デイサービスの欠席で、訪問介護もキャパオーバー

 

 新型コロナウイルスの感染が拡大する中、医療現場では入院ベッドやマンパワーの不足による医療崩壊が心配されています。これを防ぐためには、軽症者をスムーズに退院させて、ベッドを確保しなければなりません。しかし、在宅にて介護できない場合の受け皿となるはずの施設(特養や老健など)も、感染リスク防止のため、受入れに一定の制限をかけるところが増えています。

 本来であれば、退院後の受け皿にもなるはずの施設が入居を制限してしまうとどうなるのでしょう? 患者様の選択肢は、在宅介護のみとなり、十分な受入体制のないまま、在宅介護へ移行する人が増えることが懸念されています。

 さらに、在宅介護の現場はどうかというと、デイサービスに通っていた利用者様が感染症を心配してデイを欠席し、訪問サービスに切り替えるケースが相次いでいます。そのため訪問介護の需要が急増し、キャパシティが限界に達しつつあるのが現状です。

 デイサービスの現場からは、利用者様が十分な準備もなく在宅介護に移行することによるさまざまなリスクを心配する声が聞こえてきます。

「3月に入り欠席が目立つようになり、4月では欠席率が40%を超える施設も出始めました。ご家族は、本当は通わせたいけれど感染のリスクが怖いということで、苦渋の決断として欠席させているようです。デイに来られなくなると、利用者様は入浴ができなくなり清潔な状態が保てなくなる、運動不足になって体力が低下する、認知症では昼夜逆転するなどさまざまなリスクが心配されます。またこの状態が続けば、やがて熱中症の時期に入り、さらに高齢者のリスクが増すのではと心配しています」(東京都内を中心に、通所介護事業・デイサービスを営む経営者)

 退院後の受け皿となるはずの老健などが受入れを制限し、かといって在宅介護の現場もひっ迫している――これは、すなわち「介護崩壊」が足元で静かに始まっていることを意味しています。コロナ騒動では、医療崩壊が連日のように報道されますが、介護崩壊も現実のものとして目の前に迫っているのです。

 

 

「介護難民を出さない」。心ある老人ホームの奮闘

 

 では、有料老人ホームはどうなのでしょうか? 

 日本全国の有料老人ホームは、47日に、厚生労働省の健康局結核感染症課や老健局老人保健課などが連名で出した「社会福祉施設等における感染症拡大防止のための留意点」の事務連絡を実現する形で、入居者をコロナ感染症から守るために、日頃からの感染症対策に加えて、出入業者の指定箇所以外の出入りの禁止、そして、ご家族の面会の制限までも実施して、感染経路の遮断の努力を重ねています。

 一方で、施設内の感染症の拡大について細心の注意を払いつつも、介護難民を出さないために奮闘しているホームも少なくありません。例えば、介護付有料老人ホーム、「ウイーザス荻窪」の小川俊成代表取締役社長は、「このような時だからこそ、必要な介護を受けられない介護難民を出してはならない」と積極的な受入姿勢を示しています。

「当ホームでは、電解次亜塩素酸水を用いた衛生管理を徹底するなど、感染症対策に努めています。それと同時に行き場のない方を救うため、積極的に新規の入居も受け付けています。医療崩壊や介護崩壊が心配される中、必要な介護を受けることができない介護難民を1人でも減らすこと。それが、老人ホームの社会的使命と考えているからです」

 老人ホームの管理会社も正に、「新型」という呼称のつく経験則のないウイルスとの対置に苦慮していますが、何とか、この全社会的な危機を乗り越えるために、そして、ご高齢のご本人と介護者の負荷を少しでも下げるために奮闘しています。

 こうした状況だからこそ、社会的機能を果たしている老人ホームがあることをぜひとも知っていただきたいと考えています。また、新型コロナウイルスによる混乱でやむなく在宅介護をしているご家族には、「決して、1人で悩まないでください」とお伝えしたいのです。どのような状況にあっても、ご家族に寄り添い、相談にのってくれるホームはきっとみつかるはずだからです。