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マイライフ・インタビュー

中部大学総合工学研究所特任教授 武田邦彦さん

「老後という呼び方がいけません。 50 歳以降は『第2の人生』ととらえる。 そうすれば、別の生き方が見えてきます」

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武田邦彦

1943年6月3日、東京都生まれ。工学博士。旭化成工業に入社後、ウラン濃縮研究所所長などを経て退職。教育者へ転身し、芝浦工業大学教授、名古屋大学大学院教授などを歴任。現在は、中部大学総合工学研究所特任教授。原子力発電や環境問題でさまざまな見解を示す。代表作に、『科学者が解く「老人」のウソ』『偽善エコロジー』『武田邦彦の科学的人生論』。『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系列)を始めとするテレビ番組への出演も多い。

「面白い発想をお伝えするばかりでは、まじめに介護に取り組む読者の方の失礼にあたるかもしれない」。こうした考えから、武田邦彦先生は、取材直後、編集部に追加の音声データを送ってくださいました。テレビのバラエティ番組や自著で、健康や環境問題における「常識のウソ」を論破する武田先生。そんな先生は、「人間の老い」「高齢期の生き方」について、どんな考え方を持っているのでしょう。

 

「100歳までの人生というのは、大げさにいうと全生物が初めて経験するもの。お釈迦様もイエス・キリストも述べていない。宗教にも哲学にも、文学にさえ人生100年を生きる術は記されていないのです」

 

 

「75歳にもなれば、年に数度、救急搬送されるなどあたり前のことです」

 

「先日、硬膜下血腫で倒れましてね。医師からは『3週間以内に後遺症が出る可能性がある』と。そして、今日が2週間と1日目(取材時点)。それが、どうしたというのでしょう。75歳を過ぎたら、1年に何度かそんな出来事があって当たり前。ぐずぐずいっても仕方ありません」

 こういって笑う武田邦彦先生が解く、人生100年時代の指南書、『科学者が解く「老人」のウソ』(産経新聞出版刊)。その生き様を拝見すると、「老化も、寿命も、定年も、すべては錯覚」という斬新な発想にも、うなずくことができました。

 繁殖して子育てが終わると命を終える――それが生物の基本的な宿命です。しかし、人間だけが、繁殖し終えた後も命を長らえるようになった。100年ほど前まで、日本人の寿命はおおむね40歳代でした。そこから瞬く間に寿命は延びて、現在では人生100歳時代に近づきつつあります。

「100歳までの人生というのは、大げさにいうと全生物が初めて経験するもの。だから、お釈迦様もイエス・キリストも、ソクラテスもトルストイも述べていない。宗教にも哲学にも、文学にさえ人生100年を生きる術は記されていないのです」

 前人未到の100年人生を生きる指針として書かれた同書。もともとは、産経出版の瀬尾友子編集長が「50歳を迎えて不安ばかり。どうしたらよいのでしょう?」と武田先生に相談したことがきっかけです。

 

 

「『老化』『高齢者』などは、人生をつぶす悪魔の言葉」

 

「老化、高齢者、定年、年金などは、すべて人生をつぶす『悪魔の言葉』」といい切る武田先生。「老人の悲劇は、すべて、老人と呼ばれることから始まる」と話します。

「こうした呼び名があるのは、人生は50年しかないことを前提として、それ以降を余計な人生と定義するから。これが、後数十年も経てば、高齢者の代わりに『低齢者』という言葉が一般的になるでしょう。50歳以下の方が少数派になるわけですからね。50歳までは、大人しく子育てでもしていなさい。本当の人生は50歳からということになるかもしれません」

 

 

「第2の人生では、60歳までに、恩とお金を蓄積すべき」

 

「老後はない」と断定した上で、50歳までを「第1の人生」と区切り、それ以降をまったく新しい「第2の人生」として生きるのが武田流。しかし、第2の人生を過ごすためには、それなりに準備が必要です。

「第1の人生では誰しも学校へ行って社会に出る準備をしてきたでしょう。第2の人生も同様です。何の準備もせずに、第2の人生を迎えることはできません」

 武田先生の説く第2の人生への備えとは「50、60歳代のまだ元気のあるうちに、恩とお金を蓄積しておくこと」「恩に関していえば、人から頼まれたことは絶対に断らない。僕自身、40代後半からは損得抜きに、大小さまざまな頼まれごとを引き受けてきました」。

 その結果、意図せずに人づきあいが広がり、50歳でビジネスマンから大学教授へ転身。その後も、テレビや講演、著作活動と75歳を迎える現在も多忙な毎日を送られています。

 

 

「人生が終わるのは、病気のせいではなく、不要とされるから」

 

 第2の人生を過ごすために、なぜ、恩の蓄積が必要なのでしょうか。

「人生は、親切の総和です。人間は社会的生物だから、1人で幸福には成り得ません。また、命が終わるのは病気が原因ではなく、社会から不要となったから命が終わるのです。では、不要かそうでないかは誰が決めるのか。それは自分ではなく、周囲の人間です。親切にして好かれることで、周囲から『もっと生きていてほしい』と願われ、自分自身の中に生命力がわくのです」

 親切の総和が人生だとしても、第1の人生でこれを実現するのは困難です。

「第1の人生では、結婚して子どもを育てて、仕事でも成果を出さなければならない。自分のことで精いっぱいで、とても他人に手を差し伸べる余裕はない。だからこそ、第2の人生では大いに他人の役に立ち、好かれる存在になることが大切です。第2の人生は、他者への献身を軸に生きるのです」

 

 

 

 

 

 

「そもそも常識とは、30年前に当たり前だった考え方。ところが、今を生きる人達は、30 年後の未来を描きながら生きている。そこには、60年のズレが生じるわけです」

 

 

 

「30年前に正しかったことが常識。常識を信じるのは、不幸なことです」

 

 血圧にコレステロール、リサイクル問題など数々の「常識のウソ」を世に問うてきた武田先生。常識に惑わされない生き方についてのお考えを聞きました。 

「そもそも常識とは、30年前に当たり前だった考え方。学校の教師にしても親にしても、30年前に学んだ知識をもとに子ども達を教育するでしょう。ところが、今を生きる人達は、30年後の未来を描きながら生きている。合計60年のズレが生じるわけです。ここに、常識を信じることの不幸があるのです」

 取材陣を相手に「マスコミ報道は、人にものを考えさせないようにできている」と舌鋒鋭い武田先生。健康に関する常識のウソをうかがうと、「自分の感性を磨き、感性を基準に健康を維持すること」の大切さを教えてくれました。

「そもそも医者は故障修理人で、故障した身体を治す人。どのように身体を使えば故障しないかを指導するプロではないはずです。それをコレステロール値はいくつ、血圧はいくつなど、画一的に健康の基準を決めるのはおかしな話です」

 どのような人も年齢を重ねるにつれて心身に不自由なところは出てきますが、その現れ方である「老化曲線」は千差万別。年齢毎に、一律に塩分やカルシウム、摂取エネルギーなどを決めることへの疑問を呈します。

「例えば、『血圧を下げると元気がなくなりますが、少しだけ延命できます。血圧を上げると元気になりますが早死にします。どちらがよいですか?』というような聞き方で、本人に選ばせればよいのです。一律に、この数値内におさめなさいなどというのは、おせっかいとしかいいようがありませんね」

 

 

「介護の年齢になったと思わない。思うと大脳が、指令を出すのですね」

 

 介護にまつわる意識の錯覚についてのお話もうかがいました。

 武田先生は、「人間というものは自分が思っているようなものになる」という大脳のからくりに始まり、世間が介護問題を声高に主張すればするほど、「自分もそろそろ〇〇歳だから、介護の年齢かな」と脳が認識し、結果として介護が必要な状態に身体が変化していく、という自説を展開しました。

「この考えに則ると、むしろ介護制度は充実しない方がよい。こういうとよく誤解を受けるのですが、医者や兵隊を例にとるとわかりやすい。医者は病気を治しますが、本来なら病人やケガ人がいない方が人間にとっては幸せなはず。それは介護も同様です。介護の受入れ体制を整えることは大切ですが、究極の目標は、介護が必要な人を作らないこと。これを決して忘れてはいけないのです」

 最後に、ご自身の高齢期についての考え方を聞きました。

「この1年間だけでも、痛風、腰痛に悩まされ、昨年暮れには、激しい吐血でマロリーワイス症候群と診断されました。そして、つい先日、テレビ局から車で送ってもらって自宅についた途端、意識を失って倒れました。硬膜下血腫でした。医師の診断は『6時間以内に死ぬか、3週間以内に後遺症が出るか、どちらかでしょう』というもの。どうということはないのです。向こうからくるものに関しては、ぐずぐずいわずに受け入れるより仕方ありません。ただ、他人から『先生お元気ですか?』と聞かれるとちょっと困ります。返事をしたときは元気でも、明日には倒れているかもしれませんからね。そうなると、相手に失礼でしょう(笑)」

 

 

取材後に届いた3つの「音声データ」

 

 介護雑誌の取材なのに「介護施設は必要なし」と言い切るなど、武田先生のインタビューでは、柔和な笑顔とは真逆の過激な発言がいくつも飛び出しました。しかしながら、一番、驚いたのは、取材後に届いた3つの音声データです。そこには「取材では好き勝手に話して申し訳なかった」と、改めて介護に対する考えがまとめられていました。多忙な中のこうした配慮に、「献身を主軸に第2の人生を生きる」、その生き様を改めて垣間見る思いがしました。

 

※あいらいふ2018年10月号を再掲載したものです。

2018.10 あいらいふ 掲載

取材: 横井かずえ / 撮影: 近藤豊

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