまっている。そこで、ご入居に至らなかった方に対しても私たちに何かできることがないかと考えあぐねている時に、「まごころサポート」に出会いました。

当社は、老人ホーム紹介業を20数年続けてきましたが、今はそこを超えて“シニアライフのトータルサポートカンパニー”になることを考えています。老人ホームの紹介は、シニア世代のほんの一時期、一部の方に該当するニーズですよね。

そこにとどまらず、さまざまな場面でお困りごとを抱えているシニア世代を手助けできる会社になろうと。そこにはもちろん、できないことへの手助けとともに、できることを増やしていく手助けも含まれると思っています。

永野 私たちは、地域に暮らす方々に、一番多くのハッピーを届ける不動産会社になろうと。いま、地域の中でシニア世代の比率がどんどん高まっている。この方たちに幸せを届けることができれば、その地域の幸福度が高まると確信しています。

私自身は、シニア世代に元気に過ごしていただくことは、ひいては社会のため、若者のためにもなると考えています。若い時に先を恐れず、自分のやりたいことにチャレンジすることが、必ず人生の財産になるということを身をもって知っているので、一人でも多くの若者に同じ体験をしてほしい。

ただ、ハイスピードで高齢化が進む日本社会において、今後の対応を誤ると、若い世代にしわ寄せがいくのではないかと心配しています。

藤田 ヤングケアラーの問題が象徴的ですね。おじいちゃんおばあちゃんの介護やそれにかかる費用・コストに絡んで、子どもたちが我慢を強いられる場面が増える。一見、献身的で美しい姿にも見えてしまうのですが、代償として若者の夢や目標を奪ってしまうリスクがあります。

永野 若者がやりたいことに没頭して、未来に羽ばたいていかないと、日本の未来は明るくならない。私なりに導いた結論は、シニア世代をいかに介護するかではなく、いかに元気になってもらうか。

当社が介護やサポートに重点をおいた事業とともに、シニア世代が社会の中で活躍できる事業にチャレンジする背景には、そういった理由もあります。これが、人生の先輩たちからさまざまな形で「ペイ・フォワード」を受け取ってきた、自分の役割だと思っています。

藤田 両社に共通しているのは、上の世代から下の世代に豊かさをつないでいくために、民間企業がどのような取り組みを進めていくべきかという目的意識ですね。機会があれば次回はぜひ、東京のあいらいふ本社にもいらしてください。本日はありがとうございました。

株式会社ユカリエ
代表取締役社長 永野 健太さん

1989年生まれ、北海道出身・宮城県仙台市在住。プロ野球選手に憧れ小学3年生から大学まで野球一筋。 大学卒業後、大手ハウスメーカーの営業として勤務するものの、 プロ野球選手への道を諦めきれず、退職し一年間の野球浪人を経験。不動産業界に復帰後、リノベーション物件と出会い、その魅力に惹き込まれる。2015年より不動産会社の経営者となり、いかにして、不動産を通して人々の心を豊かにできるかを探求し続けている。

https://www.yukarie.co.jp/

株式会社あいらいふ
代表取締役 藤田 敦史

1973年生まれ、群馬県みどり市出身・東京都在住。大学卒業後、外資系金融機関で3年間、リテール営業を経験。その後、コンサルティング会社で中小企業の支援、大手営業会社の社長直轄部署でM&Aを担当する。45歳で株式会社ユカリアへ転職し、2020年6月に子会社化したあいらいふの代表取締役に就任。ビジネスによる超高齢社会の課題解決を目指す。

介護情報誌『あいらいふ』編集部
【誌名】『あいらいふ 2023年4-5月号』
【概要】 初めて老人ホームを探すご家族さまの施設選びのポイントをさまざまな切り口でわかりやすく解説。著名人に介護経験を語っていただくインタビュー記事他、人生やシニアライフを豊かにするためのさまざまな情報や話題を取り上げて掲載。
【発行部数】4万部
【配布場所】市区役所高齢者介護担当窓口・社会福祉協議会・地域包括支援センター・居宅介護支援事業所・訪問看護ステーション・病院・薬局など1万か所

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