嘘も方便! 押してもだめなら引いてみる
相談者の概況
古い公営住宅に独りで暮らす70代のお父様は、認知症が進行し暴言がひどくなりました。自宅生活の限界を感じた娘様は老人ホームへの入居を勧めますが、人付き合いが苦手なお父様は嫌がります。そこで、認知症ケアに力を入れている老人ホームのベテラン施設長に直接お父様を説得してもらい、無事入居することができました。
【困っていること】
・独居の父の認知症が進行し、訪問介護のヘルパーに暴言を吐くようになった。
・人付き合いが苦手で、介護拒否がある。
・娘が老人ホームへの入居を勧めるが、絶対に行きたくないと拒否。
エピソード詳細
古い公営住宅に独りで暮らす70代のお父様は、認知症があり、訪問介護の介護サービスを利用していました。お父様は引っ込み思案で人付き合いが苦手な性格です。しかもヘルパーとの相性があまりよくないらしく、最近では認知症が重くなってきたこともあって、ヘルパーへの暴言が頻発していました。
自宅生活に限界を感じた娘様はケアマネジャー様に相談し、老人ホームへの入居を検討することにしました。しかし、人付き合いが苦手なお父様が、素直に応じてくれるか不安です。案の定、娘様が老人ホームへの入居を勧めると、ものすごい勢いで拒否しました。
お父様の独り暮らしは破綻寸前です。娘様にもご家庭があるので日常的に世話をすることは困難です。そこで、一計を案じることにしました。
娘様は老人ホームをいくつか見学し、気に入った1軒を仮予約していました。健康診断書などの書類をそろえ、次は本人面談のタイミングです。そこで、老人ホームの施設長様に、お父様の自宅まできていただいて、面談も兼ねて老人ホームへの入居を説得してもらうことにしました。
この老人ホームは認知症ケアに力を入れており、施設長様は介護職に携わって20年以上のベテランです。「自分のいないところで物事が進んでいることにご立腹されているのかもしれませんし、知らない場所に連れていかれると不安に感じているのかもしれません。嘘も方便ではないですが、『お父様が住んでいる団地が老朽化して、建て替えをする。引っ越しをしなくてはならない』という理由にしたらどうでしょうか」と、ご提案くださいました。お父様の問題ではなく、外的要因だからしかたがない、という論理です。
施設長はお父様にゆっくりと話しかけ、そしてお父様の声に静かに耳を傾けます。いつもだったら初対面の人には目も合わせないお父様ですが、この日は時折笑顔も出るなどなんだか楽しそうです。その日の夜のことでした。「建て替えならしょうがない。俺も独り暮らしはしんどくなってきたし、あの優しい人がいるところなら行ってやるよ」と、お父様が言うではないですか。話はとんとん拍子に進み、1週間後には老人ホームへの引っ越しが完了しました。
老人ホームでの科学的根拠に基づいた認知症ケアと、気持ちのこもったケアスタッフの対応に、頑なだった心が次第に開くようになり、今では介護拒否もなくおだやかに暮らしているそうです。
選定ホーム
ホーム(1)
郊外のベッドタウンにある住宅型有料老人ホーム。介護サービス事業所を併設し、協力医療機関との医療連携もあり安心。
ホーム(2)※入居ホーム
小規模でアットホームな住宅型有料老人ホーム。郊外にあり、大型ショッピングモールや自然公園なども近く、買い物や散歩もできる。
入居したホーム
郊外にある小規模でアットホームな住宅型有料老人ホーム。認知症ケアに力をいれている。
今回のポイント
・認知症ケアのプロフェッショナルに、本人を直接説得してもらった。
・老人ホームへの入居理由を、本人の認知症状ではなく外的要因にあるとした。
・科学的根拠のある認知症ケアで、介護拒否を防ぐ。