【あいらいふレポート】ご相談者とあいらいふの心をつなぐ ココロスキップの点字名刺
高齢者向け施設のご紹介を通じて、ご相談者の人生の選択をお手伝いしているあいらいふが、何より大切にしなければならないのは、「情報を正しく、どなたにでもお届けすること」。
私たちはこの想いから、視覚に障がいのある方とも心を通わせられる“点字名刺”を導入しています。
同時に、この点字名刺の製作サービスは、視覚障がいのある方にとっての就労の場としても機能しています。同事業を運営する、就労継続支援B型事業所「ココロスキップ」の大政マミ施設長にお話をうかがいました。
.jpg)
──編集部でも取材の際に、点字名刺を使わせていただいていますが、これを差し出すとよく話題になるんです。すごい、点字なんですね、って。
ありがとうございます(笑)。私たちは、「ココロスキップ」という福祉施設で、「点字名刺プロジェクト」の運営を行っています。現在、施設全体のご利用者は60名前後で、そのうち、約10名が視覚障がいのある方です。
点字名刺プロジェクトは、お客さまの名刺をお預かりし、視覚障がい者の方がお仕事として、お名前を点字で刻印するサービスです。
あいらいふさんをはじめ、社会貢献の一環として導入してくださる企業が多いのですが、点字が入っていることで会話のきっかけとなったり、初対面の方に印象を強く持ってもらえるなど、ビジネスツールとしてもご活用いただいています。
──点字名刺の作業は、何人ほどで進められるのですか?
専用の刻印機の前に座って機械を操作するのは、必ず視覚障がいの方にお願いしています。ベテランの方だと、15分で100枚ほどの名刺に刻印していただけます。
また、精神障がいや知的障がいのある方とペアを組んでいただき、その方には検品作業をしていただきます。職員さんにも付き添ってもらい、ご利用者にとって難しい部分をサポートしています。
あとは、メールでの依頼の受注、梱包、発送、完成した点字名刺に同封するカードの作成といった業務があり、皆で補い合いながら作業全体を進めます。通常の日中の作業では、10名くらいの方が携わっていますね。
──作業にあたって、気を付けている点、工夫されている点は?
お預かりする名刺の紙質に合わせて機械の圧力を変えるなど、なるべくきれいに凹凸が付いて、触り心地が良くなるように工夫しています。また、視覚的にもきれいに見えるように、点字のレイアウトにはかなり気を配っていますね。やはり、きれいな仕上がりのものをお届けしたいので。

──事業の立ち上げ当初は、ご苦労も多かったとうかがっています。
「点字名刺プロジェクト」は、2007年にスタートしました。当初は、ホームページを作っても注文がなかなか入らない状況が続いて。そんな中、建設会社にお勤めの個人の方から1セットの注文をいただきました。
「私たちの想いを理解してくれるお客さまがいたんだな」って、すごくうれしかった。思わず泣いてしまったことを覚えています。
もともと、ココロスキップは株式会社として立ち上げたんです。点字名刺という仕事で収入を得て、障がい者の方でも税金を納められる立場になることで、偏見や、差別といったものを自然になくしていけるのでは、という願いがありました。
私自身もアルバイトをしながら、10年間経営を続けたのですが、残念ながら事業としては成り立ちませんでした。
ただ、ご利用者の方も喜んでお仕事をされているし、お客さまもいらっしゃる中で、急にやめることはできない。
理念を曲げて、補助金をもらいながら運営することになってしまうけれども、やはり続けたいという思いがあって。2016年に、福祉施設である就労継続支援B型事業所として再スタートさせていただきました。
──当時のご利用者からいただいた言葉が、事業を続ける後押しになったそうですね。
最初にお仕事をお願いしたのが、近所にお住まいの小林初子さんという方なのですが、立ち上げから20年近く経った、現在も通ってくださっているんです。
ずっとご主人に頼りっぱなしは嫌だからと、働くためにハローワークに行ったところ、全盲の方にできる仕事はありませんと断られて、それがすごく辛かったし、悲しかった。
「ただ、今はこの点字名刺の仕事があるから。自分にもできることがあってうれしい」とおっしゃっていただいたんですね。その言葉が、自分にとっての原動力となりました。
──現在はどのような企業・個人から注文が来ているのですか?
名刺を多く使う生命保険会社や、介護・福祉に関連する企業にお勤めの個人の方から注文をいただくことが多いです。あいらいふさんのように、会社単位で導入していただいているところもいくつかあります。
これまでにお申し込みをいただいたのは、1000件近くですね。おかげさまでリピートしてくださる方も多く、お客さまは年々増えています。
──大政施設長の考える、障がい者の方の就労支援における改善点や、ご希望はありますか?
いまの日本社会では、福祉の一環として企業に法定雇用が義務づけられています。そこで活躍されている障がい者の方もたくさんいらっしゃいます。
ただ、それとは別に、点字名刺のように、障がい者が働くことで共感やストーリーといった付加価値を生み出す、逆に健常者と言われる人たちがサポートとして携わる形の雇用を生み出していけないかと考えています。
福祉と付加価値、両輪で雇用を増やしていければと。
──そのためには、社会の側の意識改革が必要になりますね。
そうですね。実現していくためには、障がいのある方と社会の接点を増やして、絆を強めるところから始まると思うんです。
例えば、視覚障がい者用の点字ブロックの上に自転車がとめられていた、といった出来事が問題になりますが、視覚障がいのある方が身近にいないために、想像が及ばないという側面がありますよね。
普段から身近にあるものに、障がいを連想させるような、考えるきっかけになる要素があれば、少しずつでも、困っている人を見かけたときに声をかけてあげられる社会になっていくのでは。私は、点字名刺がそのきっかけになってくれればいいなと思っているんです。
点字を視覚障がいに結び付けることができれば、その先にいる障がい者の方に思いが至るようになり、社会全体の“見守る目”につながっていく。点字名刺が社会と障がい者をつなぐ、そして心と心をつなぐ橋渡しになってほしいと願っています。

【プロフィール】
就労継続支援B型事業所 「ココロスキップ」 施設長
大政マミ(おおまさ・まみ)さん
2007年に株式会社ココロスキップを設立し、視覚障がい者のための「点字名刺プロジェクト」をスタートさせた。2016年には就労継続支援B型事業所を立ち上げ、施設長として運営に従事。さまざまな障がいを持つ方の就労をサポートしながら、「福祉資本主義」を通じて、誰もが幸せに働く社会の実現を目指している。
あいらいふのライフコーディネーターに聞きました
点字名刺の使用感は?

私たちライフコーディネーターは、ご相談者とご家族以外では、ケアマネジャーや医療ソーシャルワーカーといった、対人援助職の方にごあいさつさせていただく機会が多いですね。
福祉への関心の高い方たちですから、点字名刺をお渡しすると、体感ですが、7~8割の方にご興味を持っていただけます。初対面の方と、親しくお話しするきっかけができるのは、ありがたいですね。
また、ご相談者やご家族との面会の際も、いきなり堅苦しい話、シリアスな話に入るのではなく、ちょっとした場を和ませるコミュニケーションの材料として、お話をしていただきやすい状況をつくるのに役立っています。
「こういった気遣いがあるんだね」とおっしゃっていただいたこともありますし、良い印象を持っていただける場面が多いと感じます。実際に使用してみると、日常の業務の中で、点字名刺に助けられていると感じることも少なくありません。
点字名刺は、障がいの有無をはじめ、年齢・性別・国籍など、多様性を大切にしていくこれからの社会の中で、お互いに思いやりを持てるという、ひとつの意思表示になっているのかな、と個人的には感じています。
こうした取り組みができるあいらいふって、やっぱり素敵だなと思いますね。手前味噌ですが(笑)。
取材・文:あいらいふ編集部/資料提供:ココロスキップ
豊かなシニアライフのための情報誌『あいらいふ』編集部
【誌名】『あいらいふvol.179(2025年9月25日発行号)』
【概要】初めて老人ホームを探すご家族さまの施設選びのポイントをさまざまな切り口でわかりやすく解説。著名人に介護経験を語っていただくインタビュー記事のほか、人生やシニアライフを豊かにするためのさまざまな情報や話題を取り上げて掲載。
【発行部数】4万部
【配布場所】市区役所の高齢者介護担当窓口・社会福祉協議会・地域包括支援センター・居宅介護支援事業所・訪問看護ステーション・病院・薬局など1万か所