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感染制御の専門家が説く「コロナ対策」「感染症に強い老人ホーム」

                       

管理会社全体に見られる感染症への意識の高まり。見学に出向いて、『3つのポイント』を確認して、より意識の高いホームを選んでみましょう

緊急事態宣言の全面解除は、喜ばしいことです。しかしながら、入居希望者と老人ホームとのかかわりを従来の状況に戻す道のりについては、東京都で言う所の「ロードマップ」のようなものは存在しません。今、老人ホーム入居検討者の中には、「コロナの影響がある状況下で、老人ホームに家族を預けて心配はないのか」「感染症に強い老人ホームとはどのような所なのか」という疑問があるのではないでしょうか。そこで、老人ホームの現場への感染症指導の経験も多い、東京医療保健大学大学院医療保健学研究科感染制御学教授の𠮷田理香先生にお話を聞きました
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東京医療保健大学

医療保健学部看護学科教授 大学院医療保健学研究科感染制御学教授

𠮷田 理香

感染管理認定看護師。1988年近畿大学医学部附属病院入職。2006年近畿大学医学部附属病院看護長。13年3月近畿大学医学部附属病院退職。同年4月東京医療保健大学大学院医療保健研究科感染制御学准教授。17年4月より現職。日本環境感染学会、日本手術医学会、日本医療機器学会、日本外科感染症学会、日本医療福祉設備学会、日本看護協会看護管理学会に所属。共著に『なぜ?がわかる高齢者ケアの感染対策〇と×』(メディカ出版)。

「パニックをあおる国内の報道。結果、老人ホームも、過剰な程の感染症対策を実施しています」

― 𠮷田先生は、感染症の専門家として、どのような研究をされているのですか。

 私は、元々看護師で、感染管理認定看護師の資格も取得し大学病院で感染症対策にあたっていました。
 現在の専門は、感染制御学です。感染制御という言葉の意味は、「感染予防」という意味と、実際に感染症が発生した現場をどう収めるかという「感染管理」という意味があります。老人ホームなどの介護施設に対しては、施設にうかがって現場の環境や状況を拝見し、感染症対策の指導を行っています。

― 今回の新型コロナウイルスの感染の拡大について、どう見ていますか。

 未知のウイルスは、実は世界中にたくさん存在していて、数年に1回、人間がそれを発見するに至ります。これは、歴史上、ずっと繰り返されてきたことです。その意味では、この新型コロナウイルスが、特別なものというわけではありません。新型コロナウイルスに関する国内の報道は、数値だけを追うような表現があり、一部パニックをあおる傾向にあると感じています。

人がウイルスを取り込むのは、目、鼻、口のいずれか

 その結果、偏った情報をもとに過剰な対策をしているケースが見られます。例えば、多くの介護施設で入居者と家族の面会を一律に禁止する措置が取られていましたが、それは行過ぎではないかと思います。マスクの着用に加え、仕切りを設けるなど、適切な防護をすれば面会は可能なはずです。

― 今回のウイルスは、正に新型で、現段階では、確かな治療薬もなく、どう対処したらよいかわからない怖さがあります。

 どんなウイルスや細菌も、人間ほど怖いものではありません。自発的にこちらに向かってくることはなく、ただ存在しているだけです。それを取り込むのは、人間自身です。取り込む場所は、目、鼻、口のいずれかで、健康な皮膚から侵入してくるようなことはありません。
 ですから、ウイルスが手に付着しても、その手を自分の顔に近づける前に手を石けんと流水で手を洗うか、アルコール手指消毒薬で消毒すればよいです。手洗いとマスクという二重の感染対策をしておけば、ほぼ大丈夫ということがわかっているわけですから、後は適度に人との距離を取ることを心掛けていれば、それほど慌てることも、過剰にあれこれと対策をする必要もありません。これは、介護の現場においても同様です。

「コロナ感染症で入院した方も、退院し、経過観察で問題がなければ、ホーム入居は可能です」

―コロナ感染症の拡大を受けて、今年の4月から5月にかけて、老人ホームでは新規入居者の受入れを抑制する動きがありました。受入れ可能かどうかはどう判断すればよいのでしょう。

 通常の入居のプロセスで行われる健康診断で、咳などの呼吸器症状があるかどうかをチェックしていただければと思います。例え、感染して入院した方でも、退院時のPCR検査で陰性となり、症状がなければ、それによってウイルスが体外に排出されることもないので他人にうつす可能性は、極めて低いと言えます。退院後は、約2週間、経過観察を実施して問題がなく、ご家族内に陽性者がいないのであれば、入居は可能と判断してよいでしょう。

「エアコン1つをとっても、病院と多くの介護施設は、別のものを使用しています」

― 通常、感染症対策の指導で老人ホームを訪れて感じるのはどんなことでしょう。

 老人ホームは、病院ではなく住まいなので、建物や設備も基本的に普通の住宅と同じ仕様になっています。
 例えば、多くのホームで取り付けられている家庭用のエアコンは、病院で導入しているものとは異なり換気の機能が強くありません。窓を開けずに使用すると、同じ空気を循環させることになり、感染予防の観点からすれば、よいとは言えません。
 また、美観重視でトイレの床に次亜塩素酸ナトリウムなどで消毒ができない木材を使用しているなど病院とは意識の差がかなりあるでしょう。医療機関でないとはいえ、医療依存度の高い方の入居者の多い老人ホームでは、医療の現場の発想や設備をさらに導入する必要があると考えています。

見学時は、においに注意する。「においがある=菌がいる」

― 感染症対策の意識が高いホームを見極めるポイントは何でしょう。

 すぐにわかるのは、においです。 においがこもっているというのは、換気ができていないということです。おむつの交換や処理、清掃用具の管理が適切にできていないことも推測されます。においの元は、バクテリアですから、「においがある=菌がたくさんいる」ということです。
 また、床に物を置いていないかも、注意点です。例えば、テーブルの下に置いてある物は、靴を履いた足で無意識に接触している可能性があり、こうした場所に置かれた物を抱えてホーム内を持ち歩けば汚染は広がってしまいます。腰より低い位置に物を置くことは、NGとするべきです。
 私は老人ホームなどの施設に行った場合、スタッフの誰か1人を定点観測をするように見るようにしています。
 このように、あるスタッフの動きをずっと追っていると、複数の入居者を次々とケアしている間、一度も、手洗いをしていないケースを見ることがあります。熱心にケアをしているようでいても、これは感染症対策の視点では問題があるのです。

― 感染症対策の万全に向けて、スタッフ本人、そして、施設の管理会社はどのようにすればよいのでしょう。

 例えば、手洗いにしても、「なぜ、それをしなければいけないか」を理解してケアスタッフが行動できるようになることが大切です。これは、入居者も含めてなのですが、すべての人が、「何かしらの病気を持っているかもしれない」という前提で対応する。それが、標準予防策の考え方の根本です。
 この認識に立つことができれば、すべての作業をした段階で、手が汚染されている可能性があると考え、逐一、除去する必要があると判断することができるでしょう。このように理解することができれば、絶対に手洗いのタイミングを間違えることはありません。
 すべての行動には、理由が存在します。その理由もわからずに、用意されたマニュアルや「やるべき行動のリスト」を暗記しても、忙しく現場で業務をこなしているうちに、必ず、やり忘れや漏れが発生してしまいます。
 普段、行っている一つひとつのケアに、どんな意味があるのかを考えてみて欲しいのです。
 例えば、おむつ交換の際の陰部洗浄も、防護具もなく周囲に汚染された水を飛散させながら行っているのだとすれば、洗浄ではなく拭くだけの方がよいかもしれません。してあげたいという思いはあっても、「それが、ご本人にとって、本当によいことなのか」「感染症対策上も適切なのか」。これを今一度、見直してみるとよいでしょう。

「再度、社会的な自粛があると考えて、前々から備えておくことをすすめます」

― 自宅で高齢者を介護している方にも、アドバイスをお願いします。

 社会活動をしながら介護をしている介護者自身が、感染予防をしっかり行って、ご本人にうつさないように気をつけることが大切です。また、マスクの裏表を間違えて着用している人をよく目にすることも気になります。一般的に、マスクの内側は吸水性、外側は撥水性に優れた素材が使われています。逆にすると、マスクの機能が発揮されません。
 そして、今年の冬、新型コロナウイルス流行の「第2波」は、必ず来るものと思って備えておくこともよいでしょう。今回のコロナ感染症の拡大で、多くの人が感染症対策の意識を高めたことには大きな意味がありました。これを持続させれば、今後も、さまざまな感染症を防ぐことが可能になると思います。

― ありがとうございました。

2020.08 あいらいふ 掲載

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