【特別インタビュー】国際医療福祉大学大学院 教授 石山麗子さんに聞く 多様化する介護の新時代 ケアマネジメントのあるべき姿とは
日本の高齢化が進む中、地域社会における介護のあり方が大きな転換期を迎えています。
介護サービス需要の増加、家族構成の変化、地域包括ケアの推進など、現場を取り巻く環境が変化し、ケアマネジャー(以下、ケアマネ)にはこれまで以上に多くの役割が求められる一方で、担い手不足や業務負担の増加が深刻な社会課題となっています。
多様化する介護の時代において、ケアマネジメントはどのように変化すべきなのか。国際医療福祉大学大学院の石山麗子教授に、これからのケアマネジメントの方向性についてうかがいました。

どこまでが“ケアマネの業務”か
厚労省検討会で初の分類
――2024年12月、厚生労働省(以下、厚労省)の「ケアマネジメントに係る諸課題に関する検討会」から、結論にあたる「中間整理」が発表されました。石山先生も本検討会のメンバーとして参加されていますが、その概要を教えてください。
この検討会は、現状のケアマネジメントが抱えるさまざまな課題に対して対応策を講じるために、2024年3月に設置され、およそ半年間にわたって議論を重ねたものです。検討の結果、
1.ケアマネジャーの業務の在り方
2.人材確保・定着に向けた方策
3.法定研修の在り方
4.ケアマネジメントの質の向上に向けた取り組みの促進
という4つの分野について、一定の方向性が示されました。
今回の議論において大きなテーマとなったのが、介護を必要とするご利用者やそのご家族の生活を支えるために、ケアマネが本来の「専門性」を十分に発揮し、ケアマネジメント業務に集中できる環境を整えることでした。
このため、いわゆるシャドウワーク(対価の発生しない細かな作業)の見直しや、研修の受講環境の整備など、ケアマネの負担軽減に向けた方策が話し合われました。
特に注目すべきは、「どこまでがケアマネの仕事と言えるのか」という、ケアマネの役割や業務の範囲の明確化です。
今回、厚労省では初めて、居宅介護支援事業所に勤めるケアマネの業務を分類し、①法定業務、②保険外サービスとして対応しうる業務、③他機関につなぐべき業務、④対応困難な業務──の4区分を提示しました。

個々人の望む生活の実現のために、地域の関係機関が連携してご利用者を支援する「地域包括ケアシステム」の整備が進む中、居宅介護支援事業所のケアマネが調整役を担う範囲は拡大します。
このような状況下で、ご利用者やご家族に加え、連携先からも、法定外の業務を当然のように求められる環境が、ケアマネの過重な負担感につながっていると考えられます。
簡単ではないかもしれませんが、これからはケアマネもこのような課題を抱え込まず、連携先とチームとして共有することが重要です。
中間整理では、ケアマネの法定外の業務を、自治体を主体とする地域の課題として協議するよう呼びかけています。
相談体制を整えるとともに、ボランティアや民間の介護サービスなど、介護保険だけに依存しない地域資源を活用することで、ケアマネの負担軽減と、ご利用者への切れ目のない支援の両立を目指す地域づくりを推進することになりました。
10年ぶり検討会開催の意義
ケアマネの処遇を見直す契機に
今回の検討会の注目すべき点は、主に居宅介護支援事業所で働くケアマネの業務内容に焦点を当てている点です。
過去に同様の検討会が開催され、国の報告書が取りまとめられたのは、2013年以来のことです。当時の報告書をもとに制度改正などが進み、今日のケアマネジメントのあり方に大きな影響を与えています。
──つまり、今回の中間整理の内容が、今後のケアマネの処遇の方針として、実現される可能性があるということですね。
そうですね。今回示された方向性は、2027年の介護保険制度改正や、2040年を見据えたサービス提供体制のあり方などに反映されていくと思われます。
一方で、今回の議論には「足元で」という言葉が多く使われています。
同検討会とは別に、2025年7月には「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方」検討会の取りまとめが公表されていることからも、厚労省には、現状におけるケアマネの業務のあり方を、早急に見直す必要があるという危機感があったと思います。
その背景には、人材不足やデジタル化の推進といった環境の変化があります。介護を必要とする後期高齢者の方がますます増える中で、どのようにケアマネの業務範囲を整理し、人材確保に結びつけるかが、喫緊の課題となっているのです。

ご利用者の権利を擁護する
ケアマネの専門性とは
――石山先生は、ケアマネとして現場でのご経験も豊富です。ご自身の経験も踏まえ、今回の議題となったケアマネの「専門性」とは、どのような点にあると思われますか?
一言で言えば、「ご利用者の権利擁護」だと考えています。この場合の権利とは、ご利用者が何らかの意思決定をされる際の自己決定権のことですね。
これは、認知症のある方や、身寄りのない方であっても、最後まで守られなくてはならない一線です。その方が亡くなる瞬間まで、権利が失われることはありません。
現代では、生成AIを活用すれば、必要なデータを入力して、一定の水準のケアプランを自動的に作成することも可能になりつつあります。私自身も、厚労省のAIケアプラン研究事業に参加しています。
しかし、ご利用者のアセスメントを行い、ご本人とご家族の立場から最適な支援の方法を探し、多職種との連携を図った上で包括的に判断することは、AIだけでは完結できません。ここに、人間のケアマネにしか担えない「専門性」があると考えます。
――ケアマネ自身が業務範囲の内外を判断することは、実際には難しいのではないでしょうか。
中間整理で示された業務の分類で見ると、①法定業務は業務範囲内、②保険外サービスとして対応し得る業務は業務範囲外として明確に整理されますが、③他機関につなぐべき業務には、グレーゾーンが存在します。
このグラデーションをどう捉えるかは、やはり個々のケースの状況によって判断するところが大きいでしょう。
ただ、厚労省が業務の類型を明示したことで、これまで必要に迫られてケアマネが担ってきた「業務外の対応」を見直すきっかけにはなると感じています。
例えば緊急時にやむをえず対応したケースでも「本来は業務外の仕事であり、次回以降の対応は難しい」と、ケアマネ自身が説明しやすくなったのではないでしょうか。
――現状でも、どこまでを業務と判断するかについては、ケアマネごとの対応にバラつきがあるように感じます。
確かに、この判断については、2000年に介護保険法が施行されて以降、今日までの25年間、各ケアマネの裁量に大きく委ねられてきた部分だと言えます。
それは、ケアマネが高度な専門性を備えた、信頼性の高い職種であることを前提に、個別に柔軟な判断を行う自由が認められてきたからです。
そのような、社会的な立場と経緯を考えた場合、ケアマネにはやはり、それなりに責任を伴う判断と行動が求められる側面があると思います。
ケアマネの業務は大きく二通りに解釈できます。一つは、介護保険法にもとづく法定業務としての居宅介護支援。もう一つは、専門職としてのケアマネジメントというソーシャルワークの側面です。
個人的な意見ではありますが、ケアマネの裁量に委ねられている部分を、法定業務でないからとすべて切り捨てていては、いずれはAIなどで代替できる職種だと見なされてしまう危険性もあります。
2023年に、厚労省が実施したケアマネの実態調査では、「業務の範囲内で仕事をすることを重視する」と答えた方が全体の52%、「必要であれば、業務の範囲外であっても対応する」と答えた方が48%と、意見は拮抗していました。
検討会では業務負担の軽減が注目されていますが、双方の考え方を尊重し、バランスを取る視点も大切です。
ICTの適切な活用・柔軟な勤務体制
人材不足をカバーする工夫
――深刻化するケアマネの人材不足の問題。どのような対策が考えられるでしょうか?
2024年に行われた調査によると、一年間の調査期間中に離職したケアマネと、採用されたケアマネの居宅介護支援事業所あたりの平均はそれぞれ0.3人となっており、離職された人数を新たな採用で何とか補っている状況です。
しかし、事業者側には、採用するまでの労力やコストが重くのしかかっているのが実情でしょう。また、人材育成の問題もあります。サービスの質を維持する上で、人手の確保は重要な課題ですが、やみくもに人数さえそろえれば解決するわけではありません。
やはり、今の時代はAIやICT(情報通信技術)を活用しながら、業務の効率化を進めていくことが望ましいと思います。
ただ、先ほど申し上げたように、ケアプラン作成の一部をAIが担えるとしても、過度にハイテクに頼り過ぎると、ケアマネの業務の本質的な部分が失われてしまいます。
人員の配置や業務の進め方の見直しなど、人的・組織的な改善を併せて進めていくことも大切です。
――具体的にはどのような方法が考えられますか?
雇用されているケアマネの定年の延長や、一度退職されたケアマネの復職をしやすくすることが一案です。体力面も考慮し、担当件数を申告制にするなど、仕事量をある程度、自由に調整できる仕組みを取り入れるのが望ましいでしょう。
あるいは、ケアマネが休みを取りやすくするため、ご利用者の担当を2人体制とし、メインとサブ担当を設ける方法も考えられます。書類の抜け漏れをチェックする体制づくりや、情報共有にはICTが活用できるでしょう。
ケアマネの働きやすさと、ご利用者が安心してサービスを受けられる環境の両立を目指していきたいですね。

介護保険外サービスに期待する役割
ご利用者の選択肢の拡大を
――近年、ご利用者とご家族の抱えるさまざまなニーズに応えるため、介護保険の適用外のサービス(以下、保険外サービス)が注目されています。こうした動きについて、どのようにお考えですか?
保険外サービスは、サポートの内容が多岐にわたるため、高齢社会を支える上で寄与する面は大きいと感じます。
すべての団塊世代が後期高齢者となる時代を迎えたいま、民間によるさまざまなサービスが生まれなければ、介護保険の適用範囲内だけでは、十分なサポートが行き届かない場面も出てくるでしょう。
ご家族が遠方に住んでいたり、働く現役世代であったりすれば、支える側の生活に影響が生じるケースも考えられます。
2025年2月には、保険外サービスの信頼性を高め、普及を促進していくために「一般社団法人 介護関連サービス事業協会」が設立されました。この動きにも注目したいですね。
――あいらいふは、主事業である老人ホームの紹介業に加えて、シニア世代の生活全般をカバーするサポート事業を展開しており、同協会にも加盟しています。協会の取り組みについて、今後、どのような点に期待されますか?
保険外サービスには、ご利用者の選択肢を広げ、自己決定を支える役割を担ってほしいと思います。
ご家族もご高齢であれば、PCなどの操作が不得手で、情報収集も難しい場合もありますよね。そうした方々を対象とする以上、サービスを提供する企業側にはより高度な倫理観や手厚いフォローが求められます。
同協会の主導する保険外サービス事業者の認証制度が誕生したことは、公正中立を旨とするケアマネにとっても、大きな意味を持つでしょう。第三者の目線で審査・認証を行うシステムは、ご利用者からの信頼にもつながります。
面識のない事業者をご利用者に紹介することには責任が伴うため、ケアマネも慎重になりがちです。この認証制度を、事業者の方に積極的に活用していただきたいですね。今後の進展に期待しています。
地域ネットワークの構築に向けて
これからのケアマネジメントの姿
──石山先生は、ケアマネジメントという仕事の魅力ややりがいについて、どのように感じておられますか?
居宅介護支援は、場所、時間、人、状況など千差万別です。一つとして同じものはありません。
アセスメントからケアプランの作成、モニタリングまで、すべてをこなすには大変な労力が必要ですが、ご利用者の人生に深く関わる大切な役割を担う仕事であり、そこにケアマネとしての誇りとやりがいがあると思います。
ご本人やご家族の厳しい状況を目の当たりにしたとき、放っておけない気持ちになるのは、ケアマネなら誰しも同じです。困っている方と一緒に考え、少しでも良い形での解決につなげたいという一心で、私もこの仕事を続けてきました。
2001年に私がケアマネの資格を取得した当時は、公的な研修も存在せず、試験に合格したら、業務の中でケアプランの作成方法を学ぶのが一般的でした。
ケアマネとしての倫理や、ご利用者の権利擁護の考え方も十分に浸透しておらず、ケアマネの倫理綱領を読まずに仕事を始める人もいる状況でした。
現在は、制度の施行時には誰も知らなかったケアマネという職種が認知され、「なんでもケアマネに相談してください」と、関係機関からご利用者に言ってもらえるまでになりました。
これは、一人ひとりのケアマネが高い倫理観を持ち、絶え間ない努力と、地域に根差す活動を積み重ねてきた大きな成果であると、私は誇らしく感じています。
――最後に、これからの時代に「ケアマネジメントの質の向上」を実現していく上でのポイントについてお聞かせください。
「ケアマネジメントの質の向上」という言葉を聞き慣れてしまい、「またか」と思われる方もいるかもしれません。しかし、社会全体が変化し続ける中で、ご利用者の生活を支えるケアマネジメントには、常に進化を続けることが求められます。
今回の検討会では、「地域包括ケアシステム」の中で、ケアマネジメントが果たす役割がテーマとなりました。
今後は、介護を必要とする可能性の高い85歳以上の人口が増加する中で、救急搬送の可能性や看取りを踏まえた、日常的なケアマネジメントが不可欠になるでしょう。
皆さんがお住まいの地域における介護・医療のネットワークを、5年、10年後にも耐えうるような形に再構築することが求められます。
ケアマネの人材不足が懸念される状況下で、質を落とさず適切なサービスをご利用者に提供するために、必要なものは何か。
ケアマネの処遇改善はもちろん、さらなる先を見据えた根本的な課題について議論を行えたことが、今回の検討会の意義だと感じています。

【プロフィール】
国際医療福祉大学大学院 教授・医療福祉学博士
石山 麗子(いしやま・れいこ)さん
1992年、武蔵野音楽大学を卒業し、音楽療法を通じて知的障害児施設(当時)に入職。2001年、介護支援専門員の資格を取得。2005年、東京海上日動ベターライフサービス株式会社入社。シニアケアマネジャーとして、140名のケアマネを統括する。2013年、国際医療福祉大学大学院博士課程修了。2015年、日本介護支援専門員協会常任理事。2016年、厚生労働省老健局振興課介護支援専門官。2018年より現職。
取材・文:飯島 順子 / 撮影:坪田 彩
豊かなシニアライフのための情報誌『あいらいふ』編集部
【誌名】『あいらいふvol.180(2025年11月27日発行号)』
【概要】初めて老人ホームを探すご家族さまの施設選びのポイントをさまざまな切り口でわかりやすく解説。著名人に介護経験を語っていただくインタビュー記事のほか、人生やシニアライフを豊かにするためのさまざまな情報や話題を取り上げて掲載。
【発行部数】4万部
【配布場所】市区役所の高齢者介護担当窓口・社会福祉協議会・地域包括支援センター・居宅介護支援事業所・訪問看護ステーション・病院・薬局など1万か所