
私の「介護・医療記事」の読み方 Vol. 39
〈特別編〉介護情報を伝える上で、どんな点に注意を払っているのか?
「童門さんのこの本を読めば、高齢になった父親、夫の一枚めくった魅力がわかるでしょう」

株式会社東洋経済新報社
出版局 編集委員
水野一誠
東洋経済新報社入社後、雑誌・書籍の販売、書籍の編集に携わる。自身が50代になったこともあり、同世代から親世代が元気になれる本をつくろうと著者やテーマを探っている。
「曽野綾子さん、佐藤愛子さんの書籍の男性版」を目指した
シニア向けの生き方エッセイは数多く出版されており、今や一大ジャンルとなっていますが、そのほとんどは女性の書き手による女性向けのものです。
女性は、「老いと向き合う意識が高く、高齢期の幸せを上手に手に入れている」という印象があるのに対し、男性は60代ぐらいまではまだまだ格好つけようとしがちで、身体が本格的に衰えてくる70代以降になって精神的にも、てきめんに弱ってしまう人が多いように思います。老いを受け入れながら心豊かに生きる道を示す、例えば、曽野綾子さんや佐藤愛子さんが書かれているような本の男性版があってもいいのでは。『90歳を生きること―生涯現役の人生学』は、その発想を起点につくった1冊です。歴史作家の童門冬二先生が『週刊東洋経済』に連載していたエッセイをまとめたもので、連載時は週刊誌の読者層である50歳代に向けた指針が中心でしたが、単行本化にあたり、70~80歳代向けに内容を整理する形で編集しています。
ワイシャツのボタンをとめるのに20分。作家の嘆きも聞こえる
「人生、起承転々」。90代を迎えても悟りきれないからこそ、学ぶことも尽きず、毎日、楽しく生きられる。この本では、そんな童門先生ならではの高齢期の人生の味わい方を提示しつつ、ワイシャツの袖のボタンをはめるのに20分かかるなど、老いの苦労や「後期高齢者ってつらいなあ」という嘆きも率直につづられています。
女性が読むと、自分の夫や父親も「いずれこうなっていくんだな」とリアルに感じられるのではと思います。
家では威厳を保っている男性も、一枚めくればこんな思いを抱えているんだとわかり思わずクスッと笑えたり、男性ってかわいいなと思えてくるはず。それが、夫や父親と向き合ったり、介護を乗り切る上でのヒントになるかもしれません。
撮影: 坪田彩